goo

トレイントーク0406-1 急行大和だせぇ~!

2008年04月06日 23時03分52秒 | 急行特急TH発2007年→2019年5月1日AM11:59
嘘電?いや臨電?いいえ、定期列車。有り得ない行き先。何故に大和行き急行なんて出来たのか?不思議な列車である。
大和到着後は、回送電車で相模大野または喜多見まで廻される。大和駅滞泊では無い。
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

Mind Feeling0406-1 ブログ修正と物語掲載

2008年04月06日 22時59分09秒 | 急行特急TH発2007年→2019年5月1日AM11:59
今日、4月6日、ブログのカテゴリーを5項目に整理してみた。昨年の記事は全て「急行特急TH発(2007)に移し替えた。
また、リンク先のつよんじゅん様のサイトで掲載した物語を全て本サイトにて再掲載したが、気分的には微妙な感じである。
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「イメージスケッチ」 (2007年10月発表)

2008年04月06日 19時44分13秒 | 物語・小説
「イメージスケッチ」
(1)
(ドタキャンかよ…やってくれたよ)
 ある日の日曜日、練馬潤一郎は名無ヶ丘団地にある喫茶店で、携帯を見つめて奥歯をかみ締めていた。今日は、友人の師岡(シオカ)達と会って遊園地へ行く予定だったのだが、30分前にメンバーの集まりが悪い事を理由に中止するというメールが来たのだ。その時、潤一郎は既に電車に乗っていたのだ。行き場を無くした潤一郎は、特にこれと言う理由もなしに、この団地に近い名無ヶ丘駅で降りて、ここまで来たのだ。途方に暮れた所で、この喫茶店に入った。
(これからどうしよう)
 潤一郎は、フーッと長いため息を着いた。
 天気は抜群で、お出かけ日よりだが、その青い空が何だか皮肉に思えた。
 コーヒーの上に乗っかったソフトクリームを弄びつつ、ふと窓の向こうを見た。
(あいつは、ひょっとして)
 スケッチブックを片手に鉛筆を動かしている1人の少女の姿が目に入った。

(2)
「霞田?」
 思わず店を飛び出して、潤一郎は少女の所に行った。その人は潤一郎が高校2年の頃、同じクラスで3学期の終りになって知り合った霞田阪奈だった。彼女が描いていたのはベンチの上でギターを持った1人の少年だった。
「また変な所で会ったわね」
 ああ、ありがとね、と潤一郎を一瞥した後、ベンチに座る少年に声をかける。
「相変わらず、絵描くの好きなのか?」
「うん。だらだら続いてる感じ」
 霞田はスケッチブックを閉じると脇に抱えた。
「そっちの人は?」
「さっき会ったの。ここでギター弾いてる姿見たら急に描きたくなって」
 それは凄い話だな…と潤一郎は思う。この少年の名前は、印台叔丘(インダイ ヨシタカ)と言った。
「そうだ、折角だから名無ヶ丘中央公園でも行こうか。こっから近いし」
 彼女の提案で3人はそこへ行った。道すがら彼らは自分自身の紹介を軽くした。

(3)
「ギターに駄文作成に絵か…芸術の3つが揃ったって感じね」
 霞田はふっと笑った。
「去年まで、あんたみたいな奴が近所に住んでいたんだけど、引っ越しちゃってさ」
「そっかー。そいつは惜しかったな」
 きっと親しかったんだろう、と潤一郎は思う。一瞬だけ見せた霞田の表情がそう物語っていた。
「印台君は、ギター歴長いの?」
「3年くらいです」
 訊けば、彼は高校1年生で中学の音楽の時間にギターと出会い、好きになったと言う。
「どう?1発、小説書ける気配は無いの?印台君をベースに」
「簡単に言うなよ」
 唐突さは変わらないな、と潤一郎は思う。
「そう言えば〝東京渋谷W物語〟はどうなったの?復活させたの?」
「懐かしいな、っていうかよく覚えてるな」
 潤一郎の第2の趣味である、「鉄道に乗る」というのを活かして、中学時代の部活で発表した作品だった。何かのキャラクターの名前からそんなタイトルをつけた記憶があった。

(4)
 他愛も無い談笑を楽しんでいる中、不意に霞田が潤一郎に、
「この中身、見てみる?」
 と訊いてきたので、彼はスケッチブックを受け取った。
「色々…」
 描いているんだ、と潤一郎が言おうとした時、霞田は印台少年と楽しそうに話していた。彼は黙って沢山のページに描かれた絵を見る事にした。
(うわ、誰も居ない校庭に転がる1個のボールか。それに夕暮れ時とは…切ないなぁ)
 潤一郎は、パラパラとページをめくって行く。
(団地街で遊ぶ子供達か…少子化だってのに居るんだな)
 小さな公園でキャッチボールをしている兄弟と思われる2人の少年が描かれていた。
(うん?扇風機?また妙なもの描くな)
 木製の机に置かれた小さなそれが描かれた所で手が止まった。
(何か話に使えるかもな)
潤一郎は、大きく頷いた。
(どんな風にしようか…)
 そのページを見開いたまま、しばらく考え込んだ。

(5)
 その日の別れ際になって、潤一郎は霞田の書いた絵をコンビニでカラーコピーした。
「変わり者ねぇ~。こんな扇風機1個でどんな話を描こうってのよ」
 信じられない、と霞田は首を振った。
「面白そうな感じしますね」
 印台は、ちょっと笑顔を見せた。
「どんな風にする気なの?」
「ファンタジーな世界の中での学園物でも描いてみようかって思ってるんだ」
 まだはっきりとした形にはなっていないけれど、何かが潤一郎の中で走り始めているのだ。
「イメージスケッチ。インスピレーションで何かが生まれるって何かの本に書いてあったような気がします」
 印台が不意にそんな言葉を口にした。
「こんなんで?ありえなくない?まぁいいわ。やるって言ったからには、ちゃんと完成させたものを私達に見せなさいね!」
 絶対よ、と霞田に詰め寄られた。
 数ヵ月後その絵から『ティステルの足跡』という作品を潤一郎は形にし、彼女達に発表する事になった。

 あとがき
 これが最後の作品となった。全13作品を一手に書いてきた訳だが、毎回毎回異なった写真だったので、構成を考えるのが1つの楽しみであり苦労でもあった。このうち2作品は、私の我侭で創り上げたものだった。
 今回もどう仕上げようか考えている中で、「最終回」となったので、ならば、この「イメージスケッチのコーナー」も織り交ぜてこの掲載写真につなげようと言う事で出来上がった作品である。しかし、お気づきの方もいらっしゃると思うが、第11作品の番外編となった。しっかりとキャラクター設定はしていないが、ヒロイン的な霞田阪奈は高校を卒業している事になっている。主人公とは同い年という形にしているが、一体、2人は何をしている設定になっているかは…。
 そこまで第11作品の『2つを繋ぐ物』に思い入れはなかったのだが、丁度、今回の作品を描くにあたって、『2つを繋ぐ物』で使われた写真の中に、喫茶店のような店があったを思い出して、使えるかなと思って作った次第である。それとあとは、先週10月20日か21日に管理人様が西新井駅に行かれた時のコメント欄にかつての友人が描いた『大東京日比谷線物語』を思い出して書き込み、ついでに私が描いた『東京渋谷W物語』も思い出した。そして「東京渋谷W」と名乗る男の主人公の本名が、練馬潤一郎という設定していた資料が出てきたので、今回の作品の主人公の名前がすんなりと決まったのである。ちなみに、脇役で出て来ている、印台叔丘という少年は、以前話したラジオフリーランスのキャラにあったのをそのまま流用している。苗字から解る通り、北総鉄道の印西牧の原駅がヒントになっているのは言うまでも無い。ファーストネームは、適当に名前をつける本から引っ張り出した記憶がある。
 そんなこんなで今回の作品が出来上がった。本当にこれまでありがとう御座いました。またこんな風に作品を発表できる機会があったらと思います。リンク先のつよんじゅん様そして読者の方々、本当にありがとう御座いました。
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「ブログ写真」 (2007年9月発表)

2008年04月06日 19時23分04秒 | 物語・小説
「ブログ写真」
(1)
誉田響ノ介(ヨダキョウノスケ)は、3ヶ月前に趣味でブログを始めた。きっかけは、偶然ネットサーフで引っかかったブログサイトだった。その中身は、響ノ介が好きな鉄道系で、実際に乗りに行った記録もあれば、知識的な話もあり、そしてそのサイトの管理人が日々感じた事なんかも書かれており、読んでいて「あー、そう言うの自分にもあるかも」と思うのは勿論の事、文書表現も独特の色があって、結構彼は楽しんで見ていた。
 そこで、読む側から情報を発信する側に立ってみた。初めのうちは、「いけるかも」と思った。しかし、続けていくと、次第にネタに詰まり出し、更新が滞りがちになっていった。
 ある土曜の事だった。
(毎日、よく続くよ、このブログ)
 響ノ介は、いつものサイトを見て、溜息をついた。
(あれ、この写真…)
 地元で撮ったとされる1枚の写真に彼の目が、ふと止まった。

(2)
(緑が減ったけど、この感じはあの場所だよな)
 響ノ介が小学校時代に住んで居た所にあった小高い丘から見えた風景にそれはよく似ていた。
(エアガンの弾にエロ本にゴミが落ちてたんだよなぁ~)
 数ある色の中で「銀色」がプレミアもので、見つけるとプライオリティーがあったエアガンの弾。随所にモザイク処理が加えられたエロ本も、当時は「単なる本」でしかなく、そこにある価値を見出せなかったあの頃。原型を留めて留めていなかった大小様々なゴミ達から発せられた妙な匂いを、彼は思い出していた。
(訊いてみるか)
 確かめた所で、何かがどうなる訳じゃないと彼は知りつつも、そのサイトの管理人宛にメールしてみた。すると、

「ご名答。ご指摘の場所です。地元を知る方が常連の方で居られたとは驚きです」

 という回答が来た。
(随分変わったな。あんなマンションに家が建つとは…)
 京ノ介は大きく息を吸って吐いた。

(3)
(あー、これだ、これだ)
 昔のアルバムを京ノ介は、翌日、物置の奥から引っ張り出した。生前写真が好きだった彼の祖父が、引越しの時、記念に1枚どこかの景色を撮りたい…と言って連れて行ったのが、あの場所だった。そして、きちんとアルバムの中に、遠い日を閉じ込めて今日と言う日まで残っていた。
(地主が死んだって話だったけど、こうも変わるとは)
 それを例のブログサイトの管理人は、京ノ介が去ってからの事をポツリポツリとサイトで紹介される中で知った。
(にしても、あの管理人は一体誰なんだ?)
 祖父が残したアルバムを引っ張りだした時、小学校時代の卒業アルバムも一緒に見つかった。引っ越したのは、卒業と同時だったので、なんとかそれを手にする事が出来たのだ。
(この中で〝鉄ちゃん〟なんて居たのか?)
 パラパラと顔写真を見るがピンと来ない。
(変な偶然)
 京ノ介はポンとアルバムを閉じた。

(4)

「今度、お会いしませんか?まだ地元に知り合いが数人居るので、昔話をしましょうよ」

 そんなメールがあのサイトの管理人から来たのは、知り合ってから数週間後の事だった。
(会うって言ってもなぁ)
 京ノ介は、戸惑っていた。彼の地に住んでいたとは言え、良くも悪くも跡をつけた事で突きつけられる「過去」は、どうしても「悪さ」が際立ってしまうし、そんなに良い思い出がある訳でもない。それに特別好きだった訳でもない。どうしようか…としばらく考えたが、とりあえず会う事に決めた。

(家にマンションは立ってもやっぱ寂びれたな)
 かつての地元の駅から彼の地へ行くにはバスを使う必要があった。以前は10分間隔で走っていたのだが、今では15分間隔になっていた。実際、バスに乗ってみると乗客数は少なく、白髪姿の人間が多く見られた。
(この道の狭さは相変わらずだな)
 彼は目を細め、流れ行く景色を見つめた。

(5)
(ここか)
 あの丘へと続く道の景色も少しは変わっていたが、なんとか記憶を繋げてたどり着いた。
「あ、誉田さんですか?」
 不意に声がして彼は振り向くと、見知らぬ3人が居た。
「初めまして…はヘンかも知れませんが、向島です」
「あー、あの放送委員で昼の給食の時に、笑わせてくれた」
 写真では思い出せなかったが、今、はっきりと京ノ介の脳裏に遠い日が蘇った。原稿を教員の声真似や妙な声色を使って読むので、牛乳の噴出しが多かった。
「マイクの前で喋るの大好きだもんね」
 側に居た女性が笑いながら言うと、
「ホントだよな。似合ってるけど」
 もう1人の男性がそう言った。
「それが講じて、ブログやってんすよ。まぁ人も物もずっと同じ所には居られないですけど、記憶だけは永遠ですから。昔話で盛り上がりましょう」
 向島はそう言うと、彼の家に一行を招き入れ、記憶に閉じ込めた日々の事を語り合った。
 2度戻れぬあの時代の事を…。

 あとがき

「人も物もずっと同じ所には居られないですけど、記憶だけは永遠ですから」

 お得意の「懐古路線」な話であるが、そんな所だと思う。
 私が20数年住んでいる地元も、やはり原型を留めているものは少ない。だからあとは、「記憶」か「記録」で残していくしかない。残したところで、大して価値はないかもしれないけれど、「足跡をつけてきた」という事は、良くも悪くもそれは「変えられないもの」である。
 たまたま今回の題材の画像が、自分の近所にかつてあったような景色に似ていたので懐古的な話とした訳だが、本文中のエアガンの弾とかエロ本が落ちていたというのは、実話で、20数年前はそんな地元だったのだ。
 そして、第12作品の本文は2000文字の5部構成という初の試みであった。これが、ほぼ私に文章を書くきっかけを与えた深夜放送のラジオ小説の形である。5週で1話完結とし、400字原稿用紙1枚に「あとがき」までそえてリレーしていく形式だった。流石に、「あとがき」に関しては一括でこうして書いている。案外、2000文字が丁度、読み手にとっては良いのかな…と思ってみたりする。長いほうが当然、色々と書けるのだが、書けばよいと言うのもないので、分量配分は毎度適当である。

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「2つを繋ぐ物」 (2007年9月発表)

