「同盟は家臣ではない」
日本独自の安全保障について――孫崎亨
この本を読んで感じたことと、抄録。
「同盟は家臣ではない」(孫崎亨)を読んで
戦後史の最大の疑問点は、対米従属でした。外務官僚は鳩山由紀夫首相すら引きずり降ろしたのです。吉田茂首相はアメリカ嫌いと聞いていました。対米平和条約を結ぶのに渡米することを嫌がったと聞いています。それなのに、日本は対米従属路線を選択した。それで対米従属の外交路線を建てて維持したのはなぜかということでした。それが判りました。政治家が命と職とを引き換えにしたのです。
また、「安倍首相は山上被告に銃殺されたのではない」との意見は聞いていましたが、これだけはっきりと言い切るのは初めてでした。安倍首相の存在が不都合な人たちが政府内にいたということです。アメリカでも日本でも政府に不都合な人を消す仕組みが存在しています。検察の他にもあったようです。
真珠湾攻撃も米英の戦略によって挑発され、それに乗せられて戦術が建てられ、二の矢がなかったという実態であったこと。アメリカはそれを口実に対独戦に介入した。対日戦では、攻撃前から勝利を確信し占領政策まで立てていた。
今「台湾有事」で反撃能力などと言っているが、その後の二の矢、三の矢がないこと。
先制攻撃されたらどう反撃するのか。そしてその反撃に対する再度の攻撃に対してはどうするのか。原発が狙われたらどうするのか。全く答えが出されていない。それが如何に愚かなことかが書かれている。
アメリカは大戦まで軍事産業がなく、大戦後軍事産業を創りそれが巨大化し、逆に国の政策を動かすほどになっていた(アイゼンハワー)。 今日本もその後を追っている。
敵基地攻撃力というが、二の矢三の矢がなく、戦略など無いに等しい。日本は戦争しないことが一番ではないかと思う。平和憲法を作ったのが幣原喜重郎首相だったという。
一読するに値するというより、必読の本だと思います。(黒部)
抄録
いくつかの視点を持つ必要があると。私たちは一つの信念を持ち、それによる考えや方策しか持たないが外交ではいくつかの視点が必要という。問題意識や価値観、判断の根拠となる事実の過不足を認識することも必要である。
ジョージ・ケナンはソ連に対する「封じ込め」戦略を編み出した人であり、武闘派ではなく、ハト派である。その考えは「その悪はその国の歴史的流れで変化するのであり、軍事的対決は無用の悲劇を双方に出す」という考えであった。
1985年頃の外務省国際情報局長の岡崎久彦氏が「日本は、(以下簡略)ソ連と米国という大国のあいだにあり・・、生存と平和を維持するためだけでも、どちらかの力と協力し、他の力を抑止する以外に方法がない」との考えを持ち、今日の「対米依存・隷属」の理論的支柱となった。当然「ソ連とは軍事的対峙も辞さず」とのタカ派である。私(孫崎)はハト派である。
- 福田赳夫の視点 (2) 与謝野晶子の視点 (3) トルストイの視点
(4) 夏目漱石の視点 (5) 宮沢賢治の視点 (6) 喧嘩両成敗の知恵
- 孫子の知恵 (8) マクナマラの知恵 (9) シェリングの知恵
(10)枝村大使の知恵。 ―― いつも51 点を目指す
(11)歴史に学ぶ ―― 真珠湾攻撃がどのようにして起きたか、その最重要の点は米国に誘導されたことにある。
*加瀬俊一の見方 ―― スチムソン日記「第一撃を射させるような立場に日本を追い
込むこと、これがなかなか難しい」
*オリバー・ストーンの記述
(12)「トゥキディディスの罠」の視点 ―― 客観的状況は人間が認識するものであり、その認識は、私たちの感情というレンズに左右される。
(13)「地球が異星人の侵攻を受けたら、ソ連とアメリカはどう対応するか」
(14)アメリカとは何か。
アメリカの民主主義は「その場に根差す民主主義」。その場で権力を持つ者の判断がすべて。大統領が変わると政策も変わり、継承性が無い。
(15)アイゼンハワーの国民への離任演説(後記にもあり)
第二章 最近の動向
(1) 反撃能力、敵基地攻撃をどう考えるか
(2) 中國と北朝鮮に敵基地攻撃を行なったらどうなるか
(3) 今一度孫子に学ぶ
(4) 三手先を読む知恵
(5) 柳谷健介氏の助言「二の矢三の矢」
(6) 二手目の読みで失敗した例① 真珠湾攻撃
アメリカ側ははじめから、あくまで東京を占領して、再び日本が侵略を犯しえないようにしなければならないと考えていたのである。
