『地獄でなぜ悪い』(2013年)は、園子温監督が自らの自主制作時代の経験を盛り込みながら血みどろのアクション満載で描いた任侠青春映画。
出演は、國村隼、堤真一、二階堂ふみ、長谷川博己など。
《自称日本一の映画バカ集団“ファック・ボンバーズ”。
構成員は、監督志望の平田(長谷川博己・高校時代は中山龍也)、元ヤンで平成のブルース・リーを目指す佐々木(坂口拓・高校時代は中田晴大)、カメラマンの谷川(春木美香・高校時代は青木美香)と御木(石井勇気・高校時代は小川光樹)。
日々、映画の自主制作に余念がない。それ以外何も考えていない。
武藤組の組長・武藤大三(國村隼)の娘ミツコ(二階堂ふみ・10歳時は原菜乃華)は、歯磨きのCMで注目の人気子役。
その武藤宅に、対立する池上組の刺客が四人押し入った。武藤は愛人の店にいて無事だったが、妻のしずえ(友近)が、刺客を滅多刺しにして逮捕されてしまう。
武藤は速やかに報復を行い、池上組の幹部を山中に埋めた。
刺客のうち唯一生き残った池上純(堤真一)は、血塗れでよろめいているところを“ファック・ボンバーズ”に撮影されつつも何とか逃げのびた。
それから10年後――。
しずえの出所の日が近づいた。
武藤は妻の労に報いるために、彼女の夢であるミツコ主演のアクション映画の製作に取り掛かる。
しかし、肝心のミツコが撮影中に男と駆落ちしてしまった。監督は腹を立て、別の女優で撮影を続行してしまう。その間に事務所が池上組の襲撃を受けたりして、思うに任せない武藤は頭に来ている。
“ファック・ボンバーズ”はアマチュアのままだった。
一本の映画も撮影していないくせに、監督気取りの平田は、閉館した映画館で熱い思いを語る。
「俺はたった1本の名作が作りたいだけなんだ。この世界には下らない映画監督はゴマンといる。何本も何本も作って家を建てているバカ、どうでもいい映画ばっかり作って金を貰ってるバカ、俺はそんなのは嫌だ!たった1本の映画でその名を刻む伝説の男になりたいんだ!いつか映画の神様が俺たちに最高の1本を撮らせてくれる日がきっと来る!」
しかし、佐々木は、もううんざりしていた。映画の夢を追いかけているうちに無駄に年を取って、気が付けば三十路目前のフリーターである。
「ふざけんな!もうやってられるか!」
怒って“ファック・ボンバーズ”を辞めてしまった。
駆落ち相手に逃げられたミツコは、偶々電話ボックスにいた見知らぬ青年・橋本公次(星野源)を偽恋人に雇い、駆落ち相手に報復を加えた。
傍でその様を見ていた公次は、ミツコが昔憧れていたCMの子役であることに気がつき、運命を感じる。
しかし、二人で道を歩いているところを武藤組のヤクザにつかまり、車に押し込まれてしまった。公次は、「組長の娘とヤッた」ということにされ、問答無用でボコボコにされた上に、事務所で武藤に殺されそうになる。武藤が刀を振るったその瞬間、ミツコが叫んだ。
「その人は映画監督よ!」
勿論出まかせで、公次は映画のことなど何も知らない。
武藤から「撮影に失敗したら殺す」と脅され、進退窮まった公次は、平田率いる“ファック・ボンバーズ”に撮影を依頼することにした。
千載一遇のチャンスに平田は、映画の神に感謝しながら喜びに震える。
佐々木のバイト先の中華料理店に押しかけ、佐々木を連れ戻すと、早速プランを練った。
主演はミツコ。その他の出演者はヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。制作陣もヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。リアルな殴り込みをちゃっかりドキュメント映画にしてしまうのだ。
そして、武藤組総出で池上組に押しかけ、撮影が開始された…》
日本刀でポンポン切り飛ばされる生首や手足、マシンガンでハチの巣になる人体など、普通のヤクザ映画にはない滑稽で過剰な演出は、もはやギャグ漫画の領域で爽快ですらある。
画面全体から「これは娯楽です!」という主張がバ~ンと放たれているので、本作を観て青少年への悪影響を心配する人はいないだろう。ヤクザが全員アホマヌケで全然カッコ良くないし。
漫画チックで誰一人感情移入できる人物がいないのに、全体としては好感度が高いのは、全員バカだけど真剣だからだろう。全員が立場の違いを超えて、一つの傑作を生み出すことに命を懸け、そして死ぬ。日本人の美意識にグッとくるテーマだと思った。
唯一の常識人だった公次が、怒涛のごとく襲い掛かる災難に翻弄されているうちに、だんだん壊れてゆき、生き生きとリアル殺人劇に参加していく過程に『冷たい熱帯魚』の主人公を思い出した。CMソングを口ずさみながら、駆落ち相手の口にビール瓶の破片を押し込むミツコの顔はとても怖いのに可愛らしいので、公次が道を踏み外したのも致し方ないかも。
若い二人のピュアな魅力を支え引き立てる、國村・堤・長谷川の安定した演技力が素晴らしい。本当に頭のネジがぶっ飛んだ異常者にしか見えない。この三人の好演で、荒唐無稽なストーリーに説得力が生まれたと思う。
特に國村隼の話し方が良かった。低音で、ゆったりとしていて、風格があるのに、どこか滑稽。感情の振り幅が狭いので、次の行動が予測つかなくて緊張する。ギャーギャー凄まれるより余程怖い。
