














出初めとは初めて出る意味であるが、なぜ、新年に消防士が集まって消防演習を行うことを指すようになったのか、はしご乗りの型などを演じる儀式である。消防士は古くは火消しといい、植木屋・庭師、とびや土建業の職人がボランティアでやっていたようで、地域ごとの集団を形成していたが、片手間ではいざというときには役に立たなかったのであろう。戦後は消防組織が公的にでき、専門の教育・訓練を受けた消防士が当たることになった。古くは粋を売り物にし、火災現場に駆け付け、集団の目印の纏(まとい)を振り回すパフォーマンスは有名である。
多くの企業では従業員が作る自衛消防組織を持っている。初期消火に当たるわけで、燃え盛る火の中には飛び込んでいくことはない。古くは地域の要所要所に水を張った桶があり、手桶で火を消すわけで、人力に頼るもので、バケツリレーである。手押しのポンプもあったようであるが水圧を高めることには限界があるし、大火には役立たなかったようである。
消火には、可燃物を取り除き、酸素の供給を断ち、熱源の温度を下げることの3つである。どれか一つを行うか、組み合わせるかで消火効果は異なる。江戸時代の火消しは、鳶口(とびぐち)というカギ棒で柱を崩し、取り除く方法が主であったようで、この鳶口が出初め式のはしご乗りにも活躍している。竹製のはしごで、鳶口を多人数ではしごに引っ掛けて固定し、はしごを昇って演技を行う。昔、八幡神社の境内で演技が行われていた。地元の消防団の詰め所があったからである。しばらく演技なるものを見ていないが、てっぺんで演じる遠見や背亀などはユーモラスなしぐさも取り入れられ、ハッとするような場面もあった。
度胸を試されるようで、消防士も大変であると思った記憶がある。最近は高層ビルが増えている。はしご車の限界も50階までのようで、消火も工夫がいる。スプリンクラーを備え、避難通路の確保も義務付けられている。火災を起こさないことに越したことはないが、各世帯では低層・高層にかかわらず、火災を発生する原因が常にあるわけで、日頃からの避難訓練などの経験は大切であるので、ぜひ参加することが必要であろう。
高齢者や障害者も同居するマンションでは、個人情報の流出を危惧することによって、どのような方が住まわれているのかもわからなくなってきているという。近所づきあいも疎遠になる傾向にあるとの話を聞いたことがある。出初め式が単なる儀式に終わらず、防火の観点からの情報共有化の徹底を図ることも大切になっていると思われる。