2008年04月06日 19時15分49秒 | 物語・小説
「2つを繋ぐ物」
 
(1)エピローグ
 俺の名前は、海崎早記(カイザキ サツキ)。
 公立名無ヶ岡高校の2年。
 部活は、文芸部に入っているが、俺の高校の場合、実質帰宅部という感じが強い。一応、自分達が作った物語を形にする事はあるが、何か共通のテーマで物語を持ち寄るという事はないので、部員同士の打ち合わせは、創り上げた物語を印刷したものを1冊の冊子にまとめる時に集まる程度で、それ以外は、各々勝手に・・・という感じだった。
 大して刺激的でもない部活に、学校生活に色がつく事になったのは、ありきたりな話ではあるが、1人の人に出会う事からだった。

 (2) ありふれた日常から
(始まってからまだ15分か。だるい授業だな)
 その日の午後一の講義は、原稿棒読みのような英語の長文読解(リーディング)だった。機械的に読んでは訳しを繰り返していくのだが、大抵、「教科書副教本」を持っている連中(俺も実はその1人)が多いので、ある意味「国会中継」のような感じで、眠くなる一方だったが「とりあえず起きて」は居た。しかし意識が飛ぶのは時間の問題という感じだった。
(能台は、相変わらず寝てると・・・)
 俺の前の席に座る、能台偉薙郎(ノウダイ イチロウ)は頭を机に乗せて夢の中だった。
(こういう時に、見られる夢って何なんだろう?)
 やっぱりエロ系だろうか、と俺は想像してみる。

「こんな、教室の中でそれはなくね?やっぱ、睡眠学習。これだね」

 胸の中のもう1人の自分が、踊り出てきて、存在感を大きく主張する。

「よっしゃ!これで完璧!」

 木目調の机の上にテキストとノートそれに辞書があって、ガッツポーズをとる能台が、ちょっと想像出来なかった。
(っていうか、そんなキャラでもないよな)
 何気なしに俺は、頬杖ついて目の前で眠っている彼の後ろ姿を見つめた時だった。誰かが、俺の背中をつついていた。
「あたってるぜ、お前」
「えっ?」
「どうしました?どこが解りませんか?」
 小柄でやせ身の三柿野という担当教諭が、か細い声でそう言い、テキスト片手に俺の方を見ていた。
「どこまで、行った?」
 俺をつついた多賀に、慌てて訊く。
「ここ」
 だるそーに、彼は、ペン先で文章をさしたので、俺は「虎の巻」を使ってその場をしのいだ。
「相変わらず、ボーッとした人多いですね、このクラス。ただでさえ、赤点の人多いのに」
 チクリとイタイ言葉を言われたが、それ以上の事はなくてすんだので、俺はホッとした。
 だが、彼女の言う通り、ここ2年F組は、学年の1位と2位を争うようにとっている優等生の2人が居るのだ。そして、彼らを追従するように、「トップクラス」の人間が4,5人在籍しているので、赤点の基準を上げているのだ。
 クラスの担任の黒山(社会の地理の担当でもある)が、初めて、ここへ来た時、

「うわ、頭のいい奴の顔ぶれが他のクラスより多いな。“F”ってなだけに、落第者が多く出そうなクラスだな」

 恐ろしいものよ、と言う彼の言葉が印象的に残り、きっと、それを警戒して周囲は行動するだろうと思いきや、俺みたいに、「気にしない」あるいは「諦め」という想いが自然と広がり、今日に至っている。
(無理なものは無理だよな)
 俺は、唇を突き出して顔をしかめた。負けず嫌いは、負けず嫌いだけれど、そんなレベルを通り越しているのだ。優等生達の背中は、見た目以上に遠いのだ。

「あーまたねっちゃったよ。あいつの声は、毎回眠くなるな」
 三柿野が教室から出て行った後、能台が何時もの様に、ノートを見せてくれ、とせがんだ。
「ちゃんと起きてろよ。お前、頭いい癖して寝てるなんてずるいぞ」
この能台という奴は、講義中眠っていても、全教科平均点を上回る結果が出せるのだ。
「別に、こんな学校入っちゃった時点で、大学いけるかいけないかギリギリって所なのに、釈迦力になってどうする?」
 あいつらじゃあるまいし・・・と優等生を指しながら、俺のノートを写していた。
「けど、全く見込みがない訳じゃないんだぜ」
「うるせーな。俺は、そんな事より、夜中の番組観る方が大事なんだよ」
 そう、この能台という男、ある意味ではオタクの部類に入るのだ。一般的にあまり知られていないテレビ番組(バライティからアニメまで)にラジオ番組(マイナーな歌手を数多く知っている)が大好きなのだ。それを得意げと言うか嬉しげに友人達に彼は話すのだが、不思議と引き込まれてしまう話術の持ち主だった。けれど、そんなにクラス内で人気があるかと言うとそうでもない存在だった。

 そして、その日の放課後の事だった。
(絵・・・描いてるのか?)
 1人の見かけない顔の少女が、家の近所でスケッチブック片手に鉛筆を動かしているのを見た。
(ベンチに銅像が座ってる所なんて、絵になるのか?)
 俺は思わず立ち止まって首を傾げてしまった。

(3)出会いから「知り合い」へ
(へぇー、結構、うまいじゃん)
 彼女が手にしているスケッチブックを何気なく俺は見て、そう思った。
 その時、不意に、彼女が俺に気付き、弾かれるように描く手を止めた。
「あっ・・・ごめん。別に、邪魔するつもりはなかった。ただ、その・・・珍しくて」
 そのまま続けて、と俺は右手の手のひらを上にしてスケッチブックを指した。
「名無ヶ岡なんだ」
 彼女は俺をちら見すると、再び手を動かし始めた。
「えっ?」
「制服。名無ヶ岡のでしょ」
「あーこれ?」
 思わず俺は、自分の制服の胸下辺りをつまんだ。
「あたしもそこなの。何年何組の誰なの?自己紹介くらいしなよ」
 礼儀でしょ・・・ときつめに言われて、俺は戸惑ってしまったのだが、答えてみた。
「同じ学年なんだ。見ない顔。あー、あたしは霞田 阪奈(カスミダ ハンナ)。クラスはA」
「Aなんだ。部長の広袴(ヒロハカマ)と同じか」
「へぇー、文芸部なの?」
 またさっきみたいに彼女は俺をちら見した。
「うん。一応。霞田さんは、やっぱ、美術部?」
「ううん。帰宅部。別に、部活やりたくないし」
 彼女は首をゆっくりと振る。
「さて、こんな感じかな――毎度、代わり映えしない絵」
 目を細め、スケッチブックの両端を持って霞田さんは、溜息混じりにそう言い「見てみる?」と俺にノートを渡してきた。
「沢山描いてるね」
 手にした時に、他のページに描かれた物が見えた。
「描くの好きだから」
「いいね~。俺、こう言うのからっきし駄目だから、羨ましいよ」
 その中には鉛筆と思われる灰色で描かれた物もあれば、きっちり色がついたものもあった。
「そんな事言われたの初めて。絵くらい、誰だって描ける物だと思うけど?」
「俺はマジで駄目だよ。中学の時、美術の成績2だったんだ」
 今にして思えばだけど、苦手だからいい加減な態度で取り組んでいた所為もあると思う。それが担当教諭に自然と伝わり、いつしかついた数字がそれだろうと俺は分析している。
「うそ、ホントに?」
「うん。嘘じゃないよ。何なら見てみる?俺の中学の時の通信簿」
 パラパラとページをめくりながら言うと、彼女は、少し笑った。
「ありがとう。これだけ描いてるって事は、相当思い入れがあるんだね」
 スケッチブックを返しながら言う。
「そういう海崎は、どんな話書くの?」
「えっ?」
「だから、文芸部で。他人の見といて、自分のは見せない訳?」
 きつい事言うな~、と俺は顔をしかめる。
「今、手元には無いよ」
「見せてよ」
「じゃあ、俺の家まで来る?」
 そう言えば、引き下がるかと思った。見知らぬ男の家なんて行きたくない筈だし、それに正直な所、あまり他人に見せたくない。自分と言う人間が、ありありと伝わりそうで恐い。
「うん。行ってみたい」
 予想に反して、彼女は無邪気な顔を浮かべてそう言った。
「あたし3、4日前にここに引っ越してきたばっかりだから、この辺の事、よく知らないから」
「そうなの?」
 道理で見ない顔な訳だ。
「うん。元々住んでいた所、電車の車庫が出来る事になったから」
「あー、岸村町ね」
 岸村町から東へ行った所にある霧宮ニュータウンの再拡張に伴い電車まで整備される大掛かりな話があったので、すっと町名が出てきた。
「あそこにある高校、大人気だよね」
 公立の岸村高校。俺の住む街で一番偏差値の高い学校だった。「制服なし、校風自由」というのが魅力だ。
「うん。あたしも行きたかったけど、手が届かなかったんだよね」
「頭良さそうなのに?」
「からかわないで」
 そう彼女は言うけれど、見た目、結構、頭良さそうなのだ。声のトーンとかもそうだ。俺と違って、落ち着いているし、はっきりとしている(きつくはあるが・・・)。

「この棟の4階なんだ」
 白いコンクリートのプレートに「20」と書かれたのを指差して、俺は言う。
「随分、端っこに住んでるんだね」
「うん。〝抽選〟って恐いよ」
 親に昔、何故、俺はこの棟に住む事になったんだ?と訊き、諸々事情を言われて最後に出た言葉が、それだった。
(まだ親、帰ってきていないと良いけど)
 共働きではあるが、日によっては母親が早く帰ってくる事がある。男の友達なら何も言わないだろうけど、異性を連れてくるのは初めてで、何言われるか解らなかった。
「先に言っとくけど、俺の家も部屋も散らかってるからね」
 鍵をドアノブに差し込む時に、そう言って俺は彼女を招き入れた。
「おじゃまします」
 妙に美しい霞田さんの声が背後でして、ちょっと恐かった。

「えーっとどこやったかな」
「ホント、散らかり放題ね。マンガに教科書に食べかけのお菓子の袋」
 言い出したらキリ無いわね、というあきれた声が胸に痛かったが、俺は机の引出しの中から、1冊の冊子を取り出し、霞田さんに渡した。

 (4)きっかけ
「久喜田ヒカルマティック、青梅太夫、TK2000、シ・Eソジeン、土也獄牛寺快、Train Hunter・・・なんか、凄いペンネームが多いわね」
 霞田さんが、冊子の目次を見ながら言う。
「で、あんたのペンネームはどれなの?」
 冊子から目だけを上げて問い掛けられ、俺は答えに窮した。
(答えたくないなぁ・・・)
 自分と言う人間が何を考え、何を想っているのかが多分に表れているのが俺の物語らしい。初めて、文芸部で発表した時、部長の広袴に言われたのがそれだった。
「ご想像にお任せします」
 と俺ははぐらかして見たのだが、彼女は、自分の絵を見せた事を楯に、「教えろ!」と詰め寄って来たので、渋々、答えた。
「希望色の騎士って、何色な訳?」
「あれ」
 俺はガラス戸の向こうで天に広がるものを指差した。
「英語の“azure”ってのに、〝希望の象徴〟って言う意味があるらしいんだ」
 いつか「空色」を示す英語を探していた時に見つけた言葉だった。とりあえず文芸部に入って、良い作品を描きたいという俺の「希望」とぴったりあったので、使ったのだ。
「マニアックなペンネーム」
 ふふっ・・・と彼女は笑った。
(だから、言いたくないんだよ)
 俺は肩を落として、大きく息を吐いた。

 結局、その日、彼女はじっくり読みたい、と言い出し冊子を持っていった上に、中学時代の通信簿を見せろとせがんで来た。「本当に美術の成績が2なのか知りたい」と言い出したので、見せる事にしたのだが、担任教諭からのコメント欄もしっかりと読まれて(しかも3年分全部)しまい、俺と言う姿がありありと彼女の前にさらけ出される事になった。

「おや、ブルーな顔してるねぇ」
 翌日の教室、能台が俺の顔を見るなりそう言った。
「ああ。ちょっとね」
 それ以上訊かないでくれ、と言わんばかりに俺は頷く。
「お前は、ご機嫌だね」
「そうでもないよー。たぶん、今日も三柿野おばちゃんのお経で寝ると思うよ」
「三柿野・・・あっ!1限だっけ?やべー単語調べてねー」
「真面目だねぇ~」
 英語も苦手科目の1つで、単語を前もって調べていないと減点する厄介な教諭なのだ。赤点ギリギリな点数しか取れない俺なので、それをやられると響くのだ。
「お前みたいな脳みそを持ちたいよ」
「とろけるけど、良いの?」
 能台は焦る俺を見て、楽しそうだった。

 宣言通り、その日の最初の講義が始まってしばらくすると、俺の席の前に座るヤツは、何時もの様に眠りについた。運良く、その日、「この単語の意味は何ですか?」という問が俺にはなく、ホッとした所で講義が終わった。そこへ、
「ありがとうね、これ。楽しかったわ。数行で意識が飛んだけど」
 霞田さんが行き成りやって来て、レイの冊子をポンと俺の机に置くと、そのまま出て行った。
「おや、コレ?いつの間に」
「ちげーぇって」
 小指を立てて能台は楽しそうな表情を浮かべる。
「おいおい、どう言う事なんだよ、あれ?」
 後ろの席の奴も興味深々という感じで訊いて来たが、「何でもねーって」と俺は切り返した。

(5) ある日の放課後
 それからしばらくの間、霞田さんと会う事はなかった。
 携帯のメールアドレスと電話番号の交換はしたけれど、何か気恥ずかしくて使えるに使えなかった。

