鴨着く島

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大坂なおみの贅沢な「憂鬱」

2021-06-06 09:39:15 | 日記
プロテニス選手の大坂なおみが、全仏オープンの1回戦後に記者会見に臨まなかったことで開催者側から罰金を科されたことが話題になり、そのことについて大坂が心理的な問題があったことを明らかにした。

心理的問題の内容は「2018年の全米オープン大会で優勝した後に、うつ状態になり、今でも続いている」というもので、世間を驚かせた。

世界の4大大会である全米オープンの時、大坂はまだ20歳そこそこであり、しかも決勝の相手は大きな目標としていたセリーナ・ウイリアムスだった。

勝ってコートネットでウイリアムスと握手(抱擁?)した際には、声にもならず、涙にくれていたのを映像で見たが、たしかに呆然とし、かつ頭の中が真っ白になっていたのだろう。まさに「人生の夢」が実現し、「夢の人生」が始まった瞬間だったのだ。

その嬉しさがかえって彼女の中で、徐々に「大きな相手に大変なことをしてしまった」というような加害的な心理になって行ったのかもしれない。彼女が自分でもSNSで言っているように「内向的」ならば、有り得ないことではない。

しかしその後も毎年のように4大大会のうち全豪で2回、全米で1回の優勝を成し遂げていることからすると、本物の「うつ」ではないだろう。俗に言う「仮面うつ」の状態なのではないか。

ちょっと場面は違うが、「燃え尽き症候群」か「空の巣症候群」に近い状態なのだろう。

誰でも大きな物事(課題)を成し遂げたあとや、大切に育てていた子供たちが我が家を巣立った後の心の空虚感が「うつ」に似た心理を生むのだが、大坂の場合は、最大の目標としていた相手を破ったことと同時に世界の頂点に立ったことが引き金になった。

しかし子どもの頃からプロを目指して励み、アメリカに拠点を移してから14歳か15歳でプロデビューを果たし、そえから5年でテニスの本場アメリカでチャンピオンになったわけだから、誰が見てもアスリート界のシンデレラ。賞金もがっぽりだ。

はしゃぎ回ればよいのだが、そこは日本人の母の血を引く奥ゆかしさなのか。

報道によれば、大坂は2020年のアスリート年収番付で女子では断然トップ、男子を入れても世界で12位だそうだ。賞金よりもスポンサーからの収入が圧倒的に多い。その額60億円というからあの大谷翔平も霞んでしまう。

アスリートとして最高の世界一位、収入も世界一位を成し遂げてしまったら、「目標の達成感」より「目標の喪失感」のほうが上回るだろう。まだ弱冠23歳の若さである。

去年の全米オープンだったか、例の警察官による黒人虐殺事件があって間もなくの試合では、黒い喪章を付けて試合に臨んでいた。

しかし、私はそうするくらいなら今度のように試合を棄権する手もあったのではないかと思う。というのも去年の世界は新型コロナの猛烈な感染下にあり、どうしてこんなひどい自粛自粛の状況の時に、プロテニスとかプロゴルフとか平気でやっているのだろうと批判的な目で見ていたからである。

私はその点について、いまだに批判的だ。金の生まれるプロはどんな状況でも開催している。しかし甲子園の高校野球は金を生まないので中止している(と見られても仕方がない)。

金を生まないアマチュアアスリートたちが気の毒、いや失礼ではないか。私にとってはそれが「憂鬱」だ。大坂なおみの「うつ」は贅沢な「憂鬱」に過ぎまい。