ベルリンフィルハーモニーオーケストラの公式サイトを見ていたところ、好きな演目があったので、インターネットでチケットを購入し、クリスマスシーズンのベルリンを訪れました。
この日の演目は、Neeme Järvi指揮、Arcadi Volodosピアノのチャイコフスキー・ピアノ協奏曲第一番変ロ短調作品23。(Klaviekonzert Nr.1 B-Moll op.23)
学生時代から好きだった演目ということもありますが、最高級の音響効果を持つコンサートホールで、情熱的かつ冷静なピアノと力強いオーケストラが奏でる、チャイコフスキーの華やかな世界は、どれをとっても完璧と思える程素晴らしく、音楽を聴きながら思わず涙がこぼれそうになりました。
10代の頃、カラヤンとベルリンフィルハーモニーオーケストラの音楽は、四角いオーディオボックスから流れてくる、自分にとって遠い憧れの存在でしたが、その世界最高峰のオーケストラを目の前で実際に聴いてみた感想は、やはり「何1つ不足していない音楽」でした。
そしてロシア出身のピアニストであるアルカーディ・ヴォロドスは、まさに正統派という言葉がぴったりの演奏で、力強く男性的なオーケストラの中で、彼のピアノが奏でる繊細な美しさが際立っていました。
この日の演目は他にリムスキー・コルサコフのOpera MladaとSergej Tanejewの交響曲第四番の2曲があり、自分にとってオラが町のオーケストラであるフランクフルトオケ(hr交響楽団)の主席指揮者(パーヴォ・ヤルヴィ/2010年からパリ管弦楽団の音楽監督も兼任)の父親は、評判どおり「力強いブラスが好きなのだな」ということがよくわかるものでした。
1部と2部間の休憩時間の際に、ステージ近くにたってフィルハーモニーのホールを見渡すと、そこに広がっていたのは10代の頃の自分が憧れていた風景。
しかし生まれて1度も飛行機にすら乗ったことが無い10代の当時の自分には、現実から遠すぎる(と思い込んでいた)世界でもありました。
16歳の頃、最初に行った高校を辞めて、半年ほどJPOPミュージシャンのコンサート関連のアルバイトをしていたことがあり、当時彼らの音楽に勇気づけられ、自分も彼達のように何かを伝える音楽を生み出したいと思い、その後2度目に入った高校、音大とクラシック音楽の世界に戻ったものの、人生の最初の岐路で自分は、自ら詩や曲を書く歌い手になることを選択したのだけれど、10代の自分がもしこの場所で、この音楽に触れていたら、目指した世界が違っていたかもしれないな、とそんなことを感じていました。
でも人生は一度きり。
そこにはTVゲームのようにリセットボタンは無く、ただ前へ、前へと進むしかありません。
全ての音楽が終わった後は、誰にも負けないくらいの力いっぱいの声で「ブラボーーー!!!」と叫んでみました。
最高の雰囲気の中、この日はピアノとオケの2度のアンコール演奏があり、オーケストラが退場した後も拍手はやまず、指揮者のネーメ・ヤルヴィが茶目っ気たっぷりに誰もいなくなったステージに再度現れ、観客に応えていました。
演奏前、入場時間を過ぎた客入れ後もゲネプロ(リハーサル)が続いており、この日は20時の開演時間から少し遅れてコンサートが始まり、フィルハーモニーを出たのは22時30分頃でした。
Sバーンの駅に着くと電車が止まっていて、雪の舞うこの日のベルリン市内を、ホテルまで1駅半ほど歩いて帰りました。
フィルハーモニーからホテルまでのびる通り名の標識をふと見ると、シュトレーゼマン・シュトラッセ(シュトレーゼマン通り)の字が。
その名から思い出したのは「のだめカンタービレ」のTVドラマの、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番のステージ場面。
シュトレーゼマンが千秋に言った、「大事なのは君がこの曲(音楽)と、どれだけ真剣に向き合ったかということ」という言葉をかみ締めながら、雪の降り積もったシュトレーゼマン通りを歩いていました。
※写真:コンサート前のフィルハーモニー。