(締め切りは1ヶ月後か)
 その日、部活の打ち合わせがあった。また、1冊の物を作ろうという事なので、話を考えなければならない訳で。俺は、まだ何の用意もしていなかった。
(あれ?)
 部室から昇降口へ向かう途中のフロアでスケッチブック片手に校庭を見つめている霞田さんの姿があった。
「何してんの?」
「絵のネタ探し」
 彼女は俺を見ないでそう言った。
(単なる放課後の校庭に、ネタなんかあるのかな?)
 見下ろせばそこに、茶色のグランドがあり、陸上部がトラックを走る姿とテニスコートでラケットを振る姿、どこの部活かは解らないが、陸上部の連中と伴走するようにトラックを駆ける姿があり、片隅には誰もいないバスケットゴールがポツンとそこにあるだけだった。
「何かの賞でも狙ってるの?」
「まさか。いつも趣味」
 さっきみたいに、霞田さんは窓の向こうを見つめたままそう言った。
「趣味ねぇ」
 事情を知らないで、こうして校庭を見つめているのを見ると、誰かに恋してるか、郷愁に浸ってるかどっちかだよなぁと思う。
「海崎は新しい話、書かないの?」
「今は、ネタ探し中」
「あっ、そうだ、渡したいものがあるから、ついて来て?」
 彼女は、ポンと手を叩くと俺にそう言った。
「って、どこへ?」
「あたしの教室。大したもんじゃないけど」
 何かお菓子でも作ってきたのだろうか?毒が入ってないと良いけど、と俺は思いつつも喜びで胸を躍らせた。自分の単細胞差には呆れる物がある。
(6) 繋いだもの
「こんなの作ってみたの」
 彼女の教室の廊下にあるロッカーから、A4版の大学ノートを1冊取り出し、俺に渡してきた。
「『ある街角のストーリー』って俺が創った物語?」
 薄く赤いノートの表紙に、ワープロで打ち出した文字の周りを線で囲んで切り取った紙が貼られていた。
「うん。話を読んで言った時に、これなら描けそう、って言うインスピレーションがあったの」
「へぇ~」
 そんなものが・・・と思いながら、俺はページをめくっていくと、見開きとなる1枚ページの左側に絵があり、右側には原稿をコピーしたであろう文章があった。
「ゴメンね、あんたの作品、無断でコピーしちゃって。でも、こうしないとまとまらなかったの」
「それは構わないよ。っていうか、よく、絵を描けたね」
 部長の広袴には、「ちょっと話の構成が崩れてないか?」とか「情景が見え難いよ」と言われて居たので、ビックリな事だった。
「あの話を読んだ時、なんかちょっともやついててね、不意に、〝あじさい〟の花が出て来るシーンがあったじゃない?そこを考えてみたら、こうかな・・・って思った時には自然に絵が描けてて」
「北へ行こうって誘われる所か」
 『ある街角のストーリー』を手がけていた頃の季節にあわせて、霞田さんが取り上げたシーンを書いてみたのだ。こうなら、良いな・・・って思って。まさかそれが、霞田さんに伝わるとは思っても無かった。そのページを見てみると、主人公が座っているベンチの近くにある花にかたつむりがいないかをヒロイン役が探す手が描かれていた。
「すげー」
「あたしの力じゃそれが限界だったけど、大丈夫?」
「文句ないよ」
 俺は大きく頷いた。大きな喜びが胸の奥から湧き出て来るようだった。
「2つ喫茶店は、ちょっと描くのがきつかったよ。1個はなんとか描けたんだけど、旅先で入る奴は、そこから見える時計台しか描けなくて」
「そう言えば、2箇所あったか」
 自分で書いた作品なのに、内容をしょっちゅう忘れる俺であり、反省はしても改善されないという悪い癖がついている。
「けど、問題無いよ。これだけ想像力膨らませて描いてもらえなんて嬉しいよ」
 これまでの人生で、心から嬉しいと思った経験は無いに等しいと言っても過言じゃない。
「ありがとう。あたしも、こうやって絵が描ける材料を見つけられて、嬉しい。あたしの方こそ、お礼言わないといけないよね」
「いいよ、そんなの。全然、要らないよ」
 俺は大きく手を横に振った。

(7)繋がった後
「・・・こんな所かな」
 ワープロソフトで、提出する作品を俺は書き上げた。
(今回は、絵入って事にしたけど、描けるのかな)
 締め切りまであと10日と迫っている。一応、絵が間に合わなかった事も想定し、規定の紙面を埋める為に削った所を入れた物も作成した。つまり、同じ作品で2作品書いた訳だが流石に疲れた。
(よく書けたよな)
 自画自賛する訳ではないけれど、出来ないだろう・・・と俺は思って居た。それに、中間試験を途中越えなければならなかったのが、物語を優先させてしまった。親にもそこの事は感づかれ、やばいにはやばかった。

「霞田さん、出来上がったから、お願い出来るかな」
 翌日、俺は霞田原稿を渡した。
「モノクロになっちゃうから、色はつけない方が良いと思んだ」
「オッケー。さっそく今日から描いてみるよ。広袴には了解取れたから」
 霞田さんは嬉しそうな表情を浮かべたので、ホッとした反面、ちゃんと描いてもらえるか不安だったし、変な噂が立たなきゃ良いな・・・と俺は思った。

(8)完成へ
 締め切りの日の部室での事。
「出来たんだ。女にイラスト描かせて良いご身分だよ。けどあの女も変わってるよな。っていうか、よく、お前の小説で絵なんかつける気になったよな」
 信じらんねー・・・と広袴は言いながら、原稿を受け取る。
「どうやって知り合った訳?」
 ペンネーム「久喜田ヒカルマティック」を名乗る枝川に訊かれたので、俺は経緯を話した。
「へぇー、いいね。そういうの。ドラマティック」
 そう“TK2000”を名乗る木田が言う。
「そう言えば、〝シ・Eソジeン〟は?」
 広袴が部屋を見渡す。
「あー、何か、担任に教材運ぶの手伝えって連れてかれましたよ。原稿は預かって・・・あっ!教室に忘れてきた」
 ペンネーム「土也獄牛寺快(ツチゴクギュウジカイ)」を名乗る阿佐ヶ谷が、慌てて部屋を出て行った数分後に、
「ごめん~遅れた~。原稿届いてる?」
 久保(「シ・Eソジeン」)が部室へやって来た。
「そっちも遅れておりやす」
 お生憎様・・・と筆名“Train Hunter”の田町が言い、笑いの渦が起きた。

(9)エピローグ
 結局その後、俺と彼女の恋はなかった。絵と文が繋がった1冊は卒業した今も手元ある。
 変な思い出の品ではあるけれど…。

 あとがき
 高校の頃、私は文芸部ではなかったが、所属した部活の先輩が文芸部も掛け持ちしており、自分のクラスには、後に文芸部部長となる人間が居て(犬猿の仲だった)、縁だけはあり、文芸部が出していた冊子も読んでいたりした。コミカルな作品もあれば、時代劇物、エッセイ、恋愛物語等色々とあり、当然の様に「内輪ネタ」的に、学校の教諭やら部員やらが1つの「キャラ」となって登場するような物語(それが先述の、コミカルと言える作品なのだが)もあったし、当時、『エヴァンゲリオン』が流行(これは今もか?)っていたので、それに感化された作品もあったようだ(『ガンダム』に感化された作品もあった記憶がある。)
 私も、実は、今回の作品の主人公の様に、「図画・工作」は大の苦手であり、中学時代の美術の成績で「1」を取った記憶がある(「2」の時もあったと思う)。授業態度も悪かった所為もあると思うが、それ以上に「手先が不器用」なのだ。かろうじて、「技術」は「3」を取っては居たけれど、男の癖に情けない話ではある。高校の芸術科目は、人気の高かった「音楽」を取る事がかろうじて出来たので、「美術」から解放されたので、今にして思えば、ホッとしたように思う。
 そんな私ではあるが、「絵を描く」あるいは「絵を描くキャラクターが出て来る」という物語には、これまで3作品出会っている。一番印象深いには、なんと言っても、柊あおい著『耳をすませば』(1990年 集英社)である。アニメ映画として発表された際は、「絵の製作」が「バイオリン製作」に変わりちょっと違う。今回の作品は、丁度、書いている頃に、「この空の絵が描けたらなぁ」と思って居た時、不意に、『耳をすませば』を思い出し、そこからヒントを得て書いていたりするので、パクリはパクリである。
この『耳をすませば』の次に印象深いのが最近読んだ、小泉真里著『ジンクホワイト』(2007年 祥伝社)である。こちらは、美大を目指す高校生男女の付き合いを取り扱った作品で、「物語を書く」という事は出てこないが、読んでいて専門用語が出て来ても楽しめる作品ではあった。JR東京駅でたまたま立ち寄った書店で見つけた作品で、かつ、内容も良かったので印象に残っている。



goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「束式カンタービレ線 しょう油殺人事件」 (2008年8月発表)

2008年04月06日 19時04分13秒 | 物語・小説
「束式カンタービレ線 しょう油殺人事件」

※この話は「全てフィクション」です。

 1
 束式カンタービレ線という鉄道沿線で殺人事件が起きた。
 現場は、廃屋となった小さなアパートの1室だった。近所の住民が、不自然に開いていたそのアパートの部屋の扉に気付き、中に入ってみると、女性の遺体があったという。そして、そこには、何故かしょう油のついた皿が残されていた。
 警察の調べで、この女性が里予田 萌美(サトヨダ モエミ)と言う事が解り、そのしょう油皿には、毒が盛られていた事が解った。遺体を解剖してみても、その皿にあった毒が検出されたので、関連性が導き出された。
里予田氏の親兄弟および友人等から、彼女は、刺身好きだという事が解ったので、犯人はその中に居るだろうという目星はついたのだが、一向に手がかりを得る事が出来ないままでいた
被害現場周辺の聞き込みも行われたが、殺害された時間に、不審者や不審な車があった等という情報は一切無く、その上、関係者のアリバイもしっかりと裏が取れて居たので、暗礁に乗り上げていた。
 
 事件発生から5ヶ月が経ったある日の事。
 木白(キシロ)探偵事務所に、1本の電話があった。
「川間?ああ、お前か。どうした急に」
 川間豊春(カワマ トヨハル)と言う学生時代の木白の友人からだった。
「ちょっと、お前に相談したい事があってな。明日の土曜って会えるか?」
 といわれたので、木白は友人の依頼を承諾した。

 翌日、川間は娘を連れて事務所にやって来た。
「会うのは、結婚式以来だな。変わってないな、お前」
 川間は木白に会うなりそう言った。
「相談と言うのは、この子の学校で起きた事件の事なんだ」
 束式線で起きたあの殺人事件を解決して欲しいという事だった。木白は、その依頼を受け、早速、現地に赴く事にした。

(ここが、切符売り場か)
 し尺線から束式線に乗り換える駅で、運賃表を木白は眺めた。知らない駅名ばかりが羅列されていて、戸惑いを覚えたが、とりあえず目的地までのものを買った。
 改札を抜け、階段を降りるとホームに、列車が既に入っていたので、木白は急いで乗ったのだが、発車まではあと7分あるという事を車内アナウンスで聞き、思わず顔を歪めてしまった。
(それにしても、凄い名前の路線だよな)
 暇だったので、インターネットでこの路線について木白は調べてみた。それによると、この「カンタービレ」という名前は、沿線にある「しょう油製造会社」の名称から、2年前にとったと言う。大本は、千玉線と言ったそうで、沿線にある川におちていた砂利を運ぶ事が路線開通のきっかけになったと言う。後に、砂利採取が禁止されると、沿線で元々盛んであった大豆生産に目をつけた先述の「しょう油製造会社」がやって来て、それを貨物列車で運ぶ様になったと言う。今では、そんな貨物列車はなくなってしまったそうだが、有名は有名だったそうだ。やがて、この路線の利用率が落ち始めたので、路線興しの意を込め、親しみのある「しょう油製造会社」の名前を取って、今の路線名になったと言う。因みに、カンタービレは、イタリア語であり音楽用語“cantabile”の事。意味は、「歌曲風に。歌うように」だそうだ。
(名物のしょう油で殺人とは、ネタっぽいが事実は事実だもんな)
 そう思った頃、列車が動き始めた。
(20分位か…一体、どんな所なんだか)
 人影まばらな車内。
 レールのつなぎ目を車輪が通る時に発する特有の音が車内に響きわたる。
 窓の向こうは、住宅地がそれなりに見えるが、畑が多く散見された。

(ここか)
 三工戸川台(ミコトガワダイ)という名の駅で木白は列車を降りた。
 改札を抜けた所で、地元警察の人間である、土曽尾(ドソビ)と出会った。木白と唯一その地元警察でコネのある人物だった。
「ご苦労様です。アンド、お久しぶりです」
「こっちこそ、すまないな。行き成りで」
 2人はそんな言葉を交わしつつ、土曽尾が車を停めていると言う所へ向かう。
(おもちゃ屋に花屋か…久しぶりに見るな)
 駐車場へ行く中、駅前の商店街を通り抜けていくと、木白の目にそんな物が飛び込んできた。
「どうした?なんか珍しいものでもあったか?」
 不意に土曽尾が木白に声をかけて来た。
「いや、別に何もないけど。商店街歩くの久しぶりだなって」
「マジで?あーそう言えば、昼、食べた?」
「いや」
「じゃあ、そこのそば屋寄って行こうぜ。俺ら警察の出前御用達の店なんだぜ」
 という事で、2人は中へ入った。

「しかし、もう、さじ投げ状態の事件の解決依頼なんて、よくお前も受けたよな」
 ざるそばを啜りながら、土曽尾が言う。
「他ならない、友人の頼みだからな」
「そっか~。進展出来ると良いんだけどね~」
 土曽尾がため息をついた。
「調べはつくしたんぜ。これでも。手がかりはなしなんだぜ」
 頑張ってくれよ…と言った時、彼は、蕎麦湯を頼んだ。

 2
 その後、木白は土曽尾の車に乗り込んだ。
「で、どうするんです?現場行ってみます?寮に行く途中にあるんで、寄れますけど」
 土曽尾が木白にそう訊いて来たので、
「じゃあ、寄ってくれないか?」
 と彼は答えた。

