醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

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2017-01-28 10:50:02 | 随筆・小説

 句集『蜻蛉の空』を読む 

句郎 先月、野火の主宰者、孝夫さんから頂いた神戸みち子さんの句集『蜻蛉の空』を華女さん、読んだ?
華女 もちろん、読んだわよ。句郎君はどうだった
侘助 最後に載っていた「八十年生きて爽やか庭を掃く」を読み、突然、涙が出てきてビックリしちゃった。
華女 へぇー、句郎君は感激家なのねぇー。
句郎 そうなのかもなぁー。平凡に生きて平凡に死んでいく。これが普通の人なんだろうなぁーと思ったら、涙が出てきたのかな、と思ったんだけどね。
華女 句集の題にもなったのかしら。「雨やみて蜻蛉の空となりにけり」。静かな句ね、この句は。
侘助 そうだね。確かに静かな句だね。読者の気持ちを静かにする句は。良い句なんじゃないかな。
華女 名画の前に立つと心が静まると映画「泥の川」の監督、小栗康平が言っていたわよ。
句郎 最近、映画「フジタ」を撮った監督かな。
華女 そうよ。藤田嗣二の伝記ドラマの監督よ。彼が嗣二の絵の前に立つと静かさがあると言っているのよ。
句郎 そんな気もするな。「閑かや岩にしみ入蝉の声」。芭蕉の有名な句にも確かに静かさがあるように感じるね。
華女「八十年生きて」のみち子さんの句にも静かさがあるように感じるわ。
句郎 「静かさ」とは、何なのかな。
華女 小栗監督は藤田の絵の前に立った時の「静かさ」を表現したかったと言っていたわ。
句郎 「古池や蛙飛込む水の音」。この有名な芭蕉の句にも静かさが表現されているよね。
華女 十七文字で静かさを表現する文芸が俳句なのかもしれないわよ。
句郎 そうなのかもしれないな。「山路来て何やらゆかし菫草」。この芭蕉の句にも静かさがあるねぇー。
華女 俳句は芭蕉に始まるんでしょ。
句郎 芭蕉がうるさい俳諧を静かな俳句に作り替えたのかもしれないなぁー。
華女 うるさい俳諧とは何なの。
句郎 芭蕉十九歳の時の句に二十九日立春なればと前書きし「春やこし年は行けん小晦日(こつごもり)」という句を詠んでいる。寛文二年1662は十二月二九日が立春だった。江戸時代は旧暦だったからね。この句にはどこにも静かさはない。ただ面白味のようなものを狙っただけの句のようだ。このような句は名句とは大きく隔たった句なんじゃないのかな。
華女 みち子さんの句に静かさが表現されているということは立派な俳句になっているということなんじゃないのかしら。
句郎 そうだと思うけど。「終戦日夢に見る兄茶碗酒」。この句にも静かさがあるよね。
華女 そうね。年老いて静かにお兄さんを偲ぶ気持ちが表現されていると思うわ。
句郎 俳句は笑いだけれども、その底に静かさがなければただうるさいだけの句になってしまうのかなぁー。
華女 理屈や説明は、ただうるさいだけなのね。静かさを表現するのね。それが難しいのよね。
句郎 そうなんだろうね。静かさが表現できない。修行が必要なんでしようね。少しでもみち子さんのような句を詠めるよう修行、少し辛いけどね。