(7) 二手目の読みで失敗した例② ウクライナ戦争を起こしたロシア
(8-1)平和国家・憲法の基礎、「戦争をしない」は幣原喜重郎首相のイニシアティブ
(8-2)自衛隊誕生の契機は、朝鮮戦争時に日本に武力集団を作らせ派遣する構想
ケース① 後藤田正晴
ケース② 内海倫
ケース③ 加藤陽三
*2023年7月3日付け日経新聞は「円売り勢”弱る国力”突く」の標題で、①円は95年につけたピーク比の下落率が6割に達した ②平均給与水準の低さや財政状況なども含め、円安の根本的な原因には日本の国力の低下がある ③生産年齢人口の減少などで経済の実力を示す潜在成長率はゼロ%止まりであり、2%程度の米国と比べても低いことを報じた。
敗者としての東京。日本史には、敗者の役割を見つめなおす視点はあまり見当たらない
第三章ウクライナ問題への対応がリベラル勢力崩壊の原因
(1) ウクライナ戦争への対応が軍事力強化に弾み
(2) ウクライナ問題が日本の安全保障を変えた
(3) 安倍元首相はどの様な発言をしていたか
その① 2022年2月27日のフジ「日曜報道THE PRIME」
「軍国化」する勢力にはウクライナを巡る安倍発言は困る存在だった。だから彼の意見は日本社会では封印された。
その内容は、プーチンには領土的野心はないこととNATOが約束を守っていないことを明言。さらに米国がウクライナに対し、NATOへ加盟しない中立を宣言させ、親ロシア派の東部2州の高度な自治権を認めさせる努力をすべきだったとなる。
知米派の政府関係者が安倍氏に憤りを持っていたことはほとんどの日本人は知らない。
その② エコノミストの報道
2022年7月に暗殺される前の5月に、エコノミストは安倍首相にインタビューした。
安倍「戦争を回避することは可能だったかもしれません。ゼレンスキーがNATOに加盟しないことを約束し、東部2州に高度な自治権を与えることができた。・・・」
(4) 安倍元首相の発言は何故日本でかき消されたか
(5) 和平のインセンティブ
和平は戦争で失うものと和平で失うものとの比較で決まる
(6) 私の考える提言
(7) 私の提言への批判・「武力で現状変更は許せない」
(8) ウクライナ問題の理解のために・その① NATO拡大の問題
(9) ウクライナ問題の理解のために・その② 東部2州の問題
(10) ウクライナ問題の理解のために・その③ 左派系の人の見方
この戦争にどう向き合うかが問われている。その向き合い方によって、日本の進路は真逆なものになるのではないか。
(11)ロシア人は何故プーチンを捨てなかったのか
(12)主義を守ることと命を守ることの選択
米国とNATO諸国のウクライナ支援の根本がある。そしてこの点で軍拡に走るグループと、「人権派」とが一体化する。
個別案件の問題とする安倍元首相の発言は困る存在であった。
米国でもトランプ元大統領が困った存在である。トランプ元大統領は「自分が大統領だったらロシアの侵攻はなかった」、「一日で戦争を終わらせるだろう」と言ってる。
(13)国際的な和平の必要性を説く動き① マーク・ミリー米統合参謀本部議長
今和平を主張しているのが、統合参謀本部議長マーク・ミリーである。
(14) 国際的な和平の必要性を説く動き② イーロンマスク提案
この和平案は本質的には、私(孫崎)の述べてきたことと同じ。
(15) 国際的な和平の必要性を説く動き③ トルコ等
戦争は交渉のテーブルで終わる。どちらも目標は達することができない(ミリー)
(16) 国際的な和平の必要性を説く動き④ 森元首相の発言
森元首相は、「こんなにウクライナに力を入れてよいのか。ロシアが負けることは、まず考えられない」
(17)核戦争の危険
(18)日本の言論空間の完全崩壊――山上氏は安倍元首相を殺害していない
日本でプーチンを最もよく知る人は安倍元首相であった。
2022年7月8日安倍氏は銃撃されて死亡した。日刊ゲンダイの記事から
ケネディ大統領の暗殺事件でオズワルドが犯人とされたが、今日多くの米国人は単独犯行とは考えていない。
安倍氏の殺害事件は山上氏の銃でない可能性があると聞いている。
銃撃当日の治療にあたった奈良県立医大付属病院での福島英賢教授の説明では、「頸部前の付け根に2つの銃創がある。」しかし、山上被告の銃弾は安倍氏の頸部前の付け根付近には当たらない。
