本格的な冬がやってまいりまして、最高気温が15℃を下回るあたりから、私もコートが通勤で欠かせなくなります。背広にネクタイという姿のため、コートもそれに合うようなものとなりますが、そのコートに関わる話が、今日のテーマです。
就職した頃に着ていたのは、おしゃれないとこのお下がりの黒いトレンチコートでした。ちゃんとベルトもついていて、トレンチコートとしてのデザインに忠実なものでした。すなわち、大きな襟、背中のヨーク型ケープ(二重になっているところですね)、肩のエポーレットなどです。トレンチコートはその名の通りトレンチ(塹壕)での戦いとなった第一次世界大戦の際にイギリス軍の将校が着用し、それが戦後になっておしゃれとして普及したと伝えられていることは、このブログの読者ならお分りでしょう。トレンチコートの原型は第一次大戦以前に既にあったそうですが、それが広まるきっかけになったのが第一次大戦だったということのようです。
私のコートは黒ということもあって少々珍しかったですし、黒いコートというとロンメル将軍みたいで(あちらは革でしたが)かっこいいな、と(単純ですが)気に入っておりました。
その後も何度かトレンチコートを買いましたが、他のコートに比べてやはり高価なこともあり、近年ではトレンチコート的なものではない、もっと簡単なつくりのコートを着用していました。
昨年のことですが、偶然眺めていたミリタリーショップの通販サイトにコートがいくつも出ていました。値段も安価ですし、ミリタリーの服に関しては「ハズレ個体」もありますが、デッドストックなどは概ね問題のない製品が多いと思います。その中で私が気に入ったのはイタリア軍の紺色のコートで、空軍のデッドストック品のようでした。早速注文して着てみました。ベルトこそないものの、トレンチコートの特徴はだいぶ押さえていますし、ライナーもついていて暖かく、気に入りました。ライナーに小さな汚れもありましたが、気にするレベルの話ではないので、そのまま着ています。丈の長いコートと言うのは防寒性も優れていますが、着た時に動きが重くなります。私のようにせかせか歩いてしまう人間にとっては、動きを重くした方が見てくれも含めて良くなるかな、と思いました。ローマ時代のトーガと呼ばれる長衣も、動きを荘重にする効果があったと言われますが、このコートもなにかそんな気がしました。また、軍服由来だからか、背筋がピッと伸びるような、自ずと胸を張っているような仕立てになっているように感じられ、そこも気に入った一つです。紺色と言うのもちょっと珍しいですが、オリーブドラブとか選ぶよりはミリタリーっぽくなくて着やすいかなと思いました。多少ごわごわしていたり、重いところもこの服の個性、と思って着ています。
と、ここまで書けばいいものが手に入って良かったですね、となりましょうが「ちょっと待った」が入りました。私の家人です。このコート「全体に四角く見えるんだよね、それから襟が大きくて威圧感半端ないし」と少々ご不満のようです。たしかに仕立て方として着用した時に四角っぽくしているようです。また、肩パットが入っていないのに、なで肩の私が着てもがっしりした感じに見えるようです。威圧感半端ないのは軍服由来だから仕方ないところです。そうは言っても私も変える気持ちはなく、このコートがしばらく間、冬の相棒となってくれることでしょう。
コートのことが気になっていましたら、実際にミリタリーモデルではトレンチコート姿のフィギュアってあるかなあと探してみたのですが意外に少なく、「正統派の」ものはレジンキットで見かけた程度です。昨年の今頃、コート姿のドイツ兵をビネットにしましたが、今回も英・独のコート姿の軍人さんにご登場いただきました。
なお、英独ともに士官の装備の中には個人が用意する場合があります。古代ギリシャなどで市民が装備を自分で賄っていたと聞きますし、ローマ時代でも騎士は自分で馬、馬具などを自分で揃えていました。このため、騎士階級と言うのは経済人という意味合いもあったと聞きます。中世においても騎士たちは自分で装備を調達し、それぞれ個性のある装飾などを施していましたね。第二次大戦までは士官たちの中には貴族階級出身者も一定数見られたでしょうから、装備の自己調達は昔の名残だったのかもしれませんね。
