3月10日(1句)
★眦に川はありけり雪解風/小口泰與
泰與さんは利根川の流れるところに住んでいる。雪解風を頬に受けながらどこかを見ているのだろう。眦に川がある。利根川の流れることろに来れば、目のどこかに川が入るのだ。「眦に川はありけり」は上手い。(高橋正子)
3月9日(2句)
★うぐいすのひとこえ静かな雨の朝/多田有花
静かに降る雨の朝、うぐいすのひとこえがうれしい。次の声を待つが、ひとこえに終わる。木の芽起こしの雨、うぐいすのひとこえに、春が一歩一歩進んでいる。(高橋正子)
★中州なる雑木林や木の芽張る/桑本栄太郎
川の中州の雑木林が芽吹く。川の光、雑木林の淡い芽吹きの色。絵になる景色だ。(高橋正子)
3月8日(2句)
★春の朝水槽の水真新し/小口泰與
「春の朝」と「真新しい水槽の水」の取り合わせが、生き生きとしている。ガラスを通して見る水の柔らかさに水の温みを感じる。(高橋正子)
★堰水の脇に菜の花明かりかな/桑本栄太郎
輝きながら落ちる堰の水。脇には菜の花が一面に咲いて、明かりが生まれている。春の明るく柔らかい景色だ。(高橋正
3月7日(1句)
★春空を飛行機雲の幾筋も/多田有花
春空に飛行機雲が「幾筋も」伸びている。軽やかで、自由な春の空だ。(高橋正子)
3月6日(3句)
★啓蟄や棚田の水のあふれ落つ/小口泰與
啓蟄。蟄は土の中にいる小さな虫。その虫たちが、春が来たぞと穴を啓いて出てくる。人間にとっても嬉しい日だ。棚田の水は雪解け水であろう、溢れ落ちるほどゆたかだ。(高橋正子)
★イヌフグリ咲けり昔の反戦歌/古田敬二
昔と言えばいつの時代だろうか。そう、遠くない昔であろう。ベトナム戦争のときは若者が反戦歌を歌った記憶がある。イヌフグリが小さい花ながら、ひとつ、ひとつが、平和の歌を歌っているようにも思える。(高橋正子)
★仰ぎ見る芽柳天を掃きにけり/桑本栄太郎
仰ぎ見る芽柳や天。さみどりの芽柳の糸が空を掃いている。軽やかで明るい句だ。(高橋正子)
3月5日(2句)
★囀りの絶ゆること無き一樹かな/廣田洋一
ある一本の樹から絶えることなく囀りが聞こえる。美しい囀りが絶えず漏れるこの一樹の大きな包容力を思う。(高橋正子)
★春耕の畝を天道虫登る/古田敬二
主テーマを春耕とし、そこにいろんなことが起こる。早くも天道虫が畝をヨイショ、ヨイショと登るようなことも。(高橋正子)
3月4日(2句)
★妻といて雛の間と言う静寂かな/小口泰與
雛を飾る部屋の、今の静けさ。妻と特に語り合うこともなく、さらりとした時間。雛の間なので、主役は妻に譲っているのであろうが。(高橋正子)
★頂に立てば初蝶飛び立ちぬ/多田有花
頂に初蝶を見つけた嬉しさと驚き。畑や田や住宅地でなく、頂に見つけたというのがいい。頂も確実に春なのだ。(高橋正子)
3月3日(3句)
★線香の煙を浴びぬ梅日和/廣田洋一
梅日和の良い天気。寺にお参りの人も大勢となる。香煙が身に染むほどである。線香の煙がありがたく思える。(高橋正子)
★緩やかに地球揺るるか春の潮/古田敬二
春の潮が寄せてくるのを静かに眺めていると、地球が揺れて春の潮をゆらしているような錯覚になる。それも作者の真実。(高橋正子)
★ちらし寿司母の叩きし木の芽載せ/川名ますみ
ちらし寿司は華やかに、彩りよく錦糸卵や椎茸、あるいは酢漬けの魚などが載せある。木の芽は手のひらで叩いて香りがよく出るようにする。木の芽を載せて、ちらし寿司はもっとも春らしい寿司となる。(高橋正子)
3月2日(2句)
★対岸は我生れし村春の雪/古田敬二
川沿いに車か列車で走っているのだろう。この川の対岸は敬二さんの生まれた村である。春の雪が生まれた村を消すかのように降ってくる。故郷を思う抒情的な句。(高橋正子)
★ゑんどうの高き支柱や春寒し/桑本栄太郎
春寒いころ、えんどうはまだ支柱の根元辺りに緑の葉をようやく育てている。えんどうが生長する高さを想定して立てられた高い支柱。まだまだ、先までは余りあるのだ。それが「春寒し」を強く感じさせている。(高橋正子)
3月1日(1句)
★道それて摘めば蓬香りけり/古田敬二
蓬を見つければ、つい摘みたくなる衝動。私もあって、春の蓬餅を作り、また食べる楽しみになる。(高橋正子)