先日、アメリカのAT&TがiPhoneなどスマートフォン向けの定額制サービスを廃止するとしたが、ソフトバンクにとっても他山の石ではないようだ。孫正義氏のツイッターでは、「ソフトバンクはそんなことないですよね?」との問いに対して、「悩ましい問題。世界中の携帯事業会社の経営者の悩みです」と回答し、パケット定額の存廃については明言を避けている。
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これは何もモバイルだけの話ではない。総務省の試算によれば、2004年9月から2009年11月にかけて日本のインターネットのトラヒック総量は5倍、また1999年から2009年の10年間で1日のピーク値を比べると225倍となっている。しかしこれに対して定額制のサービスでは収入は一定の伸びでとまってしまう。
7、8年前だったか、ISPの多くがP2Pを利用する一部のユーザーに多くの帯域を占有され、それ以外のユーザーのコネクティビティを守るために、P2Pの規制を行うという措置実施した。やがてYouTubeやGyaOのような動画コンテンツのトラヒックが増大しISPやキャリアのインフラに影響を与え始めると、それは「インフラただ乗り論」として問題化された。
ユーザーがP2Pなどで過度にネットワークを占有するという問題は(P2Pでやりとりする中身が「著作権侵害」かどうかという問題は置いておいて)あくまでユーザーとISPとの問題だ。利用料金を払ってるユーザーの利用の仕方が(その料金や他のユーザーと比べて)適正なものかどうかということが問われたのであり、ISPとしては、値上げをすることもできず、その上で利用者全体の利益を守るためにはP2Pを規制するしかない、という結論にいたった。
しかし「インフラただ乗り論」はこの問題とは違う。YouTubeやGyaOは(結果的に利益が上がっていないわけだが)自らの収益を得るためのビジネスを行っている。しかしそのビジネスで発生する費用の一部をISPやキャリアに転嫁しているという問題だ。例えば「道路」であれば、行政府が整備を行っているがその財源は税金だ。利用する人としない人、商用利用する人との間で不公平感がでないように、ガソリン税など利用状況にあわせて税負担する仕組みがある(あった)。しかしインターネットの場合、どれだけ莫大なトラヒックを発生させても直接的にISPなどに使用料を支払うことはないのだ。
孫氏のコメントを読むと、ソフトバンクモバイルの通信量の50%を約2%のユーザーによって占められているという。これはまさに一昔前にISPが経験した問題だろう。
モバイルはそれでも、そうしたISPやNTT東西の苦境を踏まえて、「ダブル定額制」という料金体系を導入し、ユーザーの利用量にあわせて従量制となる要素を取り入れたし、そもそもはキャリアが認定した公式サイトを中心とした利用者が多かったので、サイトを利用することで新たなトラヒックが発生したとしても課金代行サービスなどを通じて収入を得るといった仕掛けがあった。
それがソフトバンクの場合、OPENなインターネットの世界を指向し(勝手サイト中心)、さらにはiPhoneという携帯よりもはるかに情報量を消費しやすいデバイスを投入したために、インフラへの負担が大きくなったのではないだろうか。
仮に「ソフトバンクモバイルの通信量の50%を約2%のユーザーによって占められている」ということだけが問題であれば、その2%のユーザーを規制すればいいだけのことであるが、問題はそんなに簡単ではない。AT&Tのとった措置や孫社長の歯切れの悪さは2%のユーザーが問題なのではなく、定額制サービスではiPhoneユーザーを中心にインフラへの負荷が大き過ぎるということなのだろう。
そしてそこで孫社長が取ったのが、フェムトセルを利用して別ルートでiPhoneやiPadのトラヒックを逃そうというものだ。
基地局倍増、フェムトセルを無償提供――ソフトバンクが電波改善宣言 - ITmedia +D モバイル
しかしその一方でこれらの措置は「インフラただ乗り論」としての批判も招いている。それはそうだ。一方で携帯電話の料金を徴収しながら、そこで発生するコストを他社のインフラに流そうというのだから。このあたりの接続ルールや制度のあり方は通信事業者間同士で話し合ってもらえればいい問題なので、特にこれ以上書くこもないのだけれど、結局こうしたあり方をみていると、孫氏が応援している「光の道」構想というのは、この「ただ乗り」論をさらに進めたいだけではないかと思える。
結局、1番投資がかかる「光」というインフラ整備については、光回線整備会社/公社がやり、結果的には国庫負担になるかもしれないけれどもそれはそれとして、敷設されたインフラを格安で提供してもらいその上で、Y!BBやソフトバンクモバイルを提供していく。本来、サービス提供のために必要なコストを他社(最終的には税金)に転嫁できればもっと楽にビジネスができるはずだ、と…
この図式は、ある意味、「高速道路無料化」論にも似ている。維持費は「税金」で賄いつつ高速道路(インフラ)を無償化し、流通コストを抑えることでビジネス全体を活性化させようというものだ。受益者負担ではなく、より多く人々に薄く課税をすることで、インフラコストを下げて、ビジネスを活性化させる…そういう意味でも、孫正義と民主党の考え方は近いのかもしれない。
