「ターミネーター」や「アイ、ロボット」のようなハリウッド映画のロボットものとは一線を画しているとはいえ、日本人から見るとどうしても押井守の「攻殻機動隊」シリーズの影がちらついてしまう。ストーリーはいたってシンプルで、押井守の「GHOST IN THE SHELL」や「イノセンス」の影響を受けながら、その放つメッセージは押井守と相反する。
【予告編】
サロゲート(2009)予告編 SURROGATES Trailer
【あらすじ】
近未来、人類の98%は自らの身代わりとなる“サロゲート”というロボットを日常生活に使用していた。ある深夜、青年と若い女性がクラブ前で殺された。その二人は実はサロゲートで、眼球を破壊され、IDチップも黒こげになっている。FBI捜査官のグリアーとピータースが女性のサロゲートの持ち主を訪ねると、太った男が目から血を流し死んでいた…。サロゲートの破壊により持ち主まで死んでしまうという、未曾有の事件が発生した。(「goo 映画」より)
【レビュー】
ストーリー自体は可もなく不可もなく、何となく展開が読めてしまうという感じであまり語るところもないのだけれど、キャンターの登場シーンやクラブでダイブする様など、オープニングからどうしても押井守の影がちらついてしょうがない。
「攻殻機動隊」の場合、人間自体の身体の拡張として「機械化」「アンドロイド化」が進むわけだけれど、「サロゲート」では本人の身体ではなく、ネットワークを通じて遠隔操作する「アンドロイド」である。そういう意味では、攻殻機動隊のような「拡張現実(Augmented Reality)」ではなく、あくまで「ロボット」ものなわけだけれど、「鉄人28号」や「ガンダム」とは違って、神経ネットワークの延長として接続されている。そういう意味では「エヴァンゲリオン」なんかの「シンクロ」に近い概念で操作しているのかもしれない。
この作品の中でキャンター博士が「サロゲートは麻薬だ」と呟くわけだけれど、これはその通りだろう。「イノセンス」では「人間は何故こうまでして自分の似姿を作りたがるのか」が問われたわけだけれど、「サロゲート」ではこうした問題は「欲望」の問題としてあっさりと解決されている。
「不老」に対する憧れ、理想的な「容姿」や「身体能力」への欲求、「性差」さえ越えた「自分」を獲得したいという想いがこうした「サロゲージ」を普及・促進させたのだろう。それはそうした理想の自分を手に入れることで「犯罪」が激減し、その一方で自らの「実体」―それは美男美女でもなく八頭身でもない―を晒そうとはしないことにもあらわれている。
それはネット上でのアバターを想起させる。現実世界とは別に、アバターを1つのキャラクターとして、全く別な「人格」をつくり「神」であろとする。その一方で「リア充」という言葉があるように、ヴァーチャルな世界での充足感を得ているからといって、現実世界でもそうとは限らない。リアルでは満たされない想いがバーチャルな世界を埋めている。
その延長として「サロゲート」の世界があるのだとしたら、自分は部屋に引きこもり理想像としての自分・サロゲージが現実世界で生きることを代替するということもありうるのかもしれない。
この物語ではそうした様を否定的にとらえ、人間同士の「触れ合い」の大切さを説く。
しかしこうしたメッセージに異を唱えるものもいる。それが押井守だ。
押井守は「イノセンス」を通じて、電脳化・サイボーグ化といった新しいテクノロジーの発達を「退廃の美学」として否定するのではなく「新しい進化の形」として受け入れる可能性を示唆した。
「GHOST IN THE SHELL」や「イノセンス」を通じて、押井守は電脳化、つまり脳や神経系の拡大の果てには、「身体」とは実体をもった「肉体」に限る必要がないのではないかというメッセージを発している。拡張現実として様々な身体的パーツが機械化され、それでも情報処理、記憶、想念・想起、そしてゴーストの存在があれば「自分自身」としてあり続けるのだとしたら、実体としての「身体」は必要ないのではないか、と。
この考え方は簡単に否定できるものではない。
養老孟司に従えば、繊細な知覚や体の動きというのは、入出力系としての体の「部位」の問題ではなく、そうした部位との信号のやりとりをする「神経系」とその統合機能である「脳」の問題ということになる。例えば運動神経のいいスポーツマンとは体の「部位」ではなく「脳」が発達しているのだ、というように。
そのように考えるなら、それが機械でできていようと、ネットを通じてアクセスするような外部に存在するものであろうと、脳・神経の延長として適切に入出力がなされるのであれば「身体」として捉えても問題はない。
