10月20日(6名)
●古田敬二
恙無きこの一年よ色づく木の実★★★
幾度も屈む団栗道に輝けば★★★★
吹く風に素直になびく芒叢★★★
●小口泰與
山国の甲斐と信濃の紅葉かな★★★★
秋の夕庭に何しに出でしかな★★★
知恵の輪のように解れし秋の水★★★
●多田有花
頂に群れて小さき秋の蝶★★★
池の辺に楓紅葉の始まりぬ★★★★
池の周辺から紅葉が始まった。高山でなければ、楓や桜がまず紅葉する。池の水が澄み、楓が紅葉する穏やかな光景だ。(高橋正子)
秋晴れや日向の尾根の匂いする★★★
●桑本栄太郎
堰水の魚道きらめく秋の川★★★★
太竹の支えたわわや柿灯る★★★
鉄柵の囲む田中や街の稲架★★★
●高橋秀之
右腕にとまる秋の蚊そっと吹く★★★
雨宿り桜紅葉の下に立ち★★★★
秋時雨傘をさしかけることもなく★★★
●小西 宏
猛き風に髪振り乱す芒かな★★★
分かれ道高き欅の紅葉す★★★★
分かれ道の目印のように聳える欅の木。燃えるような欅紅葉に威風堂々の風格がある。(高橋正子)
秋にして西の空なる山の影★★★
10月19日(9名)
●古田敬二
青空へ段々畑の彼岸花★★★
九条を守れの看板彼岸花★★★
野に独りおればアカネの我に寄る★★★★
●小口泰與
片雲や豊かな朝の秋の山★★★
湖の波ほぐれし朝や蔦紅葉★★★★
湖の波がほぐれるとは、それまで波打っていた湖が、大変に凪いでさざ波となったということであろう。そんな朝を迎えて湖畔の蔦紅葉が赤く照り映えて、深まる秋の美しさを見せている。(高橋正子)
左えと靴の減り癖西鶴忌★★★
●河野啓一
歓声の湧いて広間は”運動会”★★★
秋深し低い脚立を柿の木に★★★★
柿の実もたわわに熟れて秋も深まった。家の庭の柿の木だろうが、その下に低い脚立が置いてある。柿の実を採るのに、少し背丈が足りない。その少し足りないのを補ってくるのが低い脚立。暮らしの一場面にユーモアがある。(高橋正子)
縄文の頃もかくやと栗焙る★★★
●多田有花
晩秋や朝の布団の心地よし★★★
秋高し鳶が虚空に輪を描く★★★
竹田城桜紅葉のその向こう★★★★
●桑本栄太郎
水底のような一天秋深む★★★
朴の葉の落ちて白きや秋寒し★★★
街中のビルの谷間や稲穂垂る★★★★
●小川和子
石蕗咲いて季節移ろうこと知れり★★★
個展なる画廊の庭の石蕗の花★★★
秋時雨して待ち合わす八重洲口★★★★
●高橋秀之
かけっこと大きな青空運動会★★★★
運動会保護者席からの大歓声★★★
チラ見する隣の弁当運動会★★★
●小西 宏
鰯雲吸い込む如く寝湯にいる★★★
さわさわと波の白きに夜の薄★★★★
夜の湖畔の薄だろう。白い波がさわさわと寄せ風がある。薄の穂も波のように白く揺れる。波と薄に「さわさわとしたもの」を見た。(高橋正子)
秋烏賊の漁火消えて朝日赤し★★★
●祝恵子
子の誕生メール飛びくる秋晴れに★★★
バッタ飛ぶパソコン置きし畳の間★★★★
秋日和のよい日が続く。バッタがどこから入ってきたのか、畳の部屋の広さを喜んで飛ぶ。畳の間には、パソコンという現代の生活機器があって、バッタが部屋を飛ぶのは現代生活の中。緑色のバッタのみずみずしさが印象に残る。(高橋正子)
鉢水にぽろぽろと落ち式部の実★★★
10月18日(5名)
●古田敬二
秋冷やパン焼く香りに目覚めけり★★★★
廃校に鹿撃ち集まり国訛り★★★
枯れ切って自然薯零余子こぼしけり★★★
●迫田和代
町も好き桜紅葉の道も好き★★★★
