鴨着く島

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ロシアとの平和条約

2018-11-15 09:21:45 | 日本の時事風景

昨夜のNHKニュースで、安倍首相が外遊先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談した結果、1956年に調印された「日ソ共同宣言」に基づいて平和条約締結交渉を加速するという会談直後の首相コメントが流された(今朝15日の定時ニュースでも取り上げられた)。

日ソ共同宣言が双方で批准されたことで、それまで日本の国連加盟に反対していたソ連が賛成に回り、ようやく日本の国連及び国際関係上の完全独立国家として世界に復帰することが認められたわけで、きわめて重要な宣言だった。その時の首相は鳩山由紀夫元首相の父・鳩山一郎である。

1955年に鳩山一郎を総裁とする「民主党」と吉田茂の自由党とが合併し(保守合同)、総裁に選ばれた鳩山が推進してきた日中・日ソの融和策が功を奏した結果であった。

1956年の日ソ共同宣言では北方領土4島のうち、早急に歯舞・色丹諸島の返還が行われ、国後・択捉両島については逐次状況を見ながら返還交渉を行うという内容だが、結局はそのどちらも返還されないまま今日に到っている。

第二次安倍政権以降、安倍首相は精力的にこの問題打開に動いてプーチンともかなり頻繁に会談を重ねているが、つい最近までプーチンの北方領土に対する見解は、「北方領土は第2次大戦の結果、ソ連(今はロシア)が獲得した領土であり、返還はあり得ない」という旧ソ連政府の見解そのものであった。

また、今年のいつだったか、プーチンはこうも述べていた。「日本と平和条約を結んで北方領土を日本に帰したはいいが、そこに日米安全保障条約に基づいて米軍基地が置かれたら、話にならない(から平和条約は結べない)」と。

なるほどと、その時は思った。

日本政府が北方領土に米軍基地を置かせないという選択肢は、日米安保と日米地位協定によればほぼ無い。つまり、アメリカがロシアのミサイル基地が沿海州に設置されている以上、対抗措置としてロシアに最も近い北方領土に基地を設置しなければならぬと決めたら、それを反対する根拠が日本政府側には無い。プーチンもそれを見透かしているのだ。

アメリカの軍事力におんぶにだっこを自任している「自任党」いや「自民党」政権は、その意味で足元を見られている。

ロシアのプーチンにしてみれば、「俺は日本を敵視なんかしていない。それどころか親日家だ。でも、いつまでもアメリカ(軍)とべったり引っ付いている日本は好きではないし、親密にはなれない」ということだろう。

1956年に国連に復帰して国際国家として自立した新生平和国家日本になり、あまつさえ1978年には日中平和友好条約が締結され(同じ年に米中国交正常化もなされ)、1989年にソ連邦が崩壊し、冷戦構造が180度とまではいかないにしても50年前までとはすっかり変わったのに相変わらず冷戦構造をひきずったままの米軍基地が置かれて米軍の治外法権的な存在を許している国とは一体何なのか。

ロシアも中国もその他多くの国際諸国が一様に感じているのは、異常なまでの「日米同盟の緊密さ」だ。これによって軍事的側面もだが、外交的側面もアメリカの監視下に置かれているといってよい。これでは主体性を持つ真の独立国家とは言い難い。

そこを何とか改善したいと安倍首相は多くの国々を訪れ、日本的な善隣友好外交を展開しているのは分かるし、大いに評価したいのだが、「日米同盟のさらなる強化」とアメリカに対して表明しているのにはがっかりだ。

国連憲章で暫定的でなければならないとされている二国間軍事条約である日米安保条約はもう廃棄すべきだ。廃棄した上で、永世中立国を宣言しよう。そうすれば1952年にアメリカと、1978年に中国と結んだように、ロシア側も平和条約を結びたいと来るはずだ。

今度、突然降って湧いたようなプーチンの「何ら条件を付けずに、年内に平和条約を結ぼう」との提案がどこまで本気か、どこまで裏があるのか分からないが、強固な日米安保が存在し、ロシアを仮想敵国としている米国軍事軍基地が日本全土に置かれている限り、無理な話だろう。

だが、したたかなソ連外交の系譜をひくロシアのことだから、対中国けん制の狙いがあるのかも知れない。トランプ大統領が中国への高関税による経済制裁(一種の経済戦争)を仕掛けたが、それをロシア浮上の好機としたいのだろうか?