ウロコカブトウオ(Melamphaes polylepis) Ridgehead
このウロコカブトウオは体長約7cmと小柄であるけれど、鎧兜に覆われた頭部をよく見るとかなりステキ度が高い。また、への字に曲がった口は頑固だけれど、王蟲のように青くつぶらな眼は思いの他可愛らしいところがポイントだ。
カブトウオ科のうち、背鰭基底後端が臀鰭基底中央を越えていないことからカブトウオ属(Poromitra)ではなさそうだ。前鰓蓋骨の縁に突起が無く、また眼径が眼下幅より短いこと、後頭部に棘がないことからホンカブトウオ属のウロコカブトウオに違いない。
オオクチホシエソ(Malacosteus niger) Loosejaw
この口床がないために非常識なほどもの凄い口の開き方をする魚は、眼後発光器のサイズが眼に対し小さすぎるように見えるけれど、3~5条の胸鰭があることからおそらくオオクチホシエソであろう。
深海の生物には暗闇で身を隠すために体色が赤いものがいるが(深海トロール船に乗ったとある人間は茹でてもいないのに濃鮮血色をしたエビを美味そうだと言って食べ、お腹を壊したそうだ)、オオクチホシエソは眼の下にある発光器の光を赤色にすることでこれらの“赤くて見えないはずの獲物”を可視化してしまうのである。深海の隠身術をも打ち破る、巧妙な進化の奇跡を知った時、私は感嘆せずにはいられなかった。
傷が激しいけれど、この個体の眼下発光器にも一部赤色が見えるのがお分かりいただけるだろうか。
【2010/01/14/小笠原諸島近海産 from Ogasawara ocean area,Japan】
ナンヨウミツマタヤリウオ(Idiacanthus fasciola) Black-dragonfish
この魚の和名は、幼魚期の姿にちなんでいる。幼魚は目が左右に大きく突出し、まるで外国産シュモクバエのオバケのみたいな頭部をしているという。
この体長約30cmの雌は、頭部の後方から急激に体が細くなっていること、腹鰭基部から臀鰭起部までの長さが臀鰭基底長より短いことからナンヨウミツマタヤリウオの成魚と思われる。
伸長したヒゲ状突起が怪しさをより増している。きっとこの発光器を光らせて疑似餌にして獲物をおびき寄せ、バクッと一飲みにしてしまうのだろう。このミツマタヤリウオ科の英名"Black-dragonfish"はさしずめ「冥界より昇りし漆黒の龍」といったところか。
フラッシュを焚くと、眼と鋭い牙の基部が不気味に青白く光って見える。
ピンセットで口を開いてみると、とんでもない角度に顎が開いた。
いやーこんなサイズの魚にゃ喰われねぇでしょ、と油断している獲物も、口の開き具合に気付いた時にはもう胃袋の中、ということだろう。
【2010/01/14/小笠原諸島近海産 from Ogasawara ocean area,Japan】
オニキンメ(Anoplogastridae cornuta) Fangtooth
まさかこのような類の魚に触れる機会が訪れようとは。
図鑑でしか見たことのなかった深海の怪魚たちが目の前にあり、しかもそれらは長年ホルマリン漬けにされて体色の褪せたものなどではない。黒々した深海魚たちは曳き網による傷はあるものの、全て真新しいものばかりだったのである。
このオニキンメは、深海魚好きなら図鑑など見ずとも一目瞭然なほどに特徴のある魚。この個体は体長15cmほどだけれど、立派な成魚と言える。
体に比べてひどくアンバランスな頭部は硬い鎧に覆われ、大きく裂けた口からは凶悪に鋭い牙が覗いている。餌の少ない深海では、獲物に出遭った際に少しでも牙が大きい方が有利であり、とりあえず相手を串刺しにした方が勝ちなのだ。
あまりに大きな牙ゆえに、私も、そしてこの魚も(構造上)開いた口が塞がらなかった。
水圧の関係で反転した消化管の壁面はまるで深海の暗闇ように黒い。これは発光器を持つ獲物を胃袋に収めた際に、外敵から胃内の獲物が発する光を見られないようにするための工夫である。
【2011/01/14/小笠原諸島近海産 from Ogasawara ocean area,Japan】
【1】 そうだ、沖縄行こう。
【2】 スプーン・ビル
【3】 ウージ畑の住人
【4】 常盤の森の伝説
【5】 Blue Metallic
【6】 Don't say “LBJ”
【7】 蛇が統べる森
【8】 金の波に包まれて
【9】 闇ニ棲ンデヰルモノ
【10】 優しい瞳の紅芋蛇
【11】 いつだって火山巌のように
イボイモリ(Echinotriton andersoni)
テケテケと早足で動けるシリケンイモリと違って、このイボイモリは人影が近づいてもマイペースにのっそのっそとと一定のペースで歩く。ゴツゴツした体表は、ゴジラの仔かはたまた火山岩から生まれたのではないかと思ってしまうほどに岩肌から削り出したような質感である。
倒木の下からでも這い出てきたのか、全身に木屑をくっついけていた。
オキナワシリケンイモリ(Cynops ensicauda popei)
オキナワシリケンイモリは体色に個体差がある。背面がマットに真っ黒なものもいれば、このような背面から腹面付近にまで及ぶ金箔を散りばめたような美しい斑紋が出るものもいる。
さて、今回の短い旅はここまで。
沖縄本島はまだまだ攻め足りないから、これからの人生の中でまた何度も来ることになるだろう。
これにて、終。
【2010/12/06,07/沖縄本島 Okinawa Island,Japan】