愛着のある町があるのは、素晴らしいこと。その町を彩る桜紅葉の道を辿れる楽しさが、人生を前向きに、また幸せにしてくれる気がする。(高橋正子)
新米を鯛飯にして豊かさを★★★
雀達横目でながめ刈田道★★★
●黒谷光子
紅葉山みて海を見てバスの旅★★★★
紅葉を見上げ潜りて札所寺★★★
バス連ね参拝の旅秋うらら★★★
●小口泰與
はらはらとさくら紅葉や黙の中★★★★
朝顔やますます盛ん日の光★★★
振舞の松茸飯も杣の宿★★★
●桑本栄太郎
<秋の天王山夕景>
紅白の鉄塔空へうろこ雲★★★★
秋日さす坂の山崎大黒天★★★
青空ののこる茜やいわし雲★★★
10月17日(6名)
●古田敬二
秋の陽に百済観音背はすらり★★★
観音像裳裾へ秋の陽の届く★★★
法隆寺土壁崩れて彼岸花★★★★
法隆寺という立派なお寺でも、土壁が崩れている箇所があるのが意外だが、そういうこともあるのだろう。土壁が崩れたところに彼岸花が咲いて、斑鳩の里の古からの長い時間が感じられる。(高橋正子)
●小口泰與
コスモスや風を踏まえし赤城山★★★★
捨てかねる古りし文机(ふずくえ)墓参★★★
ふためいてごくりと酌むや今年酒★★★
●河野啓一
梨剥けば滴る果汁甘き香に★★★
松茸を押し頂いて口に入れ★★★
夕日浴び柿燦然と青き空★★★★
●多田有花
えのころの枯れて朝日に輝けり★★★
シリアルを温め初めしそぞろ寒★★★
爪を切る秋の夕陽を浴びながら★★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
秋潮の空へと進むモノレール★★★★
見下ろせば眼下に光る秋の潮★★★
岸壁のクレーンそろり秋の潮★★★
●小西 宏
柵に寄る釧路湿原赤とんぼ★★★★
吊り橋を揺らして渡る楢黄葉★★★
山遠く瑞々しきや草紅葉★★★
10月16日(5名)
●小口泰與
開きたる本の福神霧襖★★★
湯煙のなびく川原やきりぎりす★★★★
鈍色の雲や刈田の群鴉★★★
●古田敬二
団栗へ幼な心の手が伸びる★★★
秋蝶の息するたびに羽ばたけり★★★
来るたびに銀色増せり芒叢★★★★
●黒谷光子
薪能果てし家路の夜寒かな★★★
足元に火の粉一片秋夜の能★★★★
薪能を楽しまれた。観能の席に夜寒さが忍び来る秋の夜、薪の火の粉が足元に飛んで来て、演じられている能と直接のかかわりが生まれた。火の粉が薪能を生き生きとさせている。(高橋正子)
長々と提灯行列秋祭り★★★
●桑本栄太郎
遙かまで嶺の青さや野分晴れ★★★
コスモスの田道を歩む女子高生★★★
藁にほのそれぞれ持つや己が影★★★★
藁におは、田んぼに立って、それぞれの形をして、立つ位置を動かない。日差しを受けてそれぞれが影をもつ。存在感がある藁におだ。(高橋正子)
●小西 宏
雌阿寒の初冠雪に空無窮★★★★
秋風の少し冷たき牛の牧★★★
色鳥のほろと彩葉を零すなり★★★
10月15日(4名)
●小口泰與
ふくよかな腹をなぜけり秋惜しむ★★★
ぬれ煎の歯ごたえ好し鉦叩★★★
歌舞伎揚げざくっと噛むや秋の空★★★★
●河野啓一
日を透かし浅黄色して銀杏立つ★★★
いろいろな茸炊き込みきのこ飯★★★
銀色の肌ぞ美しさんま焼く★★★★
●桑本栄太郎
柿の実のたわわに撓る夕日かな★★★
口先の尖り黄色やさんま焼く★★★
ひと茹での渋皮剥きて栗御飯★★★
●多田有花
橋いくつもくぐりて秋の隅田川★★★★
