11月10日(5名)
小口泰與
晩学の俳句や今朝は冬うらら★★★
切岸の一掬の水冬兆す★★★
水切りの十輪や風の冬の鳶★★★
廣田洋一
縁側の媼の背中大根干す★★★
青き首そのまま保ち大根干す★★★
街路樹の木の葉波打つ神渡し★★★
多田有花
残る柿に冬のはじめの日の光★★★
葱刻み昼の味噌汁に入れる★★★
セロシアへ冬の蝶きて蜜を吸う★★★
桑本栄太郎
初冬の早やもひび割れ指のさき★★★
小春日や銀杏梢のすでに散る★★★★
小春日の陽ざしに映える銀杏もよく見れば、梢の黄葉は散って棒のような枝になっている。そんな梢も日に輝いて眩しいほどの景色。(髙橋正子)
穂芒のほどけ銀波そよぎけり★★★
弓削和人
小春の旅隣り座席は縁の人★★★
大根を抜く人はなし猫眠る★★★
鳥居より日ざしやはらか神無月★★★
11月9日(5名)
多田有花
身辺は彩のとき十一月★★★
立冬の快晴山野を輝かせ★★★★
きっぱりとした立冬の景色がいい。立冬と言いながらも快晴で野山は日差しを受け生き生きとしている。(髙橋正子)
冬満月いま沈みゆく夜明け空★★★
廣田洋一
薬屋を囲へる庭の返り花★★★
桜紅葉吹雪の如く散りにけり★★★
からからと絵馬の揺れたり神渡し★★★
小口泰與
赤城よりふり来る風や冬の蜂★★★
八方は枯れ野原なり鳥の声★★★★
小春日や生涯市井の商人よ★★★
桑本栄太郎
紅葉且つ散る並木通りを歩きけり★★★
棚田ゆく畦の彩なす草紅葉★★★
来て見れば早も浮寝の鳥の群れ★★★
弓削和人
〔三笠山〕
冬紅葉三笠の山を朱に染めて★★★
三笠山のぼりくだりや冬紅葉★★★
「三笠山のぼりくだりも冬紅葉(訂正句)」の「も」は、句意を曖昧にしていますので、元の句のほうが良いです。(髙橋正子)
頂きや町村原は冬に入る★★★★
11月8日(5名)
小口泰與
古風なる田舎料理や秋燈★★★
我が庭も初冬の景となりにける★★★
語り部は宿の女将や囲炉裏端★★★
廣田洋一
青空にすっくと立ちし桜紅葉★★★
道端のやはり気になる帰り花★★★
蒲公英の短き茎や帰り花★★★
多田有花
長き夜にヘッドフォンつけピアノ弾く★★★
冬来るたどたどしく弾くショパンかな★★★
川波をきらきら光らせ冬に入る★★★★
暦の上で立冬と聞けば、ものみな一斉に冬の気配に包まれる気がする。きらきらと光る川波の光の鋭さ。冬の明るい一景色がさりげなく詠まれている。(髙橋正子)
桑本栄太郎
陽当たりを選び散策冬来たる★★★
溝川を走る鼬に出会いけり★★★
落葉舞う高校通りの並木かな★★★
弓削和人
冬入りて緋紅なる垣ピラカンサ(原句)
「冬入り」は「冬に入り」としたいです。
冬に入り緋紅の垣はピラカンサ★★★(正子添削)
初冬の皆既月食街あかり★★★★
帰り花夕べの街の坂ゆきて★★★
11月7日(5名)
小口泰與
鵙の贄入日に映える梢かな★★★
枝折戸を押したる音の冷まじや★★★
葦原の隅に朽ち舟ありにける★★★
廣田洋一
産土の幟はためく神渡し★★★
巫女たちの箒目清し神の留守★★★
つやつやと光る柿の実買ひにけり★★★
多田有花
<須磨寺三句>
三重塔雲無き秋天へ立つ★★★
敦盛の首塚彩る薄紅葉★★★
深秋の須磨寺に聴く一弦琴(原句)
深秋の須磨寺に弾く一弦琴★★★★(正子添削)