 駅前から15分程走った所に、古ぼけたアパートがあった。
「ここですよ。現場は」
 その1室に木白は案内された。
 中はよく整理されてはあったが、埃っぽさは拭えなかった。
「部屋の隅隅まで調べたんですけど、特に、遺留品とかはなかったです。丁度、今、木白さんが立ってる所に、ホトケがありました」
「ここか」
 木白は、畳張りの床を見てみたが、特にこれと言ったものは確かになかった。
「常に施錠された状態にある部屋で、立替前に鍵は全て回収済みって事なんですよ」
「なるほど」
 これと言った手がかりもないので、木白達は部屋を出た。土曽尾が何気なく施錠する時だった。
「さーて、寮へ行きますか?」
「ちょっと、その鍵見せてもらっていいか?」
 木白は、土曽尾が手にしている銀色の物が気になった。
「何の変哲も無い鍵ですけど?」
 土曽尾は首を傾げる。
「この型…結構出回ってる奴じゃないか。ピッキング被害も多いやつか」
 木白は鍵を見ながらそう呟く。
「けど、夜は本当に暗いんですよここ。こじ開けるなんて…って、まさか、合鍵?」
「可能性が無いとは言い切れない。まぁ一先ず、寮へ行こうじゃないか。それと、その鍵、ちょっと間、借りてくれないか?」
 そう木白が言うと、土曽尾は頷いた。

 2人は寮へ向かった。
「しかし、本当に、林と畑が目立つな。家はまばらだな」
 車内で木白は周囲を見渡しながら言う。
「自然豊かで静かな場所で学習活動と課外活動を充実出来る…って言うのが、あの高校のウリらしいですからねぇ」
 私はこんな所に今は住みたくないですけど…と土曽尾は言う。
「ところで、寮からあのアパードでは歩いてどのくらいなんだ?」
「10分程と言う調査結果があります」
「なるほど」
 死体を担いでも行ける距離って訳か…と木白が思った時、車は寮に着いた。

「お待ちしておりました」
 管理人の大和田という人物に2人は連れられ、彼の部屋へと案内された。
「これが、この建物の見取り図です」
 大和田は4つ折にされた紙を机の上に広げた。
「出入口は、さっき入った所とこの非常口だけです」
 大和田が指を指して説明する。
「正面の入り口には、監視カメラがありますけど、事件当夜、特に不審者は映ってなかったですので、この非常口が使われたと見ていますが、指紋等は一切ないので何とも」
 土曽尾は肩を落として言う。
「なるほど。ところで、大和田さん、この寮に住んでいる方達が写っている顔写真はありますか?」
「ああ、それなら、こっちでも抑えてますんで大丈夫っすよ」
 土曽尾が木白の問にわって入った。
「じゃあ、ちょっと寮内を案内してもらえますか?」
 という事で3人は建物内部を行く事になった。
 寮は、3階建てで各フロアに10部屋ある構造で、それと同じ建物が他に6棟あった。一向は、被害者が住んでいた棟を中心に見て廻った。

「この非常口は、常時施錠されては居ますが、内部からの出入りは簡単に出来ます。中から施錠する形ですので」
 大和田が説明する。
「なるほど。案外、ここは使われなかったりしてな」
「と言いますと?」
 大和田が木白の言葉を訊き返す。
「先ほどの案内で、1階フロアからでも外へ出られる部屋が1箇所ありましたよね?」
「しかし、その部屋は今は空き部屋で入れませんよ」
 土曽尾が言うと、大和田も頷く。
「例のピッキングで行けるんじゃないか?大和田さん、その空き部屋へもう一度案内して下さい」
「…はい」
 何をしようと言うのだろう…と言う顔を大和田は浮かべて、2人を連れて行った。

「やっぱりな。ここの鍵もピッキングし易いタイプだな。案外、開いているんじゃないか?」
 木白は、部屋の鍵穴を見ながらそう言うと、手袋をはめドアノブを回すと、
「あっ、開いた」
 土曽尾と大和田は顔を見合わせた。
「マジで?」
 単純すぎ…と扉を開けた木白も唖然としてしまった。
「さて、行ってみますか?」
 3人は中へ入ってみた。
「一応、窓の鍵は閉まってるか…とりあえず、この部屋から指紋採取を。それともう一箇所案内してもらいたい所があるから、土曽尾、よろしく」
「ああ」
 と言う事で、2人は寮を後にした。

「合鍵屋ですか?この辺りじゃ、聴かないですよ」
 車の中、土曽尾が言う。
「まぁ、これからレイの顔写真取りに行きますから、署の人に訊いてみましょう」
 誰か知ってるはずですから…と楽観的に彼は言う。
「面倒だが、宜しく頼む」
「いいですよ、そのくらい」
 一行の車は快調に目的地を目指した。

 3
「専門店はないけど、あの駅前の靴屋なら一応、合鍵もやってたと思うよ」
 土曽尾の所属する署の金兼ヶ谷(カネガヤ)という人物の紹介で、木白達2人は三工戸川台駅にある店へ向かった。

「…ちょっと面倒なんですが、見覚えがある顔がありましたら」
 と靴屋の店主に顔写真が載った冊子を渡しで土曽尾が訊く。
「ええ、確かに来ましたよ。そうしょっちゅう合鍵依頼なんてありませんから…」
 覚えてると思いますよ、と言いながら店主は冊子をしばしながめると…、
「そうそう、この人が来ましたねぇ。」
「確かですか?」
 土曽尾が言うと、店主は依頼伝票を持ってきた。しかしそこに掲載があったのはその学生の名前ではなかった。
「偽名か…日にちは間違いないですか?」
 木白が店主に訊く。
「はい。間違いないと思います」
「筆跡鑑定すれば、何とかなると思いますよ」
 土曽尾は、その2枚の依頼伝票を預かった。

「これで、事件も解決ですね。そうそう件のアパートの現場の部屋には、あの学校の生徒が立て替え前まで住んでいたそうです。アリバイはしっかり取れていたので、シロだったんですけどね」
「なるほど、そうだったか」
「ところで、腹減りません?この間行ったそば屋で何か食いましょうよ」
 土曽尾がそう言ったので、木白は頷いた。

 その後、犯人が掴まったのだが、殺害された里予田氏とは、そこまで親しい間柄ではなかったという事だった。動機は、里予田氏が疎ましく思えた上に、その過程で目障りに思えたので、殺しにまで至ってしまったという事だったそうだが、一方でミステリー小説のような殺しをしてみたかったと言う好奇心もあったという事だった。故に、ピッキングや合鍵作製を行い、あたかも非常口から逃げ出した様に見せかけた…という事だった。

(…って感じで良いかな)
 十余二 奎(トヨフタ ケイ)は、キーボードを打つ手を止め、煙草に火をつけた。
(殺人事件ものを一発書いてくれって言われてもなぁ)
 ふぅ…と十余二は煙を吐いた。
 この原稿は、フリーでゲームを作成している友人に頼まれての執筆だった。
(けど、こんなんでシナリオ作れんのかな…)
 その友人は、ミステリーや探偵物系の話が大好きな奴な癖に、自分ではストーリーを作れないと言う。そこで、インタ-ネット上で小説を公開している奎に依頼が来たのだ。奎自身、話を書くのは嫌いではない。
(これは駄目そうだよなぁ…)
 画面をスクロールさせて、文章をおっていくが、強引さはどう見ても拭えない。
(って言っても、これが今、俺の出来る精一杯な執筆だし、許してもらおう。あとは、奴に期待するしかないな)
 実は、奎以外にもう1人、殺人事件系の話を書いてくれとその友人は依頼していた。2人の作品を見比べて、作っていきたいという事でもあったので、自分のが駄目でも良いか…という気で奎は居た。

 数日後、奎は原稿を印刷して依頼主の中原に会いに行った。すると、そこにはもう1人の執筆人である加賀が居た。
「悪いな。苦労かけるよ」
 中原が言う。
「正直自信ないんだけど」
 そう奎が言うと、
「俺もなんだよ。書けたけど、なんかパクリっぽくなっちゃってさ」
 加賀が頭を掻く。
「どれどれ、ちょっと見せてもらおうか」
 と中原に言われたので、奎は原稿を渡した。すると、加賀もそれに見入る。
「うわ、なんか、人物名とタイトルが妙だな。どっかのサイトで見るような感じの表現だな」
 アハハハ…と中原は笑う。
「タイトルは確かに、惹きつけるものはありそうだね。俺のよりはインパクトあると思うよ」
 加賀もそう言って笑う。
「鉄道にしょう油ねぇ…実在する路線からヒント得たの?」
 読みながら中原が訊く。
「まぁ、そんな所」
「ふーん」
 1人頷きながら中原は話を読み進めて行った。

「…なるほどね。人物名にこってるのと〝しょう油〟ってのが面白いからそこは、お前のを使う事にして、トリックとか物語の進行具合なんかは加賀のを使う事にするよ。うん、なんとかなりそうだよ。ありがとう」
 中原は満足そうに笑った。
「あとタイトルも十余二の使っちゃえよ。俺のよか全然良いし」
「おいおい。マジで?こんなふざけたの?」
 奎が言うと、
「その〝ふざけたの〟ってのが良いんだよ、この場合さ」
 加賀と中原は同時に頷いた。
「まぁ…どうでもいいけど」
 途中で絶対、挫折しそうだけどな…と奎は思いつつ、しばしの間、中原達と談笑した。

 その後、3ヶ月くらいして、中原はゲームを仕上げた。
 『束式カンタービレ線しょう油殺人事件』は、しっかりと息をし始めた。
(本当に出来たとは)
 いざ、自分が考えたものが形になると気恥ずかしいな…と奎は思う。今日は、仕上げたものを実際にプレイする日だった。
(行くか…)
 奎は中原の家を目指した。
 ※この話は「全てフィクション」です。

あとがき
 この作品のタイトル(もの凄い、ふざけた感じである事をお許し頂きたい)は、私が初めてこのブログで執筆した『急行特急THの乗鉄 河童の河原』という中に、ネタ的に出したゲームの題名で、まさか実際に執筆に至るとは思ってもなかった。
 きっかけは、リンク先のブログの管理人様とoff会中の何気ない会話で、第1作品のネタバレ的な話をしていた中で、「その話(=今回の作品)も小説化してみましょう」という事になり、その時は、無理だな…と思った。と言うのは、私自身、殺人事件の小説はこれまで書いた事はない上に、色々物語の諸設定(特に、トリックと殺害動機)が難しく思えたからだ。そうは言っても、それで逃げるのもどこか悔しいので、今回のが、このサイトで執筆して10作品目になるので、あえて挑戦してみた次第である。結果は、いつも以上の強引さが拭えないと思う形になった上に、書き難かったが、1つの挑戦の軌跡にはなったと思う。
 ミステリー・探偵系は、今も人気の高いジャンルであると思うし、私自身もかつての『土曜ワイド劇場』なんかは好きであるが、ミステリー小説は2冊しかこれまで読んだ事が無い。1つは私のファンの歌手がその本の「あとがき」を書いたという理由で読んだ、綾辻行人著『どんどん橋、落ちた』(講談社 2002年)。もう1冊は、小学校の時に読んだ、『時計塔の秘密』という江戸川乱歩氏が執筆した本であった。この手の本は、どちらかと言うと苦手というか、あまり読む気が起きない分野であったりする。テレビゲームでは、『さんまの名探偵』が印象深い。


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「“Express”のプライベート特談」 1/2 (2007年8月発表)

2008年04月06日 18時46分40秒 | 物語・小説
「“Express”のプライベート特談」


「ここまで来ても暑いですねぇ~」
「まぁ避暑地じゃないですから。しかし、何もねーな」
 水色の空が一杯に広がる中に、白銀の太陽が浮かぶ季節、半分無人駅に近いような駅に2人は降り立った。彼らは“Express”という名前の歌手だった。身長が高い方が、Kouki(本名:笹谷恒熙〝ササガヤ コウキ〟)と言い、低い方は塚村尚人と言った。
「降りたはいいですけど、これからどうします?」
 Koukiが塚村に訊く。
「そうですねぇ…飯食うにもそんな場所はないですねぇ」
 駅前には、コンビニエンスストアと観光案内所とレンタカー屋しかなかった。
「そこで車借りますか?その前にどっか行けそうなとこ、探しましょうか?」
 Koukiの提案に、塚村はのる事にした。1人で物事を決めるのが、殊、誰かと一緒の時は苦手な塚村である。Koukiはその点しっかりとしていて、提案と実行には長けていた。

「で、観光案内所は休みかよ」
 ちっ、と塚村は舌打ちをした。
「いや、これ潰れたんじゃないの?」
 Koukiが指差した先に1枚の張り紙があった。見てみると、去年に利用不信から廃業となったという事が解った。
「どうしょもねーなー」
 はぁ…と2人はため息を長くついた。
「まぁいいや、とりあえず、車借りましょ?」
 塚村は何の当ても無かったが、このままで居るよりは良いと思ったのでそう言った。
「ですね。地図の1冊でも貸してくれるといいけど」
 Koukiが心配そうに言う。
「そのくらいは、平気じゃないですか?駄目なら、あのコンビニで」
 逆に塚村は楽観的な言葉を口にする。彼は、あまり深く考えない所に、欠点がある。場当たり的な行動を取る事がままあるので、その辺りはKoukiが調整をしっかりとしていた。

「これが、この辺の地図です。と言っても、山か湖かしかないけど。後は、季節はずれですけど、温泉があるくらいですよ」
 車を借りた店の店主が何枚かに折りたたんだ地図を2人渡しながらそう言った。
「温泉。宿はあるんですか?」
 Koukiが訊く。
「ええ。ありますよ、確か」
「じゃあ、泊まる時はそこだな。一先ず、走ってみましょっか」
「ですね」
 2人は互いに頷き、車を借りて走り出した。