隅田川を水上バスでゆくと橋をいくつもくぐる。なかでも清州橋はケルンの橋と呼ばれ、青いアーチが美しい。いろんな形の橋をくぐりながらの川下りは秋のうららかな日が堪能できる。(高橋正子)
嵐去り虫の音戻る深夜かな★★★
柚子の香の残りし指でキーを打つ★★★
10月14日(5名)
●小口泰與
吹かれたる黄土色なる刈田かな★★★
星空や馥郁とたつ金木犀★★★★
不器量な犬と共にや金木犀★★★
●河野啓一
野分立ち雨音騒ぐトタン屋根★★★
豪雨連れ列島縦断スーパー台風★★★
野分去り狭庭の朝日おだやかに★★★★
●佃 康水
蔓引きてほろほろ零す零余子かな★★★★
蔓を引っ張って零余子を採ろうとすると、零余子がほろほろ零れてしまった。零余子は十分に太って蔓から離れるばかりのとき。おいしい零余子飯にでもなっただろう。(高橋正子)
蓋取りてぽっと野の香や零余子飯★★★
回りくる獅子に噛まれて秋祭り★★★
●桑本栄太郎
水澄みてせせらぎ光る高瀬川★★★
穂芒の中洲となりぬ桂川★★★★
狼藉の沙汰を尽くすや野分去る★★★
●小西 宏
窓すべて台風一過朝眩し★★★
台風の名残や森の騒がしき★★★
台風の過ぎにし後の青落ち葉★★★★
10月13日(3名)
●小口泰與
ひねもすを史記に陥り秋湿★★★
直立の日矢や藁塚一列に★★★★
朝早くだろう。山里などでは日が高く昇り、日矢は真上近くから差し込んでくる。それを「直立の日矢」といった。その日矢が一列に並ぶ藁塚に差し、山里は神々しいまでの朝だ。(高橋正子)
ひるがえる葉に朝露一閃す★★★
●桑本栄太郎
秋暑し足場の囲む高架線★★★
新駅の上はバイパス秋日さす★★★
藁塚の田の賑わいに夕日かな★★★★
●高橋正子
月ひとつ霧に滲んで高くあり★★★★
空耳と思えど里の祭笛★★★
銀杏を割って永久のみどり色★★★
10月12日(4名)
●小口泰與
ざわざわと稲波打つや雲の無し★★★★
ざわざわと音が立つほど稲穂が揺れる稔田が輝かしい。空を見れば雲ひとつない。稲穂の黄金と、空の青さが対比され、明快なさわやかさが印象づけられる。(高橋正子)
畦道へ置かれしままの案山子かな★★★
刈小田の日向くさかり山の風★★★
●桑本栄太郎
錦木の紅葉いよいよ緋色透く★★★
殻開き花咲くごとく椿の実★★★
草の穂や湿りをふふむ風に会う★★★★
●高橋信之
台風の来る緊張がわが街に★★★
台風来つつありパソコン画面の緊張★★★
台風の眼がある今日のパソコンに★★★★
台風の眼をレーダーが捉え、地上に送ってくる。その天気図が今日では家に居ながらにしてパソコンで見られるようになった。当然、それを詠んだ句も登場する。(高橋正子)
●高橋正子
銀杏を割れば翡翠のみどり出づ★★★
夜寒さに台風遠く海上に★★★
ガラス窓磨けば秋風そうそうと★★★★
「そうそう」は、「錚錚」の意とした。「金属や楽器が澄んだ音を発するさま」である。「ガラス」を磨けば、「秋風」はますます澄んだ音を立てる。秋の季を詠んだ佳句。(高橋信之)
10月11日(3名)
●小口泰與
稲雀塊り立つや風倒田★★★
あけぼのの稲田一枚ごとの色★★★
木犀や今朝の赤城の彫り深し★★★★
●桑本栄太郎
鈴懸の毬のみどりや秋空へ★★★★
鈴懸の葉が散るころには、鈴懸の毬のある丸い実が茶色なって青空に残る。今は秋の半ば、まだその毬がみどりだという。これからいよいよ秋も深くなる。(高橋正子)
さみどりの風に添い居り萩は実に★★★
葉の落ちて実を翳しけり柿の艶★★★
●河野啓一
あの孫が嫁迎う歳や菊香る★★★
歩み出す若き二人よ秋薔薇★★★★
