[4月30日]
★子の年を振り返り居て鯉幟/河野啓一
鯉幟が泳いでいるのを見て、人はいろいろ思うだろう。あの家には男の子が生まれたのだな。何人子供がいるのだろうか、など。啓一さんは、ご自分に男の子が生まれたころを思い出し、その子の今の歳を振り返った。短くはない歳月だ。(高橋正子)
[4月29日]
★葱ぼうず身じろぎもせず春送る/河野啓一
葱ぼうずとなった葱は愚直なほど直立。身じろぎもしない。そして春を見送っている。ユーモアとどこかペーソスがある。(高橋正子)
[4月28日]
★たんぽぽや日は榛名嶺へ近寄らず/小口泰與
「日は榛名嶺へ近寄らず」の表現から、太陽が榛名山よりもはるか高く昇っている真昼間を思う。その裾野にたんぽぽが輝いて咲いているのどかな、時を止めたような風景。(高橋正子)
[4月27日]
★花終わり天守の空の夕雲雀/河野啓一
天守を彩っていた桜が終わり、春もいよいよ酣。天守の空に雲雀が囀り、夕方の空が静かにも大いに楽しくなった。(高橋正子)
[4月26日]
★八時十五分の鐘や棕櫚の花/谷口博望 (満天星)
八時十五分は、広島に原爆が投下された時刻だが、今も八時十五分に鐘が鳴らされているのだろうか。棕櫚はヤシ科の常緑高木。初夏の空高くに、黄白色の肉穂花序の花を垂れる。美しい花ではないが、空に鳴り響く鐘の音と共に、時代を忍ばせる雰囲気がある。(高橋正子)
★鉄線の花も莟も空を向く/川名ますみ
鉄線の莟は、空を目指しているように思える。平らな花は空の中の花であろうとする。濃紫の鉄線は、春の空に似合う色であり、作者が投影された花であるように思う。(高橋正子)
[4月25日]
★山藤や木々に絡まり空へ揺れ/佃 康水
藤は、蔓を伸ばし花をつける。絡まる支柱がいるが、山藤はそばの木々に絡まり、力強く空へ向かい伸び花を付ける。意外にもたくましい藤の花は、目にさわやかで快い。(高橋正子)
[4月24日]
★竹の秋田川の水の豊かなる/小口泰與
竹は春に葉を降らす。田植えが始まるころ、田川には水が奔放に走り、水の豊かさを知る。それが竹の秋の季節だ。(高橋正子)
[4月23日]
★すかんぽの赤き穂の伸ぶ雨催い/桑本栄太郎
「スイバ」のことを「すかんぽ」と呼ぶ地方もある。スイバの赤い穂が野原に目立つころは、雨催いの天気が続く。曇り、時ににわか雨、曇りのち雨、などの天気予報も毎日のようだ。穀雨のころの季節がよく詠まれている。(高橋正子)
[4月22日]
★乳母車の通りゆく日や躑躅燃ゆ/桑本栄太郎
躑躅があかあかと燃え咲くところを乳母車が通り過ぎる。燃える躑躅の強さ、乳母車のやさしさ。その二つが生命の強さとやさしさを象徴している。(高橋正子)
[4月21日]
★火の国の地震を憂うや朧の夜/佃 康水
このたびの熊本の地震は一週間以上も続く、これまで経験のない地震。こんな地震災害がある夜でも、朧月が美しくかかっている。それを感じる心が、被災者や被災地を憂う心をなお深くしている。難しい題材だが、自然な詠みに心情がくみ取れる。(高橋正子)