鴨着く島

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ポスト安倍(自民党総裁選)

2020-09-02 09:05:35 | 日本の時事風景
8月28日の午前中に安倍首相の「歴代最長」総理就任についてこのブログで書いたのだが、その日の夕方の会見で首相自ら総理を辞する旨を語った。

近いうちに辞任するだろうとは思っていたが、1か月半ぶりの久々の会見でいきなりその話になるとはちょっと意外だった。でも、まあ、賽は投げられた。


2006年末に最初に総理になってわずか一年で「投げへ出した」時と理由は同じ体調の不調(潰瘍性大腸炎)だが、今度は誰も投げ出したとは思っていない。それくらいこの7年8か月は内政と言い、外交と言い八面六臂の活躍をしており、メディアへの露出もすさまじいものがあった。

内政では、途方もない金融緩和による景気刺激策はトリクルダウンによって頂上から裾野へと確かに広がりを見せ、雇用は増加し、株価も上がった(しかし実質賃金は国民全体で見ると下がりこそすれ上がっては行かなかった)。

そして二度にわたる消費税アップ。これによって政権が命取りにならなかったのは高い支持率によるのだろう。この功績は大きい、と思う。

だが、他にも憲法改正、拉致被害者救済、地方創生、一億総活躍社会・・・とキャッチフレーズはたくさん掲げられたが、どれも未完のままである。

むしろ、今度総裁選に立候補した菅義偉官房長官が立案したという「ふるさと納税」が、地方創生を上回り、唯一国民に浸透し順調に発展しているのが最大の(?)功績だろうか。


功罪の「罪」では、例の森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、高検総長閣議決定問題、そしてこれは首相事案ではなく党の事案だが、衆院議員選広島選挙区買収疑惑がくすぶっている。最後の事案以外は首相の説明責任の範疇だが、いずれもなされていない。

予算委員会で森友問題を追及されたとき安倍首相は、「私か私の妻がかかわっていたとすれば総理をやめますよ、いや国会議員をやめてもいいですよ」と大見得を切っていたが、こんど総理を辞するのであれば、いっそのこと説明責任を果たしたらどうかと思う。


外交についてはこの人の右に出る者はそう多くないだろう。対象国のトップとの会談は170か国を超えたそうである。もちろん就任期間が長かったことにもよるが、いずれのトップと出会っても微笑みを忘れなかったのはさすがだ(ただ、韓国の文在寅大統領の時はそうではなかったが・・・)。

ただ、アメリカは最初は安倍首相を「憲法を変えて日本が戦争できるようにしようとしている超タカ派」と思っていたようで、就任一年後に安倍首相が首相としては久々に靖国神社を参拝した際には、「失望した」とチクっている。

その後はアメリカ寄りを鮮明にし始め、あの「安全保障関連法案」を国民多くの反対を押し切って制定してしまった。これによって日本は世界の常識「集団的自衛権」を獲得した――との認識のようだが、もともと集団的自衛権は戦後の国連体制の中で確立された考えで、固有の個別的自衛権では守り切れない事態を集団で(つまり国連で)解決しようというもの。

日本のようにすでにアメリカとの間に安保という「二国間軍事同盟」を結んでいるのであれば、国連本来の「集団的自衛権」には入れないはずのものだ。逆に日米安保を解消すれば、その時には国連の有する集団的自衛権の枠組みに入れるのである。

国連憲章では戦前の反省を踏まえて「二国間軍事同盟」は認められておらず、ただ、日本のような敗戦国については特別に国連に加盟が許されるまで「戦勝国側の占領政策」が是認されているに過ぎない。

本来なら、日本が国連加盟した時(1952年)に占領政策は終わり、国連軍(中心は米軍)は引き揚げ、当然「二国間軍事同盟」は締結されないはずであった。しかし、1950年から始まった朝鮮動乱が待ったをかけたのである。


繰り返すが、日米安保という二国間軍事同盟を結んでおきながら、「集団的自衛権を云々」することはできない。外務省アメリカ忖度組はそのことは知っているはずなのだが、アメリカも日米安保の国連憲章違反なのは知っていながら、日本側のアメリカ忖度をうまいこと手玉に取っている。

アメリカのトランプ大統領は言わば外交の「ど素人」なので、こういった駆け引きを知らないのだろうか、「日本は米軍に守られていたいのなら、必要経費をもっと出せ」と言って来ている。つまり自分の国は自分の手で守ればいいのに、それをアメリカに「委託」するのであれば「経費を全額負担せよ」というわけで、ある意味で非常に分かりやすい。

私などは「そうだ、その通り。独立国には個別的自衛権がある。ならば二国間軍事同盟である日米安保は解消しよう。そして個別的自衛権に基づく現有の自衛隊は保有したうえで日本は永世中立国になることを宣言しよう。」と応じたいところだ。

安倍首相にはこのあたりまで踏み込んだ日本のあるべき姿を構想して欲しかったのだが、残念ながらトランプへの忖度(トランペットの騒音?)が強すぎて道が見えなくなってしまったようだ。


今度のポスト安倍総裁選では地方党員の総裁選挙参加は見送られ、当面のポスト安倍一番乗りは菅官房長官となった。他に石破茂、岸田文雄両氏が立候補するようだが、前回の総裁選で地方党員票が安倍さんを超えた石破さんにとっては不甲斐ない話である。「石破外し」と言われても仕方がないだろう。

今度の総裁は安倍総裁の本来持つ任期の残りである来年10月までの短命総裁だ。菅さんで十分やって行けるかもしれない。大きく変わるのは次の総裁からだろう。