日溜まりに憩う秋蝶と吾と★★★
●古田敬二
恙無きこの一年よ色づく木の実★★★
幾度も屈む団栗道に輝けば★★★★
吹く風に素直になびく芒叢★★★
●小口泰與
山国の甲斐と信濃の紅葉かな★★★★
秋の夕庭に何しに出でしかな★★★
知恵の輪のように解れし秋の水★★★
●多田有花
頂に群れて小さき秋の蝶★★★
池の辺に楓紅葉の始まりぬ★★★★
池の周辺から紅葉が始まった。高山でなければ、楓や桜がまず紅葉する。池の水が澄み、楓が紅葉する穏やかな光景だ。(高橋正子)
秋晴れや日向の尾根の匂いする★★★
●桑本栄太郎
堰水の魚道きらめく秋の川★★★★
太竹の支えたわわや柿灯る★★★
鉄柵の囲む田中や街の稲架★★★
●高橋秀之
右腕にとまる秋の蚊そっと吹く★★★
雨宿り桜紅葉の下に立ち★★★★
秋時雨傘をさしかけることもなく★★★
●小西 宏
猛き風に髪振り乱す芒かな★★★
分かれ道高き欅の紅葉す★★★★
分かれ道の目印のように聳える欅の木。燃えるような欅紅葉に威風堂々の風格がある。(高橋正子)
秋にして西の空なる山の影★★★
10月19日(9名)
●古田敬二
青空へ段々畑の彼岸花★★★
九条を守れの看板彼岸花★★★
野に独りおればアカネの我に寄る★★★★
●小口泰與
片雲や豊かな朝の秋の山★★★
湖の波ほぐれし朝や蔦紅葉★★★★
湖の波がほぐれるとは、それまで波打っていた湖が、大変に凪いでさざ波となったということであろう。そんな朝を迎えて湖畔の蔦紅葉が赤く照り映えて、深まる秋の美しさを見せている。(高橋正子)
左えと靴の減り癖西鶴忌★★★
●河野啓一
歓声の湧いて広間は”運動会”★★★
秋深し低い脚立を柿の木に★★★★
柿の実もたわわに熟れて秋も深まった。家の庭の柿の木だろうが、その下に低い脚立が置いてある。柿の実を採るのに、少し背丈が足りない。その少し足りないのを補ってくるのが低い脚立。暮らしの一場面にユーモアがある。(高橋正子)
縄文の頃もかくやと栗焙る★★★
●多田有花
晩秋や朝の布団の心地よし★★★
秋高し鳶が虚空に輪を描く★★★
竹田城桜紅葉のその向こう★★★★
●桑本栄太郎
水底のような一天秋深む★★★
朴の葉の落ちて白きや秋寒し★★★
街中のビルの谷間や稲穂垂る★★★★
●小川和子
石蕗咲いて季節移ろうこと知れり★★★
個展なる画廊の庭の石蕗の花★★★
秋時雨して待ち合わす八重洲口★★★★
●高橋秀之
かけっこと大きな青空運動会★★★★
運動会保護者席からの大歓声★★★
チラ見する隣の弁当運動会★★★
●小西 宏
鰯雲吸い込む如く寝湯にいる★★★
さわさわと波の白きに夜の薄★★★★
夜の湖畔の薄だろう。白い波がさわさわと寄せ風がある。薄の穂も波のように白く揺れる。波と薄に「さわさわとしたもの」を見た。(高橋正子)
秋烏賊の漁火消えて朝日赤し★★★
●祝恵子
子の誕生メール飛びくる秋晴れに★★★
バッタ飛ぶパソコン置きし畳の間★★★★
秋日和のよい日が続く。バッタがどこから入ってきたのか、畳の部屋の広さを喜んで飛ぶ。畳の間には、パソコンという現代の生活機器があって、バッタが部屋を飛ぶのは現代生活の中。緑色のバッタのみずみずしさが印象に残る。(高橋正子)
鉢水にぽろぽろと落ち式部の実★★★
10月18日(5名)
●古田敬二
秋冷やパン焼く香りに目覚めけり★★★★
廃校に鹿撃ち集まり国訛り★★★
枯れ切って自然薯零余子こぼしけり★★★
●迫田和代
町も好き桜紅葉の道も好き★★★★
