鹿を捌いた晩
臓腑をほうるように
らんざつな部屋は
坐る場所さえ
なかった
窓を閉じゆっくりと
錆びた缶切りを
なめる
餓えながら(ひとり)
こわしていた
月あかり
かえるかもしれないもの(を)
かえらないもの(として)
身にまとい
つくることもなく
語ることもなく
鼓動をなぞるように
荒れた庭をまわるそんな
かげに怯えた
ひとつひとつの夜がゆるみ
忘れようとする痛み
さえ失くし
なにもかもがやわらかく
遠のいたころ、
合わせ鏡に(あなたの)
ふたつの顔はひとつとなり
ちいさな耳
があらわれ
掬いあげた水は
指さきから
きらめいてしずかに
こぼれる
H7.3.26