話はここまでで終わった。この人以外にもアジアを旅をしていると日本人に出会うがかってこんな会話を交わした経験はない。大抵は旅の情報で,安全に関するもの、食事の話,ホテルの快適さ、利用する交通手段の話、旅中でであった珍しい話や、面白い話など当たり障りの無い日常会話で終わってしまうのが普通だ。
僕は自分の部屋に戻りベッドに潜り込んだが先ほどの話が頭の中で渦巻いてとうとう一睡もしないままに朝を迎えた。
日本の国内で遍路や巡礼をしているならまだしも、インドまできてこんな話が出来るとは想像だにしなかったことだった。しかしインドでこの話が出来たのは何か不思議な気がした。
担いで言うなら、これはきっとお釈迦様が同じような問題意識を持つ二人を出会わせお互いの胸の内を語らせ、それによって仏教をより深く考えるチャンスを与えたもうたのだということだ。もちろんこの程度までの深みのある話を旅行者としたというのは生まれて初めてのことである。