ヤンバルクイナ(Gallirallus okinawae) Okinawa Rail
山原の朝。天気予報とはウラハラに、大粒の雨が大地を潤していた。
しかしこれから見ようとしている鳥については悪天が好都合である。冬の朝は遅いからまだ良いのだけれど、これが夏ならば夜の森歩きも合わせて睡眠時間が殆ど無く、どうにかなってしまいそうなところだ。
辺りが薄ら明るくなり始めた頃、森から「キョッキョッキョッ....」とけたたましい声がした。間違いない、アガチの声だ。
いかにも何か居そうな暗い林道に差し掛かった時、昨晩、森歩きもままならないほどの豪雨によって出来た水溜りで何やらずぶぬれの茶色い塊が水をはじき飛ばしていた。他でもない、先ほどの声の主、ヤンバルクイナが水浴びをしていたのだ。
水浴びを終えると間もなく早足で草むらに駆け込んだヤンバルクイナは、雨の降る暗い林床で餌を探して歩き始めた。
―先日、鳥見から帰るレンタカーの中で友人が厳かに口を開いた。
名だたる写真家や探鳥家が、年に何週間も北部に入り浸っているという。
あくまで推測でしかないけれど、皆、幻の鳥を追い求めているのではないか。
語り部のおじぃやおばぁの言い伝えには、現在見つかっている鳥のどれにも該当しない不思議な鳥が存在していた。これは伝説の新種なのではないだろうか、と。・・・私は雷にでも打たれたような気持ちになった。
ヤンバルクイナだってほんの30年前に見つかったのだ。まだ何種か見つかっていない鳥がいても何ら不思議ではない。
もし、未だ誰のL.L.にも刻まれていない鳥を世界で始めて見たとしたら...!
【2010/12/06/沖縄本島 Okinawa,Japan】