まずはこちら。タミヤの近年の製品「ドイツ野戦指揮官セット」の二人です。左側の将校はコート姿ですね。双眼鏡のひもをプラ材で追加したくらいで、あとはストレートに組んでいます。地面に刺さっている鉄骨のようなものは「バリケードセット」のレール部分です。一部あぶって変形させています。
横の士官に命令を出している感じですね。「ここは鉄十字章授与者のハンスちゃんなら20人くらいで攻め込めばなんとかなるでしょ」なんて軽薄な口調ではないはずです。
二人の後姿。倒木なのかこちらの木も「バリケードセット」から持ってきました。
キットはこちらです。昔ほぼ同じ内容のセットが出ていたのですが、こちらは現代の技術による「リメイク」版です。
ドイツからはもう一つ。タイトル画像にもありますが、将官と副官と言う感じですね。
望遠鏡を覗く将官は昔のキット「ドイツ指揮官セット」から。
副官はさきほどの「ドイツ野戦指揮官」のひとりです。
こちらの将官、現代のキットほど立体的な造形でないのと、ディティールも追加してあげる必要がありました。コートにつきもののボタンは、プラパーツで1mmリベットとして売られているものをつけたりしています。また、黒いコートですのでハイライトなどを適宜工夫して、立体的に見せるのに苦心しました。
ロンメル将軍の黒いコートは革だったようですが、こちらは別の素材と言う設定です。
テーブルとイスは「コバアニ模型工房」の製品を使っています。地図の上の瓶はアスカモデルのもの、文鎮は市販の丸モールドのプラパーツに色を塗ってあります。将官のヘルメット、ジャーマングレーの特別仕様のようです。
前線を見つめる将官という感じですが、苦戦している場所に時にはサイドカーで乗りつけ、士気を鼓舞し、時には大胆な手法で勝利に導くタイプの将軍のようで、ロンメルほどではありのませんが、連合軍から「ハンニバル」、「カエサル」といった軍事の天才になぞらえたあだ名を持っていた、という設定です。副官の方が心配そうに見つめている感じですね。「よし、南側の河川伝いで苦戦しているところへ行くぞ。サイドカー用意しろ」と命令が下りそうです。このジオラマ、余白が多いので地面に土のうとか積む余地がありそうです。
迎え撃つイギリスの将校はこちら。
あっちがハンニバルなら、こっちはスキピオですか・・・。と言ってそうな英軍将校は、ミニアートのイギリス軍士官セットから。以前、タミヤのSASジープと絡んでいた方の仲間です。
先祖代々の陸軍士官の家系で、御先祖様はクリミヤで戦ったとか、父親は前の大戦で塹壕戦を経験したのかもしれません。コートはタミヤアクリルのカーキドラブをやや明るくしたもので塗っています。ドラム缶はタミヤ製、テーブルを乗せていますがこちらはコバアニ模型工房製、上のビスケット缶やボトル、足元の缶はアスカモデル製です。もちろんボトルの中身はお酒ではないでしょう。
先述しましたがタミヤの最近の製品は本当に立体的で、ちょっとハイライトをつければ陰影のある仕上がりが期待できます。私も多少ハイライトをつけたり、逆に影の部分は暗く描きこんだりしています。昨今のハイライトを強調する仕上げはあまり好きではないのですが、できあがった人形たちを見た家人からは「もうちょっとハイライトをつけるのもありだよね」とコメントをいただきました。美術を学んでいた人のコメントなので、たぶん、いやきっと正しいと思います。
コートの話を長々書いてきましたが、私が随分前にトレンチコートで通勤していたときのこと、電車の中で私より年かさの男性と高校生くらいのお嬢さんが乗っていました。お父さんは革のハーフコートというなかなかお洒落ないでたちでしたが、娘さんは気に入らない様子で「なんでそういうの着るの?ああいうの(私の方を指さして)にしてよ」と言っています。「ああいうの」を着ている私だって、コートの下のネクタイなんかはイタリア製の派手なものだったりするのですが・・・。
今年の模型の話はここまで、また食後にでも、年末のご挨拶といたしましょう。
(参考文献 ミリタリーユニフォーム大図鑑 文林堂)