トム・クリヤーが感じた違和感というのは、単にテクノロジーに対する不安感や感情的な反発でしかなかったのだろうか。「退廃の美学」だとして否定したかっただけなのだろうか。個人的にはこの直感は正しいのだろうと思う。
人の「欲望」の膨張は抑えることができず、またテクノロジーの発達は止まることを知らないだろう。そうだとすると科学的な論証や論理的な帰結として「身体の拡張」を制限することは難しい。人間と機械との差異をどれだけ並べたとしても、その差異はいずれ埋め尽くされるのだから。
そうではなく「倫理」上の問題としてこうした問いに答えねばならない。テクノロジーや科学の発達にも対抗できるような、普遍的な意味や価値を見つけ出し、科学よりもより上位の思考としてそうした倫理観を築かねばならないのだ。
預言者のような扇動的な言葉や、感情的な反発だけでは、このテクノロジーの流れに抗すことはできないのだ。
【評価】
綜合:★★★☆☆
どこかでみたような感じが…:★★☆☆☆
ボーナストラックはなかなか:★★★★☆
-----
サロゲート/ブルーレイ(本編DVD付) [Blu-ray]
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「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」―押井守が問いかける「私」であることの意味 - ビールを飲みながら考えてみた…
EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD]
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「イノセンス」~押井守の描いた「攻殻機動隊」以降の身体のあり方 - ビールを飲みながら考えてみた…
イノセンス
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唯脳論 (ちくま学芸文庫)/養老孟司
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対論 脳と生命 (ちくま学芸文庫)/養老孟司
【予告編】
サロゲート(2009)予告編 SURROGATES Trailer
【あらすじ】
近未来、人類の98%は自らの身代わりとなる“サロゲート”というロボットを日常生活に使用していた。ある深夜、青年と若い女性がクラブ前で殺された。その二人は実はサロゲートで、眼球を破壊され、IDチップも黒こげになっている。FBI捜査官のグリアーとピータースが女性のサロゲートの持ち主を訪ねると、太った男が目から血を流し死んでいた…。サロゲートの破壊により持ち主まで死んでしまうという、未曾有の事件が発生した。(「goo 映画」より)
【レビュー】
ストーリー自体は可もなく不可もなく、何となく展開が読めてしまうという感じであまり語るところもないのだけれど、キャンターの登場シーンやクラブでダイブする様など、オープニングからどうしても押井守の影がちらついてしょうがない。
「攻殻機動隊」の場合、人間自体の身体の拡張として「機械化」「アンドロイド化」が進むわけだけれど、「サロゲート」では本人の身体ではなく、ネットワークを通じて遠隔操作する「アンドロイド」である。そういう意味では、攻殻機動隊のような「拡張現実(Augmented Reality)」ではなく、あくまで「ロボット」ものなわけだけれど、「鉄人28号」や「ガンダム」とは違って、神経ネットワークの延長として接続されている。そういう意味では「エヴァンゲリオン」なんかの「シンクロ」に近い概念で操作しているのかもしれない。
この作品の中でキャンター博士が「サロゲートは麻薬だ」と呟くわけだけれど、これはその通りだろう。「イノセンス」では「人間は何故こうまでして自分の似姿を作りたがるのか」が問われたわけだけれど、「サロゲート」ではこうした問題は「欲望」の問題としてあっさりと解決されている。
「不老」に対する憧れ、理想的な「容姿」や「身体能力」への欲求、「性差」さえ越えた「自分」を獲得したいという想いがこうした「サロゲージ」を普及・促進させたのだろう。それはそうした理想の自分を手に入れることで「犯罪」が激減し、その一方で自らの「実体」―それは美男美女でもなく八頭身でもない―を晒そうとはしないことにもあらわれている。
