9月20日(4名)
廣田洋一
芒野の風に分け入る少女かな★★★★
秋高し孕みしお腹せりだしぬ★★★
さざ波の白く砕けて秋の声★★★
多田有花
閉め切りし窓の向こうに更待月★★★
澄む秋の空より垂れし清掃夫★★★★
南海に嵐が生まれ秋彼岸★★★
小口泰與
いわし雲朝の渓流水堅し★★★★
ぴちぴちと団栗踏むや九十九折★★★
蜻蛉のひとさし指を鷲づかみ★★★
桑本栄太郎
身に入むや梢の揺るる庭の木々★★★
昼餉摂りその後に菓子や秋渇き★★★
汀女忌の妻に代はりて南瓜切る★★★
9月19日(4名)
小口泰與
古書店に藤村詩集いわし雲★★★★
月代や利根の白波尖りける★★★
月光の篳篥に舞う能舞台★★★
廣田洋一
一人酌む酒の味はひ夜長かな★★★
日本映画選ぶ夜長の欧州便★★★★
兼題の五文字の思案夜長かな★★★
桑本栄太郎
人の世の悪を照らすやいなつるび★★★
鳩吹くや風に乗り来る香りあり★★★
夕なれば燃ゆる茜やうろこ雲★★★★
多田有花
わが町の名物ここに秋高し★★★
仲秋や城の町には城のキャラ★★★
秋の暮中庭にいるフラミンゴ★★★
9月18日(4名)
小口泰與
鈴虫のひとふり鳴きてそれっきり★★★
啄木鳥や忍び足なるカメラマン★★★
乱れ萩雀来ている雨後の庭★★★
廣田洋一
穂をはらみ見上げる程の芒かな★★★
折り取りて肩に乗せたる芒かな★★★
荒畑に風を呼び込む芒かな★★★
多田有花
診断がつき爽やかに空仰ぐ★★★
運動会練習の声日々続く★★★
鰯雲夜空いっぱい泳ぎおり★★★★
夜空にも雲の色が見えることがある。この日、鰯雲が夜空いっぱいに泳いでいた。ま昼間の続きの夜空の鰯雲。こんな光景を眺めて楽しくなる。(高橋正子)
桑本栄太郎
葛の花眼下に見たる橋の上★★★
刈り残す畦の供花とや彼岸花★★★★
畦草を刈りとるとき、彼岸花が刈り残された。畦の供花であるかのように。このように彼岸花を大切に思って詠んだ句は珍しい。(高橋正子)
底抜けの空の青さよ鳳作忌★★★
9月17日(4名)
多田有花
珈琲にひとかけのチョコ秋の朝★★★
雲いまだ生まれておらず秋高し★★★★
秋の快晴の空だけを詠んだ句。雲が生きもののように思われていて、雲への親しみがある。ひとかけらの雲があってもよさほうだが、まだ生まれていないのだ。(高橋正子)
秋晴れに芝刈る音の響きおり★★★
小口泰與
竜胆や校庭駆くる里の子等★★★
手鏡を離さぬ人や蘭の花★★★
畳替したる客間や寝待月★★★
廣田洋一
日によりて巻き上げられし秋簾★★★
簾越し友の声聞く秋の夕★★★
料亭の二階に垂れし秋簾★★★
桑本栄太郎
身に入むや哀しき夢に目覚めをり★★★
すつきりと風の抜け行く刈田かな★★★★
刈田となって、なににも邪魔されずに、田を風が抜けて行く。「すっきりと」が気持ちよい。(高橋正子)
ほんのりと嶺の茜や秋の宵★★★
9月16日(4名)
多田有花
十六夜を眺めし後にドアを閉める★★★
日は高く虫の音のみが聞こえ来る★★★
快晴に苅田増えゆく三連休★★★★
小口泰與
風に乗り田川を知らぬ飛蝗かな★★★
蟷螂の首傾げいて芝の上★★★
法師蝉碓氷峠を越え行けり★★★
廣田洋一
七十路はまだ若人や敬老の日★★★
クラス会話は尽きず月見えず★★★
逝きし人浮かび出で来る月夜かな★★★
桑本栄太郎
鳩吹くや喃語を語るバスの嬰★★★
さやけしや銀輪列の女子高生★★★★
女子高生の数人が列をなして自転車の車輪を光らせて、銀輪を光らせて、走って来る。季節も爽やかだが、青春ただなかのういういしい女子高生の姿こそが爽やかなのだ。(高橋正子)
ものの皆くつきり見ゆる秋気かな★★★
9月15日(4名)
多田有花
けんだまの玉秋光を跳ね返す★★★
丘を越え稲田の中へ下りおり★★★
十五夜の明け雲ひとつなき快晴(原句)
十五夜の明けて雲なき快晴に★★★★(正子添削)
快晴とういのは、雲が一つもない晴天の空をいうが、あえて、「雲無き」と雲を強調したところが詩の妙味。
原句は、リズムがよくないので、添削した。
きれいな十五夜が明けて、翌日は、雲のひとつもない快晴の天気に恵まれた。きのうの十五夜の続きの空が、こんなにもきれいな快晴になるとは、まだ気持ちのなかには十五夜の月が残っている。(高橋正子)
