夕されば野にも山にも立つ煙なげきよりこそ燃えまさりけれ
また、雲の浮きてただよふを御覽じて、
山わかれ飛びゆく雲のかへり來るかげ見る時はなほ頼まれぬ
(雑歌下 1061 菅贈太政大臣)
さりともともと、世を思し召されけるなるべし。月のあかき夜、
海ならずたたへる水のそこまでにきよき心は月ぞ照らさむ
(雑歌下 1067 菅贈太政大臣)
これいとかしこくあそばしたりかし。げに月日こそは照らしたまはめとこそはあめれ
まことに、おどろおどろしきことはさるものにて、かくやうの歌や詩などをいとなだらかに、ゆゑ/\しう言ひつゝけまねぶに、見聞く人々、目もあやにあさましく、あはれにもまもりゐたり。もののゆゑ知りたる人なども、むげに近く居寄りて外目せず、見聞く氣色どもを見て、いよ/\はえてものを繰り出だすやうに言ひつゝくるほどぞ、まことに希有なるや、重木、涙のごひつつ興じゐたり。
筑紫におはします所の御門かためておはします。大貳の居所は遙かなれども、樓の上の瓦などの、心にもあらず御覽じやられけるに、またいと近く觀音寺といふ寺のありければ、鐘の聲を聞こし召して、作らせたまへる詩ぞかし。
都府樓ハ纔ニ瓦ノ色ヲ看ル 都府樓纔看瓦色
觀音寺ハ只鐘ノ聲ヲ聽ク 觀音寺只聽鐘聲
これは、文集の、白居易の遺愛寺鐘欹枕聽香爐峯雪撥簾看といふ詩に、まさゝまに作らしめたまへりとこそ、昔の博士ども申しけれ。
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