十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 三十一
一条院の御時、越前の国あきたりけるを、源國盛、藤原為時、ともに望み申しけるに、御堂殿、とり申されけるにや、國盛をなされにけり。
為時、愁へに堪えず、申文を女房につきて奉りける。その詞にいはく、
苦学冬夜紅涙盈巾 苦学の冬夜、紅涙巾に盈(み)つ
除目春朝蒼天在眼 除目の春朝、蒼天、眼に在り
帝、御覧じて、供御も參らず、夜の御殿に入らせ給ひて、御心労ありけるを、御堂殿聞きて、參らせ給ひて、國盛を改めて、為時をなされにけり。
※ドラマでは、冬夜→寒夜、盈巾→霑袖としている。
苦學寒夜 紅涙霑袖
除目春朝 蒼天在眼