小口泰與
湖の風のあわいやちんちろりん★★★
蟋蟀の城垣のぼる声の数★★★
ひぐらしや五右衛門風呂の湯の煙★★★★
廣田洋一
熱帯夜はたと途切れし九月かな★★★★
新涼の朝日を浴びる狭庭かな★★★
新涼や堰落つる水きらきらと★★★
桑本栄太郎
阪急線の車窓に黄金や稲穂垂る★★★★
生駒嶺の低きうねりや秋日さす★★★
ゑのころや嘗て此処には知人宅★★★
9月14日(4名)
小口泰與
コスモスの露天風呂へとなだれ咲く★★★★
露天風呂の傍にコスモスが咲き、露天風呂へと雪崩れている。コスモスに囲まれた湯は柔らかい湯であろうと思う。(高橋正子)
湖へ漕ぎ出す二人荻の声★★★
秋天や像全美なる止利仏師★★★
廣田洋一
甦る学生服の九月かな★★★
花屋にも鶏頭並ぶ九月十九日★★★
九月場所一緒に落ちる行司かな★★★
多田有花
小望月雲に隠れておりにけり★★★
遠目にも鶏頭の赤際立てり★★★
まっすぐな道の両側豊の秋★★★★
稲田の中にまっすぐな道が通るのは、そこが広い田である必要がある。そのことから、広い稔り田が道の両脇に広がる風景が想像できる。豊かに稲が実り、豊の秋が肌に触れて感じられるような句だ。(高橋正子)
桑本栄太郎
秋蝉や終いの朝となりぬべし★★★
小鳥来る旅の想い出歌いつつ★★★
あきつ飛ぶ陸橋渡る家路かな★★★★
9月13日(4名)
多田有花
ひとりなることが役目の案山子かな★★★
驚きぬ苅田の鳶の大きさに★★★★
高く輪を描きながら滑空する鳶はよく目にする。鎌倉あたりに行くと鳶の多さに驚き、たまに、下りてきているが、羽ばたきをしようものなら、少し怖いくらいの大きさになる。苅田に下りた鳶のまさかの大きさに驚いたことだ。(高橋正子)
昇り来る陽が照らしおり鱗雲★★★
廣田洋一
秋茄子すぐに売り切れ販売車★★★
秋茄子を焼きて加える夕餉かな★★★★
秋茄子の糠の下より光る紫紺★★★
小口泰與
秋雲や下る銀鱗限りなし★★★
丹精の葡萄の房のずっしりと★★★
城垣の崩れし址へ葛の花★★★
桑本栄太郎
錦木の早やももみづる路地を行く★★★
お互いに呼応するかに昼の虫★★★
雨雲の垂れて暮れゆく夢月かな★★★
9月12日(4名)
多田有花
秋の雷暑さを連れて去りにけり★★★
赤々と鶏頭燃えている畑★★★★
鶏頭が燃えているのが、庭や花壇ではなく、畑というのが面白い。農家では、花壇を特に作らず、畑の隅に咲かせているのをたまに見かける。鶏頭を咲かせた人の健康的な「花こころ」とでも言うものが偲ばれてゆかしい。(高橋正子)
秋耕の田に大きかりトラクター★★★
小口泰與
D51の大曲りせる秋の空★★★
紫苑咲く今朝の赤城へ雲一朶★★★
あけぼのの赤城八嶺秋の雲★★★
廣田洋一
渚にて白き石踏む秋の潮★★★★
秋はしらしらと淋しく、白がよく似合う。秋の潮が打ち返す渚を歩き、きれいに洗われた白い石を踏む。
心持も、秋潮に踏む白い石の感覚に似通う。(高橋正子)
秋潮の音を消したる洞窟かな★★★
曇り空水脈白々と秋の潮★★★
桑本栄太郎
秋冷や哀しき夢を見ていたり★★★
目覚め居て哀しき夢の厄日かな★★★
身に沁むや風の葉擦れを聞いて居り★★★★
9月11日(4名)
廣田洋一
水の秋大歩危小歩危巡る旅★★★★
大歩危小歩危(おおぼけこぼけ)は、2億年の時を経て四国山地を横切る吉野川の激流によって創られた約8kmにわたる渓谷。吉野川の中流にあたるが、流れの水は、渓谷の美しさを引き立てて、「水の秋」が堪能できる。(高橋正子)
小魚の群れなし泳ぐ秋の水★★★
黄色き葉はらりと落ちる秋の水★★★
多田有花
上り月東の山の上に出て★★★
快晴にまず刈られたる田一枚★★★★
稲にいつ鎌を入れるかは、経験による判断が必要なのだろう。快晴の日、まだ葉に緑が残る田が一枚刈られた。手始めの、田が刈られ、いよいよ稲刈りの季節だ。(高橋正子)
秋耕の後をつきおる鳶の群★★★
小口泰與
青空へ水きり石や渡り鳥★★★
源流の流れも秋の色となり★★★
鉄橋を渡るD51秋の声★★★★
桑本栄太郎
四阿に座り風聴く秋の声★★★★
鴨川の風に鳶や秋すだれ★★★
秋雷の午後よりつづく夕べかな★★★