青い花

読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。

ちかえもん

2016-01-20 06:26:32 | 日記
先週木曜夜8時から、NHK総合で『ちかえもん』が始まりました。
“新感覚!痛快娯楽時代劇”だそうで、正統派時代劇ではありません。細かいことは気にせずに、人情喜劇として楽しめば良いのだと思います。

≪時は元禄16年5月――。近松門左衛門(松尾スズキ)は長いスランプから抜け出し、人形浄瑠璃の傑作『曾根崎心中』を書き上げた。
芝居小屋は連日盛況。座長の武本義太夫(北村有起哉)も舞台の上で感慨深げだ。
「近松っつあん、アンタは人形浄瑠璃の救いの神さんや」
「いや、救うたんはワシやあらへん。ワシやあらへん…」

元禄16年正月――。武本座の芝居小屋はこの日も閑古鳥が鳴いていた。数少ない観客は誰も芝居を観ていない。
「アカン…」近松は肩を落とした。

武本座の金主で、大阪で一二を争う豪商・平野屋忠衛門(岸部一徳)の宴席。近松の浄瑠璃は、観に行った者から散々にコキ下ろされていた。
そんな中で、忠衛門だけは、「近松先生は西鶴や芭蕉に匹敵する物書きだ」と励ます。しかし、近松が、「西鶴や芭蕉は下の名で呼ぶのに、ワシだけ苗字で呼ぶのは余所余所しい」と文句を言うと、「つまらないことを言ってないで、さっさと傑作を書きなさい」と怖い顔になってしまった。

家に帰った近松に、母の喜理(冨司純子)は不平タラタラであった。
町人から施しを受ける境遇を嘆き、「鯖が食べたい」を連呼しながら、「唐の王祥という男は、真冬に魚が食べたいと言い出した母のため、裸で腹這いになって池の氷を溶かして魚を獲ってきた」という孝行譚を語り出し、「お前は武士の身分と故郷を捨ててまで戯作者の道を選んだのに、大した手当も稼げずに嫁に逃げられ、50を過ぎでも母に着物一つ買えない親不孝者である」と嘆き節が止まらない。

母が親孝行に拘るのには訳があった。
時の将軍・綱吉が親孝行を奨励し、孝行者には褒美を出すので、世は空前の親孝行ブームなのである。往来には、ブームに便乗して孝行糖という飴を売る孝行糖売りたちが練り歩いていた。
近松が不景気な顔で道を歩いていると、チンドン屋みたいな恰好で「不孝糖~♪不孝糖~♪」と踊り歩く奇妙な男(青木崇高)と擦れ違った。近松は、男のあまりの異彩ぶりに思わず「不孝糖ってなんやねん?」と声をかけてしまう。「親孝行なんか糞食らえ!親孝行の何が偉いんや?」と尋ね返してきた男に、近松が王祥の孝行譚を聞かせたら、「そら、まともなもんがすることやあらへんな」と鼻で笑われてしまった。アホからアホ扱いされて不愉快になった近松。男を追い払うために「不孝糖を売りたいなら、親不孝者が集う堂島新地に行きなはれ」と適当に助言すると、男は喜んで去って行った。

その夜、堂島新地の「天満屋」。平野屋忠衛門が新興の油問屋・黒田屋九平次(山崎銀之丞)と座敷で歓談している。
忠衛門が表に出ると、放蕩息子の徳兵衛(小池徹平)と鉢合わせになった。「この親不孝者!」と息子を追いかける忠衛門。その脇の川を小舟に乗った不孝行糖売りの男が歌いながら流れて行った。

翌日も芝居小屋は不入りだった。
座長と口論になった近松は昼間から「天満屋」で酒を飲んでいた。遊女相手に愚痴と自慢話に夢中になっていたら、いつの間にかあの不孝行糖売りと二人きりになっていた。
男の名は万吉。近松の助言通りに新地で不孝糖売りをしていたら、見事大当たり。しかし、不孝行を売った客に連れられて来た「天満屋」でドンチャン騒ぎをしていたら、お勘定が足りなくなってしまい、今は居残りで働いているという。「コイツ、関わったらアカン奴やった」近松は座敷から逃げ出した。

帰り際に女将のお玉(高岡早紀)からおっかない顔で、「溜まったツケを払いなはれ」とねじ込まれた近松。
そこに居合わせた黒田九平次が、代わりに支払ってくれた上に、酒を御馳走してくれると言う。優しそうな微笑の九平次に近松は気を許す。
九平次は、近松が歌舞伎の筋を書いていた頃からのファンだと言う。九平次からベタ褒めされて、「新しく作る歌舞伎小屋の座付きになって欲しい。手当も今の五倍出す」と言われ、近松の心は揺れる。

