種吉が朝から元気がない。
お気に入りのぬれ縁に腰かけ、わきからひょ
いと種吉のひざにのってきた飼い猫のからだ
を、あちらこちら、なでてやってはいるのだ
が、いまひとつ気持ちが入らない。
「みやあっ」
種吉の顔をみて、ひと声鳴いた。
「ああ、おめえも心配してくれのかい?わ
るいわるい。言葉のつうじぬおめえに話して
もせんないことだけんど、おらのカードのぐ
あいがわるいんだってよ」
「みやあああっ」
もうひと声鳴くと、彼は種吉の左手を、丹
念になめはじめた。
「まあ、お上がやられるこった。最後までお
手なみ拝見といこうか。それにしてもいやし
いよな、おらの根性、たかだか二万の金が欲
しくってよ。命とおんなじくらいに大事なふ
たつの証文、世の中にさらけだしてしまいや
がった」
「おまえさん、ごはん出来てるよ」
家から、種吉のかみさんが出てきた。
「ああ、いつもお世話さんで」
「ばかだねあんた。ひょっとしてどうかした?」
「はい、とっくに」
「食べないと、かたづけっちゃうから」
「はい、いいでげすよ」
「ばかも、ほどほどにしな」
種吉は、ますます今はやりのマイナス思考と
やらにはまりこんでいく。
不意に、隣の家の雌猫が納屋のわきから現れ
た。彼女の気配を察知したのか、種吉の雄猫は、
あわてふためき、彼女のもとへといそぐ。
「おい、これ、どこさ、行くんだ。気をつけ
ろ。おんなはこわいぞ」
「おんなって、今、あんた言ったね」
「いんや、そういうことは言っていません。
おたく様の聞き違いです」
「へえ、そうかい」
種吉のもとに近寄ると両手を腰にあて、ぐいっ
と顔を
種吉の目の前に突きだし、にらみつける。
「あれかな、もうちょっと、ここで頭を冷
やしてますです」
「ふうん。まあ、いいけど」
その後も、種吉の独り言がつづいた。
(おかみがやりなさることだよ。そのうち
なんとかしてくださるって、そんなにしんぺ
えすんなって。それにしても、うちのかみさ
んより、こええなんてもんはいねえ……)
種吉のかみさんは、あきれたとばかりにた
め息をひとつつき、すたすたと歩いて玄関へ。
戸をぴしゃりと閉めて、家のなかに入って
しまった。
お気に入りのぬれ縁に腰かけ、わきからひょ
いと種吉のひざにのってきた飼い猫のからだ
を、あちらこちら、なでてやってはいるのだ
が、いまひとつ気持ちが入らない。
「みやあっ」
種吉の顔をみて、ひと声鳴いた。
「ああ、おめえも心配してくれのかい?わ
るいわるい。言葉のつうじぬおめえに話して
もせんないことだけんど、おらのカードのぐ
あいがわるいんだってよ」
「みやあああっ」
もうひと声鳴くと、彼は種吉の左手を、丹
念になめはじめた。
「まあ、お上がやられるこった。最後までお
手なみ拝見といこうか。それにしてもいやし
いよな、おらの根性、たかだか二万の金が欲
しくってよ。命とおんなじくらいに大事なふ
たつの証文、世の中にさらけだしてしまいや
がった」
「おまえさん、ごはん出来てるよ」
家から、種吉のかみさんが出てきた。
「ああ、いつもお世話さんで」
「ばかだねあんた。ひょっとしてどうかした?」
「はい、とっくに」
「食べないと、かたづけっちゃうから」
「はい、いいでげすよ」
「ばかも、ほどほどにしな」
種吉は、ますます今はやりのマイナス思考と
やらにはまりこんでいく。
不意に、隣の家の雌猫が納屋のわきから現れ
た。彼女の気配を察知したのか、種吉の雄猫は、
あわてふためき、彼女のもとへといそぐ。
「おい、これ、どこさ、行くんだ。気をつけ
ろ。おんなはこわいぞ」
「おんなって、今、あんた言ったね」
「いんや、そういうことは言っていません。
おたく様の聞き違いです」
「へえ、そうかい」
種吉のもとに近寄ると両手を腰にあて、ぐいっ
と顔を
種吉の目の前に突きだし、にらみつける。
「あれかな、もうちょっと、ここで頭を冷
やしてますです」
「ふうん。まあ、いいけど」
その後も、種吉の独り言がつづいた。
(おかみがやりなさることだよ。そのうち
なんとかしてくださるって、そんなにしんぺ
えすんなって。それにしても、うちのかみさ
んより、こええなんてもんはいねえ……)
種吉のかみさんは、あきれたとばかりにた
め息をひとつつき、すたすたと歩いて玄関へ。
戸をぴしゃりと閉めて、家のなかに入って
しまった。
猫を飼っていらっしゃるのですね。
情景が目に浮かびました。
悩み事が解決するといいですね。
いつもありがとうございます。