工作台の休日

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明治のメディア王 小川一眞と写真製版展を観てきました

2024年02月08日 | 日記
 印刷博物館で開催中の「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展を先日観てきました(2/12まで)。私が10年ほど前に本業で印刷業界と関りがあったので、印刷博物館にも何度か足を運んだものですが、コロナ禍もあって足が遠のいておりました。

(画像は公式サイトより拝借)
 小川一眞という名前は写真師として私も知っておりました。現在は鉄道博物館所蔵ですが、明治時代の機関車を写真に収めた「岩崎・渡辺コレクション」の撮影を担当しているほか、人物、風景に限らず、さまざまな写真を撮影しています。本展示では写真師としての功績だけでなく、明治時代の「ニューメディア」であった写真を使った印刷人、出版人としての小川にスポットを当てています。
 小川一眞は若き日にコロタイプ印刷と網目版印刷という、明治期にはどちらも写真製版の先端技術を会得していました。写真製版により文字や版画だけでない、より視覚に訴えることができる印刷物を作れるようになりました。これにより自らが撮影したものをより多くの人々の手元に届けることができたわけです。美術誌「國華」の刊行にも関わっていますし、浅草の凌雲閣で展示された東京の芸妓さん100人の写真も彼の手によるものでした。後者は東京中の美人図鑑という感があります。
 「岩崎・渡辺コレクション」の写真も展示されていましたが、印象に残ったものの中には帝国議会開会の際の議員一覧の写真というものがありました。こちらは新聞の付録だったようです。犬養毅や尾崎行雄といった昭和まで活躍した政治家の若き日の肖像もありますし、足尾鉱毒問題を告発した田中正造は洋装姿で撮られており、後の和装の老人のイメージとはだいぶ違います。
 また、遠い場所で起きていることを見てきたまま伝える、というのも写真製版だからできたことでしょう。濃尾地震や三陸の津波、日清戦争で停泊する海軍の軍艦の写真など、伝える手段として写真と印刷がこの時代に発達していったことがわかります。喫水下に衝角がついていたであろう、あの時代の軍艦の写真も鮮明に残されています。
 明治期の写真を見ますと、小川一眞はたくさんの人を雇って事業を展開していたようで、おそらく本人だけでなく、従業員も写真師としての確かな「眼」を持っていたのではないかと思います。出版物の中には海外向けのものもあれば国内・一般向けのものもありますので、その美しい写真製版とともに一級のメディアが日本にもある、と海外の人たちも思ったことでしょう。私も当時の写真や印刷物を見ながら、しばし明治時代にタイムスリップすることができました。歴史を感じるというのは、今、この時点から昔を訪ねるのではなく、心の中でその時代に自分の身を置くことと思っていますので、こういった写真は自分をその時代に置くことができる大切な媒体でもあります。
 冒頭にも紹介しました「コロタイプ印刷」「網目版印刷」ですが、会場の入り口にその原理を理解できる展示もあります。また、常設展で古代から現代までの印刷技術の流れも理解できますので、この企画展の理解を深める一助になるかと思います。
 なお、博物館1階では世界のブックデザイン展も開催されております。こちらは欧米、アジアの美しいデザイン、装丁の本が並べられ、手に取って見ることができます。こちらもお勧めです。


 

 
 
 
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