尾張守藤原盛頼。実母は藤原俊成の娘、八条院三条。祖父俊成の養女となった。堀川大納言源通具の妻。建仁二年(1202年)七月、後鳥羽院に召され、女房として御所に出仕。晩年は越部荘に住み、越部禅尼と呼ばれた。新古今の詠者名は、皇太后宮大夫俊成女。
春歌上
千五百番歌合に
梅の花あかぬ色香もむかしにておなじかたみの春の夜の月 隠
千五百番歌合
春歌下
千五百番歌合に
風かよふ寝ざめの袖の花の香にかをるまくらの春の夜の夢
千五百番歌合
題しらず
恨みずやうき世を花のいとひつつ誘ふ風あらばと思ひけるをば
通具俊成卿女歌合
題しらず
いそのかみふるのわさ田をうち返し恨みかねたる春の暮れかな 隠
未詳
夏歌
夏の始の歌とてよみ侍りける
折りふしもうつればかへつ世の中の人のこころの花染の袖 隠
未詳
題しらず
橘のにほふあたりのうたたねは夢もむかしのそでの香ぞする 隠
通具俊成卿女歌合
秋歌上
五十首歌奉りし時杜間月と云事を
大荒木のもりの木の間をもりかねて人だのめなる秋の夜の月 隠
仙洞句題五十首
題しらず
ことわりの秋にはあへぬ涙かな月のかつらもかはるひかりに 隠
未詳
和歌所歌合に田家月といふことを
稲葉吹く風にまかせて住む庵は月ぞまことにもりあかしける 隠
撰歌合
題しらず
あくがれて寝ぬ夜の塵のつもるまで月にはらはぬ床のさむしろ
未詳
秋歌下
題しらず
あくがれて寝ぬ夜の塵のつもるまで月にはらはぬ床のさむしろ
未詳
題しらず
吹きまよふ雲ゐをわたる初雁のつばさにならす四方の秋風 隠
未詳
題しらず
あだに散る露のまくらに臥しわびて鶉鳴くなる床の山かぜ 隠
未詳
千五百番歌合に
とふ人もあらし吹きそふ秋は来て木の葉に埋む宿の道しば 隠
千五百番歌合
千五百番歌合に
色かはる露をば袖に置き迷ひうらがれてゆく野辺の秋かな 隠
冬歌
千五百番歌合に
冴えわびてさむる枕に影見れば霜ふかき夜のありあけの月 隠
千五百番歌合
題しらず
霜がれはそことも見えぬ草の原たれに問はまし秋のなごりを 隠
未詳
年の暮によみ侍りける
へだてゆく世々の面影かきくらし雪とふりぬる年の暮かな 隠
通具俊成卿女歌合
哀傷歌
母の身まかりにけるを嵯峨の邊にをさめ侍り夜よめる
今はさはうき世のさがの野辺をこそ露消えはてし跡と忍ばめ 隠
未詳
羇旅歌
千五百番の歌合に
かくてしも明かせばいく夜過ぎぬらむ山路の苔の露の筵に 隠
千五百番歌合
和歌所歌合に羇中暮といふことを
ふるさとも秋は夕べをかたみとて風のみおくる小野の篠原 隠
卿相侍臣歌合
戀歌二
五十首歌奉りしに寄雲戀
下もえに思ひ消えなむけぶりだにあとなき雲のはてぞ悲しき 隠
仙洞句題五十首
水無瀬戀十五首歌合に春の戀のこころを
面影のかすめる月ぞやどりける春やむかしの袖のなみだに 隠
水無瀬恋十五首歌合
戀歌四
千五百番歌合に
ならひ来し誰が偽もまだ知らで待つとせしまの庭の蓬生 隠
千五百番歌合
被忘戀のこころを
露はらふねざめは秋の昔にて見はてぬ夢にのこるおもかげ 隠
建永元年七月和歌所当座
水無瀬の戀十五首の歌合に
ふりにけり時雨は袖に秋かけていひしばかりを待つとせしまに 隠
水無瀬恋十五首歌合
水無瀬の戀十五首の歌合に
かよひ来しやどの道芝かれがれにあとなき霜のむすぼほれつつ 隠
水無瀬恋十五首歌合
戀歌五
和歌所の歌合に逢不遇戀のこころを
夢ぞとよ見し面影も契りしも忘れずながらうつつならねば
仙洞影供歌合
雜歌上
寄風懷舊といふことを
葛の葉のうらみにかへる夢の世を忘れがたみの野べのあきかぜ 隠
建永元年七月当座
雜歌下
和歌所にて述懷のこころを
惜しむともなみだに月も心から馴れぬる袖に秋をうらみて 隠
卿相侍臣嫉妬歌合
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