「精度の高い小腸内検査ができる」「痛みがない」との前評判で、開発中から注目されていた小腸用カプセル内視鏡。国内では昨年10月に販売が始まったが、有効性と安全性が確認され、検査を導入した病院と検査を受けた患者の双方から高い評価を得ている。同検査を導入している昭和大横浜市北部病院消化器センターでは、今年2月までに30人が検査を受け、がん1例、血管の異常6例、潰瘍5例が発見された。同センターでは「これまで発見が難しいとされてきた小腸内の病変が発見できるようになった。ミクロ技術の進歩は目覚ましく、将来的にはカプセル内視鏡で胃や腸の検査、さらには治療まで可能になるのではないか」と期待を寄せている。また、検査を受けた患者からは「痛みなどは全くなかった」「リアルタイムで消化管内を見ることができて、興味深かった」などの声が上がっている。
■8時間で6万枚撮影
同病院の工藤進英副院長は、「これまでは小腸の検査方法そのものが存在しなかったため、小腸からの出血が疑われる場合でも、安静にして止まるのを待つ、血管造影で止血する、外科手術するという選択肢しかなかった。特にがんは、かなり進行したものでないと発見できなかった」と振り返る。同病院ではこれまで30人(うち治験14人)が検査を受け、大腸がんの小腸転移1例、小腸内の血管異常6例、非ステロイド系の消炎鎮痛剤が原因と考えられる潰瘍5例が発見された。
検査を受けた患者からも好評で、「カプセルは一見大きく感じたが、意外に楽に飲み込むことができた」「バリウム検査のような違和感はなかった」などの声が上がっている。
カプセル内視鏡は、イスラエルの医療機器メーカー、ギブン・イメージング社が軍事技術を応用して開発した。国内のメーカーでは、オリンパスメディカルシステムズ(東京都新宿区)が「エンドカプセル」を2005年に欧州で、07年に米国で発売開始。08年9月には厚生労働省の製造販売承認を取得し、10月に国内での販売を始めた。カプセルは長さ26ミリ、直径11ミリで、ビタミン剤よりも一回り大きい。使い捨てタイプで、CCD(電荷結合素子)カメラと発光ダイオード(LED)、バッテリー、画像送信器を内蔵している。
電源をオンにすると、先端に付いたカメラが1秒間に2枚ずつ写真を撮影しながら小腸にたどり着く。小腸内に入ると、蠕動(ぜんどう)運動に乗って方向を変えながら移動していく。撮影した画像データは、体に張り付けた受信センサーを通じて、腰のベルトに着けた記録装置に記録・蓄積される。暗い体内もLEDライトが明るく照らすため、繊毛の一本一本まで鮮明なカラー写真を記録することができる。小腸のほか、口腔内、咽頭、食道、胃、十二指腸、大腸などの写真も撮っているが、小腸以外の臓器内部は全方向の撮影ができないため、現段階では診断には使えないという。
■携帯、PCの使用は問題なし
検査の開始前に電極の取り付けなどに20分ほどかかるが、取り付けが完了し、カプセルが胃を通過したことが確認できれば帰宅することができる。検査開始の4時間後から軽食を取ることも可能だ。約8時間の検査中は、入浴やシャワー、飛行機でのフライト、MRI検査の受診、激しい運動、アマチュア無線などが禁じられているが、オフィスワークは可能。携帯電話やパソコンの使用は問題ないという。患者にとっては、肉体的負担だけでなく、拘束時間も大幅に減ることになる。
検査が終了すると、カプセルは便と共に体外に排出される。患者自身が専用の回収シートとピンセットを使ってカプセルを回収し、自治体のルールに従って廃棄する。大半は検査終了後、2、3回目の便で排出されるという。
カプセルが排出されなかった場合は、下剤、開腹手術などで取り出す必要があるとされているが、これまで開腹で摘出した例は報告されていない。同病院では1例だけ、クローン病患者の体内に停留し、小腸内視鏡を用いて取り出したことがあるが、工藤副院長は「体内に残っても害はないので、心配する必要はない」と話す。オリンパスも「カプセルが長時間、体内にとどまっても影響が出ないよう、材質や強度を設定している」としている。海外では、体内に停留してしまった場合でも、そのまま放置しているケースが少なくないという。
カプセルが撮影した約6万枚の写真は、医師がコンピューターを使って解読する。現在、6万枚を見るのに30分から1時間かかるが、経験を積んでいくことで将来は10-15分にまで短縮可能とみられている。
オリンパスは小腸用の管型内視鏡も手掛けており、カプセル内視鏡の検査で異常が見つかった場合、管型内視鏡で精密検査して細胞を採取するという使い方を想定し、医療機関にこれを促している。
■将来はカプセル内視鏡で治療も―技術の進歩に期待
昭和大横浜市北部病院消化器センターでは、「今後の技術の進歩によって、写真の読影、解析もさらに簡単になって普及することで、費用も安くなるだろう。カプセルで大腸や胃の検査も可能になるかもしれない」と期待を寄せている。
オリンパスも、「胃、大腸など他の臓器の診断そして治療を目的としたカプセル内視鏡の開発を目指し、患者さんの苦痛軽減に貢献していきたい」と意気込んでいる。
【血管造影(検査)】