「山と湖の街…って言ってもかなり距離あるなぁ」
 ハンドルを握りながらKoukiが言う。
「だからさっきの場所も潰れたんじゃないんですか?」
 地図を眺めながら、塚村がつっこみを入れる。
「でしょうな。それにしても、ここまで来るとラジオも入り難いですね」
 ハンドル片手に放送局をKoukiは探す。スピーカーからストリームの独特の音が流れる。
「つかの間の休みですよね。来週はまた、月曜からラジオですもんねぇ」
 塚村が言う。そうなのだExpressは、AMラジオである「ていとラジオ」に月曜から金曜までの夕方の時間帯に『談義Ⅱ』と番組を持っている。これは、まだExpressが結成される前に、Koukiと塚村が出会った番組名が『談義』と言った。それが、2年位続いて番組が打ち切りとなった。その打ち切り寸前に、Expressが結成された。その後、4年のブランクを経て、再びていとラジオで番組に出演する事になった。塚村は、ピンでそのラジオ局に『談義』が打ち切りになった後2年程して、夜のゴールデン枠の『ハーフナイトていと』に週1回出演していた。
「それは言わないで下さいよ。休みにならないじゃないですか」
 今は忘れましょうよ…とKoukiが言う。
「ですな。けど、それだけ染みついちゃってますよね」
「確かにね。毎日ですもんねぇ。ていラジもよく容認してくれてますよ」
 ありがたい事で…とドライバーは言い、さっきの駅前で購入したアイスミルクティーを口にする。
「塚村さん、良いんですか?柿島さんほっておいて」
 柿島とは塚村の奥さんである。姉さん肌で有名であった。
「丁度、レコーディング前ですからねぇ、1人になりたいって言ってたんで良いんじゃないですか?」
 と塚村は答えるものの、本当は違った。ここの所、塚村自身、仕事に疲れていた。秋には再び新曲プロジェクトが組まれる事になっていたのだが、大本である曲描きが進んで居なかった。Koukiと共に曲は作るのだが、アレンジャーという感が強い。彼が曲を作っても詞は塚村がふったりする。本当は、全てKoukiに任して、自分は歌とちょこちょこと曲を作る程度という形でExpressは組まれたのだが、やってみて事態が変わったのだ。
そんな状況を察した柿島からの助言で、今回の旅が生まれた。Koukiも季節が季節なんでどこか行きたいという想いが訊いてみればあったようで、それがあわさって今2人は道を走っているのだった。

 2
 この“Express”には、2つの意味がある。1つは、ご存知、「急行」。もう1つは「表現する」というのがある。『談義』が1番初めに開始された時、何故か「トレイントーク」というコーナーがあった。これはたまたま番組スタッフの中に、鉄道マニアと知り合いの人物が居て、思うようにゲストを迎えられない時の苦肉の策的にその知り合いをスタジオに招いて執り行った企画が、リスナーに受けたのと同時に、Expressの2人も、やっていて楽しかったので、コーナー化された。そんな影響と1つの言葉で2つの意味を持つような名前をKouki・塚村のコンビ名としたいという所で、この“Express”が採用となった。急行の様に軽やかにそして2人が感じた想いを表現する…という意図がそこにはあった。

「田舎は田舎でも、渋滞はちゃんとあるんですね」
「まぁ、観光スポットですからねぇ」
 大きな湖へ行く事に決めた2人。1時間半程かけてようやく目的地へ近づいたのだが、湖へ向かう道はどうもこの通り1つだけで利用されやすい事もあって、混雑に遭遇した。そんな時、塚村がKoukiにそう言った。
「そう言えば、昔、談義で首都高は東京の大駐車場って言う話されましたよね、Koukiさん」
 覚えてます?と塚村は訊いてみた。
「しましたっけ?また、塚村さんは変な所で記憶力が良いですから」
 Koukiは首を横に振って言う。
「多分、それ、誰かがテレビかなんかで聴いたのをそのままパクった様な気がしますよ」
「ホントですか?そうだとしても、なんか凄く印象的だったんですよ」
 塚村特有の癖みたいなもので、割と誰もが大した事を感じない所に、拘りや想い入れを持つ事があった。
「けど、なんで首都高の話になったんでしたっけ?」
 今度はKoukiが訊いて来た。
「いや、それは流石に覚えてないなぁ…」
「車でどっか行きましょうか?的な話になったか、何の特談で出た話でしたかねぇ」
 思い当たる所は、そんなところですが…とKoukiはサイドブレーキを引いた。
「特談ねぇ…総武線で初めて電車に足を挟まれた痛い記憶がありますよ」
 塚村が、言い難らそうに口にする。
「あーありましたねぇ。驚きましたよ。結構、せっかちでドジな所、塚村さんありますから」
 気をつけてくださいよ…とKoukiが言う。
 特談というのは、通常の談義のスタジオを飛び出して、外から放送する物だった。大抵、鉄道マニア2人を伴って行くパターンが多かったのだが、地元特集的な面もあり、好評は好評だった。
「ただ、37特談だけは出来ないですよね」
「スタジオが倉庫になってしまいましたからねぇ」
 Koukiが思い出して口にした事に、塚村が応える。
 37(サンナナ)特談も、通常のスタジオを飛び出して行うものだったのだが、こちらは単に雰囲気を変える為に、執り行われた物だった。ていとラジオ内にあった37番スタジオと言う所で放送する物だった。何故かあまり使われない37番スタジオを有効活用しようという事でやったのだが、談義が終わると設備も古くなっていたので倉庫へ早代わりしてしまった。
「これも特談みたいなもんですよね。放送こそしませんけど…にしても動かねーな」
 短くKoukiは舌打をした。

 それから30~40分してようやく湖についた。
 Koukiは景色を見ながら持参したノートに何やら、メモを書いている。彼は音楽活動の他に、脚本や小説と言った分野でも活躍していた。塚村も、談義の企画でオリジナル小説を作った事があるが、Koukiのとは比べ物にならない位、質が悪かった。
(水は、やっぱ生あったかいな)
 そんな彼を余所に、塚村は湖面まで行き水に触れてみた。キラキラと光る太陽の反射はなかなかのものだな…とも思った。そんな時だった。
(あれ?どこかで見たような…)
 何気なく視線を湖からずらした時、見覚えのある女性が1人、何やら絵を描いている姿が見えた。
「森永さん…ですかねぇ」
 そこへKoukiがやって来て、行ってみましょうよ、と言う話になった。
「あら、久しぶりですね」
 声をかけてみたら、やはり、漫画家兼小説家である、森永ちさとだった。この人物も、ていとラジオつながりだった。何故か、「ハーフナイトていと」にかつての塚村の様に週1で出演していた。
「そうですか、観光ですか。私もそうなんですけど、つい、職業柄これですよ」
 Kouki達の事情を知った彼女は、そう言ってスケッチブックを指差した。そこへ、
「買ってきましたよ、森永さん、飲み物」
 椎名さくら、という女優を生業とする人物がやって来た。少し萌系に近い「美人女優」という事で世間には通っていた。彼女もまた、ていとラジオで番組を持っていた。

 3
 その後、塚村達は湖畔近くにある店に入ろうとしたが、どこも一杯だった。
「じゃあ、あのコンビニで適当に買って、我々の車の中で過ごします?」
 Koukiがそんな提案をする。
「良いんですか?」
 森永が塚村に訊く。
「レンタカーですけど、良ければ」
「全然良いですよ。そうしましょ」
 塚村の答えに椎名が両手を一回音を立てて合わせ、そう言った。
「では、是非」
 というKoukiの顔がいつもと違うように塚村は思った。

(さーて、何にするかなぁ)
 弁当・惣菜コーナーに立って、塚村は物を物色する。暑さの所為か、あまりごてごてしいのは食べたくは無かった。
(パスタでも食ってみるか…)
 そう思って、1個だけあるペペロンチーノに手を伸ばした時だった。
「あっ」
 森永と手が合ってしまった。
「いいですよ。俺は、こっちにしますから」
 とっさに塚村は、隣にあったナポリタンを取ったので、森永が本当に良いんですか?と訊いてきたが、大丈夫です、と彼は答えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。あの、2人の空気、良さそうですよね?」
「あの2人?」
 塚村は森永が指差した先を見た。すると、Koukiと椎名が2人で、パン類を選んでいた。
「柿島さんとお付き合いを始めた時は、あんな感じだったんですか?」
「いや、それはなかったですね」
 森永の問に塚村はあっさりと否定する。
「何しろ、あの通りバイオレンスなんで、痣隠すの大変だったんですよ」
 塚村の妻は素面の状態でも、彼が煮え切らない態度を取ると拳が頬を直撃させるのだった。酒が入るとさらに野生味が強くなり、手なり足なり出るのは当り前だった。
「へぇー、そうだったんですか?」
「森永さん、その辺『週刊SPO』に書いてなかったですか?」
「でしたっけ?」
知ってて訊いたな…と塚村は森永の茶目っ気な表情にそう思った。因みに『週刊SPO』
は芸能人の秘密をシコタマ暴く有名な雑誌である。

店を出た一行は、車に乗り込んだは良いが、すっかりサウナ状態になっていたので軽食は
少し「お預け」にして、窓をあけて湖畔の道を走った。ドライバーは塚村が買って出た。そし
て助手席には、何故か森永が乗り込んできた。そこの方が、前からの景色がきれいで絵
のネタになりそうだ…と言うのだった。
「塚村さんは、マンガお好きですか?」
「ええ。好きですよ。家内には咎められますけど」
 信号が赤に変わったので、塚村は車を止めた。
「と言う事は、案外、少女漫画系もいけちゃう感じの人ですか?」
「…よくお解りで」
ハンドルを握っている手から汗が少し出た。
「なるほど。柿島さんサバサバ系ですもんね」
 塚村がそう言ったジャンルの本を読むと、「男の癖に女々しいわねぇ、ちょっとよこしなさ
い」と言って、ゴミ箱行きとなるのだ。名目上は仕事の為に、そういうのを読んでいる事に
なっているが、実際は、趣味的要素のが強かったりする。
「森永さんの『その恋は1つの出会いから始まった』シリーズ、私好きで実は全巻持って
たりします」
「懐かしいですね。オリジナルは当の昔に絶版になってるのに」
「はい。ですので、古本屋で必死になって集めまして」
 独身時代の終わりの頃でしたけど…と塚村は言う。
「ホントですか?嬉しいですよ、そう言うの」
 森永はフッと笑った。
「塚村さん、恋愛物とか友情物系の話大好きですもんねぇ」
 不意に背後で、Koukiの声がした。
「へぇー、ロマンティストな面あるんですね」
 椎名が面白そうな物を見る目を浮かべてる感じの声でそう言う。
「奥さんは、そういうの全くないですから…」
 その先は、解りますよね?とKoukiが椎名に言う。
「昔の小説の7~8割方が、それ系もどきの話でしたもんねぇ、塚村さん」
「ハハハ…お恥ずかしい」
 Koukiの言葉に、塚村は笑ったが心の底では「余計な事言いやがって」と拳を握り締めていた。
「でも、最近はそんな友情味溢れる作品少ないですから、目の付け所はよかったんじゃないですか?」
 私もソレ系の話、作るの嫌いじゃないですよ…と森永がフォローにも似た言葉をかける。
「友情ですかぁ~。う~ん、そうかもしれないですね」
 椎名が眉毛の間に皺を作っていさげな声でそう言う。
「まぁそれで、一度、京野さんと夜が明けるまで、ファミレスで語り合った事のある人なんですよ。奥さんいながら」
 あれは何時でしたっけ?と知ってる癖に故意とKoukiが訊いてきた。
「京野世佐美さんですか?その人」
 森永がさらに塚村に訊く。
「ええ、はい。確か、先月だったかな?談義にゲストで来た時の打ち上げの席で、話してたら止まらなくなっちゃいまして」
 ありえないですよね…と言いながら、再び信号で車を止めた。
午後の一時は、そんな風に過ぎていった。

 

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「“Express”のプライベート特談」 2/2 (2007年8月発表)

2008年04月06日 18時46分00秒 | 物語・小説
「“Express”のプライベート特談」


 数時間後、一向は車を借りる店に居た。折角、ここまで来た事だし、1泊位しないか?という話を森永が提案すると、その店の店主が宿を紹介してくれた。何とか空室がある事が解かり、少し距離があるので塚村は車をもう1日借りる手続きをして、宿へ向かった。
「ウリは、温泉らしいですよ」
 そこまでの道のりで助手席に乗ったのは、やはり森永だった。
「温泉?」
 その言葉にKoukiと椎名が同時に反応した。
「Koukiさんもお好きなんですか?」
「ええ、まぁ」
 後部座席の2人は驚き、これまで行った温泉の話をし始めていた。
「それで、さっきの『その恋シリーズ』はどんな所がよかったですか?」
 不意に森永が訊いてきた。
「ああ、あれですか?新しく出来た高校での人間模様が描かれた話が印象的ですね。グループ毎に展開されていく恋愛とかその周りで起きる出来事とか」
「風の森高校の話ですね。たまたま高校の時に、丁度、母校が出来て初めて作られた卒業アルバムを観たのを思い出して、作ったんですよ」
「そうなんですか?」
 森永の話によると、彼女が高校3年の頃、アルバム委員をやっていて、レイアウト構成のヒントを得る為に、過去のアルバムを漁っている中で見つけた…という事だった。高校が出来てからその時で20年立っていたそうで、出てきたのは偶然以外の何物でもない…という事だった。
「落書きとかあって、結構楽しかったんですよ。それだけ、教員と生徒達は仲良かったのかな…って思うんですよ」
 へぇ~…と塚村は頷く。
「私達の代は、教員と生徒の距離は20年前に比べると5歩位遠ざかっていた感じです。私も、そんなに何か担任に相談したりした事はなかったですし」
 進路位かな…と森永は言う。
「教師達だけじゃなく、生徒同士もやっぱりかなり分散してグループ化してたんで、お互いがお互いをあまりよく知らない…って感じでした。創立当初は相当仲良かったみたいで、クラス内のニックネーム紹介とかありましたよ。若干は、校正されてはいるんでしょうけど」
「信じられないですね。私の代も、どちらかと言うと分散型で、横のつながりはなかったみたいですし」
「友情系の話が少なくなってきてるのは、きっとそんな所が原因してると思うんですよね…。私も、そのアルバムが無ければ到底書けなかったですし」
 森永はマンガ家になった後、ネタ探しに卒業した高校の同窓会で出会った教師に頼んでもう1度、そのアルバムを観て少し経ってから、あの作品を創り上げた…と言う。
「閉鎖的な世の中だからこそ、こんな明るい話で盛り上がるんだろうと思いますよ。結局、人は人の温もりなしには生きていけない存在ですし」
 どっかで聞いた事あるかも知れませんけれど…と森永は言う。
「塚村さん、案外、人付き合い苦手でした?」
「ええ。そんなに良い方じゃなかったですね…というか、その辺りは、散々、番組で喋った気がするんですが…」
「なるほど。だからですよ、そういう話が好きって言うのは」
 塚村は、顔に疑問符を浮かべた。
「友情って、ほら、どこにでもあるじゃないですか?数の大小に関係なく」
「ええ」
「それに、結構、その良さを表しても、あまりに身近で当り前すぎて、心になかなか響かない物だって思うんですよ。だから、流行らないんですよね」
 ため息混じりに森永は言う。
「塚村さんは、その〝当り前〟と縁遠い存在だったから、惹かれたんじゃないかと思います。そう言うの凄く重要なんですよ」
「と言いますと?」
「つまり、1つの物語に共感出来たり感動出来たりするって事です。それがあってこそ、〝話〟ですから」
「塚村さん、森永さんに浮気しちゃ駄目ですよ。柿島さんに言いつけますよ」
 不意にKoukiが話を遮って来た。
「ホント、良い雰囲気でしたよね?」
 椎名が感心した様に言う。
「この間の京野さんの時もこんな感じでしてね。私、1人ハブにされちゃって淋しかったんですよ」
「まぁ、ひどい人」
 ナキついたKoukiに椎名はそう言った。
「1点集中型な感じがする塚村さんらしいですね」
 森永は笑う。
「そうですよねぇ~。レコーディングとかでも融通が効かないですよ、この人」
 よく解ってらっしゃる…とKoukiが森永に言う。
「悪かったな」
 塚村がそう応えた時、一向は宿についた。

