門前の小僧

能狂言・茶道・俳句・武士道・日本庭園・禅・仏教などのブログ

能面・能装束入門 第七回

2010-11-14 09:11:52 | 能狂言
・能装束の分類

装束は着付け類、上着類、袴類に分けられる。演者は一番下に肌着をつけ、次に着付け、袴(着けない場合もある)、上着を順に重ねて着ていく。

着付け類
摺箔(すりはく)…無地の小袖に金や銀の箔で模様をつけたもの。
縫箔(ぬいはく)…刺繍と箔で模様をつけた小袖。
厚板(あついた)…地厚の織物で、力強い模様が施されている。

上着類
唐織(からおり)…様々な色糸で模様が織り出されている小袖型の装束。
長絹(ちょうけん)…袖が広く、胸と袖部分に組紐がつけられている。
水衣(みずごろも)…生地の薄い広袖の装束で能独自のもの。
袴類
大口(おおくち)…しっかりとした生地で作られた両横に広がった袴。
半切(はんぎり)…大口に似た袴で華麗な模様が施されている。
指貫(さしぬき)…裾に通してある紐を膝の下で閉めて袋状にする袴。

・能装束の着付け

普通、舞台で用いられる能面の100種程度に比べ、装束の種類はさほど多くない。単(ひとえ)・袷(あわせ)の別、織り方の変化や、無地か模様かといったことを別にすると、着付けのたぐい六、上衣(小袖の類)六、外衣(袍(ほう)の類)九、袴のたぐい四といった程度で、基本の扮装の類型は90種程度である。しかし、装束の取り合わせや、つけ方(唐織を例にとれば、ワンピース的用法のほか、ツーピース的なつけ方、右袖脱いだ着方など六通りの変化がある)、単と袷の違い、帽子、烏帽子、冠、仮髪などの変化、鬘(かつら)を締める鬘帯(かづらおび)、また腰の前に垂らす腰帯の選択などで、類型を破るくふうを凝らす。これも、基本を極端に少なくして、無限を表現しようとする能の理念によるものである。

着流し(きながし)…女性役の代表的な扮装で、袴を付けずに唐織などを着る方法。
腰巻き(こしまき)…小袖の上半身部分を袖を通さずに腰に巻き付ける方法。
肩脱ぎ(かたぬぎ)…長絹などの右袖を脱いで後に巻き込む方法。

着付例↓
http://bit.ly/aD99II

・能装束の効果

能装束には細かに揺れ動く縮緬(ちりめん)の類を用いないから、そのデザインはむしろ直線的な明快さ、張りの強い材質の重厚さに貫かれ、木彫りの能面と、幾何学的に抽象化された演技とに調和する。また様式化が極度に進んだため、むしろ面や装束が演出を規制するともいえる。たとえば、若く美しい女性の役は「紅(いろ)入り」といって赤い色の装束を用い、母親の世代や中年以降は「紅(いろ)無し」、つまり赤を用いず、これを演出の大きな基準とする。3年の孤閨(こけい)に耐えかね、夫を恨みつつ死んでいく「砧(きぬた)」のシテを、新婚まもない妻とし「紅入り」とするか、性的に円熟した「紅無し」の年齢に設定するかは、大きな曲目の解釈の相違である。
また胸元にわずかにのぞく襟の色の選択一つによっても、演出が左右されるほどである。曲目や流儀により決まりの組合せがあり、模様まで指定される場合がある。
昔は専門の物着方(ものきせかた)がいたが、現在では後見が着せる。同じ装束でも時代によってつけ方に変化と洗練がみられるのは、女性の役の基本の扮装に、五流の能と山形県の黒川能に大きな差があることをもっても知られる。
世阿弥時代の絵には、鬼の役が「けがりは」とよばれる沓(くつ)を履いているが、今日では履き物はいっさい用いず、すべて白足袋(しろたび)で、足の運びの美しさを強調する。
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次週の能と茶のカルチャー講座

2010-11-12 21:44:59 | 能狂言
途中受講、大歓迎です。
ご参加お待ちしています!
http://bit.ly/awi1Ck

11/16(火)13:00~14:30「能の奇跡を観る」
第二回 吉野の神の奇跡「国栖」
〈東京渋谷・東急セミナーBE〉

11/18(木)10:30-12:00「千利休と侘び茶の世界」
第二回 「数奇」とは?『南方録』覚書②
〈東京中央区・銀座おとな塾産経学園〉
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明日教育TVで能の放送あります!

