電話が黒じゃなくなってから随分と久しい。
我家に電話が入ったのは50年程前の事だ。当時は高い加入権を得た上で取り付ける事が出来る仕組み。
加入権はゴルフ会員権と同じで売買の対象になり相続も出来るいわば金券だ。
ほぼ買った時の額で取引が成立するからいざという時は売り払って糊口を凌ぐ事が出来る。
当時は電話を引くにも一苦労、お金の面もあったが順番待ちもあったからだ。
やっと加入権を手にしても随分と待たされたのを覚えている。
電話が家に付くなんてまるで夢の様で毎日親に「何時電話が来るんだ」としつこく聞いた。
日にちが決まっても時間は全く分からない。玄関でまだかまだかと待ち続けようやく夕方になって電電公社の人が来た時は嬉しかったあ。
親父は廊下の途中に電話専用の箱を設置し綺麗にニスを塗って準備は万端。
そこへ置かれた黒電話を眺めてこれから一体何が起こるのかワクワクした。
しかし電話を掛ける相手も特になく、また掛かってくる訳もない(当然だ、誰も番号を知らない)
数日間電話は専用の箱の中で沈黙していたのである。