「結構、入ってますね」
 車を降り、フロントへ向かう道の駐車場の中で、Koukiが言う。8割方の駐車スペースが埋まっていた。
「日帰りも出来るみたいですから、人気はあるんじゃないですか?」
 パンフレットにはそうありましたよ…と森永がKoukiの言葉に突っ込みを入れ、建物内部に入ると一行はチェックインを済まし、短い1夜を始める事になった。

 5
「何、惚れちゃったんですか?」
 宿の名物である温泉に入り、まったりとしている時、Koukiが塚村に突然そう言った。
「容姿抜群。器量もよさそう。話も合う、これが恋以外の何だと言うんですか」
「そうっすか」
 真剣な表情のKoukiに塚村はちょっと困った。
「塚村さんもやっぱ、森永さんと…」
「ないですよ!」
 塚村自身、森永の事は特に気にしてなかった。それは、柿島が居るからどうの…という前に、単に「話の合う人」という位置付けより上に行く事がない様に思えたのだ。柿島と結ばれたのは、彼女の強引さが強かったが、音楽活動を生業としている中で柿島は何かと塚村の支えになっていた。曲描きに行き詰まったり、人生に行き詰まったりした時の背中の押し方がとてもうまいのだ。仮に、森永と「どうの」となっても、うまく行きそうにない…と塚村は思って居たのだ。それは、いつかの京野にしてもそうだった。

 温泉から上がると、一向は塚村達の部屋に集まって酒を入れた。仕事の話に始まり、その暴露話に発展し、Expressの出会いや結成の経緯という話にもなった。そして、森永のマンガ家兼小説家になったきっかけも話にもなった。
「なんで、京野さんもあなたも、塚村さんと共通する様な部分が多いんですか?」
 アルコールが入りすっかりご機嫌になったKoukiが拗ねた様に言う。
「塚村さんの女々しさが相当なものって事なんじゃないですか?」
 椎名がきっつい言葉を吐く。
「でもそこにKoukiさんの能力が加わって、“Express”が成り立ってるんだし、良いじゃないですか」
 森永が言う。
「作詞のオッケーは、格段に塚村さんが多いですけど、メロディーは苦手なんですよね」
「ええ、どうしても少し演歌っぽくなるんですよ」
 Koukiの言葉は嘘じゃなかった。塚村が出会ったというかきっかけとした歌い手の特徴に影響されてからなのか、これまでの所、Koukiが全てに手を加えている。ライブでは、強引に塚村がソロで弾き語りで歌う事もあるのだが、その時もKoukiの力が役立っている。
「演歌ですか。日本独特ですし、どの人の心の片隅にも、気付かない位小さくあるものだと思いますから、当り前かも知れないですね」
 森永が1人頷く。
「そうですけどね。それじゃ、所謂〝ポピュラーミュージック〟にはならんのですよ」
「ですよね」
 Koukiの言葉に椎名が頷いた。
「ところで、明日はどうしましょうか?」
 不意にKoukiが話題を変えて、一向に問うと、森永は今後の作品のネタとなりそうな物を探すために絵を描きたいと言い、椎名はもう一度温泉に入った上で、湖に行きたいという事だった。
「塚村さんはどうします?昼まで寝てます?」
 冗談半分にKoukiが言う。
「そうですねぇ。どうせ、今夜は、旅先で眠れない症候群でしょうから、そうします」
「解りました。それで行きましょう…」
 という事で、4人は一度アルコールを買い直して、一息入れ、午前様越えで…とは出来ず、Koukiと椎名は早々とアルコールで撃沈してしまったので、会はお終きとなった。しかし、塚村は結局朝まで寝付けず、1人深夜映画を朝まで部屋で淋しく観ていた。

 翌朝の事。
塚村が気付いたというか不意にやかましい携帯の着メロで目覚めたのは朝の9時半だった。Koukiがどうやら仕掛けた様だった。
(あのひたー、半分酔いつぶれてたのに朝、強いんだな…)
 よくよく携帯を見てみると、1通のメールが入っていた。森永からだった。目覚めたらホテル内の喫茶店へ来いという事だった。

「どうもすみません」
 指定された所に行くと、早かったですね…と森永が言う。
「Koukiさん達は、湖にいかれましたよ。お昼頃には戻るって言ってました」
「デートか…。実ると良いですが」
「そうですね」
 静かに笑う森永の表情には、自分にそのチャンスが無いのとは違う影がある様に塚村は思った。

 2人はその後、宿で自転車を借りて近くの行く1本道を走った。1時間位走った所で、森永が自転車を止め、ここで絵を描きたいと言った。そこには、山並みと遠くに街並みが見える場所だった。
「塚村さん、そこに立ってみてくれますか」
 森永は彼をその道の脇に立たせると、反対側に行きデッサンを始めた。
(気持ち良い水色だな)
 視界に映った空と通り抜ける風を感じると、何だか塚村は気持ち良くなった。その時、感じた物が『どこかへと誘う青空が広がる日』と言う、後に発表するアルバム収録曲につながりその曲の歌詞カードのページに彼女が描いたデッサンが生きる事になった。
これが一夏の“Express”のプライベート特談で1コマである。

 因みにKoukiと椎名はその年の冬に結婚を決めたが、森永が浮かべた影が現実となり2年で早々と離婚した。

あとがき
 話の中の“Express”という音楽ユニットは、今から12年程前に私と当時の友人で創り上げたものだった。結成は中学3年の秋頃だったように思う。だが、単に作り出しただけで終わり、曲の1つも作りはしなかった。私が作詞で、友人が作曲という事だったのだが、結局、2人で創り上げる事は今に至っても行っていない。
 塚村尚人という名前は、“The Singer Song Writers”でも登場しているのだが、同一人物である事は言うまでも無い。そして、何を隠そう今こうして作品を書いている私が、塚村尚人という設定だった。笹谷恒熙に“Kouki”は、友人のペンネームである。それ以外のキャラクタは全て想像上の物である。
 「ていとラジオ」も勿論想像上のものであるが、作ったのは友人である。おそらく、『サクラ大戦』の「帝国歌劇団」と当時の京王線の2つから取って出来た名前だと勝手に思っている。詳しい事は解っていないし、訊いてもいない。
 “Express”の音楽活動はないままだが、塚村役の私は結成から4~5年して、一応それ用の曲は作った。“Express”という曲まで実は作っている。「急行」の意味より「表現する」という意味のが強い気がする。そして、話の中で出て来る『どこかへと誘う青空が広がる日』も実際に作っている。最初は『気楽に行こう』と言う“ZARD”にもある曲のタイトルだったのだが、被るので改めた覚えがある。
 『談義』は、実際、中学時代の放課後、学校近くの公園なんかで1~2時間、話し込んだ時に使ったものをそのまま活かしている。その友人も鉄道好きだったので、「トレイントーク」もちゃんと存在していた。
 このサイトで折角“The Singer Song Writers”を形にしたので、塚村が居るExpressの話も形にしようと思い作成した次第である。
こんな話の中に出てくるような旅行はやっていないが、「特談」は実際にやっている。所謂「乗り鉄」である。そして「37特談」は、実際は、「37系統」という地元のバスでの談笑のヒトコマを形にしたものである。丁度、高校受験の為に駅前まで通う時に使った物を形にした。
 ネタバレしてみると、大した事はなく、ウチゲバ話で読手には全く面白みを感じさせないものになってしまったかも知れない…(ちょっと後悔)。
goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「薬草奇談」 (2007年8月発表)

2008年04月06日 18時35分12秒 | 物語・小説
『薬草奇談』


「手紙か?」
 ある日、橘 良寛(タチバナ リョウカン)の基に1通の手紙が届けられた。差出人は、緒方貞守(オガタサダモリ)という武家の友人であった。
 その手紙には、貞守の妻、いづみの体調が思わしくないので、往診の上、薬の調合を依頼する旨が書かれていた。
 良寛は、医者であり薬師であった。家は、橘氏同様、武家であったので本来は侍になるのが流儀なのだが、侍には彼の兄がなったので、弟の良寛は特にこれと行った期待はなかった。しかし、それでも、武家という事で、一応の剣の心得もあったのだが、その事は民衆には知られていない。
 また、昨今、怪獣や化け物が出没する騒ぎが一部で起きており、彼らに対抗する為の魔術・妖術の研究も盛んであり、良寛も好奇心から、薬学の傍らにその分野にも手を出していた。勿論、極秘裏にである。
 
(うん、良い日よりだ)
 見上げる空は、どこまでも澄んでおり、良寛の出立を歓迎している様だった。
(あの家に行くのは8年ぶりか)
 前回行った時は、橘家に第1子の宗太郎(ソウタロウ)が生まれた時だった。父親似とも母親似ともつかぬ顔であった事くらいしか、彼の記憶にはない。
(かなり、大きくなったのであろうな)
 健やかに成長している…という便りは何度かあった。今では、剣術の稽古も始めているという言う。腕前の成長もとりあえずは順調という事だった。世間では、母親譲りの美男と呼ばれているらしい。お前の結婚はまだか?という事も何度か言われた事があったが、1人身の方が何かと気楽なので、そんなを良寛は思いもしていなかった。

 街境の川を渡り、近くの茶屋で一服している時だった。
(風が変わったな)
 どこか湿り気を帯びたものを良寛は感じたのだが、とりあえず空からは日は射していた。
(一雨来るかな?)
 そんな予感がしたので、彼は先を急ぐ事にした。橘の家は、これより2里程行った小高い丘の近くにあった。

 その後、灰色の塊が淡い青を塗りつぶし、予想通り雨が降り出した。
(やはりな)
 とりあえず笠は買ったのだが、その勢いは激しくなる一方で、すぐに濡れてしまった。
(やれやれ)
 見上げた空から察するとすぐに止むような気配は全く無かった。
 ふと、あたりを見てみると、蓮の池があり、大きな葉があたり一面に咲いていた。
(おや、あれは?)
 小さな物の怪1匹、葉の下で雨宿りをしていた。
(雨は人間だけに辛いものではなさそうだな)
 思わず止めてしまった足を再び歩み始めた。その物の怪は、道を行く毎に増えて行った。
(それにしても、敵意が感じられないな)
 物の怪は、本来、人間を見ると何らの形で襲ってくる。襲ってこない物の怪は、良寛の住んでいる地には居ない筈である。それに、人の気配は当に感じているであろうと言うのに、表情が物凄く豊かだった。
(妙なもんだな)
 警戒しながら池を通りすぎたのだが、撮り越し苦労で、物の怪はただ雨をしのいでいるだけで何もしては来なかったし、騒ぎもしなかった。良寛は再び足を止め、池を見つめた。
(この辺りは、民家も多数あるというのに)
 そして振り向いた時だった。
(化け狐ではないか!)
 金色の毛で覆われ、尻尾が5つに分かれた狐だった。最終的には9つに割れるそうだが、まだ途中の様だった。
「け~ん」
 甲高く1つ鳴くと、ゆっくりと良寛の方へ向かって歩みより、すっと池の草叢の中に消えていった。身構えた彼を恐れる事はなかった。
(どうなっているんだ?)
 化け狐は、人を騙し行く手を阻むと言われているが、何もしないと言う話は聞いたことが無かった。
(人慣れしていると言うのか?)
 誰かが飼い慣らしているのか、いやそんな筈は無い、と首を振り、不気味さを振り払おう様に良寛は先を急いだ。

(ようやくついたか)
 緒方家の門の所で、ふぅ…と彼は大きく息を吐いた。その時だった。
「こんちは」
 不意に袖が引かれて、見てみると1つ目の僧風の子供が笑って立っていた。
「ずぶ濡れだね。今日の雨は酷いけど、半時立てば止むよ。それじゃ」
 そう言うと物の怪は去っていった。
「あれ?どうしたんですか?」
 また近くで声がした。今度はちゃんと人間の子だった。
「宗太郎…か?」
「えっ?はい。そうですが…ああ、母上の為にいらっしゃると言うお医者様ですね?」
 お待ちしておりました、と礼儀正しく宗太郎は言い、良寛を中へ招きいれた。
(なんだこの感じは)
 隣に居る宗太郎からは、なんとも表現し難い、安堵と言うような心を静めさせる気配で覆われていた。それに、その2つの眼。人にしては美しい位、奇麗な琥珀色をしていた。

「おお来たか。雨の中大変であったな。すぐに着替えを用意させよう」
貞守は家来に良寛の服を用意させた。
「すまないな、貞守」
 手早く出された着物を良寛は手にとり、濡れきったものから乾いたものへと取り替えた。


 「こんな日に、遠い所、悪かったな」
 良寛が着替えを終えると、客間に通され、貞守から改めて礼を言われた。
「よいよい。しかし、この辺りは、物の怪が多い様だが、大丈夫なのか?」
 気になったので、貞守に彼は訊ねてみた。
「誠か?」
「ああ。この近所で、多く見かけてな」
 遭遇した事を話してみると、貞守は驚くばかりだった。
「そうであったか…。今のところは、平穏ではあるのだが、気をつけねばならないな」
 民衆にも伝え様、と貞守は冷静を装ってそう言った。
「ところで、いづみさんは?」
「おお、そうであったな。今、案内しよう」
 2人は、立ち上がり部屋を出て、母屋へと向かった。その途中の廊下で、雨が上がっている事に気付いた。
(あやつの言った通りか)
 物の怪は自然とうまく調和している…と言われているがその通りだな、と良寛は思った。

