コシラヒゲカンムリアマツバメ(Hemiprocne comata comata) Whiskered Treeswift
先ほどの凄まじいスコールは降り止んだが、油断はできない。空を見れば依然としてどんよりした暗雲がたちこめていて、またすぐにでも雨が降ってきそうな感じである。
梢にとまるコシラヒゲカンムリアマツバメの雌はくりくり首を動かして飛び虫を目で追う。そのうちタイミングを見計らっては飛び立ちフライングキャッチをしてはまた同じ場所に戻ることを何度か繰り返していた。
国立公園のここダナンバレーの森のトレイルに入るには、ガイドを付けなければならない規則になっていて、もちろん私もガイドを予約していた。
まさに今日この時間、高床式のメインロッジの下で待ち合わせになっている。
“ Hi, Koh! ” やってきたのは私とそう年の変わらない青年だった。彼の名はリスター(Lister)。
後で友人に話したら「そりゃ、鳥を見るために生まれてきたような名前ですね」と言われた。なるほど、確かに。
ダナンバレーは、突き当たりのロッジ群を拠点として、ラハダトゥから来た時に通ってきたメインロードと、そこから森へ通じる複数の細かいトレイル(林道)に分かれていて、その全ての場所が鳥を見る良いポイントになっている。気象条件や時期、時間帯等によってどこに何の鳥が出るかは刻々と変化しているため、それを正確に読み取れるかが良い鳥を見られるかどうかの鍵となる。
リスターに最近の森の状況を聞くと、それまでずっと晴れ続きだったけれど私が来る日になって長い雨が降るようになったという。あまり芳しくない。
こういう時は長い雨の中の一瞬の晴れ間が狙い目。限られた時間でより多くの鳥を見てやると息巻く私であった。
さて、メインロードを歩き初めて間もなく、赤くて小さな鳥が直線的に目の前を横切って森へ入った。
気付かないリスターの袖口を引っ張り、小声で言う私。「今目の前をミツユビカワセミが通ったよ!」
ミツユビカワセミは日本でももう記録のある鳥。私は以前スカウ村で見たことがあった。
シラガシキチョウの声真似に引っかかり、「今ミドリヒロハシが鳴いたよ!」なんて私が言う頃には、もう辺りだいぶ暗くなり、おまけにまた大粒の雨が降り出した。これでは鳥見どころでは無い。
駆け足でロッジに戻ると、先ほどのコシラヒゲカンムリアマツバメはまだ同じ枝にとまっていた。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/30th Dec, 2012】
コシラヒゲカンムリアマツバメ(Hemiprocne comata comata) Whiskered Treeswift
午後3時をまわり、いよいよジャングルへ繰り出そうとした時。
先ほどからどんよりとした空だったけれど、やはりというか大粒のスコールが降り始めた。
せっかくこれから鳥が活発に動きはじめる時間帯だというのに、これでは多くの鳥達はブッシュに潜って雨をしのぐことを優先させてしまう。先ほどまでちらほら聞こえた鳴き声も、雨が降り出すと同時にピタっと止んだ。
鳥を見る気満々だった私は気を落とし軒下に座り込み、暗い空を見上げながらただ呆けていた。
20分ぐらい降り続いただろうか。ふいに空の一部がぽっかりと明るくなったかと思うと、眩しいほどの一筋の光が暗雲から差し込んだ。
するとどうだろう、私の真上はまだスコールの真っ只中であったため、正面から差した光は無数の雨粒に反射して暗いスコールは一転、光のシャワーへと姿を変えた。
その瞬間、ライトアップされたかのように目の前の木に鳥の影がフワッと浮かび上がったのだ。なんということだろう、その鳥こそ恋焦がれてこの熱帯雨林の奥地まで来た目的の1つであった鳥、コシラヒゲカンムリアマツバメだった!良く見ると頬に赤いパッチがあるため雄である。
気付けば私は雨に濡れることも気にせず軒下から這い出してこの鳥に見蕩れ、立ち尽くしていた。
female
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/30th Dec, 2012】
