10月10日(3名)
小口泰與
稲架の先黄金の波や佐久平★★★
分前を野猿も欲しや山葡萄★★★★
秋の日やベランダに干すカーペット★★★
廣田洋一
あたり一面黄色く染めし金木犀★★★
温め酒父の遺せし九谷焼★★★
居酒屋に残る昭和や温め酒★★★★
多田有花
この先は袋小路よ柿紅葉★★★
境内に鶏頭きれいに並び咲く★★★★
境内の地面は固く、きれいに掃かれているだろう。そこに鶏頭がきれいに列をなして咲いている。境内の清潔さと鶏頭のあでやかさが目に残る。(髙橋正子)
えのころやころころ日差しと遊びおり★★★
10月9日(3名)
小口泰與
トンネルを出づや蒼空初紅葉★★★★
俯すごとく巫女の正座や稲光★★★
今日もまた同じ草へと蜻蛉かな★★★
多田有花
洋酒入りのチョコレートを買う寒露★★★
地を這いて咲く朝顔の濃紫★★★
快晴が続くよ萩の花こぼれ★★★★
廣田洋一
花膨らみ香りの強し金木犀★★★
添水鳴る佇みて待つ次の音★★★
添水の音奥の林に吸はれけり★★★★
添水の鳴る音がそのあたりだけでなく、奥の林に吸われていく森閑としたところ。音と景色に奥行きがあって、より静かさが深まる句。(髙橋正子)
10月8日(3名)
廣田洋一
畦道の緑濃きかな刈田原★★★★
群雀出入り忙しき刈田かな★★★
稔田に隣る刈田よ雀の声★★★
小口泰與
あけぼのの庇かたかた小鳥來る★★★★
小鳥らの朝は早い。あけぼのの庇をかたかたと鳴らして小鳥が歩く。「小鳥来る」は、「遠方より友来たり」の嬉しさに似る。(髙橋正子)
広芝を刈り込む吾や放屁虫★★★
山峡の大庇より花すすき★★★
多田有花
秋の薔薇朝日のほんに眩しそう★★★★
見上げれば紫式部坂の上★★★
また一夜が明け酔芙蓉の花に★★★
10月7日(4名)
小口泰與
秋蝶の旅の途中や丘の園★★★
団栗を踏みつつ登る峠道★★★★
榧の実のぱらぱら落つや鳥の声★★★
廣田洋一
温め酒控へ目にてふ子らの声★★★
人肌が自慢の女将温め酒★★★
百薬の長と言挙げ温め酒★★★
桑本栄太郎
とんぼうの鳩吹く風に流れけり★★★
秋簾越しの青空何処までも★★★
零余子飯焚けて土の香匂い居り★★★★
零余子飯の素朴さはじみじみとして味わい深い。土の匂いのような香りに、秋の深まりを感じる。(髙橋正子)
多田有花
丈高き紫苑畑の一画に★★★
青空にこの色生らせ柿百個★★★
薄の穂白く大きく空に届く★★★★
10月6日(4名)
小口泰與
お変わりの声の高きや今年米★★★★
飛来せるアサギマダラや藤袴★★★
鵯の声枝から枝へ離れ澄む★★★
廣田洋一
お茶会の静寂を破る添水かな★★★
講演の間合ひをはかりばったんこ★★★
何気なく入りたる庭に添水聞く★★★
桑本栄太郎
今朝も又定時に鳴りぬ威し銃★★★
白壁の民家の庭や柿の秋★★★
次々に枝を吹き上げ萩の風★★★
多田有花
コスモスの咲くや朝露宿しつつ★★★★
朝露を宿したコスモスは、露の重さで花が少し枝垂れる。秋冷の朝の空気が肌に感じられるような句。(髙橋正子)
カンカンと踏切の音白粉★★★
洗われて輝く車秋高し★★★
10月5日(4名)
小口泰與
小鳥来ぬ蔵書一切寄贈せり★★★
飛来せる秋蝶数多凪の園★★★
また咲きし金木犀や暁の風★★★★
金木犀が咲くころの暁がいい。一度散った金木犀が、思い出したように咲き、暁の風に匂いが流れる。精神の静かさが感じられる句だ。(髙橋正子)
廣田洋一
電車より見下ろす刈田黒々と★★★
鳥除けの凧の残れる刈田かな★★★
団栗ところころ遊ぶ風柔し★★★★
多田有花
路地ゆけば小さき庭の初紅葉★★★★
