「あなたはひょっとして……」
メイはそこまでたどたどしく言うと、ため
息をついた。
「そうだ。わたしがこの星の王だ」
「はあ、やはり……」
メイの息が浅くなった。
あまりの緊張のせいだろう。
(それにしては、王の側近がいない。たくさ
んの供の者がわきにていいはず)
一秒、二秒……。
時間が経てばたつほど、メイはどのよう
に対応したらいいか、わからなくなった。
もうこれ以上こらえきれないと思った瞬
間、誰かがメイの背中を押した。
メイは前につんのめり、ダイニングの床
に、どはでに転がってしまった。
「誰なの?人の気も知らないで。わたし
を突き飛ばすなんて?」
この一言を吐くことで、メイは本来の自
分をとりもどすことに成功した。
「よく来てくれたね、さあ」
王様とおぼしき男がさも親しげに言って
立ち上がった。
自信満々とはとてもいえない。
どこかに弱々しさをかかえている。
メイに近寄り、彼の作業着めいた服の袖
から大根のような白い手を差しだし、メイ
の左手をつかんだ。
メイの口唇がわなわなと震えだした。
(これから先が問題だ。決して相手を怒
らせたりしてはいけない)
メイは覚悟を決めた。
おそってくる緊張感を少しでもほぐそう
と、メイは無意識に左手で胸の小袋をいじ
りだした。
小袋の中につまっている小石がこすれあ
い、ジャリジャリ鳴った。
と同時に、小石たちが、淡い紫色の光を
四方に放ちはじめる。
「おおっ、これがあの……」
かの悪名たかい王はそう言ったきり、体
が前のめりになった。
まるで彼が床にひれ伏したかっこうだ。
「なんなの、これって。一体、どういう
こと?」
メイがドアの方を向き、誰にともなくか
ぼそい声で助けを求めた。
とたんにニッキと彼の戦友がダイニング
に、どたどたとなだれ込んだ。
かの王様は、またたく間にがんじがらめ
に縛られた。
「ちょっと待って。あたしまだ、この方
とお話があります」
メイはすくっと立ち上がると、居ずまい
を正した。
「どうして、メイ?もういいんじゃない
の。メイの役割りは終えたんだからね。こ
れからは、ほら、われわれに任せて」
ニッキがやさしげにメイの肩に手をのせ
てそう言うが、メイは首をたてに振らない。
ダイニングルームが再び明るさを取りも
どした。
ドアのそばで、ニッキと懇意に付き合っ
ていたひげもじゃの男が、にやりと笑う。
メイはふんといった、若い女性らしい
不遜な態度で男を見すえた。
「王さまの縄をほどいて」
メイが強く言うと、ニッキのまわりの戦
闘員とおぼしき男たちが、しぶしぶ王の縛
りをときだした。
「それでいいことよ。王様、それで部下
たちはいったいどうしたのですか」
一瞬の沈黙のあと、王はぶすっとした表
情で、
「わからん。朝起きたら、みな、いなく
なっていた」
と言った。
「ご家族はいかがですか」
「家族もだ。どいつもこいつも、結局頼
りにならなかった」
「そんなことないはずでしょ?惑星エッ
クスだって地球だって……、太陽系宇宙の
星々のありとあらゆる有益なものを、ご自
分のものにしておいででしょ、それなのに
裕福きわまりない、それこそ願いという願
いがすべてかなったでしょうに……、部下
たちにじゅうぶん、おすそ分けできたでしょ
うに。そんなことって……」
「あるはずないと、わが友、メイは言い
たいのだろう?」
「ええ、そうです。いま、あなたは友っ
てあたしをお呼びになりましたが、まだま
だ友だなんて言えませんわ。さっきだって
わたしが恋慕っている両親の幻影を、わざ
わざわたしに見せつけるのですもの」
メイはきっぱりと言った。
メイはそこまでたどたどしく言うと、ため
息をついた。
「そうだ。わたしがこの星の王だ」
「はあ、やはり……」
メイの息が浅くなった。
あまりの緊張のせいだろう。
(それにしては、王の側近がいない。たくさ
んの供の者がわきにていいはず)
一秒、二秒……。
時間が経てばたつほど、メイはどのよう
に対応したらいいか、わからなくなった。
もうこれ以上こらえきれないと思った瞬
間、誰かがメイの背中を押した。
メイは前につんのめり、ダイニングの床
に、どはでに転がってしまった。
「誰なの?人の気も知らないで。わたし
を突き飛ばすなんて?」
この一言を吐くことで、メイは本来の自
分をとりもどすことに成功した。
「よく来てくれたね、さあ」
王様とおぼしき男がさも親しげに言って
立ち上がった。
自信満々とはとてもいえない。
どこかに弱々しさをかかえている。
メイに近寄り、彼の作業着めいた服の袖
から大根のような白い手を差しだし、メイ
の左手をつかんだ。
メイの口唇がわなわなと震えだした。
(これから先が問題だ。決して相手を怒
らせたりしてはいけない)
メイは覚悟を決めた。
おそってくる緊張感を少しでもほぐそう
と、メイは無意識に左手で胸の小袋をいじ
りだした。
小袋の中につまっている小石がこすれあ
い、ジャリジャリ鳴った。
と同時に、小石たちが、淡い紫色の光を
四方に放ちはじめる。
「おおっ、これがあの……」
かの悪名たかい王はそう言ったきり、体
が前のめりになった。
まるで彼が床にひれ伏したかっこうだ。
「なんなの、これって。一体、どういう
こと?」
メイがドアの方を向き、誰にともなくか
ぼそい声で助けを求めた。
とたんにニッキと彼の戦友がダイニング
に、どたどたとなだれ込んだ。
かの王様は、またたく間にがんじがらめ
に縛られた。
「ちょっと待って。あたしまだ、この方
とお話があります」
メイはすくっと立ち上がると、居ずまい
を正した。
「どうして、メイ?もういいんじゃない
の。メイの役割りは終えたんだからね。こ
れからは、ほら、われわれに任せて」
ニッキがやさしげにメイの肩に手をのせ
てそう言うが、メイは首をたてに振らない。
ダイニングルームが再び明るさを取りも
どした。
ドアのそばで、ニッキと懇意に付き合っ
ていたひげもじゃの男が、にやりと笑う。
メイはふんといった、若い女性らしい
不遜な態度で男を見すえた。
「王さまの縄をほどいて」
メイが強く言うと、ニッキのまわりの戦
闘員とおぼしき男たちが、しぶしぶ王の縛
りをときだした。
「それでいいことよ。王様、それで部下
たちはいったいどうしたのですか」
一瞬の沈黙のあと、王はぶすっとした表
情で、
「わからん。朝起きたら、みな、いなく
なっていた」
と言った。
「ご家族はいかがですか」
「家族もだ。どいつもこいつも、結局頼
りにならなかった」
「そんなことないはずでしょ?惑星エッ
クスだって地球だって……、太陽系宇宙の
星々のありとあらゆる有益なものを、ご自
分のものにしておいででしょ、それなのに
裕福きわまりない、それこそ願いという願
いがすべてかなったでしょうに……、部下
たちにじゅうぶん、おすそ分けできたでしょ
うに。そんなことって……」
「あるはずないと、わが友、メイは言い
たいのだろう?」
「ええ、そうです。いま、あなたは友っ
てあたしをお呼びになりましたが、まだま
だ友だなんて言えませんわ。さっきだって
わたしが恋慕っている両親の幻影を、わざ
わざわたしに見せつけるのですもの」
メイはきっぱりと言った。