足の付け根、ひじ、手首などの動脈からカテーテルを入れて目的の臓器に誘導し、造影剤(ヨード造影剤)を用いて血管や腫瘍などを検査する方法。近年はこの技術を利用して、血管拡張術や動脈閉塞術など治療に使われることも多くなった。
検査に掛かる費用は機材費なども含め約9万4000円。消化管出血の症状があり、上部消化管内視鏡(胃カメラ)と大腸内視鏡で調べても原因が特定できない患者のみ保険が適用される(写真提供=オリンパスメディカルシステムズ)
■8時間で6万枚撮影
同病院の工藤進英副院長は、「これまでは小腸の検査方法そのものが存在しなかったため、小腸からの出血が疑われる場合でも、安静にして止まるのを待つ、血管造影で止血する、外科手術するという選択肢しかなかった。特にがんは、かなり進行したものでないと発見できなかった」と振り返る。同病院ではこれまで30人(うち治験14人)が検査を受け、大腸がんの小腸転移1例、小腸内の血管異常6例、非ステロイド系の消炎鎮痛剤が原因と考えられる潰瘍5例が発見された。
検査を受けた患者からも好評で、「カプセルは一見大きく感じたが、意外に楽に飲み込むことができた」「バリウム検査のような違和感はなかった」などの声が上がっている。
カプセル内視鏡は、イスラエルの医療機器メーカー、ギブン・イメージング社が軍事技術を応用して開発した。国内のメーカーでは、オリンパスメディカルシステムズ(東京都新宿区)が「エンドカプセル」を2005年に欧州で、07年に米国で発売開始。08年9月には厚生労働省の製造販売承認を取得し、10月に国内での販売を始めた。カプセルは長さ26ミリ、直径11ミリで、ビタミン剤よりも一回り大きい。使い捨てタイプで、CCD(電荷結合素子)カメラと発光ダイオード(LED)、バッテリー、画像送信器を内蔵している。
電源をオンにすると、先端に付いたカメラが1秒間に2枚ずつ写真を撮影しながら小腸にたどり着く。小腸内に入ると、蠕動(ぜんどう)運動に乗って方向を変えながら移動していく。撮影した画像データは、体に張り付けた受信センサーを通じて、腰のベルトに着けた記録装置に記録・蓄積される。暗い体内もLEDライトが明るく照らすため、繊毛の一本一本まで鮮明なカラー写真を記録することができる。小腸のほか、口腔内、咽頭、食道、胃、十二指腸、大腸などの写真も撮っているが、小腸以外の臓器内部は全方向の撮影ができないため、現段階では診断には使えないという。
■携帯、PCの使用は問題なし
検査の開始前に電極の取り付けなどに20分ほどかかるが、取り付けが完了し、カプセルが胃を通過したことが確認できれば帰宅することができる。検査開始の4時間後から軽食を取ることも可能だ。約8時間の検査中は、入浴やシャワー、飛行機でのフライト、MRI検査の受診、激しい運動、アマチュア無線などが禁じられているが、オフィスワークは可能。携帯電話やパソコンの使用は問題ないという。患者にとっては、肉体的負担だけでなく、拘束時間も大幅に減ることになる。
検査が終了すると、カプセルは便と共に体外に排出される。患者自身が専用の回収シートとピンセットを使ってカプセルを回収し、自治体のルールに従って廃棄する。大半は検査終了後、2、3回目の便で排出されるという。
カプセルが排出されなかった場合は、下剤、開腹手術などで取り出す必要があるとされているが、これまで開腹で摘出した例は報告されていない。同病院では1例だけ、クローン病患者の体内に停留し、小腸内視鏡を用いて取り出したことがあるが、工藤副院長は「体内に残っても害はないので、心配する必要はない」と話す。オリンパスも「カプセルが長時間、体内にとどまっても影響が出ないよう、材質や強度を設定している」としている。海外では、体内に停留してしまった場合でも、そのまま放置しているケースが少なくないという。
カプセルが撮影した約6万枚の写真は、医師がコンピューターを使って解読する。現在、6万枚を見るのに30分から1時間かかるが、経験を積んでいくことで将来は10-15分にまで短縮可能とみられている。
オリンパスは小腸用の管型内視鏡も手掛けており、カプセル内視鏡の検査で異常が見つかった場合、管型内視鏡で精密検査して細胞を採取するという使い方を想定し、医療機関にこれを促している。
■将来はカプセル内視鏡で治療も―技術の進歩に期待
昭和大横浜市北部病院消化器センターでは、「今後の技術の進歩によって、写真の読影、解析もさらに簡単になって普及することで、費用も安くなるだろう。カプセルで大腸や胃の検査も可能になるかもしれない」と期待を寄せている。
オリンパスも、「胃、大腸など他の臓器の診断そして治療を目的としたカプセル内視鏡の開発を目指し、患者さんの苦痛軽減に貢献していきたい」と意気込んでいる。
【血管造影(検査)】
足の付け根、ひじ、手首などの動脈からカテーテルを入れて目的の臓器に誘導し、造影剤(ヨード造影剤)を用いて血管や腫瘍などを検査する方法。近年はこの技術を利用して、血管拡張術や動脈閉塞術など治療に使われることも多くなった。
検査に掛かる費用は機材費なども含め約9万4000円。消化管出血の症状があり、上部消化管内視鏡(胃カメラ)と大腸内視鏡で調べても原因が特定できない患者のみ保険が適用される(写真提供=オリンパスメディカルシステムズ)