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原発賠償就労不能損害の和解事例

2020年09月09日 | 原子力損害
 原発事故が起きたことにより平成23年3月に解雇等の事情で職をやめざるを得なくなり、高齢であるなどの理由でその後仕事につけなかった場合、就労不能損害が認められるかという問題があります。
 次のような原発ADRの和解事例があり、通常の終期以降も認めらている例があります。

1 居住制限区域・避難指示解除準備区域の場合。
 この区域では、就労不能損害の終期は平成27年2月末までとされていますが、それ以降定年退職予定月までの損害を認めたものとして次の和解事例があります。
【公表番号1217※2】 居住制限区域(浪江町)から避難した申立人夫婦の申立てのうち、避難により退職を余儀なくされた申立人夫の就労不能損害について、平成26年11月から避難先の配送業者にて梱包作業のパートとして再就職したものの、避難中に同申立人がうつ状態に陥ったことや、これにより勤務時間が制限されていること等の事情を考慮して、同月分から同申立人の事故前勤務先の定年退職予定月である平成28年6月分までについて、減収分が全額賠償された事例
【番号1288※1】 居住制限区域に居住し、経営状況の安定した企業で中高年になるまで就労していたが、原発事故後避難し、当該企業を平成24年4月に解雇された申立人について、定年までの就労可能性を認め、平成28年3月から同年8月までの減収分の5割の賠償が認められた事例

 退職金差額が生じた場合は、これも損害として認められます。
【公表番号836※1】 避難指示区域内で母親や妻と居住し、原発事故後、仕事の関係で福島県に残ったものの、平成24年3月に予定されていた定年退職前の、平成23年6月に自己都合退職をした申立人について、茨城県に避難した母親等との別離を余儀なくされていた間に、介護を要する母親の状態が悪化し、母親の介護を巡って家庭不和が生じたこと、母親の介護を行うために申立人が退職したこと等を考慮し、定年退職の場合の退職金との差額分の賠償が認められた事例
【公表番号1191※1】 避難指示解除準備区域(浪江町)の会社に勤務していたが、原発事故により同社が休業となり退職を余儀なくされた申立人らについて、申立人らの勤続期間が30年以上であることや、勤務先の幹部社員といえること等の事情を考慮し、
原発事故がなければ平成31年の定年まで勤務していた蓋然性が高いとして、早期退職
により支払われた退職金と定年退職の場合に支払われる退職金との差額の5割が損害として賠償された事例
【公表番号1272※1】 帰還困難区域内に居住し、同区域内の介護施設に次長として勤務していたが、原発事故によりいったん解雇された後、給与引下げの下で再雇用された申立人について、事故当時の勤務先の業種や昇給実績等から、勤務を継続していれば昇給したことの蓋然性を認め、平成23年4月から想定退職時期の前月である平成27年2月までの間の定期昇給額相当の賠償及び定年時に得べかりし退職金との差額相当額等が賠償された事例
【公表番号1288※2】 居住制限区域に居住し、経営状況の安定した企業で中高年になるまで就労していたが、原発事故後避難し、当該企業を平成24年4月に解雇された申立人について、定年までの就労可能性を認め、実際の退職により得られた退職金と定年時に得られるはずであった退職金の差額の5割の賠償が認められた事例

2 緊急時避難準備区域の場合
 この区域では、就労不能損害の終期は平成24年12月末までとされていますが、それ以降定年退職予定月までの損害を認めたものとして次の和解事例があります。
【公表番号462※1】 緊急時避難準備区域内(南相馬市原町区)に居住しており、避難のために同区域内の職場を退職せざるを得なかった申立人について、就労不能損害の賠償終期を平成24年12月末とする東京電力の主張を排斥し、平成25年1月から定年退職の予定時期であった同3月末までの就労不能損害184万2984円の賠償が認められた事例
【公表番号897※1】 緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の勤務先が原発事故のため経営難に陥り、人員整理の対象となって退職を余儀なくされた50歳台後半の申立人について、勤務期間が長く、原発事故がなければ定年まで就労継続の蓋然性があったこと、申立人の年齢からして再就職が困難であること等を考慮し、退職の4年後である平成28年7月末までの就労不能損害が賠償された事例

 この区域でも退職金差額が認められた和解事例があります。
【公表番号1378※1】 緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)に居住し、避難指示区域内の小売店に勤務していた申立人(原発事故当時51歳)について、原発事故に伴う勤務先店舗の閉店により解雇され、定年退職の場合に比して勤続年数が減少したことに伴い、退職金の額も減少したとして、原発事故の影響割合を2割として退職金差額分が賠償された事例

3 自主的避難等対象区域
 自主的避難等対象区域の和解事例としては次のものがあります。
【公表番号759※1】 自主的避難等対象区域(福島県浜通り地方)の勤務先で就労していた原発事故時50歳台の申立人が、原発事故に起因する人員整理で定年前に退職
せざるを得なくなったとして、就労不能損害の賠償を申し立てたのに対し、和解案提
示の直近月である平成25年9月までの就労不能損害が賠償された事例
【公表番号1113※1】 自主的避難等対象区域(田村市)に居住していたが、原発事故の影響により勤務先工場が閉鎖されたため、勤務先から解雇された申立人について、これまでの勤務状況や勤務先における定年等を考慮して、申立人の定年退職予定時期であった平成27年5月分までの就労不能損害の賠償が認められた事例
【公表番号1186※1】 自主的避難等対象区域(いわき市)に居住し、同市内の事業所に勤務していたが、原発事故による事業所閉鎖に伴い解雇され、避難先で再就職
た申立人(原発事故時60歳台前半)について、元の勤務先において、当初の雇用契約書上は有期雇用とされていたものの期間満了後も継続して雇用されていたこと等の事情を考慮し、就労不能損害として、平成26年3月から申立人の元の勤務先の定年時期である平成27年10月までの減収分(原発事故の影響割合9割)が賠償された事例

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