ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 「笑い男事件」:我々を我々たらしめるもの

2007年10月27日 | 映画♪
攻殻機動隊のTV版ではあるものの監督は押井守ではなく、「人狼 JIN-ROH」などで演出をつとめた神山健治。そのためか据えられているテーマも押井守が「生命」「身体」「情報」といったどちらかというと「人間」という存在そのものに向いているのに対し、神山がすえた視点というのは社会との関係に向けられている。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』では失踪してしまう草薙素子が、こちらでは失踪することなく公安9課で活動しているもうひとつの「攻殻機動隊」。




何だろう、この作品のそもそものテーマが社会現象に沿っているにも関わらず、押井守監督の作品程に心揺さぶられる事がないのは、結局のところ最終的な視線が「人間」そのものではなく「社会」という関係性で止まっているからなのだろうか。物語そのものは「笑い男事件」という天才的なハッカーを中心とした劇場型犯罪と「電脳硬化症」に対する薬害事件を軸に、その裏で見え隠れする犯罪、政治的な思惑など様々な要素が絡み合う。

そうしたストーリー展開もさることながら、同時に神山健治はこの作品のタイトルともなっている「STAND ALONE COMPLEX」と呼ばれる事象、情報の並列化の果てに生まれる無意識化での共時性・本来全く無関係の個人が共通の意識をもち、全体として集団的な行動をしてしまうという現象、或いはその反対に情報の並列化にも関わらず創出される個(別)性という現象を描き出そうとしている。

これらの現象は一体どういうものだろう。

大量の情報、多様化した情報の果てに大衆の意識が共通化する、あるいは特定の刺激に対して同じように(過)反応を示すという事象は大衆社会の常だともいえるし、あるいは「フラット化した社会」を示しているとも言えるだろう。

実体はなく掛け声だけだったにも関わらず圧倒的な支持を得た「小泉ブーム」、当時最も民主的国家体制の中で生まれた「ヒットラー」待望論。JPOPそのものが新しい地平を開けずどこかで聞いたような歌・ただ「差異」を繰り返しているに過ぎないにも関わらず特定の楽曲だけが突出して売れるという現象、過剰なまでの亀田礼賛とバッシングへの転換…

ワタシは自らこう考える。
ワタシは自らこう感じている。
ワタシは自らの意思でこう行動する。

しかし与えられる同質化した情報の果てに皆が同じ傾向・同じ答えを見い出すのだとしたら、果たして我々は自ら思考をしていたのだろうか――。

本来、思考するという行為は情報という外的刺激を取り込み内的な変化を促し、新しい可能性・価値を産み出そうとする自発的な営みだ。

しかしあらゆる「情報」が溢れ、あるいはそのことで導かれる「答え」が既に存在しているとしたら、我々は果たして自ら率先して「情報」を取捨選択し、あるいは能動的に考え、独自の価値観とユニークな答えを見つけ出そうとするだろうか。多くの人はそのような努力をすることはないだろう、否、それぞれの個人はそんなことを意識することさえなく、与えられる情報を受容し、自ら感じ考えた気になって既に与えられている答えを受け入れるだろう。あたかも自らが見出したように感じながら…

情報化社会、大衆社会ではこれら「STAND ALONE COMPLEX」と呼ばれる現象は避けられないものなのだろうか。

否、この一連の事件を通じて主人公 草薙素子は1つの可能性を見つける。

「好奇心、多分ね。」

そうなのだ。我々は与えられた情報によってのみ内的変化を行うだけでなく、自らその感受性の深化や拡散の度合いによって高めていくことも可能なのだ。

バトーに対する関心や、「アルジャーノに花束を」を読むタチコマはそれだけで自らの歩き出す道筋を見い出している。そうした行為こそが並列化・平準化した社会の中で差異や個別性を産み出すのだろう。

このブログにもしオリジナリティと言われるものが生まれているのだとしたら、きっとそういうことの表れなのだろう。

もう1つ、この物語ではサリンジャーがモチーフとなっている。この物語のキーワードである「ライ麦畑でつかまえて」をはじめ、「ナイン・ストーリーズ」の一遍「バナナフィッシュにうってつけの日」などいったい何度読んだだろうか。「いんちき」な世界に対して我々の感受性が開かれている限り、彼の作品はいつまでも支持されるのだろう。


【評価】
総合:★★★★☆
ストーリー:★★★★☆
タチコマさいこー:★★★★


「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」―押井守が問いかける「私」であることの意味

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