「いづみ、橘殿が見えられたぞ」
 少し暗い部屋の中に、朱色系の布団が敷かれており、そこに彼女は横たわっていた。
「これはどうも」
 力ない声で、いづみは言う。
「ずっと熱があってな。あまり飯を口にせんので、衰弱が少しづつ激しくなっていてな」
 症状を説明する貞守の話に頷きつつ、良寛はいづみを診察する。
(風邪…にしては、妙だな)
 それに効くとされる薬は、この地ではそれなりに取れ、煎じて飲んでは居るが芳しくないと、貞守は言う。
(こいつは、ひょっとして)
 そんな時だった。
「宗太郎、あっちへ行ってなさい。うつりでもしたら大変だ」
 貞守がそう言うものの、息子はそれを無視して母親の基に駆け寄った。すると、いづみは、宗太郎の髪をそっとなでた。
(ん?)
 その時、不意に物の怪の気配を良寛は感じた。
(子供の妖怪か)
 煤けた着物を身にまとい、心配そうな面持ちぶりでこっちを見ていた。
「先生、あいつがね」
 不意に、宗太郎が指をさしたので、貞守までもがその方向を見た。
「誰もいないじゃないか…」
「あら。またあなたなの?」
 いづみがやさしく微笑みかけると、ちょっと嬉しそうな顔を物の怪は浮かべた。
「おいおい、大丈夫か?いづみ」
 大人しく寝ていなさい…と貞守は妻を制する。
「貞守。宗太郎を借りてもよいか?ちと話がしたい」
「ああ、それは構わないが、どうしてまた?」
「貴奴なら、いづみを治す方法を教えてくれるかも知れぬ」
「そうなのか?」
 怪訝な顔を浮かべる貞守を余所に、良寛は宗太郎に自分の部屋へ案内するように命じた。
「大丈夫だろうか?」
「平気よ、きっと」
 いづみは、静かに微笑んだ。

「宗太郎、さっきからそなたについている者は誰だ?」
 彼の部屋へ向かう廊下で、良寛は思い切って訊いてみた。
「えっ、見えるの?この子の事」
「ああ」
 そう言うと、物の怪は宗太郎の背後に隠れた。
「大丈夫だよ。何もしないよ」
 宗太郎は、優しげに物の怪の頭をなでると、妖怪は口を動かした。
「連れて行きたい場所があるって」
「お前、話まで出来るのか?」
「うん。恥ずかしがり屋なんだこいつ」
 なっ、と言いながらじゃれあう姿に、思わず良寛は息を飲んでしまった。

 物の怪に連れて来られた場所は、屋敷の裏手にある小川のほとりだった。
「この花を観てって言ってる」
「これか?」
 物の怪と宗太郎がそろって、群生して咲いている黄色い小さな花びらをつけた草を指差した。良寛は、1つそれを摘んで見た。
「観た所、普通の野草のだぞ」
 毒はなさそうだな…と言いながら良寛が更に観察していると、物の怪が側にやって来た。そして、口だけをぱくぱくと動かして何かを訴えて来たが、声が聴こえなかった。
「拳2つ分積んで、3日乾かせって言っている」
 宗太郎が見かねて、通訳する。
「薬になると言うのか?」
 物の怪に訊くと、にっこりと笑って頷いた。こちらの言葉は解るらしい。
「信じられぬが、まぁいい。やってみよう。案内ご苦労だったな」
 良寛は、物の怪の頭をなでようとしたが、触れなかった。それでも気持ちは通じた様で、嬉しそうだった。

「橘様は、心がお優しい方なんですね」
 屋敷へ戻る道すがら、宗太郎が言う。
「私がか?」
「はい。だって、そうでないとこいつ、すぐ居なくなっちゃうんですよ」
 子供の物の怪を宗太郎は指差す。
「父上に紹介しようとすると、いつも駄目なんです。あと、うちの家の人何人かにしても駄目でした」
「ほう。人見知りの激しい奴なんだなお前。男の癖に」
 物の怪に向かって言うと、へへ…と言う照れ笑いを浮かべた。

 その日、良寛は自分の家に薬草を持ち帰り、調合の準備をしようと書物を漁った。
(これか)
 確かに、手元にある植物とそっくりな図画が描かれたものがあった。物の怪用の薬であるとあった。
(となると、いづみは…)
 良寛は、少し複雑な気持ちになった。


 3日が経過すると、摘み取った草はすっかり乾燥し、不思議な香りを放ち始めた。書物によれば、これを普通の薬の様にすり潰し、煎じて飲むと効果があると言う事だった。しかし、すり潰せば潰すほど香りがきつくなり、何とも言えない心地に良寛はなった。
(物の怪というのは、妙なものを薬にしておるのだな)
 とりあえず出来上がったものを、舐めてみたが、これと言った味はしなかった。
(良薬は口に苦し…というが、それも通用せぬか)
 一つため息をついて、持っていく準備に取り掛かった。

(うん、何だ?)
 この間、化け狐に出会った池まで来ると、何やら話し声らしきものが聴こえてきた。
「最近、宗太郎の母親が病気らしいけど、大丈夫なのかねぇ」
「どうなんだろう?けど、宗太郎の表情はこの前と比べると良いから大丈夫なんじゃないの?」
 思わず良寛は足を止めてしまった。ふと目を横にしてみると、小さな物の怪2匹が大きな葉の下でその茎にもたれかかって居た。
(この前は、声なんか…まさか)
 そんな時だった。
「おや?あなたがうちのせがれが見たって言うお医者様かい?」
 見事に尻尾が9つに割れた化け狐が現れた。
「その様子だと、薬が出来たんだな。ささ、お早く、宗太郎の元へ行ってあげてくだせーませ」
 狐は、一礼すると何食わぬ顔で良寛の足元を通り過ぎていった。
(宗太郎は人気ものなんだな)
 再び良寛は歩き始めた。

「おう、この間は世話になったな」
 緒方の家の門の所に、薬を教えてくれた物の怪が居た。
「今、宗太郎を呼んでくるよ」
 良寛に気付くと、ぱっと消えた。
(あの薬の効果なのか?)
 聴こえなかった声が聴こえるようになった事は、その所為か?と思った時だった。
「いらっしゃいませ。ご苦労様です」
 宗太郎がやって来て、ペコリと頭を下げた。
「誰だい、この人?」
 違う声がしたので、良寛は辺りを見回した。
「足元だよ」
 そこには、猫の体つきをし、顔は犬という奇怪な生き物が居た。
「最近、見つけて仲良くなったんだ」
 宗太郎はその物の怪を抱き上げた。
「ささ、父上も母上もお待ちです」
「ああ、そうであったな」
 恐いもの無しって感じだ、と良寛は宗太郎を見て、微笑ましく思えた。

「あら、いい香りですこと」
 いづみの所へ赴き、薬を差し出すと、彼女はそう言った。
「臭い?そんなものはせぬぞ」
 貞守は鼻をならして、空気を吸い込んだ。
「うん…良いですね」
 いづみは薬を服用すると、良寛に一礼をする。
(やってみるもんだな)
 何時の間にか、側にやって来ていたあの物の怪の童の肩に手を乗せると、今度はしっかりと感触を得た。
「どうした、そこに何かあるのか?」
 貞守が良寛の仕草を見て、訊いて来た。
「そう、あなたが教えてくれたのね」
 いづみはにっこりと笑うと、小さく良寛の側に居る見えない子供は頷いた。
「おいおい、どうしたと言うのだ。何もおらぬぞ」
「…緒方。お前もこれを飲んでみろ。もしかしたら、全てがわかるかもしれぬぞ」
 良寛は、いづみが飲んでいる薬を彼にも与えてみた。
「…ん?そなたは?」
「見えるか?どうやら、この家の守り主らしい。物の怪の様だな」
 何?と貞守は子供の側に寄ろうとすると、ぱっと消えた。
「おいおい、あいつは照れ屋なんだ。脅かすと消えるぞ」
 ハハハ…と良寛は笑った。
「ところで、緒方、この家に古くから伝わる書物は無いか?」
「それなら、仏間にあるが、読めたものではないぞ」
「構わない。見せてくれ」
 ここまで来たら、調べてみようと良寛は思った。

「これだ」
 仏間にある棚から、貞守は2つの巻物を取り出した。
「だがな、不思議な事に何も書かれていないのだ。それでも、貴重なものだと、言われてきたんだ」
 これこの様に、と言いながら貞守は巻物を広げたのだが、
「あれ、書いてある…どうなってるんだ!」
「どうやら、この書物、物の怪によって書かれたようだな」
 面白い、と良寛は思いながら、読み進めて行った。
「なるほど、この地には物の怪と人間の間で生まれた子供がいて、その血が時折、ふって湧いてで来ると言う事か。まさか、融和できたとはな。凄い話だ」
 敵対関係にあるのが常だと言うのに、妙なものだと良寛は思う。
「よし、緒方。この書を誰でも読めるようにし、この地の繁栄の礎としよう」
 そう提案し、巻物に書かれた内容を、そっくりそのまま書き直し、橘家の家宝としてそれは後の世に残る事になった。

 それから200年後の事だった。
(あーあ、また親父に閉じ込められちゃった)
 緒方醍醐(オガタダイゴ)という7歳の少年が、ちょっとした悪戯をする度に、代代伝わる物が保存された倉庫へ閉じ込められた。その日、近くで光ものを見つけ、それに手を伸ばすと、見た事無い少年が現れた。それは良寛に薬を教えたあの子供だった。

 あとがき
 この話の舞台となった場所(横浜の三渓園だったと思う)へリンク先のブログサイトの管理人様と一緒に行った時、一発、この地で物語を…という話になった。私も、当ても何もなかったが、なんかかけそうな気がその時はした。その場所は、歴史跡地であったので、作るとすれば江戸時代あたりか?という感じがしたので、一応、それを意識して書いたつもりである。しかし、江戸時代を舞台とした、時代劇を見るのは好きだが、物語を書けるか?と言ったら、書けないと思った。そこで、ちょっと色をつけるべく、妖怪を登場させてみた。前作『変な福引』と被る所はご容赦頂きたい。
さて「霊感」という言葉がある。私には、全くないのだが、この主人公である橘氏は今で言うそう言う能力の持ち主にあたるし、登場人物の緒方宗太郎に緒方いづみもまた例外でない。人間、必要以上に物が見える事が必ずしも良いことではない…という事は、前作『変な福引』で書いた通りである。しかし、好奇心が強いと色々と見てみたいという気持ちは必然的に生まれてしまいそうである。
一方で、「薬」というのは、大変、便利なものでなくてはならないものである。何でも薬で解決出来たら苦労はないが、「奇跡を起こせるようになる薬」とか「頭が良くなる薬」(ありきりではあるが)とか、「瞬間移動が出来る薬」とか「空を飛べるようになる薬」と言った様に、こう「夢をかなえてくれる」ような物があるとそれはそれで嬉しいと思う。ただ、『エックス線の目を持つ男』の様に、不思議な目薬で何でも見えるようになると言うのはある意味「夢」ではあるけれど、「行き過ぎたもの」になってしまうのは困ってしまうけれど…。

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )

「変な福引」 (2007年7月発表)

2008年04月06日 18時20分55秒 | 物語・小説
「変な福引」

 1
(今日も混んでたな…)
 町田 旭(マチダ アサヒ)は、電車を降りて改札を抜けた所で携帯を取り出した。すると、1通のメールが入っていた。

「家にたどり着く前にこのメールに気付いたらで良いです。牛乳1本と麦茶3本を駅前のスーパーで買ってきて下さい」

 妻の蕨(ワラビ)からだった。
(気がついちゃった…メンドクセー)
 口の端をゆがめて旭は苦笑した。
(だいたい、麦茶くらい自分で作れっての)
 夏の今、家の中でお湯を沸かすのは嫌、という妻の我侭でそうしていた。
(安月給なのに、イタイ出費だよ)
 家とは反対側にある店に旭は向かった。

 最近のスーパーは夜遅くまでやっていて、便利だよな…と思いながら旭は店の中に入る。便利はそうだが、独身でもないのにスーツ姿でこうして入るのにはちょっと抵抗があった。たとえ、店内の人影がまばらであったとしても、奥さんに使われてんじゃないの?と思われるのが嫌だった。

「3本以上お買い上げですので、こちら福引券になります」
 会計を済ませると、レジの人から旭は小さな紙を貰った。
(福引ねぇ…)
 どうせスカばっかなんだろ?と旭は思う。
(あそこで引けるって訳か)
 夜も9時を過ぎていると言うのに、まだ福引やってるなんて店員も大変だな…と思いつつ、福引所へ彼は向かった。
「では、1回だけですが、回して下さい」
 陽気にそう言う店員に促され、レバーを回した。ガラガラという音がして白い玉が飛び出した。よく見ると、そこには工事現場で「ご迷惑をお掛け致します」と言う看板に描かれるキャラクタの姿があった。
「あっ、ついに出たか」
 ちょっと店員は慌てるそぶりをすると、1枚の紙を取り出した。
「お客さん。なかなか強運の持ち主ですね。ここにご自身の携帯のメールアドレスを書いて頂けますか?」
「はぁ?」
 旭は、顔をしかめた。
「この玉の景品は、特別なんですよ。面白い事が起きると思いますよ、きっと。ささ、騙されたと思って、こちらに書いて下さい」
「???」
 訳が解らない…と旭は思いつつも、携帯を取り出した。
(まぁ悪戯だったら、メアド変えればいいだけか)
 パチパチとボタンを打って、アドレスを取り出し、用紙に書き込んだ。
「では、明日の朝、ご出勤の時にでもメール見てください」
 店員は、謎めいた笑顔を浮かべて旭にそう言った。

