鴨着く島

大隅の風土と歴史を紹介していきます

田んぼは模様替え(早期米)

2023-04-22 09:37:57 | おおすみの風景
早いところでは3月末から始まった早期米の栽培。

今日はもう4月の下旬、早期米の田植えも終盤を迎えている。

今朝は上天気になったので田んぼ地帯に車を走らせ、その様子を見て来た。


ここは吾平町の中福良という地域の田んぼ地帯で、右手の丘陵と左手の丘陵が交わるところには鶴峰小学校がある。写真では白っぽい建物に見えるのが小学校で、そこから道ははるか佐多までつながる「大隅縦貫道(大隅中央線)」への登りが始まる。

今見えている広い田んぼ地帯は姶良川の左岸で、川は手前に向かって流れている。このあたりはこの姶良川の水利に恵まれ、雨の少ない3月から4月にかけての早期米の植え付けに必要な水が十分に得られている。

吾平町を流れるのだから吾平川では、と思われがちだが、ここがはるか昔からの「姶良(あいら)郷」で、現在の姶良市の姶良は本来「始良(しら)郷」であったのが、誤字によって「姶良(あいら)」となったものだ。現在でもこの吾平町を流れる姶良川で、吾平川ではないのがその証拠である(旧字では良を羅と書いている)。

さてここに見える田んぼ地帯の向こう(南)は鶴峰小学校で遮られるが、手前は中福良地区でそこに鎮座する「田中八幡神社」で遮られる。ざっと40町(40ヘクタール)ほどはあろうか。

田中八幡神社というのは由緒のはっきりした八幡社で、1020年の頃に都城に梅北庄を開発しその後大規模に拡大した荘園を関白藤原頼通に寄進した平季基(すえもと)の弟・良宗が大隅に入り、姶良郷を中心に開発領主となったが、かれは関白家ではなく鹿児島正八幡宮に寄進し、そのため当地に鹿児島八幡神が招聘されたのであった。

その証拠に神社の宝物として長元2年だか3年だかの銘文のある鏡が残されている。平良宗が授かったものとして間違いないようである。

姶良郷では、開発領主となった平良宗から5代ばかりは平姓が続いたと思われるのだが、例の壇ノ浦の戦いで平家が滅び、各地に離散した平家の残党を源氏系の武士たちが追って来たため、姶良郷の良宗の子孫たちは苦慮の末に由緒ある平姓を捨てたと思われる。

同じことは平季基の都城周辺の庄園の家督を継いだ肝付氏の初代兼俊にも言える。初代兼俊の次の2代目兼経との間が120年以上も空いているのだが、自分から5代目くらいまでは平姓を名乗っていたはずで、その系図は抹消したのだろう。

さてこの田んぼ地帯の南側の中福良地区に田中八幡神社があると言ったが、この神社はもともとは吾平総合支所の隣りに鎮座する現在の「鵜戸神社」の所にあった。ところが明治の初めに神代三山陵の一つとして吾平山上陵が現在の山陵に確定されると、山深い山陵の地にあった鵜戸神社では参拝に不便であるという理由から吾平総合支所の隣りにあった田中八幡社の場所に移されたのである。

武家政権の象徴とも言える八幡社が、明治維新政府によって駆逐されたことになったわけだが、王政復古による天皇の大権が行使されたと考えることができるかもしれない。

ところで現在の田中八幡神社のある中福良(地区)という珍しい地名だが、これは九州南部に独特の地名だそうである。うろ覚えだが、全部で30か所くらいあるという。

ここ吾平を始め、南九州市の知覧、姶良郡溝辺町(霧島市)、そして思いがけないところでは鹿児島市内にもある珍名だ。いや珍名というより「瑞祥名」で、すべて河川(かつて川であった地域を含む)地帯である。

この名前の解釈としてたいていこう言われている。「海岸近くに多い地名の吹浦(ふくら)から来たもので、福良(ふくら)とは膨らんでいる様を表している」云々。

「膨らんだ地形」というのが海岸部のどの部分を指すのか、首を傾げるばかりである。ほとんどの海岸は遠浅の砂浜を除いて凹凸が見られ、その凹凸の凸の部分が「膨らんだ地形」というのであれば、日本中の海岸は「吹浦」だらけになるだろう。しかも福良の頭に冠せられている「中」についての解釈は無視されている。

指宿市の二月田という駅から北西にも中福良という地名があり、そこを流れるのは「二反田川」という川で、やや下流に下ると「河原の湯」といって河原一帯から温泉が湧き出ている湯の里指宿らしい一帯がある。この「河原の湯」を地元では「こらん湯」と呼び、地元民のための会員制の温泉施設がある。

「かわら」が「こら」になるのが当地の方言で、この方言を援用すると川の中州は「(川の)中の河原」であるから「中んこら」となる。

上流からの土砂等の堆積物によって大きな「中んこら」(中州)が生まれ、そこに田畑や人家が設けられるようになってから、地名として「中んこら」では「河原の枯れすすき」的な連想を生むので、縁起をの良い地名として作られたのが「中福良」ではないだろうか。私はそう考えている。

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