(黒部記、銃弾が公開されていない。隠されているとか、スナイバーが撃てる空間があったとかの説など諸説あり。マスコミは全く取り上げず、Web 上をにぎわしただけ)
(19)バイデン政権の実行力
(ここではバイデン政権と述べているが、黒部は、米国の政権すべてであると思う)
バイデン政権の怖さは政権中枢部がある方向を示すと、具体的手段が詳細に中枢部に知らされることなく実施されることである。犯行の実行犯から最終的な指示者までいきつかない。それは国家が行う犯罪行為でも同様である。
第四章 世界の新潮流:米国・欧州支配は終わる
産業革命以降、欧米諸国が世界の主導権を握ってきた。
しかし、この流れは変わる。 (それは「人新世」から始まっていた。―黒部)
大きい人口を有する国は巨大な市場を持っていることにより、優位性を築く。それが中国であり、インドであり、インドネシアである。
- CIAが示す世界のGDP比較:量で中国が米国を凌駕する
- アジア新興国の経済成長はG7諸国などを上回る
- 中国経済は質でも米国を追い越すことが予測される その1
自然科学の研究論文数
- 中国経済は質でも米国を追い越すことが予測される その2
先端技術論文数
- 中国経済は質でも米国を追い越すことが予測される その3 特許数
- 中国経済は質でも米国を追い越すことが予測される その4 米国の警戒感
- アメリカは中国に抜かれないという主張
- 中国の発展に合わせ発展するASEAN諸国
- 中國との学術協力を縮小する愚
(10)中国に輸出制限する愚 その① ―― 半導体
(11)中国に輸出制限する愚 その② 自動車関係 ――電気自動車化
(12)「ローマは一日にしてならず」→「ローマは二週間でできる?」
(13)中国は物づくり、金融は米国が一般的観念。だが実は中国は金融でも強くなった。
主要金融機関の総資産と自己資本比率でトップ4行は中国
(14)「通貨の武器化」で劣勢の中国は現時点で米中対立の激化は出来ない
(15)「ドル覇権の崩壊」と米国覇権の崩壊① IMFの見方
(16)「ドル覇権の崩壊」と米国覇権の崩壊② イエレン財務長官の懸念
(17) 覇権争い:No.1がNo.2に抜かれると感じた時、戦争が起こる
(18)米国民にとってどの国が敵か
(19)米中対立激化の中で、中国は米国に何を訴えているか
第五章 台湾海峡で米中が戦えば米国が負ける
(1) ランド研究所の見解
米中の軍事バランス:台湾周辺、2017年 中国優位
(2) アリソン、クリストフの指摘「18のウォーゲームの全てでアメリカは敗れている」
(3) 「中国の侵攻は撃退可能、米軍の損害も甚大」―台湾有事シミュレーション
(4) 米国の狙いは台湾と日本が中国と軍事紛争を行うこと、ウクライナのパターン
「米国が約束を反故にして緊張を作る」という構図は、台湾問題でも同じである。
(5) 米国が中国にどのような約束をしてきたか
- ニクソンが中国を訪問した時の第一次米中共同声明
- キッシンジャーと周恩来会談、1971年、
- 1978年の米中共同コミュニケ
- 1982年の共同コミュニケ
- 上記文書の総括
米国は一貫して「台湾は中国の一部である」との中国の立場を受け入れている。
(6) 日本は中国との間にどのような約束したか。
(7) いかなる時に台湾を巡り軍事紛争が起きるか
台湾が独立を宣言した時あるいは独立を宣言することが確実なとき。
(8) 台湾世論動向 ―― 現状維持が7割
(9) 尖閣諸島の法的位置づけ ①国際的に見れば尖閣は「日本固有の領土」ではない
日本は第二次大戦で敗れた。「ポツダム宣言」を受諾した。連合国が認めた島が含まれる。
(10) 尖閣諸島の法的位置づけ ② 連合国の対応
連合国側は尖閣諸島を日本領土としてことはない。
(11) 尖閣諸島の法的位置づけ ③ 米国の対応(主権は係争中)
(12)尖閣諸島は「主権は係争中だが管轄は日本」という解決 ①米国の対応
(13) 尖閣諸島は「主権は係争中だが管轄は日本」という解決 ②栗山元外務次官の説明
1972年に日中間の首脳のあいだに棚上げしましようと言うことで暗黙の了解ができた
(14) 尖閣諸島は「主権は係争中だが管轄は日本」という解決 ③橋本恕(当時中国課長)の説明