乱れ咲くことも約束秋ざくら★★★
秋の朝いつものように野良仕事★★★
桑本栄太郎
秋日さす日差し眩しきバスの窓★★★
稲穂垂る各停駅のすぐに傍に★★★
秋澄むやテニスコートの弾む音★★★
10月4日(4名)
小口泰與
干上がりて皴の田圃の晩稲かな★★★
頂上や秋風わかつ鳥の声★★★
嬬恋の大庇より秋の鷹★★★
廣田洋一
目につきし菌炊き込み夕餉かな★★★
出張より帰宅せし子に菌飯★★★
二枚だけ刈田となりし日曜日★★★★
多田有花
朝日まず秋明菊に差しにけり★★★
コスモスや濃きも薄きもとりどりに★★★★
あちらこちらに、コスモスが濃い紅色、淡い紅色、ピンク、白と混ざりあって咲いている。色とりどりの淡い色調と可憐な花姿がこそがコスモスらしさ。あたり前の光景をそのまま詠んで衒いがないのがいい。(髙橋正子)
熟れ柿のうしろは雲無き青空★★★
桑本栄太郎
秋蝶の舞い昇りたる素十の忌★★★
藤袴アサギマダラの乱舞かな★★★
うろこ雲の染まる茜や嶺の夕★★★
10月3日(4名)
小口泰與
身に入むや利根の川風身の内へ★★★
鶺鴒の発止と餌を咥えけり★★★
仏壇へ日の差し込みし秋うらら★★★
廣田洋一
秋天一碧吟行日和かな★★★
毒茸見つけて友の寄り来たり★★★
茸飯味はひ尽くす夜のとばり★★★★
夜のとばり中で食べる茸飯。味わい尽くすほどの茸飯は、松茸が入っていそう。親しい人たちが囲む温かい食事風景が彷彿される。(髙橋正子)
多田有花
朝の月細く未明の空にあり★★★
稲刈りによき週末の快晴よ★★★★
池に枝伸ばす楓の薄紅葉★★★
桑本栄太郎
バスを待つ間にも漂う金木犀★★★
孫よりのお誘い来たる運動会★★★
蛇笏忌の小さく彼方に放れ雲★★★
10月2日(4名)
廣田洋一
明星の光りとがりて夜寒かな★★★★
帰り来て夜寒の風呂を沸かしけり★★★★
一籠に一本きりの茸売場★★★
小口泰與
からからと莢豆風に吹かれけり★★★★
秋晴や天気予報の中りたる★★★
と言いて鮭を釣り上ぐ子供かな
多田有花
菊供えられ合掌のマリア像★★★★
奔放に風にまみれてコスモス咲く★★★★
コスモスが群れて風に吹かれる様子は、自由であり、奔放である。優しい雰囲気の花も実は強靭な茎と根に支えられている。風にまみれて咲くコスモスはこの花の本領を発揮しているようである。(髙橋正子)
十月や漢方薬の香のあふれ★★★
桑本栄太郎
乙訓は風の丘とや大花野★★★
京なれや畑に植えらる藤袴★★★★
コスモスの甍きらめく山の里★★★
10月1日(3名)
小口泰與
渓声の聞こゆ林道秋日澄む★★★
古井戸へ石を落とすや秋の風★★★
聞え来る鐘つく音や秋の暮★★★
廣田洋一
誰とはなしに感謝を込めて赤い羽根★★★★
赤い羽根に象徴される共同募金は、あらましを述べると、
「戦後、民間の社会福祉施設などに対する財政補填のために行われていた民間の募金活動を制度化したもの。共同募金の期間は10月1日から3月31日までとなっている。今日では各都道府県に設立された共同募金会が実施主体となって、社会福祉を目的とする様々な事業活動に幅広く配分されるようになっている。」と厚生労働省のホームページにある。
戦後もすでに長い。今の幸せに感謝して、この幸せが誰によると特定できるものでもなく、誰とはなしに感謝したい人間的なやさしい心。さらりとした詠み方がいい。(髙橋正子)
駅出でて一足ごとに夜寒かな★★★★
久し振り子らの来訪茸飯★★★
桑本栄太郎
天空の雲の奔るりぬ野分晴れ★★★
銀翼の天にきらめき秋晴るる★★★★
十月や終生変わらぬシンパシー★★★