今日は雨時々風雨
溜まった新聞を読む
道新の13日の夕刊「まど」欄を読み
胸が詰まる。
モトカレ
札幌市内の喫茶店で開かれた「エッセイの会」の例会で、浜正吉さん
(82)はある女性にまつわる作品を自ら読んだ。「いい話だね」と口をそろえる
出席者の姿を見て、肩の荷が下りた気がした。
浜さんは高齢者施設で絵手紙を教えるボランティアを務めてきた。7、8年前
描き終えた作品を前に、思い出に浸る90歳ぐらいの女性が目にとまった。
花の絵だった。「どなたに出すのか」と聞いたが、かすかな声で聞こえなかった。
施設の職員が再度尋ねると「モトカレ」と聞こえた。思いがけぬ返答に周囲が騒が
しくなった。
騒ぎが収まり、話を聞いてみた。女性には娘時代に結婚したい人がいた。太平洋
戦争が始まり「モトカレ」は学徒出陣で戦地へ向かった。米軍の攻撃で、船が沈没
した。戦死の報に接し、三日三晩泣き続けた。
戦後見合い結婚した。夫の死後、一人でいると時々「モトカレ」を思い出すのだと
いう。
浜さんは、女性の他界を人づてに知った。例会で発表した彼女の秘めた思いに広が
った共感。人を思う気持ちは時代が違っても同じ、と伝えられたことにほっとしている。