4月15日(1句)
★地下を出る東西線や風光る/多田有花
東西線は東京メトロの東京・中野から千葉・西船橋の東西を走る路線。地下から地上の線路に出たときの明るさは、なにげなく嬉しいものだ。外の景色を見れば、明るい。都会の中で、「風光る」を強く感じる時だ。(高橋正子)
4月14日(2句)
★舞いもつる蝶や山風吹きにける/小口泰與
山風の荒さを蝶の舞に見た。「舞いもつる」蝶の翅が破れはしないかと思うほどの山風。虚子の句に「山風の蝶を荒しと思はずや」がある。時に蝶は激しく舞うものだ。(高橋正子)
★初蛙森の沼地に響きおり/多田有花
初蛙の声を聞くと、心がより自然へと向き、活力が湧く気持ちになる。情景がよい。(高橋正子)
4月13日(2句)
★うぐいすや朝の散歩の距離伸ばす/小口泰與
うぐいすの長閑な声。朝の散歩もつい遠くまで歩いてしまう。心も体ものびのびとなる。(高橋正子)
★風光る萌えしばかりの葉もひかる/川名ますみ
「風光る」は見えるかぎりの世界一面。萌えたばかりの葉も日に風に輝いている。すべてに風光る季節だ。(高橋正子)
4月12日(1句)
★山あいの町いちめんの桜かな/多田有花
山あいの小さな町。町はいちめんの桜に埋め尽くされた、桜花爛漫の満ちて静かな風景を見せている。(高橋正子)
4月11日(1句)
★元の華やぐ色や春ストール/廣田洋一
洋服の胸元にきれいな色のスカーフやストールをもってくると、華やかな雰囲気が漂う。擦れ違いざまに、そのきれいな色に、はっと春を感じさせられるのだ。(高橋正子)
4月10日(1句)
★隣席の真白き紙に桜餅/廣田洋一
例えば、句会などで、隣り合わせの席に座る。桜餅がまず隣の人の白い紙に置かれ、配れていく。白い紙と桜餅の淡い桜色、塩漬けした葉のうすうすとした茶色。上品に白い紙とよく似合うのだ。この美がいい。(高橋正子)
4月9日(2句)
★おおかたの花散りしあと花冷えに/多田有花
花がさいているころのひんやりとした寒さを花冷えという。花がほとんど散ったころに、花冷えがする。言葉と実際の齟齬(そご)。今年の早い桜にこういう事態にもなったのだ。(高橋正子)
★門燈に紫透けり木蓮は/廣田洋一
庭の門燈に触れるように木蓮が咲いている。門燈に紫がほのかに透けているのだ。ガレのランプのような紫色に魅かれる。(高橋正子)
4月8日(1句)
★山寺の静けさに花の散るばかり/多田有花
桜が散る季節になった。静かな山寺も散る花にいっそう静かになり、春が惜しまれる。来る夏へと変わる静かな時である。(高橋正子)
4月7日(1句)
★風車風通し良き角の店/廣田洋一
建物の角はどちらから吹く風もよく通る。風車を売る店が角にあって、通りを吹く風に風車がよく回るのだ。売られている風車が色とりどりに回る。楽しい光景だ。(高橋正子)
4月6日(1句)
★靴紐を峠にむすぶ名草の芽/小口泰與
峠まで歩いて来たのか。緩んだ靴紐を結びなおすと、足元には知れた草の芽。これから生長する草の芽に春たけなわの季節が思われる。良い季節。どんどん歩いて行けそうだ。(高橋正子)
4月5日(1句)
★清明のサランラップをぴんと張る/廣田洋一
サランラップを使うのは、台所のごくごく日常のこと。清明を迎えて、ぴんと張り伸ばしたサランラップが透き通って、空気の明るいすがすがしさを見せていると思った。よい生活句。(高橋正子)
4月4日(1句)
★本堂の扉を満開の花へ/多田有花
春の日の寺の本堂は外の明るさのせいもあって、ほの暗い。その本堂の重い扉を開けると満開の花が目にはいった。花の瑞々しさ、ゆたかさ、清潔さなどが一度に身に迫るような感じだった。(高橋正子)
4月3日(1句)
★散り初むる花街道を路線バス/桑本栄太郎
路線バスが走るいつもの道。絢爛とした花街道の桜がちらちらと散り始め、行く春を窓越しに知ることになった。(高橋正子)
4月2日(1句)
万愚節その日生まれの孫五歳/桑本栄太郎
万愚節に生まれた命の存在の真実。エイプリルフールではあるまいかという命に対する思い。五歳の誕生日を健やかに迎えた喜びは貴重。(高橋正子)
4月1日(1句)
★楓の芽煙の如く出で空に/多田有花
楓の芽はごくごく小さく萌え出る。「煙の如く」と思えるのは、無数の芽の出始め。やがて美しい若楓の季節を迎える。「煙の如く」と捉えたのが新しい。(高橋正子)