2010-11-12 20:02:56 | 能狂言
NHK教育テレビ
チャンネル :教育TV 3ch/デジタル教育1
放送日 :2010年11月13日(土)
放送時間 :午後2:00~午後4:00(120分)

能「三山」金剛流 シテ豊嶋三千春、ワキ高安勝久
能「七人猩々」宝生流 シテ大坪喜美雄、ワキ宝生欣哉
仕舞「笹之段」宝生流 三川 泉

「三山」「七人猩々」はそれぞれ流儀の中堅実力者。
仕舞笠之段、三川師は人間国宝。今井師とならぶ宝生の大ベテランです。
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能面・能装束入門 第六回

2010-11-11 19:49:39 | 能狂言
■能装束

能に用いる扮装(ふんそう)の総称。狭義には演能用の布製品であるが、広義には演者が身につけるもので、能面を除くすべてをさし、烏帽子(えぼし)、冠、仮髪の類も含まれる。能では衣装とはいわず、かならず装束と呼称する。


・能装束の歴史

世阿弥-禅竹の伝書『人形図』を見ると、室町時代の能装束は、日常の衣装の流用、リアルな扮装程度だったと推定される。『風姿花伝』には、女に扮する場合の注意として「いかにもいかにも袖の長き物を着て、手先をも見すべからず。帯などをも弱々とすべし」とあり、今日の装束・着付とはあきらかに様子が違う。

 このように初期の能装束は質素なものであった。室町時代末期から、貴族や権力者が鑑賞するようになったため、徐々に絢爛豪華になっていく。唐織などの豪華な能装束が製作されるようになったのは、室町末期から桃山時代にかけて。特に豪華絢爛をこのんだ豊臣秀吉以降、格段と能装束の華美化は進んだとされている。
今日舞台でみる能装束の様式は、演出の固定化された江戸中期にほぼ完成された。現存最古の能装束は、観世宗家に伝わる足利義政拝領のもので、秀吉より下賜された法被をはじめ、江戸時代の徳川家、井伊家、細川家ほかの大名家所有の装束も多く保存されている。

・能装束の特徴

能装束は第一級の日本の伝統工芸作品であり、その美術的価値も高い。能装束に用いられる技術は織物が主体で、それに刺繍(ししゅう)、箔(はく)押しが用いられ、染めはほとんど用いられず、後世の友禅(ゆうぜん)染めなどは、まったく能装束に導入されなかった。

代表的な唐織は、金銀箔の糸を加えた豪華なもので、すべて織りで模様を浮き出してある。西陣織の技術の発達と、能を愛した大名たちの財力によるものである。

男の役や強い神、鬼などの着る狩衣(かりぎぬ)、法被(はっぴ)、側次(そばつぎ)、半切(はんぎり)(半切(はんぎれ)とも)などは金襴(きんらん)や錦(にしき)が多用され、かつては中国からの輸入裂(ぎれ)が用いられた。

有職(ゆうそく)の装束をそのまま流用したものに、貴人の指貫(さしぬき)や直衣(のうし)、男の平服としての素袍(すおう)、官女の着る緋長袴(ひのながばかま)がある。ごわごわした袴である大口(おおぐち)、腰に結んで前に垂らす腰帯(こしおび)、男の役にも女にも用いる長絹(ちょうけん)は有職の転化したものである。長絹や、能独特のデザインとされる舞衣(まいぎぬ)、あるいは単(ひとえ)狩衣、単法被には、絽地金襴(ろじきんらん)や顕文紗(けんもんしゃ)が用いられる。ダスターコート風の無地の外衣である水衣(みずごろも)も、能独特のものである。

織り方で「しけ」「よれ」の区別があり、また縞(しま)物もある。金銀の箔で模様を摺(す)り出した摺箔(すりはく)、刺繍と箔で文様をつくる縫箔(ぬいはく)も、主として女性の役に用いる。摺箔の三角の鱗(うろこ)の連続模様は、鬼女の性を表す決まりになっている。

なお、能の装束の絹に対し、狂言は麻を主材としている。足袋は能役者は白、狂言役者は薄い黄をはく。
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能面・能装束入門 第五回