九平次が帰った直後。
座敷に万吉が現れて、勝手に酒を飲みながら、「あれは胡散臭い」と言う。「アンタのことや、歌舞伎に戻ったところで碌なものは書けやしない。そんなことよりワイと一緒に不孝糖売りしましょうや」としつこい万吉を振り払うために、近松は、「鯖を買って来てくれたら不孝行糖売りをやってやる!」と出まかせを言った。

不入り続きのため、近松の舞台は打ち切りが決まり、後金も貰えなくなってしまった。座長と口論になった近松は、浄瑠璃に見切りをつけて九平次の世話になることに決めた。

その夜。
「天満屋」で九平次から酒を振る舞われ、煽てられ、近松は完全に舞い上がっていた。
しかし、故郷の話を訊かれた近松は、自分が子供のころから人形浄瑠璃を愛していたことを思い出し、「やはり歌舞伎には戻れない」と頭を下げた。
すると、それまで温厚な微笑を浮かべていた九平次の態度が豹変。近松は、奥の部屋に引っ張り込まれ、ドスを突きつけられてしまう。
「黙って来いてりゃなんです、アナタ?武士を辞めて浄瑠璃書きとなり、やがて甘言に乗せられて歌舞伎屋に転じ、持ち上げてくれた男が消えるとまた浄瑠璃に戻り、五倍の手当てをチラつかせられるとまた歌舞伎に戻ると言ったくせに、直後に前言を翻すアナタ、いったい何がしたいんです?」
九平次には大きな目論見があると言う。そして、そのコマとして近松が必要なのだ。
近松は、首にドスを当てられ、無理やり歌舞伎小屋の座付きになることを承諾させられそうになった。

そこに突如、鯖をぶら下げた万吉が障子をパーンと開けて登場した。
万吉は目を剥いている九平次を無視して、近松の傍に寄ると、褒めてと言わんばかりの満面の笑みで、鯖を得るまでの苦労話をベラベラ語り出した。
今の季節、何処に行っても鯖を置いている店が無い。大阪中を走り回って漸く鯖を飼っている者を見つけたまでは良かったが、桶に氷が張っていて肝心の鯖が取り出せない。そこで万吉は、王祥ばりに裸になって桶の氷を溶かし、鯖を得ることに成功したのである。
「やっぱり、まともなもんがすることやあらへんな」と、笑う万吉。座敷の不穏な空気に全く動じない。九平次をねめつけ、「そういう訳でこの人はワイと不孝糖売りをするから、アンタは諦めなはれ」と勝利宣言すると、呆気にとられている九平次からドスを取り上げ、鯖をさばき出した。毒気を抜かれたのか、九平次は無言で帰って行った。

助かったのか…?
この歳になって、甘言に惑わされ怖い目に遇い、アホに助けられてしまった…情けなくて泣けてきた近松は、人形浄瑠璃の傑作を書き上げることを心に誓う。
そして、何故か近松の家に上り込み、母に気に入られた万吉に文句を言いながらも、“ちかえもん”という渾名をつけられて、その可愛らしい響きに顔を綻ばせてしまうのだった…。≫

万吉はアホなのか賢いのかわからない男です。会話が一方通行なくせに、時々正鵠を得たことを言う万吉に振り回され、近松の運命は開けていきます。
不孝行糖売りが生業の万吉ですが、天邪鬼ではないでしょう。親孝行なんて誰かに奨励されてするものではありません。ましてや、ご褒美目当てだなんて浅ましい。それに、王祥の親孝行を美談扱いするのは正気じゃない。真冬に氷の上で裸になったら危険です。万吉の言うとおり、王祥は鬼婆に搾取されているだけ、まともじゃないです。万吉は筋の通らないことに我慢ならない正義漢なのだと思います。
肝っ玉女将・お玉の仕切る「天満屋」を舞台に、“あほぼん”徳兵衛と遊女・お初(早見あかり)の道ゆき、謎の商人・黒田屋九平次の企み、年増遊女・お袖(優香)に寄せる近松の恋心、平野屋忠衛門の商人としての矜持と息子への愛情…様々な思惑が絡み合って騒動が起こり、やがて『曾根崎心中』の誕生に繋がります。万吉はどのような役割を果たすのでしょうか?トリックスター・万吉の活躍に注目です。
また時折差し挟まれる文楽人形の操演が美しく、見ごたえがあります。いつか大阪に本物の人形浄瑠璃を観に行きたいと思いました。
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