よこしまな願いは成就せず、ケイが去って
から一週間たった。
その日は季節が初冬に入ったにもかかわら
ず、平年より暖かい。
メイはログハウスにくっつくように造られ
た小さなヴェランダで、揺り椅子に深く腰か
け、まどろんでいた。
「おかあさん、ねえ…」
メイの口から、ふと、こんな言葉がもれ出
てしまい、彼女のひざの上で眠っていたポッ
ケが聞き耳を立てた。
考えにいきづまったり、ストレスを感じた
りしたとき、メイはいつもここにきて椅子を
揺らす。
モンクが一か月がかりで、大人っぽくなっ
たメイのためにと造ったもの。
ログハウスから突き出た庇が、彼女をよこ
なぐりの風雨から守ってくれる。
家の中のドアひとつ開ければ、ここに来る
ことができるので、メイは、
「まるでハンモックみたい。赤ちゃんにも
どったような気分になれるわ。おじさん、ほ
んとにありがとう」
と、モンクに礼を述べた。
この日は、午後ずっと、メイが留守番。
ほかの家族は全員出はらっている。
メリカは食材を求めて、森の中へ。モンク
は朝早く、交通整理の仕事に出かけた。
彼が小屋から連れ出したヤギの親子が、小
屋わきの地面に打ち込まれた棒杭につながれ、
互いにたわむれている。
メイに気づいたかあさんヤギがしきりに足
をふんばり、メイのもとに近寄ろうするがど
うにもならない。子ヤギは空腹なようで、始
終、母親の乳首にむしゃぶりつく。
ジェーンは、ケイが突然現れて以来、表情
がわずかに暗くなった。
メイの家族によけいに気を遣うようになり
しばらく家にもどってないしね、と、生活の
足しになるものを求め、ジルとミルを連れて
出かけた。
いろいろと考えてしまい。これじゃ揺り椅
子に腰かける意味がないわと、メイはふと空
を仰いだ。
(せっかく出逢えたと思ったケイが、ジェ
ーンをだしにわたしをあいつらの仲間に引き
入れようとたくらむなんて…。でも不幸中の
さいわい。誰もケガしなかったし。ケイがむ
りやりジェーンを連れ去ろうとしなかったの
はうれしい。まだ少しは、ケイのこころに良
心が残っているのかも)
そう思ったとたん、メイの口からため息が
もれた。
メイの寝室の窓辺で、チチッと小鳥がさえ
ずるのを聞いた気がし、メイはポッケのから
だをかかえたまま、椅子から立ち上がった。
(ピーちゃんの子かもしれない)
そう思うと、胸がどきどきした。
急に外出することになるかもと、さっそく
居間にもどり、外出着に変えた。
玄関先でピンク色の長靴をはくとき、右足
首がふいに痛んだ。
熱い、といったほうが正確かもしれない。
なんだろうと思い、メイは長靴を脱いだ。
たくさんの細い足をもった、うす茶色の小
さな虫がはい出してきた。
青色の小鳥がメイのそばまで飛んで来、そ
の虫をくわえたかと思うと、すぐさまのみこ
んでしまった。
メイは薬箱から、虫刺されの薬をとりだし
て塗りたくった。
(小さいかったから、ラッキー)
少々のことでは動じないメイである。
「まあ、やっぱり。あなただったのね。い
やな虫を食べてくれてありがとう。お母さん
はどう?ピーちゃんは、元気?」
メイがそう問いかけると、小鳥はピーッと
ひと鳴きし、勢いよく空中に飛びだした。
「ちょっと待って、先ずは庭からでなくちゃ
ね。やっかいなのよ、塀の戸が。開けたり閉
めたりがね」
森に入ってから、小鳥はメイを先導するよ
うに、少し先まで行っては、メイが追いつく
のを待った。
ゆうべ、降ったのだろう。
倒木がうっすら白いものにおおわれている。
木がすくっと立っていれば、こんな景色を
見ないでもすむのにと、メイは思う。
(きっと私が森をもとにもどしてあげる)
メイは首から下げた袋のなかみを確認しな
がら、そう決意するのだった。
から一週間たった。