2010-11-10 20:04:28 | 能狂言
・五番目~鬼の曲に使用される面


■鬼神の面

 五番目、切能は一般的に「鬼畜物」とも言われるが、「融」「須磨源氏」「玄象」など、貴族や殿上人をシテとする曲や、「海士」のような龍女の曲もある。
 殿上人の三曲は、前シテが「笑尉」や「朝倉尉」、後シテが「中将」の面を使用している。
 海士は、前シテで「深井」や「曲見」という年配の女性の面を、後シテでは「泥眼(でいがん)」を使う。泥眼とは、白目部分に金色の彩色の入った女面で、葵上や砧のシテにも使う。目に金が入っているのは『この世の物でない』という約束で、鬼や天狗・幽霊の面は必ず金入りとなる。むろん、尉面や中将の目には金は入らない。
 また「春日龍神」や「張良」に出てくる龍神には「黒髭」を、「舎利」や「大会」に出てくる韋駄天や帝釈天等の力神には「天神」の面を使うこととなっている。


■鬼女の面

 葵上といえば「般若(はんにゃ)」の代表曲。般若には、「赤般若」「白般若」「黒般若」の三種があり、怒りを最も直接的に表象する赤が「道成寺」専用となる。高貴な女性としての品位を保つ白が「葵上」専用。遠国陸奥の鬼婆としての獣性を表す黒が「安達原」専用、というように使い分けられる。
 道成寺の場合は「赤頭」の小書が付くと「真蛇」や「泥蛇」と言う面に変わる。これはより強いイメージを出すと同時に、赤頭と面の赤が重複してしまうためと推測される。

 現在「紅葉狩」にも般若を使うことが多い。これは「鬼揃」の小書の時で、本来は「顰(しかみ)」と言う男の鬼の面を使う。この小書は明治になって作られたもの。広い会場(当時の万博)では、シテが一人では寂しいので、前ツレを全部鬼にして後半にも大勢鬼を出す事から始まった。ところが「顰」は基本的に一人しか使わない面で、一度に五つも六つも使うことはない。般若ならどこの家にも数多くあるので、鬼を鬼女に代えて般若を使うようになったのである。
 般若に似た面が「生成(なまなり)」である。これは「鉄輪」専用面。夫に捨てられた女が生き霊となって、別れた夫と後妻を取り殺そうとする曲で、他に「橋姫」という面もある。人間性を半分残しつつ鬼になり掛かった状態なので「生成」と名付けた。完全に鬼になってしまった般若を「本成」と言う。
ちなみに般若とは本来仏教用語の「智慧」。般若の恐ろしさが能を通して、一般に定着することにより「般若」=恐ろしいというイメージが出来上がったのである。


■べしみ物

 この他にも天狗物の「鞍馬天狗」や「善界」に使う「大べしみ」。地獄の鬼「鵜飼」「松山鏡」「昭君」等に使う「小べしみ」。これは口を「へ」の字に結んでいることから「べしみ」と言われ、押さえた力強いイメージがある。
 「長霊べしみ」は大盗賊「熊坂長範」の顔で「熊坂」と「烏帽子折」に使う。
 これに対して「小鍛治」や「殺生石」に使う「小飛出(ことびで)」は軽快で切れ味鋭いイメージがあり、脇能に使う「大飛出」をスケールダウンしたような面。口をぐっとひきしめ力感を内に秘めた「べしみ」が陰、口も目もかっと開いた動的な「飛出」が陽の面といえるかもしれない。

■怨霊物

 鬼に対して幽霊になると「船弁慶」等に使う「怪士(あやかし)」や、「通小町」「藤戸」に使う「痩男(やせおとこ)」がある。今までの面に比べるとより人間臭く、暗い雰囲気があり、「黒頭」の下に付けるために一層陰鬱な表情に見える面であろう。似た顔の面に「一角仙人」に使う「一角仙人」と言う専用面もある。怪士の額に角を付けたようなおもむきである。
 老人の鬼という設定の「恋重荷」には「悪尉(あくじょう)」と言う面を使う。この「悪」と言う字は「悪い」ではなく「強い」と言う意味。様々な悪尉面がある。ただしまれに演じられる曲ばかりなので、舞台で見る機会は非常に少ない面といえよう。
この分野の専用面としては前述の「生成」の他に「山姥」や「獅子口」などがある。獅子口は「石橋」の後シテで使う。文殊菩薩の愛獣である獅子の面で、能面の中で最も大きく、重い。首を振ったり、飛んだり、身体を激しく使うシテ方にとって、肉体的に大きな負担をかける面である。
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