愛着のある町があるのは、素晴らしいこと。その町を彩る桜紅葉の道を辿れる楽しさが、人生を前向きに、また幸せにしてくれる気がする。(高橋正子)
新米を鯛飯にして豊かさを★★★
雀達横目でながめ刈田道★★★
●黒谷光子
紅葉山みて海を見てバスの旅★★★★
紅葉を見上げ潜りて札所寺★★★
バス連ね参拝の旅秋うらら★★★
●小口泰與
はらはらとさくら紅葉や黙の中★★★★
朝顔やますます盛ん日の光★★★
振舞の松茸飯も杣の宿★★★
●桑本栄太郎
<秋の天王山夕景>
紅白の鉄塔空へうろこ雲★★★★
秋日さす坂の山崎大黒天★★★
青空ののこる茜やいわし雲★★★
10月17日(6名)
●古田敬二
秋の陽に百済観音背はすらり★★★
観音像裳裾へ秋の陽の届く★★★
法隆寺土壁崩れて彼岸花★★★★
法隆寺という立派なお寺でも、土壁が崩れている箇所があるのが意外だが、そういうこともあるのだろう。土壁が崩れたところに彼岸花が咲いて、斑鳩の里の古からの長い時間が感じられる。(高橋正子)
●小口泰與
コスモスや風を踏まえし赤城山★★★★
捨てかねる古りし文机(ふずくえ)墓参★★★
ふためいてごくりと酌むや今年酒★★★
●河野啓一
梨剥けば滴る果汁甘き香に★★★
松茸を押し頂いて口に入れ★★★
夕日浴び柿燦然と青き空★★★★
●多田有花
えのころの枯れて朝日に輝けり★★★
シリアルを温め初めしそぞろ寒★★★
爪を切る秋の夕陽を浴びながら★★★★
●桑本栄太郎
<神戸六甲アイランドへ>
秋潮の空へと進むモノレール★★★★
見下ろせば眼下に光る秋の潮★★★
岸壁のクレーンそろり秋の潮★★★
●小西 宏
柵に寄る釧路湿原赤とんぼ★★★★
吊り橋を揺らして渡る楢黄葉★★★
山遠く瑞々しきや草紅葉★★★
10月16日(5名)
●小口泰與
開きたる本の福神霧襖★★★
湯煙のなびく川原やきりぎりす★★★★
鈍色の雲や刈田の群鴉★★★
●古田敬二
団栗へ幼な心の手が伸びる★★★
秋蝶の息するたびに羽ばたけり★★★
来るたびに銀色増せり芒叢★★★★
●黒谷光子
薪能果てし家路の夜寒かな★★★
足元に火の粉一片秋夜の能★★★★
薪能を楽しまれた。観能の席に夜寒さが忍び来る秋の夜、薪の火の粉が足元に飛んで来て、演じられている能と直接のかかわりが生まれた。火の粉が薪能を生き生きとさせている。(高橋正子)
長々と提灯行列秋祭り★★★
●桑本栄太郎
遙かまで嶺の青さや野分晴れ★★★
コスモスの田道を歩む女子高生★★★
藁にほのそれぞれ持つや己が影★★★★
藁におは、田んぼに立って、それぞれの形をして、立つ位置を動かない。日差しを受けてそれぞれが影をもつ。存在感がある藁におだ。(高橋正子)
●小西 宏
雌阿寒の初冠雪に空無窮★★★★
秋風の少し冷たき牛の牧★★★
色鳥のほろと彩葉を零すなり★★★
10月15日(4名)
●小口泰與
ふくよかな腹をなぜけり秋惜しむ★★★
ぬれ煎の歯ごたえ好し鉦叩★★★
歌舞伎揚げざくっと噛むや秋の空★★★★
●河野啓一
日を透かし浅黄色して銀杏立つ★★★
いろいろな茸炊き込みきのこ飯★★★
銀色の肌ぞ美しさんま焼く★★★★
●桑本栄太郎
柿の実のたわわに撓る夕日かな★★★
口先の尖り黄色やさんま焼く★★★
ひと茹での渋皮剥きて栗御飯★★★
●多田有花
橋いくつもくぐりて秋の隅田川★★★★
隅田川を水上バスでゆくと橋をいくつもくぐる。なかでも清州橋はケルンの橋と呼ばれ、青いアーチが美しい。いろんな形の橋をくぐりながらの川下りは秋のうららかな日が堪能できる。(高橋正子)
