サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

第1回ソーシャルフットボール国際大会観戦

2016年02月27日 | ソーシャルフットボール

 久しぶりのブログ更新。
 以下の短編ドキュメンタリー映画の編集撮影に追われていたためだったりするのだが、まもなく完成予定。
http://seedsplus.main.jp/
(制作費が不足し現在も協賛を募っています。)

 そんななか、第1回ソーシャルフットボール国際大会観戦のため大阪堺市J-GREEN堺にやってきた。
 精神障害者フットサルの世界大会である。

 大会には当初8カ国の出場も企図されたようだが、来日したのはイタリアとペルーの2カ国。参加国も少なく試合数も確保できないとの理由から、協議のうえ大阪選抜も参加することになったようだ。
 初日に日本、イタリア、ペルー、大阪選抜の4チームがグループリーグを戦い、2日目に3位決定戦、決勝がおこなわれるというレギュレーション。
 そして今日(2月27日)がその初日。

 会場は屋根がついているものの風をさえぎるものがなくて、むちゃくちゃ寒い!
 しかしピッチでは熱い闘いが繰り広げられました。

 開会式から第1試合が始まるまでに考えていたことはどういう視点で観ればいいんだろうか、ということ。
 7つの障害者サッカーのなかで見た目に障害がわかりにくいものが、ろう者サッカー、知的障がい者サッカー、そして精神障害者のフットボール(サッカーおよびフットサル)。
 ろう者サッカーはプレーの合間に手話を使ったり、聴者なら出している声があまりなかったりするので違いを感じることができるが、知的障害者や精神障害者の、ことに代表クラスの選手たちのプレーからは『障害』は感じにくい。
 誤解を恐れずに言えば、顔を見ると知的障害があるのかな、精神疾患があるのかなと思える選手たちがいたりもする。しかし目の前で繰り広げられるのは紛れもないフットサルであるはずだ。余計な先入観など持たずに観ればよいではないか?しかしもし映画を作ったりするならば選手の個人史をきっと掘り下げるであろう。選手を知っている人からすると選手の歴史から無縁であるはずもない。このピッチに立っているだけで感無量のご家族がいたりするかもしれないが、私自信は選手の背景をまったく知らないわけで。もちろん何らかの精神疾患からの回復途上だったり、薬物依存からの脱却中だったりという一般的な知識はあるのだが。 
などと屁理屈をこねくりまわしているうちに初戦のペルーと大阪選抜の選手入場時間となった。

 始球式を勤めるのは日本サッカー協会グラスルーツ推進部の松田さん。
 そして初戦のキックオフ。
 ペルーは足元のテクニックはあるものの、全体の崩しのイメージがあまり感じられない。ゴレイロもフットサルのルールを把握していない面もあったり、フットサルにあまり慣れていない選手もいるようだった。
 先制したのは大阪、前半5分(くらい)に左サイドからのクロスボールを逆サイドで森本選手がうまく合わせて大会初ゴール。さらには後半に入り森本選手が強烈なFKがネットを揺らし2-0。
 しかし大阪が女子選手を投入したあたりからペルーが主導権を握り始め、コーナーキックから2得点をあげ2-2の引き分けに持ち込んだ。

 精神障害のフットサルは国内ルールでは、女子選手が入ったチームは6人でプレーできるが国際大会ではそうはいかない。男子選手と対等に張り合わなければならない。
 日本代表にも女子選手が2名選ばれていたがこれは女子枠だろう。選手層が増えてくれば女子チームも生まれるかもしれないが現在はそうもいかない。代表というものが、一つの希望、光をもたらすものだとすれば、現状の代表には女子枠が必要なのかとも思う。
(正式にどうなっているのかは知りません。ちなみに電動車いすサッカーの代表候補選手にも女子選手がいますが女子枠はありません。仁義なき戦いであります)

 そして2戦目はイタリア対日本。
 グループリーグの最注目カード。イタリアは精神病院を無くした国。もちろん精神疾患に関する病院や医師がいないわけではなく、これまでの日本の精神医療のように精神科病棟に閉じ込めるのではなく、地域で、医師や職員などが連帯して患者を診ていこうということ。
 カルチョ(イタリア語でサッカーの意)の国イタリアではサッカーも当然重要な社会との接点となっているようで、日本のソーシャルフットボールという言葉もイタリアのcaicisociale
(カルチョソチャーレ)に由来しているようだ。
 
 そんなイタリア代表はどんなチームなのか興味津々。
 最後尾のフィクソのポジションには貴公子然としたキャプテンでもあるルーベン。ピヴォの位置には少々腹も出ているもののキープ力もあり以外とテクニシャンのエンリコ。中盤のアラのポジションには褐色のドリブラーなんとか(どう発音するのかよくわからない)。いずれも個性豊かな選手たちから構成されているチーム。
 しかし先制したのは我らがニッポン。試合開始早々竹内選手がうまくスペースに走り込みパスを受けフリーの竹田選手へ。竹田選手が蹴り込み先制!おそらく練習などでもイメージを共有してきた流れなのだろう。素晴らしいゴールだった。
 前半7分(くらい)には左サイドのキックインからのクロスを野尻選手が左足で蹴り込み2点目。後半には八木選手が右サイドからドリブルで持ち上がりファーにきっちりと蹴り込み3点目。日本が3-0と快勝した。