(15) 尖閣諸島は「主権は係争中だが管轄は日本」という解決 ④ 読売新聞社説
1979年5月、「尖閣問題を紛争のタネにするな」との社説
(16)日中間に紛争を作りたい人々
(17)日中漁業協定の存在
河野太郎議員のブログに詳しい。この領海水域は、お互いに自国の漁船だけを取り締まることとしている。それが漁業協定。ほかには協定はない。
第六章 日本はなぜ国益追及でなく、対米隷属の道を歩む国になったか
(1) 今や、国益的思考を喪失した国
(2) 終戦直後より日本社会に脈々と続く、命、地位と引き換えの対米協力
日本の統治に日本側の協力者が必要になる。かっての支配層の利用が都合がよい。
命と職と引き換えに「米国協力」
政治面――昭和天皇、岸信介、吉田茂、賀屋興宣など。
以下官僚、経済界、報道界、学界、司法、検察など略。
(3) 朝鮮戦争時の対米協力:「戦争をしない」「民主主義」「自由主義」が崩壊
朝鮮戦争で日本は、実質戦争に参加している
1945年報道界の赤色分子解雇(レッド・パージ。その後朝鮮戦争時にも、70年安保時にも)
(4) ソ連崩壊後の米国の「敵国」と日本参戦の方針
戦後の構図が崩れる。日米安保条約は実質的に終わっている
(5) 細川政権が潰される
(6) 次の標的は福田康夫首相
ブッシュ大統領のアフガンに支援をとの求めに対し、福田氏は「陸自の大規模派遣は不可能と返答した。その後圧力で福田氏は辞任。福田氏が投げ出す前に自民党には「3A+S」連合ができる。3Aは安倍(岸信介の孫)、麻生(吉田茂の孫)、甘利、Sは菅である。
占領体制の復活である。
(7) 民主党政権誕生の直前に小沢一郎氏が、民主党政権発足後は鳩山氏が標的に
小沢さんは民主党代表になることを、鳩山由紀夫首相は普天間基地を「最低でも県外移設」として、つぶされた。
(8) 米国は再度「ロシア」「中国」を主敵とする「新冷戦」に
テロとの戦いは終わった。次は「新冷戦」に
(9) 「新冷戦」の中、米国は岸田政権を重用
第七章 平和を構築する
(1) 西側諸国がロシア・中国を敵とする「新冷戦」は長続きするのか
今西側諸国はロシア、中国を敵とする「新冷戦」に入った。
冷戦は、第二次大戦の終わりにトルーマン大統領の誕生した時に始まり、ソ連の崩壊まで約40年続いた。
ソ連崩壊後、イラン、イラク、北朝鮮を主敵とする「テロとの戦い」は約30年続いた。
では今新たに出てきている「新冷戦」はどれくらい続くか。
結論として言えることは短期であろうということだ。
米国の力は落ち、経済制裁が効かなくなった。米国、欧州諸国は格差社会が拡大し、政権党への支持は低い。ブリックス諸国をはじめアジア・アフリカ・中南米諸国の力が台頭している。トランプが当選したら足元から崩れる。
(2) 米中衝突論:「トゥキディディスの罠」のグレアム・アリソンの解決策
アリソンは「現在の軌道では、数十年以内に米中戦争が起こりうる可能性は、ただ”ある”というだけでなく、非常に高い。過去500年の例を見ると、戦争になる確率は50%以上だ」としている。彼は戦争回避の処方箋を考えている。
彼はまず、「平和を維持した4例に見る12のヒント」を挙げている。
ヒント1:高い権威を持つ存在は、対立解決の助けになる
ヒント2:国家より大きな機構に組み込む
ヒント3:賢い国家指導者を擁する
ヒント4:重要なのはタイミングだ(絶好のタイミングはしはしば予期せず訪れるが、
あっという間に失われてしまう)
ヒント5:文化的な共通点を見出す
ヒント6:この世に新しいことなどない。核兵器以外には
ヒント7:相互確証破壊(MAD)により総力戦は狂気の沙汰に
ヒント8:核保有国間の熱い戦争は、もはや正当化できない
ヒント9:それでも核超大国は、勝てない戦争をする覚悟が必要
ヒント10: 経済的な相互依存
ヒント11: 同盟は命取りになりかねない
ヒント12: 国内情勢は決定的に重要である
彼は米中関係に特化して次の4点を記述する
オプション①:新旧逆転に適応する
オプション②:中国を弱体化させる
オプション③:長期的な平和交渉をする
オプション④:米中関係を定義しなおす
これを見ると「核兵器時代であるから超大国間では戦争ができない」という客観的な状況以外、戦争を止める力になるか疑わしい。
(3) 「核兵器の使用」が米ロ、米中の全面対決を防ぐほぼ唯一の手段
