玉かづらの事なり。 細 源氏と内大臣と也。
内侍のかみの御宮づかへのことを、たれも/\そ
細 玉かづらの心中也。源の心がけ給ふを云り。
そのかし給も、いかならん。親と思ひきこゆる
人の御こゝろだに、うちとくまじき世なりけ
宮づかへの事也。
れば、ましてさやうのまじらひにつけて、心より
孟 秋好もこきでんも皆心を
外に、びんなきこともあらば、中宮も女御も
をかるべしと也。
かた/"\につけて、心をき給はゞはしたなか
らんに、我身はかくはかなきさまにて、いづかた
にもふかく思ひとゞめられ奉るほどもなく、
あさき覚えにて、たゞならず思ひいひいかで
細 ウケイ
人わらへなるさまにみ聞なさんとうけひ
給人々もおほくとかくにつけて、やすからぬ
抄 玉かづらの年齢分別ある程といふ也。
ことのみ有ぬべきを、物おぼししるまじき程
頭注
内侍のかみの 細 玉鬘内侍
のかみに成給へるなるべし。
里ながら内侍のかみに任
づる例花鳥にみたり。
孟 里亭にても任尚侍
而後に入内の事あり。相
違なき也。花 同。
心より外に 細 自然御門
の寵にもあづかる事の
らばと也。花 帝の御
詞もかゝりおもはずなる
事もあらばいかゞせんと也。
ひんなきはたよりなき也。
我身はかくはかなき
哢 ゐ中などにておもた
ち給ひし事也。
いづかたにもふかく思ひとゞ
められ奉るほどもなく
細 たま/\親にしられ奉
りて又程なく女御など
に心をかれ奉りてはと也。
哢 源氏もちじのおとゞ
も懇にうしろみ給とい
へどもいまだほどもなしと也。
うけひ給ふ人々 細 咒咀の心也。爰にてはたゞあらざまにおもふ心也。孟 人をあしかれと
思ふ心也。咒咀
にしあらねば、さま/"\におもほしみだれ、人し
れず物なげかし。さりとてかゝる有さまも、あ
抄 源也。
しきことはなけれど、このおとゞの御こゝろば
への、むつかしく心づきなさも、いかなるついで
にかはもてはなれて、人のをしはかるべかめる
すぢを心ぎよくもありはつべき。まことの
内大臣也。
ちゝおとゞ、此殿のおぼさん所をはゞかり
河 請日本紀 諾同 河清ケザヤキ伶亮同
給て、うけばりてとりはなち、げざやぎ給
入内ありても源の方に有
べきことにもあらねば、なをとてもかくて
ても也。抄義
みぐるしう、かけ/"\しき有さまにて、心
をなやまし、人にもてさはがるべきみなめり
頭注
さりとてかゝるありさま
孟玉の心にさいても源の
かたにかやうにしてある事
もあしき事はなけれども
と也。抄同義細宮づかに
出立事も悪き事にて
はなしと也。
いかなるつゐでにかはもて
はなれて 孟嫌疑をはな
れたきと也。抄玉かづらの
心實事なき事をあらは
さんと也。
まことのちゝ 細源の心がけ
給ふべきこと内大臣のをし
はかり給ふ故に、吾物にも
え取持てし給はざる也。
抄うけばりは我物に理運
にする心也。けざやぎは物
にきはをたてゝする事也。
とてもかくても見苦しう
抄是は前にいへる詞に合て
見るべし。入内ありては帝
の寵を中宮女御の御心
をき給ふべし。又源の心が
け給はゞ又御方々の心を
き給ふべき事をいふ也。
尚侍の御宮仕への事を、誰も誰もそそのかし給ふもいかならん。
親と思ひ聞こゆる人の御心だに、うちとくまじき世なりければ、
ましてさやうの交じらひに付けて、心より外に、便なき事もあら
ば、中宮も女御も、方々につけて、心をき給はば、はしたなから
んに、我身は、かく儚き樣にて、いづかたにも深く思ひ留められ
奉る程も無く、浅き覚えにて、ただならず思ひ言ひ、いかで人笑
へなる樣に見聞なさんと、うけひ給ふ人々も多く、とかくに付け
て、やすからぬ事のみ有りぬべきを、物おぼし知るまじき程にし
あらねば、樣々におもほし乱れ、人知れず物歎かし。さりとて係
る有樣も、悪しき事はなけれど、この大臣の御心ばへの、難しく
心付きなさも、いかなるついでにかは、もて離れて、人の推し量
るべかめる筋を心清清くも有り果つべき。真の父大臣、此殿のお
ぼさん所を憚り給ひて、うけばりて取り放ち、げざやぎ給ふべき
事にもあらねば、猶とてもかくて見苦しう、懸々しき有樣にて、
心を悩まし、人にもて騒がるべきみなめり
略語
※奥入 源氏奥入 藤原伊行
※孟 孟律抄 九条禅閣植通
※河 河海抄 四辻左大臣善成
※細 細流抄 西三条右大臣公条
※花 花鳥余情 一条禅閣兼良
※哢 哢花抄 牡丹花肖柏
※和 和秘抄 一条禅閣兼良
※明 明星抄 西三条右大臣公条
※珉 珉江入楚の一説 西三条実澄の説
※師 師(簑形如庵)の説
※拾 源注拾遺
湖月抄 藤ばかま
源氏物語 三十帖 藤袴