JINCHAN'S CAFE

My essay,My life
エッセイを書き続けることが、私のライフワーク

『君といた夏』 another world

2007年08月23日 07時53分42秒 | 本と雑誌
 学生時代、お中元シーズンに神戸のデパートでアルバイトをしておりました。配置されたのは贈答品のコーナーで、少し年上のお兄さんと一緒に作業をしていました。がっしりした体格で、なかなかのハンサムボーイ。K大の学生で、テニスサークルへ所属してらした方でした。私は程なく向かいの売り場の青年と恋に落ちるのですが、このお兄さんも、ちょっとした憧れの存在だったのです♪

 気さくな方でしたが異性という事もあり、同じ売り場の割には、あまり口がきけなかった・・・。しかしそんな中で、印象に残っている出来事があります。どういう訳か本の話になった時、彼は「最近な、すっごくいい作品を読んだんや。」と言いながら、近くにあったメモをたぐり寄せ、「ドナルド?いや、ダニエル?どっちだったかなぁ。」何やら懸命に思い出しながら書き込み、私に渡しました。そこには、こんな文字があったのです。'D・キイス アルジャーノンに花束を’

 「これホンマ感動するから。絶対読んでみてな。」 私はお礼を言って、そのメモを定期入れへしまいました。そうしてバイトが終わっても、お守りのように持ち続けていました。 やがて就職して東京へ行き、その後しばらくたってから大阪へ戻り、そこでの環境になれた頃、ようやくこの本を手にする機会がめぐってきました。職場の先輩が貸してくださったのです。バイトのお兄さんがメモをくれてから、7年の月日がたっていました。

 ダニエル・キイス。『アルジャーノンに花束を』。知的障害者の青年が、開発されたばかりの脳手術の被験者になる事によってIQが上昇、天才となる。その一方で訪れる苦悩・・・ 。分厚い!しかも1ページに上下段。加えて冒頭から読み辛い。出だしで既に挫折してしまいそうな、長編小説でした。しかしそこを抜けると、息つく暇もない程読み進み、物語世界へ惹きこまれていくのです。最後には泣きました。

 その後、大分たってからテレビドラマ(ユースケサンタマリア主演)にもなりました。教えていただいてから、16年の月日がたっていました。原作自体は古いもののようですが、私がバイトをしていた頃は、そんなに話題の本ではなかったと記憶しています。あのお兄さん、なかなかの感性の持ち主だったのだなぁと、今になって思います。私の39年間の歴史において、ほんの1ヶ月の係わり。そんな中でいただいた、サイコーの贈り物でした♪

 お兄さん、時間はかかっちゃったけど、ちゃんと読みましたからね!当時は見知らぬ作家だし、ピンとこなかったのですが、ご縁があれば必ず機会がめぐってくる。貸してくださった職場の先輩にも感謝です。