須磨寺は源平の戦にまつわるものが諸々ある寺。須磨寺の一弦琴は、須磨琴と呼ばれているようで、私はYou Tubeで初めてその音色を聞いた。曲は「三千世界」であったが、細い琴板に弦が一本張られ数人で演奏していた。素朴と言う音色でもなく、音数は限られ、独特のわびしさの残る音色に思えた。やはり、深秋が似合う音色と思えた。(髙橋正子)
桑本栄太郎
火と燃ゆるなんきん櫨や照紅葉★★★
ワクチンの五回目打つや冬来たる★★★
穂芒の風に酔い居り解けたり★★★
弓削和人
土を剥ぎ真白き葱の熱き汁★★★
冬入りに開くる戸口の音透みて(原句)
冬に入る戸口を開ける音澄みて★★★★(正子添削)
小春日やはじめて歩く市場町★★★
11月6日(5名)
小口泰與
群鵙の今に飛来の心当て★★★
心して杣道行くや村芝居★★★
鎮座せる心許なき青瓢★★★
多田有花
<須磨寺三句>
振り返る敦盛像や須磨の秋★★★
六地蔵紅葉の下に並びおり★★★
奥の院真言唱えて巡る秋★★★★
廣田洋一
風吹きて木の実時雨となりにけり★★★
秋惜しみいつもの道を一人行く★★★★
なんでもないような読みぶりながら、人生の深さが淡々と詠まれていて、ひとり、しみじみとした気持ちになった。(髙橋正子)
秋深し波平らかに由比ヶ浜★★★
桑本栄太郎
秋澄むや老夫畑打つ鍬の音★★★
溝川の音の見えずや秋の水★★★
人気なき山里行けば鵙の声★★★
弓削和人
水澄めり水門の辺の渡し舟★★★
花を垂れポストが受けり杜鵑草★★★
風を受け舞い降りたるや芭蕉の葉★★★
11月5日(5名)
多田有花
<震災モニュメント>
身に入むや石刻地球儀落下する★★★
<安徳宮・安徳天皇行在所伝承地二句>
水底にも都はありや秋寂し★★★★
杜鵑草モルガンお雪の灯籠に★★★
小口泰與
木隠れの後架豪華や木の実雨★★★
秋草やここら人家もまばらなり★★★
行く秋やけふは小暗き人と居り★★★
廣田洋一
特Aの格付け目指す今年米★★★
品書きに松茸とあり赤提灯★★★
西口の階段上り時雨けり★★★★
桑本栄太郎
日蔭とて光放てり石蕗の花★★★★
石蕗の花の黄色は日蔭にあれば、「光を放つ」ほどの強烈な印象の黄色である。晩秋の小暗さに明るさを足してくれる石蕗の花の生命力自然体で詠まれている。(髙橋正子)
日矢させば天使のはしご山粧う★★★
穂すすきの解け波打つ野風かな★★★
弓削和人
秋星やイルミネーションの花も加え★★★★
図書室へこもりたくなる黄落日★★★
秋深し人の待ちたる時計台★★★★
11月4日(4名)
小口泰與
へら浮子の長きを閲す夜長かな★★★
里人の柿を献ずる村地蔵★★★
湖風を浴びて残菊地に触れし★★★
多田有花
はるばると大阪堺秋の海★★★
爽やかに須磨の海から空港へ★★★
澄む秋の大阪湾を一望す★★★★
桑本栄太郎
身ほとりの一気呵成や庭紅葉★★★★
戻ろうか進もうか秋惜しみけり★★★
紅葉且つ散る鋪道を歩む園児らは★★★
弓削和人
午の月ひとり遠くの秋起し★★★
小駅を過ぎると秋の登山帽★★★
網棚に秋気残れり終着駅★★★★
終着駅で降りるときの特別な気持ち。網棚に置いた荷物を下すときに、物のあったところに残る気配。暗がりの網棚に残る秋気に終着駅の哀愁が感じられる。(髙橋正子)
11月3日(5名)