嵐去り虫の音戻る深夜かな★★★
柚子の香の残りし指でキーを打つ★★★
10月14日(5名)
●小口泰與
吹かれたる黄土色なる刈田かな★★★
星空や馥郁とたつ金木犀★★★★
不器量な犬と共にや金木犀★★★
●河野啓一
野分立ち雨音騒ぐトタン屋根★★★
豪雨連れ列島縦断スーパー台風★★★
野分去り狭庭の朝日おだやかに★★★★
●佃 康水
蔓引きてほろほろ零す零余子かな★★★★
蔓を引っ張って零余子を採ろうとすると、零余子がほろほろ零れてしまった。零余子は十分に太って蔓から離れるばかりのとき。おいしい零余子飯にでもなっただろう。(高橋正子)
蓋取りてぽっと野の香や零余子飯★★★
回りくる獅子に噛まれて秋祭り★★★
●桑本栄太郎
水澄みてせせらぎ光る高瀬川★★★
穂芒の中洲となりぬ桂川★★★★
狼藉の沙汰を尽くすや野分去る★★★
●小西 宏
窓すべて台風一過朝眩し★★★
台風の名残や森の騒がしき★★★
台風の過ぎにし後の青落ち葉★★★★
10月13日(3名)
●小口泰與
ひねもすを史記に陥り秋湿★★★
直立の日矢や藁塚一列に★★★★
朝早くだろう。山里などでは日が高く昇り、日矢は真上近くから差し込んでくる。それを「直立の日矢」といった。その日矢が一列に並ぶ藁塚に差し、山里は神々しいまでの朝だ。(高橋正子)
ひるがえる葉に朝露一閃す★★★
●桑本栄太郎
秋暑し足場の囲む高架線★★★
新駅の上はバイパス秋日さす★★★
藁塚の田の賑わいに夕日かな★★★★
●高橋正子
月ひとつ霧に滲んで高くあり★★★★
空耳と思えど里の祭笛★★★
銀杏を割って永久のみどり色★★★
10月12日(4名)
●小口泰與
ざわざわと稲波打つや雲の無し★★★★
ざわざわと音が立つほど稲穂が揺れる稔田が輝かしい。空を見れば雲ひとつない。稲穂の黄金と、空の青さが対比され、明快なさわやかさが印象づけられる。(高橋正子)
畦道へ置かれしままの案山子かな★★★
刈小田の日向くさかり山の風★★★
●桑本栄太郎
錦木の紅葉いよいよ緋色透く★★★
殻開き花咲くごとく椿の実★★★
草の穂や湿りをふふむ風に会う★★★★
●高橋信之
台風の来る緊張がわが街に★★★
台風来つつありパソコン画面の緊張★★★
台風の眼がある今日のパソコンに★★★★
台風の眼をレーダーが捉え、地上に送ってくる。その天気図が今日では家に居ながらにしてパソコンで見られるようになった。当然、それを詠んだ句も登場する。(高橋正子)
●高橋正子
銀杏を割れば翡翠のみどり出づ★★★
夜寒さに台風遠く海上に★★★
ガラス窓磨けば秋風そうそうと★★★★
「そうそう」は、「錚錚」の意とした。「金属や楽器が澄んだ音を発するさま」である。「ガラス」を磨けば、「秋風」はますます澄んだ音を立てる。秋の季を詠んだ佳句。(高橋信之)
10月11日(3名)
●小口泰與
稲雀塊り立つや風倒田★★★
あけぼのの稲田一枚ごとの色★★★
木犀や今朝の赤城の彫り深し★★★★
●桑本栄太郎
鈴懸の毬のみどりや秋空へ★★★★
鈴懸の葉が散るころには、鈴懸の毬のある丸い実が茶色なって青空に残る。今は秋の半ば、まだその毬がみどりだという。これからいよいよ秋も深くなる。(高橋正子)
さみどりの風に添い居り萩は実に★★★
葉の落ちて実を翳しけり柿の艶★★★
●河野啓一
あの孫が嫁迎う歳や菊香る★★★
歩み出す若き二人よ秋薔薇★★★★
日溜まりに憩う秋蝶と吾と★★★