バイデン大統領はプーチン大統領を排除するため、いくつかの策を打ち出した。
武器を提供する
経済制裁をする
ロシアの石油・天然ガスの輸出を止める
2022年ロシアの侵攻前、バイデン大統領は記者会見で「もしロシアがウクライナに侵攻したら、ノルドストリーム2(パイプライン)は存在しなくなる.我々はそれを終わらせる」と述べ、後、ノルドストリーム2は誰かの手によって爆破された。米国の行動はかなり危険な所にまで進んだ。武器支援でウクライナが押し返した。
こうした中でロシアに危機感が出る。ロシアが「通常戦で敗北することがあったら、核兵器の使用も辞さない」との立場を鮮明にした。
米国はウクライナへの全面的軍事協力の方針を修正した。ロシア国内へ攻撃できる武器をウクライナに提供することを躊躇した。こうして「核兵器の使用」が米ロの全面対決を防いでいる。この点は米中も同じである。
(4) アメリカの狙いは何か
日本・台湾に中国と戦わせること。「テロとの戦い」は一つの弱点を持っていた。米軍の中に死傷者が出る事である。ウクライナ戦争では米軍は直接戦闘に参加していない。
では米国は何を目指すか。
- 日本と台湾に、中国が容認できない行動をとらせる ②反発した中国に、台湾、日本
を攻撃させる ③これでもって国際的に中国に制裁を行なう ④中国の経済発展には国際貿易が極めて重要であるため、中国経済は甚大な被害を被る。
そのためには、台湾、日本に対して軍事紛争の際には、米国が常に軍事的に支援するという幻想を与えてい必要がある。
「米軍が日本を守る」は幻想。
(5) 尖閣での衝突時、日米安保条約があっても米国は戦う義務は負っていない
(6) 「核の傘」はない
(7-1)約束を守ること、それは平和の第一歩である(ウクライナ問題)
ジョージ・ケナンは「1998年に米国上院がNATOをポーランド、ハンガリー、チェコに拡大する決定を行ない、これが新冷戦の始まり」と述べている。
これは1990年に米国らがゴルバチョフソ連大統領と交わした「NATOの管轄は1インチたりとも当方に拡大しない」という約束を破り拡大した。
(7-2)約束を守ること、それは平和の第一歩である(台湾問題)
米中、日中国交回復の時に①外交関係の樹立には、台湾問題が最重要である。②中国は、「台湾は中国の一部である」という立場を主張し、日米はそれを認識して行動をとるという約束をした。米国と日本がこの立場を際確認すれば台湾問題は起こらない。
(8-1)新しい枠組みの模索:その① 南極条約の知恵の拝借
資源の開発を行わなければ、紛争は生じない
領有権は保留するも軍事利用は禁じ、さらに鉱物資源の開発までしないようにすることは学ぶものがある。
(8-2)新しい枠組みの模索:その② 尖閣諸島、その周辺海域を国際自然保護区に
- 経済の相互依存関係の強化は戦争を避ける道、それをさせないバイデン政権
戦争は多くの場合、資源の争奪戦である。
1955年バンドン平和十原則
- 全ての国の主権と領土保全を尊重
- 他国の内政に干渉しない
- 集団的防衛を大国の特定の利益に利用しない。また他国に圧力を加えない。
- 侵略または侵略の脅威・武力行使によって、他国の領土保全や政治的独立をおかさない。
しかし、私たちは、平和を創るには「構想」を出すだけでは不十分である。「構想」を実現させるだけでは不十分である。「構想」を守り、「構想」の実現を阻もうとする勢力との対峙が必要である。
アイゼンハワーの離任演説(1961年1月)は、米国国民に対する極めて異例の警告だった。
・平和を維持するための不可欠の要素は私たちの軍組織です。
・最後の世界戦争までアメリカに軍事産業が全くありませんでした。しかし、国家防衛の緊急事態のために、巨大な規模の恒常的な軍事産業を創設せざるを得なかった。多数の男女を雇用し、多額の費用を軍事に費やしている。
・我々は、政府の委員会等において、それが意図されたものであろうとなかろうと、軍産複合体による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかもしれない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう。