 日本は勝つための戦術がしっかりとしていて、各々の選手がきっちりと役割をはたしている感じ。選手とも年齢が近い奥田監督の指導もきっとうまくいっているのだろう。
 フィクソの松嵜選手は安定をもたらし、代わって入る飯塚選手も熱い守備を見せる、中盤の中島選手たちも守備に走り回り、竹田選手はボールをキープし相手ゴールに迫る。ゴレイロの佐藤選手は再三の好セーブを見せコーチングの声をあげる。
 
いっぽうイタリアはフットサルというより『サッカー』をやっている感じだった。サッカーなら有効なミドルシュートやドリブルからの強引なシュート。大きなゆさぶり。トラップもあまり足裏は使わず、普段はフットサルよりもサッカーに重きを置いてプレーしているような印象だった。
 当初の予定では初日がフットサルの大会。2日目は8人制サッカーの交流戦となっていたようであるが、正直8人制ならイタリアに分があるようにも思えた。

 イタリアではより日常的にサッカー(カルチョ)があり、精神障害者が他の人々とサッカーをプレーする機会が多いということだろうか?
 その点、日本はなかなかそういう機会がないということかもしれない。

 第3試合は、イタリアがペルーを4-0と下す。

 第4試合は日本同士の対戦。勝ち点で優位に立つ日本代表のゲームプラン通り(まずは失点しない。カウンターから1点みたいな)に試合が進み、後半日本代表が先制。その後も野尻選手のゴールで2対0とリードを広げるものの 大阪の加村選手が強烈なFKを突き刺し意地を見せる。
しかし日本代表の中島選手が追加点をあげ、最終的には3-1で日本代表が勝利、勝ち点を6にのばす。

 続く第5試合も日本代表が中島選手などのゴールでペルーを2-1で下し、決勝進出を決める。

 そして最終戦で波乱(といったら大阪人から怒られそうですが)が起きる。イタリアと大阪選抜の対戦は勝ったほうが決勝進出、引き分けるとイタリアの決勝進出が決まる。
 前半、イタリアのキャプテン・ルーベンの絵に描いたようなループシュートが決まりイタリアが先制。ゴールの瞬間は時が止まったかのようだった。しかし大阪が粘りを見せ本村選手のゴールで逆転!!
 その後イタリアが猛攻をしかけるが、大阪がしのぎきり決勝進出!
 イタリアの選手たちは崩れ落ちた。

 前述したようにイタリアの選手たちはフットサルよりもサッカーに慣れているようで狭いピッチでのプレスをかいくぐりきれない印象でもあった。

 イタリアからはドキュメンタリー映画クルーもきていたのだが、日本勢に2敗したイタリア代表をどう描くのか?
 是非来年のフットボール映画祭で上映してください。

明日、日曜(2月28日)は3位決定戦と決勝が行われる。

12時30分~  イタリアvsペルー
14時30分~  日本代表vs大阪選抜

順当にいけば日本代表の優勝か?勢いにのる大阪選抜が勝つのか?
日本人チームの優勝は決まったわけだがなんだかへんな感じでもある。

ともかく必見。
もちろん明日も行きます。


 


精神障害者のフットサルを初めて見た!

2015年05月30日 | ソーシャルフットボール

 先週、精神障害者のフットサルを初めて見た。
5月21日に開催された『東京都精神障害者フットサル大会2015』。
障がい者サッカー協議会に名を連ねている7団体で唯一全く肉眼で見たことがない競技で、モヤモヤ感がたまっていたのでいい機会だと思い見学させてもらった。

 初めて見たというくらいなので精神障害のフットサルには当然詳しくない。まあ個人的な雑感ということでお読みください。
精神障害全般に関しても詳しくはないのですが「精神科病棟転換型居住系施設に反対する」といった内容のDVDを作る機会があり、少しは勉強しました。興味のある方は是非どうぞ。
http://www.jdnet.gr.jp/guide/Publication/yarebadekirusa.html

 
 大会はエンジョイするなかで勝利を目指すといった感じで、全国大会につながるガチンコの予選は別日にあるとのことだった。
(後日、既に東京都の予選が行われた。今年は第1回の全国大会となるので予選ももちろん初めてである)
見学した大会には17チームが参加。17チームが3つのグループに分けられ最初にグループリーグ、その後上位、中位、下位の3つのトーナメントに別れるという流れで、各チームが満遍なくプレーできるように考えられていた。また東京の場合は事業所を母体としたチームが多いようで、他の地域では病院を主体にしたチームが多いそうだ。

