お父さん わたしね
子どもの頃にいただいた
たった一枚の誕生カードを
今でも秘かに持ちつづけています
覚えていますか
橋の欄干にもたれた
舞子の後ろ姿のカードです
舞子は一人たたずみ川を見ています
そこには
きらきら
きらきらと銀砂が貼りこんであります
いただいた私は 小学生でした
私 木登りばかりしていたでしょう
隣の組の女の子が輪になって
帰り道に後ろからついてきた事がありました
門のなかに入ったら 口々に囃し始め
一人は塀にのり
靴が片方 ぬげてしまいました
ずっと黙っていた私
(ふん)と笑って
靴をぽいっとほうりました
(なにがあったのか)と慌てふためき
学校へ飛んでいった お母さん
「何もなかったのですよ」
といわれて不思議そうに戻ったお母さん
そんな私に
カードの言葉
「ベスのように」はうなずけません
「ジョーのように」なら分かると
…… それからずっと取っておいたのでしょうか
きれいな絵だから 残したのでしょうか
あれから
いくつもの曲がり角があり
それでもカードは捨てられず
なにかの折りに出てくると
ぼんやり 一人で
ながめていました
二十才の誕生日に
ジーンズばかりの私に
化粧道具をくださったのも
「お父さん」でした
変わらないね
お父さんの
へたくそな字
お父さんは
変わらないね
私はいつ
あなたに
お返しができますか
『あなたの心の奥に住んでいる
美しいお友達をお父さんは
よく知って居ります
「アルプスの山の少女」のハイジのように
そして
「若草物語」のベスのように
明るく美しい心を
何時までも何時までも
持ちつづけませう
その中にきっとよい事がありますように
祈って居ります
父より』
H5.10.19