・この軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません。
・何ごとも確かなものは一つもありません。
・警戒心を持ち見識ある市民のみが、巨大なマシーンを平和的な手段と目的に適合するように強いることができるのです。その結果として安全と自由とが共に維持され発展していくでしょう。
軍産複合体の脅威と言えば、多くはこれを「陰謀論」という。だがその脅威を述べているのは輝かしい軍歴を持つ米国大統領自身である。
そして今日,その危険は従来以上にましたと言える。
トランプ大統領は在任中、海外の米軍基地は不要と言った。対立の続く朝鮮半島では、朝鮮戦争の最終的決着、平和条約の締結を目指した。軍産複合体の根本を揺るがしたと言っていい。
2020年の大統領選挙では、元国防省、国務省、CIAなどの高官、学者等約500名が署名し、バイデン支持を発表した。極めて異例である。そして軍産複合体の利益のために働く政権を作った。
アリソンの言葉を借りれば、・・・「アメリカの民主主義が致命的な徴候を示していることを懸念している。根底には、公職につく者の倫理観の衰え、制度化された腐敗、・・・そして短絡的なメディアがある」現象と関係がある。
平和を構築する構想が無いのではない。
「平和を構築する構想」を排する社会になっていることに、西側社会の病気の深刻さがある。
終章 日本のこれからの安全保障について
原則1:「同盟は、家臣ではない」。先ず国益から論ずるという姿勢をとろう。
世界情勢は米国一極支配ではなくなった。
2023年4月マクロン仏大統領は記者会見で「(米国の)同盟国であることは米国の家臣になることではない。自分たち自身で考える権利が無いと言うことにはならない」と述べた。
原則2:「米国を恐れるな」
米国に逆らった政治家は米国に潰されることはある。
原則3:「日本はロシア、中国、北朝鮮の軍事大国に囲まれている。いくら努力してもこれに対抗できる軍事国家にはなれない」
本当に軍事力で対抗しようとするなら、日本は「非戦」「民主主義」「自由主義」を完全に捨てなければならない。
原則4:「小敵の堅(けん)は大敵のとりこなり(小部隊で強気になると大部隊の餌食になる)」
日本の安全保障論で不思議に思うのは、こちらが「敵基地攻撃」などをしたら相手国はどうするかという議論がないことである。人口が密集し、原発が立ち並び、攻撃された日本は、攻撃された時での被害は甚大である。武器は高度化し、防御はほとんどできない。ロシアのウクライナ攻撃も(イスラエルのガザ攻撃も)何らの聖域はない。
原則5:「米国が軍事的に日本を防衛するのは、自国の利益と一体の時に行なうのであり、条約があるからではない」
原則6:「台湾海峡を巡り米中衝突の際は、米軍は中国軍に負ける」
原則7:「戦いに入れば、武器の高度化によって、戦いで得るものと、戦いで失うものとの比較で、勝敗と関係なく、後者が圧倒的に大きい」
原則8:「外交は『自己の主張においての100点中、50点取るのが理想』という妥協の精神を持てば妥協の道は常にある」
原則9:「過去の合意の順守をする気持ちで臨めば、大方の問題はすでに武力紛争に行かないような枠組みが設定されている」
原則10:「『好戦的』で『不確定』な北朝鮮に対してすら、攻撃させない道がある」
原則11:「ロシア、中国、北朝鮮とは外交努力をすれば武力攻撃を受けることはない」
原則12:「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と恐れられた時代に回帰しよう」
「日本の経済の奇跡」を遂げた原因は何であったか。
1:真摯な客観情勢の分析に基づく政策の立案と「日本株式会社」と呼ばれた官民一体の取り組み (今は、小泉元首相ですら、「原発は安全、原発は安い」は皆嘘だったと言っている中、原発に戻ると言うごとき偽りの政策がばっこ)
2:高度な裾野の広い教育水準 (今では公的教育費がOECD諸国より下位)
3:一億総中流 (格差社会を作らない社会である→今は中流の少ない格差社会)
4:資源を非軍事に集中 (今は、軍事費の増大)
つまりこれらの要因と現在の状況とは、皆逆である。
現在の日本は衰退の方向にまっしぐらに進んでいるが、敗戦直後の悲惨な状況と比較すればどれほど恵まれているか。流れを変えるチャンスはまだまだある。
おわり