(パソコンならいざ知らず、携帯メールってなんなんだよ)
 旭はぶつくさいいながら、一家の住む築10数年のうすら汚れた5階建ての団地の1室へと続く階段を昇った。
「ただいまー」
 ドアを開けて、中に入りキッチン兼ダイニンクにある冷蔵庫に買ってきたものを入れた。
「あ、ありがとう。いくらだった?」
 すぐ隣の部屋のリビングでエアコン効かせてサスペンス劇を観ていた蕨が、財布を持ってやって来たので、旭はレシートを渡した。すると、
「おとうさーん、英訳手伝ってよ」
 妻似の第一子である海南人(カナト) にそう言われた。
「熱心だねぇ。まだ夏休み始まったばっかだってのに」
 着替えたらな、と旭は言い残して、寝室へと行った。
(凛太郎は、もう寝てるのか?)
 妻が名づけた第2子。現在、小学校5年生。夜の9時を過ぎるとどこででも夢の世界へ旅立つ事が出来る器用な息子。顔の雰囲気は旭に似ているが、寡黙で利口な子供であったのだが、心の深淵は旭によく懐いている海南人(中学1年)と比べると読みにくかった。母親には、それなりに懐いている様で、あどけない笑顔を見せる事もあったのだが、父親の旭にはさっぱりだった。
(子供と付き合うのも楽じゃないな)
 1つ小さなため息をつくと、着替えを終えリビングに行き、夕食がてらに海南人の英訳の手伝いをした。大した学力も持ってない自分が、教える羽目になるとはゆめゆめ思ってなかった旭であるが、海南人は嬉しそう表情を浮かべるので、とりあえず「良し」という事にしておいた。

 翌日の事である。
(夏休みとは言え、ラッシュはあんまり変わらないな)
 つり革にもたれる様に掴まり、人が多い所為で電車の揺れはあまり心地良いものではなかった。そんな時、不意に携帯が震えた。
(何だ?)
 取り出してみると、「新着メール有り」と出ていた。家からか?と思いながら、確認をしていくと、

「今日、あなたの部署で親しい人に変化があります。何があるかは出社してみたからの、お楽しみ~!あと、人面犬に会いますので、頼まれたら写メの1つでも撮って上げて下さい」

 とあり、昨日立ち寄ったあのスーパーマーケットと思しきアドレスが送信者欄にあった。
(これが件〝レイ〟の話か?)
 福引の景品に代わる物…なんだろうが、もし本当にあったら凄いもんだ、と旭は気にも止めず携帯を胸ポケットに納めた。

 2
 (今日もあちーな)
 会社近くまで来て、ネクタイを緩めた時、旭はクールビズが社内で行われている事を思い出し、道の端に寄って取り外した。すると、
「ねぇ、暇だったら1枚写メしておくれよぉ~。誰もアタシに気付いてくれないのぉ~」
足首に何かが触れた感じがし、見てみると、モーホー風で少しクねった表情を浮かべた顔を持ち、柴犬くらいの大きさの怪物が尾っぽを振り、目をキラキラと輝かせて旭に訴えてきた。
「何なんだよ、お前」
 旭は携帯を取り出し、撮影モードを起動させる。
「アタシ?見ての通りの人面犬よ~。オカマなのは放っておいて~」
 後ろ脚で器用に立ち上がると両方の前脚で顔をおさえ、怪犬が照れくさそーにしなった所でシャッターを切った。
「ありがと~。これでやっと帰れるわ。折角の夏だってのに人間の1人にも気付いてもらえないなんて言ったら、洒落にならなくて~。それじゃ~」
 満足そうな顔を浮かて人面犬は言うと、姿を消していった。
(夏だから妖怪ってか?)
 訳わかんねー、と思いながら旭が携帯を折りたたんでいる所に、同僚の川崎がやって来た。
「おはよーっす。こんな所で写メなんて、どうしたよ?」
「あー、こんな変な犬が居たんだよ」
 そう言って、旭は画像を見せた。
「犬じゃなくて、単なる普通の猫じゃないか。猫好きだったのかお前?」
「そんな馬鹿な…って、あれ?」
 よくよく見てみると、確かに、どこにでも居る灰色の網掛け模様を背中に持つ猫だった。
「大丈夫かお前?」
 呆れた表情を浮かべて川崎はオフィスへと入っていった。
(幻だったてのか?)
 首をひねり旭も川崎の後を追った。
(なんだよ、エレベータ行ったばっかかよ)
 旭が勤める会社の事務所はビルの8階にあり、出入りが面倒だった。
「おはよう」
「おはようご…あれ?」
 去年から同じ部署に配属された稲城という人物がやってきたのだが、髪の毛が何時の間にか倍増していた。
「やっぱ、最初はおどろくよな。このカツラには」
 周囲にポカンとした空気が流れる。
「けど、家族・友人達には結構ウケが良くてな。今日、ついに会社でも試してみる事にしたんだ。丁度、新規のお客との大事な取引交渉の日だしな」
「なるほど。そう言われてみると、確かに似合ってますね」
 お世辞でなく旭は口にし、大きく頷いた。言葉では表現出来ないオーラが漂っていた。
「ホントか?いや、それはありがたい」
 稲城がそう言った時、エレベータがやって来て乗り込んだ。

(これが、変化って奴なのか?)
 やがて8階に着き、オフィスの自分の席に旭は着いた。
「あれ、香水変えた?」
 隣の席の府中から漂う匂いが何時もと違う様に旭は思った。
「解ります?彼女からの誕生日プレゼントなんですよ」
 嬉しげに府中は言う。
「へぇー」
 2つ目の変化か…起きるもんだねぇ、と旭は思い仕事に取り掛かった。

 やがて昼休みがやって来て、何気なく旭は自分の席で携帯を取り出した。
(人面犬は、結局、夢だったのか)
 特にそんなものを見たという話も社内ではなかったので、錯覚でも起こしたか…と旭がもう一度画像データを開いた時だった。
「町田君、なかなか面白い待ち受けもってるんだね」
 係長の昭島の声が、不意に背後でして、旭は振り向いた。
「後でそれ、俺にも転送してくれよ。最近、どうも良い待ち受けが無くってさ」
「はぁ、こんなんでよければ」
 そう言ってディスプレイを覗いた時だった。
(あれ?)
 今度はしっかりと、朝、見たまんまのキモイ面構えの怪物の姿があった。
(どうなってんだ?)
 そう思いながら、データを転送すると昭島は喜んでいた。

 やがて夜のとばりがビル街を包んだ。
(そろそろ帰るか)
 旭は事務所を出た。すると、携帯が震えた。
(何だ?)
 見てみるとメールだった。

「お疲れ様です。最後のお知らせです。さぁ、ためらわず帰宅しましょう。その途中で、また面白い事があります。詳しくは体験で!」

 旭は思わず、ヘナっとしてしまった。うそ臭い…と思いながら駅へ向かった。
「コーヒーのブラック下さい」
 喉が渇いたので旭は、ホームの売店で買い物をした。すると、反対方向へ向かう電車が滑り込んで来た。
(この時期、ホームで待つのも苦痛だよな)
 プルタブを引き、口をつけたその時だった。発車を知らせるメロディーがなり始めた。
「…ゴホ、何なんだよこれ!!」
 流れ始めた音楽は、もう30年位前に流行った時代劇の殺陣のシーンで使われたものだった。
「はい。この辺でドアを閉めさせて頂きます。三味線の糸で襲われない様、ご注意下さい」
 ハンドマイクで車掌がそう言うと、ホーム内で笑いが起きた。
(何かのドッキリなのか?)
 そう思った時、電車は駅から出て行ったが、そんな様子は何1つ無かった。
 
 3
 一体何の冗談なんだろう?と旭は思い、気を取り直して、再びコーヒを口にした。
(ん?)
 その時、さっき立ち寄った売店が視界の端に入った。何気なく見てみると、マスクをした女性店員がスケッチブックみたいなノートを片手にし、指で旭に観る様に促した。
(〝アタシってキレイ?〟って…)
 嫌な予感がしたが、頷くと、ページがめくられ〝これでも?〟と出て来て、女性はノートをおき、マスクを外すと、予想通りの展開となった。
(何の真似なんだ?)
 旭は目を閉じて、缶をギュッと握り締めた。すると、
「あーら、おひさしゅ~。元気だった?あんまり代わり映えしないわね。まぁこれでも舐めて落ち着きなさいよ」
 商品の上に、今朝観たあの犬が現れ、ペロペロキャンディーを差し出した所で、旭が乗るべき電車がやって来た。
(もう言葉にならん)
 馬鹿馬鹿しいと旭は思い、つり革を掴んだ。すると、

「皆様、ご利用ありがとう御座います。アンド、この駅からご乗車のお父さん諸氏、本日もご苦労様です。次は…」

 聞き覚えのある女性歌手の“m-ing”の声がスピーカからした。
「なかなかうまいな」
「ですな」
 旭の近くにいた男性2人が言う。
「もの真似車掌なんてなかなかユニークだよな」
「夏の特別企画だなんて、し尺もよく考えたもんだよ」
 彼らは満足そうだった。その物真似は各駅に着く度に人物が違って行き、歓声が車内で上がった。やがて、旭が乗り換える駅にたどり着いた。
(もー何も無いよな)
 降りたホームで周囲を見渡し、異常が無いことが解ると旭は別線の連絡通路へ向かった。

(やっとか)
 地元の駅に着くと、旭は疲れがいつも以上に出た気がした。
(なんだ?)
 改札を抜けて少し行くと、人だかりが出来ていた
「今日は、一日駅長が出来てよかったで~すぅ」
 所謂萌系と言われる若い女性が小さな台の上に乗り、キャピキャピとした表情を浮かべた。すると「モェ~」というオーラが観客の中から盛大に発せられた。
(うそだろ)
 こんな辺鄙な駅でそんなのある訳ない…と旭は思いながら側を通り過ぎた。

「お帰りなさい。あら、どうしたの?顔がほころんでるわよ?」
 自宅で蕨が旭を見ると、彼女は開口一番に言った。
「マジで?」
 色々あって疲れてるんだぜ…という言葉をグッと旭は飲み込んだ。それは町田家ではNGワードだった。一度、それで夫婦喧嘩をした事さえあった。
 
旭は背広を離れ、リビングに行くと、普段なら眠っている筈の凛太郎が起きているのを観た。
(珍しいな)
 凛太郎はテレビに釘つけになっていて、旭には愛想はなかった。
「おい、あんまりマジになるなよ。眠れなくなっても知らねーぞ」
 昨日の様に、夏休みの課題を海南人が側でやっていてたしなめるが、弟はそんな言葉は聴こえていない感じだった。
「何を観てるんだ?」
 旭は、夫の夕食を用意する蕨に訊く。
「怪談話よ」
 と彼女は特に気にしている風でもなかった。
「へぇー」
 今日、あれとあれに会ったのは伏線か?と旭はこっそりと顔をしかめた。
「霊感とか呼霊術とか、若い頃はちょっと気になる話じゃなかった?」
「まぁ、それなりには話題になったかな…って言っても小学校位の頃の話だぞ」
 旭は遠い日の記憶を呼び起こしてそう言った。
「お父さんは霊感あったの?」
 不意に海南人が訊いてきたので、首を振った。
「あって良い物でもないらしいわよ、実際」
「えっ?何で?」と海南人が言った時、凛太郎が、これまで見た事の無い恐い顔で旭達を睨みつけた。
「カナ、喋りたいのならここへおいで。宿題するのをやめて」
 蕨が機転を利かしてそう言うと、彼は旭達の基へやって来た。
「こえーな。いつから、あんな目つきする様になったんだ?」
 思わず旭は蕨達に小声で訊ねた。
「さー。あたしも初めて」
「俺もだよ。物静かな奴が怒ると恐いってこの事なんだね」
 3人は齧りつくようにテレビを観ている凛太郎を一瞬盗み見た後、海南人がさっきの話の続きを母親に求めた。
「例えば、空気中には湿気あってそこには水分が入ってるじゃない?」
 蕨が説明をし始めた。本来、こんな話は自分がするべきなんだよなぁ…と思いつつ旭は夕食に手を伸ばした。
「それが、霧でも無いのに、いつも目に見えるのよ。もしそうだとしたら疲れない?」
 母親の言葉に海南人は頷いた。
「ましてやそれが、この世のものでないとしたら、どう?」
「…嫌かも」
 でしょ?と納得する息子に蕨は目を一瞬大きく開けて訴えた。

 やがて一家は眠りに就いた。凛太郎は案の定、番組を観終ってから恐怖が体中を駆け巡り、何故か旭の布団にもぐりこんで来たので彼は驚いた。まだまだ子供だと思う。
(面白い事か…たまにはこう言うのもいいかな)
 と安心しきって寝息を立てている息子の髪をそっと旭はなでた。

 あとがき
 福引という存在から、すっかり縁がなくなっているし、それが行われている場所に前回出くわしたのはいつだろう…と考えても思い出せない。地元の商店街も今ではすっかりさびれ、もうやっていないようである。
 福引の景品は色々とあるんだろうが、マンガなんかでは、ポケットティッシュが「はずれ」的な存在として出て来たり、1等が「ハワイ旅行」となっていたりする。ポケットティッシュは私も貰った記憶がある。あまり嬉しい品物ではないが、「ハワイ旅行」とはまた大きく出てるな…と思う。しかし夢はあっていいなとも思う。物語の中では重要な骨子であるのは言うまでも無い。
 そう言えば、かつてのゲームソフト『ドランゴンクエスト2』にも福引があった。やった事がおありな方は解ると思うが、どちらかというと「スロットマシーン」に近い様な気がする。それ故に、『ドラゴンクエスト4』では、「カジノ」として生まれ変わったのだろうか?
 あれは小学校4年の頃だったと思うが、諺で「残り物には福がある」という言葉を当時の担任が口した事があった。席替えか何かをした時だったか、細かい事は覚えていない。それをストレートに信じて、故意に最後の方で籤を引いたりした事が私はあったが、結局それでも良い思いではない。籤運には恵まれていない私であるので、当然といえば当然である。だが、必ずしも「残り物に福がある」訳ではない。それは、時を経ていく中で解ってくる話である。
 主人公が手にした変な景品。いつもの妄想で、もう20年近く前に話題となったようなものを登場させてみたが、今にして思うとなにゆえ?という感じではある。
 この作品のヒントは言うまでも無く『世にも奇妙な物語』である。当初は、怪奇話が中心であったが、奇妙な事は必ずしも幽霊や妖怪が出てくるだけではない…という事を後々教えてくれた作品である。しかし、この作品にそんな高尚なものは…。
 福引の景品で、こんなアホ臭いような出来事も起こったりしたら、少しは日々の生活に色がつくであろうか?

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )
« 前ページ