きれいなきれい〈田添公基・田添明美のブログ〉

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返り花     田添明美

2012年08月30日 07時53分05秒 | 「いたずら」田添明美
 
 

     

身の丈50センチのこどもになって
坂の上小学校に行ってみました。
途中の川で鯉を売るおじさんがいました。
途中の田圃で金魚を売るおじさんがいました。
途中の古い建物でそろばんの音がしていました。
途中の曲がり角で筆箱を落としました。

石段をのぼると桜並木、
暗闇の中でさまよった中庭がありました。
暗闇の中でさまよった校庭がありました。
取り壊された筈の木造校舎、
二階から 藻だらけのプールが見えます。
二階から 下駄箱で戸惑う私が見えます。
二階から 踊り場で戸惑う私が見えます。
二階から 放送室の私が見えます。

だだびろかった筈の体育館、
放課後 残された男の子達
    雑巾掛けをしています。
    残された女の子一人
    私も
    雑巾掛けをしています。
    している筈です していた筈です
    していません。
    いません。
    しないで 隅で遊んでいます。

取り壊された筈
校庭の卒業記念に残した水飲み場、
がりがりに痩せた短過ぎるスカートのあの子を
一人校庭で飛行機を飛ばすあの子が
好きになり
飛行機は
今日もあの子が飛ばしています。

    おーい
    おーい
    と呼んでみました。

あの人達には私が見えません。
あの中にいる私にも私が見えません。

仕方がないので帰ります。
坂道で転ぶと転がります。
転がって川
転がって田圃
転がった道
転がった空
転がって 転がって 転がっていくと……

身の丈50センチのこどもは、
身の丈50センチの大人となり
互いに握手する暇もなく
別れます。

    ほうい
    ほうい

    戻る術もないならば

    返り花、

    咲かそか
    匂わそか。





                H5.12.26



    

桴     田添明美

2012年08月30日 07時49分06秒 | 「いたずら」田添明美
 



    何年か後に この場所で
    俺は桴を持ち、
    お前を呼ぶ為に/太鼓を打ち鳴らそう。

    どんなに離れていたとしても、
    せいやーっ
   音は風に乗り
    お前の耳に届くよう
    せいー   やあっ
  微かな気配でも
    お前が振り向くよう
    せいー  やっやっやっやっ
 仕草を止めて
    お前が耳を傾けるように
    やあっ  やっやっやっやっ
血が沸き立ち
    駆けてくるよう

    ここで
    俺は
    桴を打ち鳴らす。

    朝日がのぼり 夕日がしずむまで
    血が滲もうとも
    せいやーっ  さあっ
    桴を
    打ち鳴らす。

     お前は 振り向け。
     せいっ
     どこにいても、
     駆けて来い!

    よっ
やっやっやっやっ
    せいっ
    せいやーっ  さあっ 

    せいーっ

     お前は 振り向け!
     せいっ

     どこにいても、
     駆けて来い!

    せいっ
    せいやーっ
    さあっ

    やあー  やっやっやっやっ
    せいやーっ
    さあっ






                       H5.12.24