ミナミカンムリワシ(Spilornis cheela pallidus) Crested Serpent-eagle
ラハダトゥからダナンへの道。運転手のお兄さんは特にガイドではないのだが、聞けば鳥好きだそうで話が合った。送迎の最中にもよく鳥を探すらしい。
ボルネオゾウに遭遇した後は車内がより賑やかになり、車から見える鳥を私と運転手のお兄さんが次々に言い当てた。車の前を横切る数羽のコゲチャキンパラ、路肩で遊ぶシキチョウ、低木の梢で鳴くオオバンケン。
10時をまわったあたりから猛禽の出現も増えてきた。
車の上を通過して左手に飛び去ったチャイロカッコウハヤブサ、小高い丘の頂上に数羽飛んでいたカザノワシ、そして路肩の木にとまっていたのはミナミカンムリワシだった。
現在の日本の分類では八重山のカンムリワシ(S. c. perplexus)とこのミナミカンムリワシは別亜種の関係だが、別種扱いする考えもある。日本のカンムリワシよりミナミカンムリワシの方がより暗色味が強い。
アジアヘビウ(Anhinga melanogaster) Oriental Darter
車が池を通過した時、池に横たわる倒木の上に何かいたのが見えた。
「ちょっと待って、少しバックして!」と私。ソロソロとバックする車からやがて全身が見えたのはアジアヘビウだった。
ルリノドハチクイ(Merops viridis viridis) Blue-throated Bee-eater
やがて車はダナンバレーのレインフォレストロッジへと着いた。ラハダトゥからは3時間かかったことになる。私が車から降りると、なにやら丸々と太ったヒルが私の座っていた座席を歩いているではないか。
もしや...と自分のズボンをまくってみると、靴下がほとんど染まるほどの大流血。ヒルの出すヒルジンは血液の凝固を阻害するのだと中学理科で習った記憶がある。
「あちゃー。さてはゾウを撮るために下車した時にとりついたな。」しかし流血量に対して痛みは全く感じられなかったので、不思議と精神的ダメージはあまり無かった。そんなことより鳥が見たい。
私は自分の部屋に荷物を投げ出し、すぐさま外へ飛び出した。
このロッジは熱帯雨林のまさにど真ん中にあり、まさにそこら中がフィールドなのだ。
到着直後、宿の説明を受けている最中にもチラチラと横目で見ていたのはこのルリノドハチクイ。
ハチクイ類の華麗でシャープな飛び方は何度見ても良いもの。
電線にとまって辺りを見回し。時折フライングキャッチをしていた。
リュウキュウツバメ(Hirundo tahitica javanica) House Swallow
川原に歩いて行くと、ブッシュの中からトリルがして、覗き込むと衝撃的なほど真っ赤なキゴシタイヨウチョウが鳴いていた。
他にもズアカサイホウチョウやコゲチャギンパラがロッジ周りのブッシュや植え込みの中を動く。
キミミクモカリドリ(Arachnothera chrysogenys) Yellow-eared Spiderhunter
キミミクモカリドリとオオキミミクモカリドリは、図鑑で見ると酷似していて識別が難しいように思えるかもしれないけれど、実際に見ると一目瞭然。
キミミクモカリドリはオオキミミよりも一回り小さくて、アイリングが狭く、頬の黄色いパッチは広がって見える。また、良くみると個体によっては胸にうっすらと縦斑が見える点がポイント。
オーストラリアで見たコキミミミツスイとキミミミツスイみたいな関係だ。
ヒメカッコウ(Cacomantis merulinus threnodes) Plaintive Cuckoo
突然、近くから「ピィ、ピュ、ピュ、フィ、フィッフィフィフィ.....」というあまりにも特徴的なsongが聞こえた。
こいつは声の予習をして来たからすぐにわかる、日本では2012年に非公式な記録が1例あるのみのヒメカッコウだ!
辺りを見回すと、やがてその声の主は見つかった。声の大きさとは対照的に小さな鳥だ。
【Danum Valley, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/30th Dec, 2012】