 試合を観始めてまず思ったのは、組織化されてているチームとそうでないチームの落差。要するに指導者(少々語弊がある言葉だが)がいるかどうかという違いで、後から聞いた話だと、職員でたまたまサッカー経験者がいるかいないかの差ということのようだった。
 組織化されていないチームのほうはそのへんでよく見かける草フットサル状態、もちろんみんな楽しそうだ。上手い人もなかにはいた。そんな選手のなかにはまわりが思い通りに動いてくれないことにより欲求不満になっている人もいるのかもしれないが、そのあたりのことはよくわからない。
 組織化されているチームは技術的にはあまりうまくなくともオフ・ザ・ボール、ボールのないところでも有機的に動けていて、そちらの方がより高みの楽しさを感じているようにも思えた。指導者である職員も、選手たちの個性をいかすことを心掛けているようではあった。なかには職員に対して少々うざい(愛着を込めて?)と思っている人もいたのかもしれないが。
この大会では職員も1名だけなら出場できたようで、少々異質な人がピッチ上にいるという印象もあった。 精神障害だからこういうプレーになるというようなことはあまり感じられないのだが、(語弊はあるかもしれないが)顔を見るとそうなのかなと思う人はたくさんいた。街中で見かけたら全く気がつかないかもしれないし、私のある種の先入観かもしれない。

 面白かったのは6人目の動き。5人でやるフットサルで6人目って何?って感じだが、女性が入れば6人でプレーすることが認められている。最初に観た試合でも、6人目の女子選手が常に前線で待ち構えていて右サイドからのグラウンダーのアーリークロスをダイレクトで見事にゴールに蹴り込んだ。(電動車椅子サッカー関係者にしかわかりませんが、その瞬間『おー、みどちゃんだ!』と思いました)。その選手にはその後も注目していたのだが、その後はあまりジャストミートしなかった。たまたまだったのかな。
ちなみに女性が入ったら6人までOKという特別ルールは、日本独自のものだそうだ。女子も入りやすいと言えるが、女子だけではチームが組めないとも言えるかもしれない。

 参加していた選手たちは、精神障害といっても様々で、統合失調症、躁や鬱や双極性障害、発達障害、薬物依存等々。一般的には精神障害の範疇に入れて良いか意見の分かれるものもあるようだ。 障害者スポーツにはリハビリ的な側面とガチンコ勝負的な側面がある。 フットサルという流動的なチームスポーツではコミュニケーションをとることなしにプレーすることは出来ないわけで、リハビリに適しているとも言えるのかもしれない。選手によっては、フットサルのレベルなど関係なくピッチに立っていること自体が相当なリハビリとなっている人もいるだろう。もっと言えばフットサル場に来ること自体がリハビリになっている人もいたのかもしれない。また別の選手は勝つための戦術(そんなに大げさなものではなくとも)を理解し、ある意味一つの社会とも言えるピッチ上で自らの役割をこなし一つ一つのプレー選択していくことを通してリハビリにつながることもあるだろう。まあ要するに、ガチンコ勝負だからこそリハビリにつながるということもあるだろうということだ。
  精神障害のリハビリの先にあるものは就労などの社会復帰ということだろう。通院しながらという場合もあるだろうし、場合によっては通院する必要がなくなり手帳を返納する場合も少なからずはあるのだろうか。その場合は精神障害フットサルを『卒業』したということか。将来、精神障害のフットサル日本代表、あるいはサッカー日本代表チームなどか結成された場合、『卒業』した選手たちは代表に選ばれる資格を失うということになるのだろうか。それは嬉しい悲鳴?
 また『卒業』した選手たちがクラブチームなどに残り、ロールモデルとしてともにプレーし続けることの意義も大きいかもしれない。
(クラブチームという形態をとっているチームも数は少ないがあるようだ)

 日本ソーシャルフットボール協会のHPには「サッカーやフットボールを通じて、人とつながり、社会とつながり、世界とつながること」という言葉が書かれている。(ひょっとしたらサッカーやフットサル?まあそれはともかく)
主語は精神障害者だと思うが、『健常者』である私自身もサッカーを通じて、出会うはずのない人と出会い、出会うはずのない社会、そして世界とつながってきた。サッカーがつなげてくれたとも言えるのだが。例えば知的障害者サッカーの選手たちを撮影で訪れた際、どうしたら良いかわからなくなった時はただボールを蹴りあっていた。そこから始まった。
 「障がいのある人もない人も、ともに…」という言葉はとっても苦手なのだが、精神障害者と『健常者』が偏見なくフットサルが出来る状況が形作られれば、素晴らしいとは思う。そしてまた精神障害者のみで構成されるチームの存在意義も大きいと思う。

 なんだかちょっとよくわからなくなってきた。見た以上のことを書き過ぎました。


 7月には全国大会へつながる関東予選があるそうで、今度はガチンコ勝負を観戦したい。
 第1回ソーシャルフットボール全国大会は10月3日(土)~4日(日)、名古屋で開催予定。
 日本ソーシャルフットボール協会HPは http://jsfa-official.jp/index.html