下もえに思ひ消えなむけぶりだにあとなき雲のはてぞ悲しき
1082 藤原定家朝臣
靡かじなあまの藻塩火たき初めて煙は空にくゆりわぶとも
1083 摂政太政大臣 ○
恋をのみすまの浦人藻塩垂れほしあへぬ袖のはてを知らばや
1084 二条院讃岐
みるめこそ生ひぬる磯の草ならめ袖さへ波の下に朽ちぬる
1085 源俊頼朝臣 ○
君恋ふとなるみの浦の浜ひさぎしをれてのみも年を経るかな
1086 前太政大臣 ○
知るらめや木の葉降りしく谷水の岩間に漏らす下のこころを
1087 摂政太政大臣
洩らすなよ雲ゐるみねの初しぐれ木の葉は下に色かはるとも
1088 後徳大寺左大臣 ○
かくとだに思ふこころをいはせ山した行く水の草がくれつつ
1089 殷富門院大輔 ○
洩らさばやおもふ心をさてのみはえぞやましろの井手の柵
1090 近衛院御歌 ○
恋しともいはば心のゆくべきにくるしや人目つつむおもひは
1091 花園左大臣
人知れぬ恋にわが身は沈めどもみるめに浮くは涙なりけり
1092 神祇伯顕仲
物思ふといはぬばかりは忍ぶともいかがはすべき袖の雫を
1093 藤原清輔朝臣
人知れず苦しきものはしのぶ山下はふ葛のうらみなりけり
1094 藤原雅経 ○
消えねただしのぶの山の峰の雲かかる心のあともなきまで
1095 左衛門督通光
限あればしのぶの山のふもとにも落葉がうへの露ぞいろづく
1096 二条院讃岐
うちはへてくるしきものは人目のみしのぶの浦のあまの栲縄
1097 春宮権大夫公継 ○
忍ばじよ石間づたひの谷川も瀬をせくにこそ水まさりけれ
1098 信濃 ○
人もまだふみみぬ山のいはがくれ流るる水を袖にせくかな
1099 西行法師
はるかなる岩のはざまに独ゐて人目思はでものおもはばや
1100 西行法師
数ならぬ心の咎になしはてて知らせでこそは身をも恨みめ
1101 摂政太政大臣
草ふかき夏野わけ行くさを鹿の音をこそ立てね露ぞこぼるる
1102 大宰大弐重家
後の世をなげく涙といひなしてしぼりやせまし墨染のそで
1103 よみ人知らず
たまづさの通ふばかりに慰めて後の世までのうらみのこすな
1104 よみ人知らず
ためしあればながめはそれと知りながら覚束なきは心なりけり
1105 前大納言隆房
いはぬより心や行きてしるべするながむる方を人の問ふまで
1106 左衛門督通光 ○
ながめわびそれとはなしにものぞ思ふ雲のはたての夕暮の空
1107 皇太后宮大夫俊成
思ひあまりそなたの空をながむれば霞を分けて春雨ぞ降る
1108 摂政太政大臣
山がつの麻のさ衣をさをあらみあはで月日やすぎ葺けるいほ
1109 藤原忠定 ○
思へどもいはで月日はすぎの門さすがにいかが忍び果つべき
1110 皇太后宮大夫俊成
逢ふことはかた野の里のささの庵しのに霧散る夜はの床かな
1111 皇太后宮大夫俊成
散らすなよ篠の葉草のかりにても露かかるべき袖のうへかは
1112 藤原元真
白玉か露かと問はむ人もがなものおもふ袖をさして答へむ
1113 藤原義孝
いつまでの命も知らぬ世の中につらき歎のやまずもあるかな
1114 大炊御門右大臣 ○
わが恋はちぎの片そぎかたくのみ行きあはで年の積りぬるかな
1115 藤原基輔朝臣
いつとなく塩焼く海士のとまびさし久しくなりぬ逢はぬ思は
1116 藤原秀能
藻塩焼くあまの磯屋のゆふけぶり立つ名もくるし思たえなで
1117 藤原定家朝臣 ○
須磨の蜑の袖に吹きこす塩風のなるとはすれど手にもたまらず
1118 寂蓮法師
ありとても逢はぬためしの名取川朽ちだにはてね瀬々の埋木
1119 摂政太政大臣 ○
歎かずよいまはたおなじ名取川瀬々の埋木朽ちはてぬとも
1120 二条院讃岐 ○
なみだ川たぎつ心のはやき瀬をしがらみかけてせく袖ぞなき
1121 高松院右衛門佐
よそながらあやしとだにも思へかし恋せぬ人の袖の色かは
1122 よみ人知らず ○
忍びあまり落つる涙をせきかへし抑ふる袖のようき名もらすな
1123 道因法師 ○
くれなゐに涙の色のなり行くをいくしほまでと君に問はばや
1124 式子内親王
夢にても見ゆらむものを歎きつつうちぬる宵の袖のけしきは
1125 後徳大寺左大臣
覚めて後夢なりけりと思ふにも逢ふは名残の惜しくやはあらぬ
1126 摂政太政大臣 ○
身に添へるその面影も消えななむ夢なりけりと忘るばかりに
1127 大納言実宗
夢のうちに逢ふと見えつる寝覚こそつれなきよりも袖は濡れけれ
1128 前大納言忠良 ○
たのめ置きし浅茅が露に秋かけて木の葉降りしく宿の通ひぢ
1129 正三位経家 ○
忍びあまり天の河瀬にことよせむせめては秋を忘れだにすな
1130 賀茂重政 ○
たのめてもはるけかるべきかへる山いくへの雲の下に待つらむ
1131 中宮大夫家房
逢ふ事はいつといぶきの嶺に生ふるさしも絶えせぬ思なりけり
1132 藤原家隆朝臣
富士の嶺の煙もなほぞ立ちのぼるうへなきものはおもひなりけり
1133 権中納言俊忠
なき名のみ立田の山に立つくもの行方も知らぬながめをぞする
1134 惟明親王
逢ふことのむなしき空の浮雲は身を知る雨のたよりなりけり
1135 右衛門督通具 ○
わが恋は逢ふをかぎりのたのみだに行方も知らぬ空の浮雲
1136 皇太后宮大夫俊成女 ○
面影のかすめる月ぞやどりける春やむかしの袖のなみだに
1137 藤原定家朝臣 ○
床の霜まくらの氷消えわびぬむすびも置かぬ人のちぎりに
1138 藤原有家朝臣
つれなさのたぐひまでやはつらからめ月をもめでじ有明の空
1139 藤原秀能 ○
袖のうへに誰ゆゑ月は宿るぞとよそになしても人の問へかし
1140 越前 ○
夏引の手びきの糸の年へても絶えぬおもひにむすぼほれつつ
1141 摂政太政大臣
幾夜われ波にしをれて貴船川そでに玉散るもの思ふらむ
1142 藤原定家朝臣
年も経ぬいのるちぎりははつせ山をのへの鐘のよそのゆふぐれ
1143 皇太后宮大夫俊成 ○
うき身をばわれだに厭ふ厭へただそをだにおなじ心と思はむ
1144 権中納言長方 ○
恋ひ死なむ同じうき名をいかにして逢ふにかへつと人にいはれむ
1145 殷富門院大輔
明日知らぬ命をぞ思ふおのづからあらば逢ふ世を待つにつけても
1146 八条院高倉 ○
つれもなき人の心はうつせみのむなしきこひに身をやかへてむ
1147 西行法師
何となくさすがにをしき命かなあり経ば人や思ひ知るとて
1148 西行法師 ○
思ひ知る人ありあけの世なりせばつきせず身をば恨みざらまし
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