多田有花
秋澄むや大橋望む展望台★★★
カーフェリー秋海原を南航す★★★
須磨の秋揺れを楽しみカーレーター★★★
廣田洋一
塀越しに光零せる新松子★★★
咳激し腹の底からこみあげる★★★
草草の帰り花あり土手の道★★★
※咳でお辛そうですが、くれぐれもお大事になさってください。(信之・正子)
小口泰與
剥落の里の社や秋の雨★★★
山風に刈田険しき棘の面★★★
紅葉や蒸気霧たつ沼に居り★★★★
蒸気霧は、水面の温度と空気との差が8度C以上あるときに発生するとされる。紅葉する沼に冷気が押し寄せたのだろう。沼からは霧が立ち上り、その中に居て、霧と一体となったような幻想的な世界を経験した。(髙橋正子)
桑本栄太郎
あぜ道をたどる朝や赤のまま★★★
山茱萸の赤き実垂るる川辺かな★★★
刷毛雲の黄金となりぬ秋入日★★★
弓削和人
秋霖や屋根の雀ら寄りて翔ぶ★★★
工場の雨どい朽ちる秋の暮★★★
秋雨の前灯ひらめき車輪過ぐ★★★
11月2日(5名)
多田有花
秋高し電車と海の間を歩く★★★
洋館がありしは昔秋うらら★★★
秋晴やロープウェイでゆく山上★★★
小口泰與
我が庭にけじめを付けし秋の蝶★★★
晩秋の細くなりたる畦を行く★★★
山霧の韋駄天走り嶺下る★★★
廣田洋一
秋の蝶小さき花壇を離れずに★★★★
秋の蝶は花から花へ活発に飛び回るというより、ひとところの花をひらひらと光を撒くように飛んでいる姿をよく目にする。小さな花壇にやって来た蝶もそんな様子。秋の蝶の可憐な澄み切った姿がいい。(髙橋正子)
青空に彩り付けて桜紅葉★★★
青空に且つ散る桜紅葉かな★★★
桑本栄太郎
朝露の水滴光る田道かな★★★
秋晴れや爆音高くヘリの空★★★
園児らの公園遊びや錦秋に★★★
弓削和人
燈籠や遠くの寺社と伍して立つ★★★
ぬばたまの黒き実瞳重なりて(原句)
「瞳重なり」は、「瞳が(の)重なり」の意味です。(髙橋正子)
ぬばあまの黒き実瞳に重なりて★★★(正子添削)
口あける木通の言に耳を澄まし★★★
11月1日(6名)
小口泰與
茫茫の浅間高原赤りんご★★★
分校の閑散として柿熟す★★★
けざやかに夕日に映ゆる蘭の花★★★
多田有花
紅葉初む公園大橋を仰ぐ★★★
野球する向こうに輝く秋の海★★★
萬葉の歌碑のある道薄紅葉★★★
廣田洋一
夜寒しお湯で割りたるウイスキー★★★
角曲がりぱっと見えたる実紫★★★
大きな鳥が先ずついばめり残り柿★★★
桑本栄太郎
秋雨や一気に色づく庭の木々★★★
雨降れば凛と明るき泡立草★★★
妻もどり田舎土産の秋果かな★★★★
弓削和人
〈奈良大菊人形展〉
水盤に浮かぶ舟なり菊細工★★★
菊人形衣の花びら風に揺れ★★★
屋上の菊人形や山暮れて★★★★
菊人形は大勢に見られて華やかに輝いているが、屋上の菊人形は、日が陰れば陰り、山が暮れれば菊人形も暮れる。日暮れのわびしさが菊人形にも忍び寄る。(髙橋正子)
川名ますみ
撫子の花弁を梳いて風静か★★★
竜胆のふれれば傾ぐやわらかさ★★★★
竜胆はいろいろな種類があって、背の高いものから、細い茎を草地に埋めて花を開くのもある。群生しない竜胆は日が差せば青い花を開く。ふれると傾くほどの青い花のやわらかさに寄り添いたい気持ち。(髙橋正子)
初時雨しろき天井仰ぎみる★★★