それはネット上でのアバターを想起させる。現実世界とは別に、アバターを1つのキャラクターとして、全く別な「人格」をつくり「神」であろとする。その一方で「リア充」という言葉があるように、ヴァーチャルな世界での充足感を得ているからといって、現実世界でもそうとは限らない。リアルでは満たされない想いがバーチャルな世界を埋めている。
その延長として「サロゲート」の世界があるのだとしたら、自分は部屋に引きこもり理想像としての自分・サロゲージが現実世界で生きることを代替するということもありうるのかもしれない。
この物語ではそうした様を否定的にとらえ、人間同士の「触れ合い」の大切さを説く。
しかしこうしたメッセージに異を唱えるものもいる。それが押井守だ。
押井守は「イノセンス」を通じて、電脳化・サイボーグ化といった新しいテクノロジーの発達を「退廃の美学」として否定するのではなく「新しい進化の形」として受け入れる可能性を示唆した。
「GHOST IN THE SHELL」や「イノセンス」を通じて、押井守は電脳化、つまり脳や神経系の拡大の果てには、「身体」とは実体をもった「肉体」に限る必要がないのではないかというメッセージを発している。拡張現実として様々な身体的パーツが機械化され、それでも情報処理、記憶、想念・想起、そしてゴーストの存在があれば「自分自身」としてあり続けるのだとしたら、実体としての「身体」は必要ないのではないか、と。
この考え方は簡単に否定できるものではない。
養老孟司に従えば、繊細な知覚や体の動きというのは、入出力系としての体の「部位」の問題ではなく、そうした部位との信号のやりとりをする「神経系」とその統合機能である「脳」の問題ということになる。例えば運動神経のいいスポーツマンとは体の「部位」ではなく「脳」が発達しているのだ、というように。
そのように考えるなら、それが機械でできていようと、ネットを通じてアクセスするような外部に存在するものであろうと、脳・神経の延長として適切に入出力がなされるのであれば「身体」として捉えても問題はない。
トム・クリヤーが感じた違和感というのは、単にテクノロジーに対する不安感や感情的な反発でしかなかったのだろうか。「退廃の美学」だとして否定したかっただけなのだろうか。個人的にはこの直感は正しいのだろうと思う。
人の「欲望」の膨張は抑えることができず、またテクノロジーの発達は止まることを知らないだろう。そうだとすると科学的な論証や論理的な帰結として「身体の拡張」を制限することは難しい。人間と機械との差異をどれだけ並べたとしても、その差異はいずれ埋め尽くされるのだから。
そうではなく「倫理」上の問題としてこうした問いに答えねばならない。テクノロジーや科学の発達にも対抗できるような、普遍的な意味や価値を見つけ出し、科学よりもより上位の思考としてそうした倫理観を築かねばならないのだ。
預言者のような扇動的な言葉や、感情的な反発だけでは、このテクノロジーの流れに抗すことはできないのだ。
【評価】
綜合:★★★☆☆
どこかでみたような感じが…:★★☆☆☆
ボーナストラックはなかなか:★★★★☆
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サロゲート/ブルーレイ(本編DVD付) [Blu-ray]
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「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」―押井守が問いかける「私」であることの意味 - ビールを飲みながら考えてみた…
EMOTION the Best GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [DVD]
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「イノセンス」~押井守の描いた「攻殻機動隊」以降の身体のあり方 - ビールを飲みながら考えてみた…
イノセンス
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唯脳論 (ちくま学芸文庫)/養老孟司
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対論 脳と生命 (ちくま学芸文庫)/養老孟司
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