全体として、夢と恋とバイオレンスがバランス良く詰まった愉快な作品であった。ミツコのCMソングは、一度聴いたら忘れられない秀作だ。
出演は、國村隼、堤真一、二階堂ふみ、長谷川博己など。
《自称日本一の映画バカ集団“ファック・ボンバーズ”。
構成員は、監督志望の平田(長谷川博己・高校時代は中山龍也)、元ヤンで平成のブルース・リーを目指す佐々木(坂口拓・高校時代は中田晴大)、カメラマンの谷川(春木美香・高校時代は青木美香)と御木(石井勇気・高校時代は小川光樹)。
日々、映画の自主制作に余念がない。それ以外何も考えていない。
武藤組の組長・武藤大三(國村隼)の娘ミツコ(二階堂ふみ・10歳時は原菜乃華)は、歯磨きのCMで注目の人気子役。
その武藤宅に、対立する池上組の刺客が四人押し入った。武藤は愛人の店にいて無事だったが、妻のしずえ(友近)が、刺客を滅多刺しにして逮捕されてしまう。
武藤は速やかに報復を行い、池上組の幹部を山中に埋めた。
刺客のうち唯一生き残った池上純(堤真一)は、血塗れでよろめいているところを“ファック・ボンバーズ”に撮影されつつも何とか逃げのびた。
それから10年後――。
しずえの出所の日が近づいた。
武藤は妻の労に報いるために、彼女の夢であるミツコ主演のアクション映画の製作に取り掛かる。
しかし、肝心のミツコが撮影中に男と駆落ちしてしまった。監督は腹を立て、別の女優で撮影を続行してしまう。その間に事務所が池上組の襲撃を受けたりして、思うに任せない武藤は頭に来ている。
“ファック・ボンバーズ”はアマチュアのままだった。
一本の映画も撮影していないくせに、監督気取りの平田は、閉館した映画館で熱い思いを語る。
「俺はたった1本の名作が作りたいだけなんだ。この世界には下らない映画監督はゴマンといる。何本も何本も作って家を建てているバカ、どうでもいい映画ばっかり作って金を貰ってるバカ、俺はそんなのは嫌だ!たった1本の映画でその名を刻む伝説の男になりたいんだ!いつか映画の神様が俺たちに最高の1本を撮らせてくれる日がきっと来る!」
しかし、佐々木は、もううんざりしていた。映画の夢を追いかけているうちに無駄に年を取って、気が付けば三十路目前のフリーターである。
「ふざけんな!もうやってられるか!」
怒って“ファック・ボンバーズ”を辞めてしまった。
駆落ち相手に逃げられたミツコは、偶々電話ボックスにいた見知らぬ青年・橋本公次(星野源)を偽恋人に雇い、駆落ち相手に報復を加えた。
傍でその様を見ていた公次は、ミツコが昔憧れていたCMの子役であることに気がつき、運命を感じる。
しかし、二人で道を歩いているところを武藤組のヤクザにつかまり、車に押し込まれてしまった。公次は、「組長の娘とヤッた」ということにされ、問答無用でボコボコにされた上に、事務所で武藤に殺されそうになる。武藤が刀を振るったその瞬間、ミツコが叫んだ。
「その人は映画監督よ!」
勿論出まかせで、公次は映画のことなど何も知らない。
武藤から「撮影に失敗したら殺す」と脅され、進退窮まった公次は、平田率いる“ファック・ボンバーズ”に撮影を依頼することにした。
千載一遇のチャンスに平田は、映画の神に感謝しながら喜びに震える。
佐々木のバイト先の中華料理店に押しかけ、佐々木を連れ戻すと、早速プランを練った。
主演はミツコ。その他の出演者はヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。制作陣もヤクザ+“ファック・ボンバーズ”。リアルな殴り込みをちゃっかりドキュメント映画にしてしまうのだ。
そして、武藤組総出で池上組に押しかけ、撮影が開始された…》
日本刀でポンポン切り飛ばされる生首や手足、マシンガンでハチの巣になる人体など、普通のヤクザ映画にはない滑稽で過剰な演出は、もはやギャグ漫画の領域で爽快ですらある。
画面全体から「これは娯楽です!」という主張がバ~ンと放たれているので、本作を観て青少年への悪影響を心配する人はいないだろう。ヤクザが全員アホマヌケで全然カッコ良くないし。
漫画チックで誰一人感情移入できる人物がいないのに、全体としては好感度が高いのは、全員バカだけど真剣だからだろう。全員が立場の違いを超えて、一つの傑作を生み出すことに命を懸け、そして死ぬ。日本人の美意識にグッとくるテーマだと思った。
唯一の常識人だった公次が、怒涛のごとく襲い掛かる災難に翻弄されているうちに、だんだん壊れてゆき、生き生きとリアル殺人劇に参加していく過程に『冷たい熱帯魚』の主人公を思い出した。CMソングを口ずさみながら、駆落ち相手の口にビール瓶の破片を押し込むミツコの顔はとても怖いのに可愛らしいので、公次が道を踏み外したのも致し方ないかも。
若い二人のピュアな魅力を支え引き立てる、國村・堤・長谷川の安定した演技力が素晴らしい。本当に頭のネジがぶっ飛んだ異常者にしか見えない。この三人の好演で、荒唐無稽なストーリーに説得力が生まれたと思う。
特に國村隼の話し方が良かった。低音で、ゆったりとしていて、風格があるのに、どこか滑稽。感情の振り幅が狭いので、次の行動が予測つかなくて緊張する。ギャーギャー凄まれるより余程怖い。
全体として、夢と恋とバイオレンスがバランス良く詰まった愉快な作品であった。ミツコのCMソングは、一度聴いたら忘れられない秀作だ。