その日は季節が初冬に入ったにもかかわら
ず、平年より暖かい。
メイはログハウスにくっつくように造られ
た小さなヴェランダで、揺り椅子に深く腰か
け、まどろんでいた。
「おかあさん、ねえ…」
メイの口から、ふと、こんな言葉がもれ出
てしまい、彼女のひざの上で眠っていたポッ
ケが聞き耳を立てた。
考えにいきづまったり、ストレスを感じた
りしたとき、メイはいつもここにきて椅子を
揺らす。
モンクが一か月がかりで、大人っぽくなっ
たメイのためにと造ったもの。
ログハウスから突き出た庇が、彼女をよこ
なぐりの風雨から守ってくれる。
家の中のドアひとつ開ければ、ここに来る
ことができるので、メイは、
「まるでハンモックみたい。赤ちゃんにも
どったような気分になれるわ。おじさん、ほ
んとにありがとう」
と、モンクに礼を述べた。
この日は、午後ずっと、メイが留守番。
ほかの家族は全員出はらっている。
メリカは食材を求めて、森の中へ。モンク
は朝早く、交通整理の仕事に出かけた。
彼が小屋から連れ出したヤギの親子が、小
屋わきの地面に打ち込まれた棒杭につながれ、
互いにたわむれている。
メイに気づいたかあさんヤギがしきりに足
をふんばり、メイのもとに近寄ろうするがど
うにもならない。子ヤギは空腹なようで、始
終、母親の乳首にむしゃぶりつく。
ジェーンは、ケイが突然現れて以来、表情
がわずかに暗くなった。
メイの家族によけいに気を遣うようになり
しばらく家にもどってないしね、と、生活の
足しになるものを求め、ジルとミルを連れて
出かけた。
いろいろと考えてしまい。これじゃ揺り椅
子に腰かける意味がないわと、メイはふと空
を仰いだ。
(せっかく出逢えたと思ったケイが、ジェ
ーンをだしにわたしをあいつらの仲間に引き
入れようとたくらむなんて…。でも不幸中の
さいわい。誰もケガしなかったし。ケイがむ
りやりジェーンを連れ去ろうとしなかったの
はうれしい。まだ少しは、ケイのこころに良
心が残っているのかも)
そう思ったとたん、メイの口からため息が
もれた。
メイの寝室の窓辺で、チチッと小鳥がさえ
ずるのを聞いた気がし、メイはポッケのから
だをかかえたまま、椅子から立ち上がった。
(ピーちゃんの子かもしれない)
そう思うと、胸がどきどきした。
急に外出することになるかもと、さっそく
居間にもどり、外出着に変えた。
玄関先でピンク色の長靴をはくとき、右足
首がふいに痛んだ。
熱い、といったほうが正確かもしれない。
なんだろうと思い、メイは長靴を脱いだ。
たくさんの細い足をもった、うす茶色の小
さな虫がはい出してきた。
青色の小鳥がメイのそばまで飛んで来、そ
の虫をくわえたかと思うと、すぐさまのみこ
んでしまった。
メイは薬箱から、虫刺されの薬をとりだし
て塗りたくった。
(小さいかったから、ラッキー)
少々のことでは動じないメイである。
「まあ、やっぱり。あなただったのね。い
やな虫を食べてくれてありがとう。お母さん
はどう?ピーちゃんは、元気?」
メイがそう問いかけると、小鳥はピーッと
ひと鳴きし、勢いよく空中に飛びだした。
「ちょっと待って、先ずは庭からでなくちゃ
ね。やっかいなのよ、塀の戸が。開けたり閉
めたりがね」
森に入ってから、小鳥はメイを先導するよ
うに、少し先まで行っては、メイが追いつく
のを待った。
ゆうべ、降ったのだろう。
倒木がうっすら白いものにおおわれている。
木がすくっと立っていれば、こんな景色を
見ないでもすむのにと、メイは思う。
(きっと私が森をもとにもどしてあげる)
メイは首から下げた袋のなかみを確認しな
がら、そう決意するのだった。
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