[3月10日]
★山風や花のむきむき黄水仙/小口泰與
やっと咲き出した黄水仙に山風は容赦なく花を乱して吹く。その荒々しい山風の吹くまま咲く黄水仙が健気にも可憐だ。(高橋正子)
★我が狭庭光りのごとくメジロ来る/古田敬二
メジロは小さい体で、すばやく庭にやって来て枝移りするその気配や様子は、さながら「光り」のようだ。明るい日差しにあふれた庭の光景。(高橋正子)
[3月9日」
★サンシュユの黄色鮮やか開花前/古田敬二
サンシュユの黄色い蕾は、開花前は特に澄んだ鮮烈な黄色を見せる。咲いてしまえばその黄色は幾分柔らかな色合いになるが、咲く力が集約された開花前の蕾は、色にそのことが見て取れるのだ。(高橋正子)
★風光る部屋のみどりの色新た/川名ますみ
部屋に置かれた観葉植物などのみどりに、日が深く差し込んで来ると、葉が光を返し、みどりの色が新鮮に見える。明るい光が差すと気持ちが弾む。(高橋正子)
[3月8日]
榛名湖の波高ぶるや柳の芽/小口泰與
柳が芽吹くころは、風が強い日がよくある。榛名湖の波が高ぶり芽柳の薄緑の枝が揺れ、春寒い季節がイメージとしてくっきり捉えられている。(高橋正子)
★嬰児を抱いてあやして雛祭り/祝恵子
雛祭に招かれ、初節句の嬰児を抱いて、あやして楽しい時を過ごしたのであろう。愛情あふれる雛祭りが
詠まれている。(高橋正子)
[3月7日]
★川土手の桜並木の芽が円い/迫田和代
川土手を行きながら、今日は桜の芽が円く育っているのに気づき、また嬉しくもなった。桜の咲く季節が、日ごと近づいている。(高橋正子)
★囀りの朝の団地に目覚めけり/桑本栄太郎
「団地」が効いている。同じような建物が並ぶ団地は生活の場。朝には囀りが聞こえ、野にいるようなのどかさ。春の朝の目覚めがすがすがしい。(高橋正子)
[3月6日]
★風光る菜花の揺れて昼下がり/河野啓一
菜の花の季節は、また「風光る」季節。やわらかな菜の花の黄色と緑の葉の色。昼下がりの長閑さに、うっとりとしそうだ。(高橋正子)
★(正子添削)紙雛の浮かれ踊れる屏風前/祝恵子
この紙雛は、すまして座っている雛ではなく、いろんな仕草がつけられて、浮かれ踊っているような楽しい雛なのだろう。金屏風の前で繰り広げられる宴が目に見えるようだ。(高橋正子)
[3月5日]
★啓蟄や支流支流の水集う/小口泰與
地中の虫も動き出す季節、暦の上だけでなく春を実感するような日もある。支流の水も雪解けや度々の雨に水嵩を増やし、本流へと集まって流れる。水の嵩や色、流れ方に春の到来が知れる。(高橋正子)
★たらの芽やはるか沖には白き波/桑本栄太郎
たらの芽を摘む山から海を眺めれば、沖に白い波が立っている。故郷、鳥取の早春の記憶の景色が、鮮明に詠まれている。(高橋正子)
[3月4日]
★雪柳互生の蕾を正確に/古田敬二
雪柳は小さな花を枝に密生させて開く。開いてしまえば白い花のかたまりとして捉えるのが一般的だが、蕾をよく観察して、蕾が「互生」していることを発見した。「自然の意」を思わせるリアルさが力強い。(高橋正子)
[3月3日]
★鶯の囀り近く干し物を/多田有花
よい日和。干し物をしていると鶯が近くで鳴いてくれた。洗ったばかりの衣類の湿り具合がよい感じで、鶯がごく身近な鳥となったのも、愉快なことだ。(高橋正子)
[3月2日]
★せせらぎの桜芽木張る高瀬川/桑本栄太郎
せせらぎに差し伸びた桜の芽木が、咲く時へと力を溜めている。「張る」という言葉がその力強さをよく表現している。「高瀬川」の固有名詞が句の情景を広げている。(高橋正子)
[3月1日]
★紀の川の靄に包まれ旅にいる/古田敬二
紀の川緩やかな流れに生まれる霞が、旅情をゆたかにしてくれる。霞に包まれた身があたりに溶け入ったような、紀の川の自然がゆったりと身に馴染む。(高橋正子)
★客を待つ咲き遅れたる水仙花/河野啓一
春の花が咲くまでをつないでくれる咲き遅れた水仙の花。花好きは、花で客を迎えたいものだが、そんな気持ちがよく出ている。(高橋正子)