フェムトセルは「インフラただ乗り論」を越えれるか - ビールを飲みながら考えてみた…
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7、8年前だったか、ISPの多くがP2Pを利用する一部のユーザーに多くの帯域を占有され、それ以外のユーザーのコネクティビティを守るために、P2Pの規制を行うという措置実施した。やがてYouTubeやGyaOのような動画コンテンツのトラヒックが増大しISPやキャリアのインフラに影響を与え始めると、それは「インフラただ乗り論」として問題化された。
ユーザーがP2Pなどで過度にネットワークを占有するという問題は(P2Pでやりとりする中身が「著作権侵害」かどうかという問題は置いておいて)あくまでユーザーとISPとの問題だ。利用料金を払ってるユーザーの利用の仕方が(その料金や他のユーザーと比べて)適正なものかどうかということが問われたのであり、ISPとしては、値上げをすることもできず、その上で利用者全体の利益を守るためにはP2Pを規制するしかない、という結論にいたった。
しかし「インフラただ乗り論」はこの問題とは違う。YouTubeやGyaOは(結果的に利益が上がっていないわけだが)自らの収益を得るためのビジネスを行っている。しかしそのビジネスで発生する費用の一部をISPやキャリアに転嫁しているという問題だ。例えば「道路」であれば、行政府が整備を行っているがその財源は税金だ。利用する人としない人、商用利用する人との間で不公平感がでないように、ガソリン税など利用状況にあわせて税負担する仕組みがある(あった)。しかしインターネットの場合、どれだけ莫大なトラヒックを発生させても直接的にISPなどに使用料を支払うことはないのだ。
孫氏のコメントを読むと、ソフトバンクモバイルの通信量の50%を約2%のユーザーによって占められているという。これはまさに一昔前にISPが経験した問題だろう。
モバイルはそれでも、そうしたISPやNTT東西の苦境を踏まえて、「ダブル定額制」という料金体系を導入し、ユーザーの利用量にあわせて従量制となる要素を取り入れたし、そもそもはキャリアが認定した公式サイトを中心とした利用者が多かったので、サイトを利用することで新たなトラヒックが発生したとしても課金代行サービスなどを通じて収入を得るといった仕掛けがあった。
それがソフトバンクの場合、OPENなインターネットの世界を指向し(勝手サイト中心)、さらにはiPhoneという携帯よりもはるかに情報量を消費しやすいデバイスを投入したために、インフラへの負担が大きくなったのではないだろうか。
仮に「ソフトバンクモバイルの通信量の50%を約2%のユーザーによって占められている」ということだけが問題であれば、その2%のユーザーを規制すればいいだけのことであるが、問題はそんなに簡単ではない。AT&Tのとった措置や孫社長の歯切れの悪さは2%のユーザーが問題なのではなく、定額制サービスではiPhoneユーザーを中心にインフラへの負荷が大き過ぎるということなのだろう。
そしてそこで孫社長が取ったのが、フェムトセルを利用して別ルートでiPhoneやiPadのトラヒックを逃そうというものだ。
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しかしその一方でこれらの措置は「インフラただ乗り論」としての批判も招いている。それはそうだ。一方で携帯電話の料金を徴収しながら、そこで発生するコストを他社のインフラに流そうというのだから。このあたりの接続ルールや制度のあり方は通信事業者間同士で話し合ってもらえればいい問題なので、特にこれ以上書くこもないのだけれど、結局こうしたあり方をみていると、孫氏が応援している「光の道」構想というのは、この「ただ乗り」論をさらに進めたいだけではないかと思える。
結局、1番投資がかかる「光」というインフラ整備については、光回線整備会社/公社がやり、結果的には国庫負担になるかもしれないけれどもそれはそれとして、敷設されたインフラを格安で提供してもらいその上で、Y!BBやソフトバンクモバイルを提供していく。本来、サービス提供のために必要なコストを他社(最終的には税金)に転嫁できればもっと楽にビジネスができるはずだ、と…
この図式は、ある意味、「高速道路無料化」論にも似ている。維持費は「税金」で賄いつつ高速道路(インフラ)を無償化し、流通コストを抑えることでビジネス全体を活性化させようというものだ。受益者負担ではなく、より多く人々に薄く課税をすることで、インフラコストを下げて、ビジネスを活性化させる…そういう意味でも、孫正義と民主党の考え方は近いのかもしれない。
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設備のタダ乗り論については、それが社会インフラとして効率的か否か、そしてその負担がそれぞれの企業間で許容できるトラヒックかどうかを定常的に計測、最終的に負担分担できる仕組みが次の段階になっているのではと考えています。
フェムトの場合セッションは常時維持されているという前提であれば、そのトラフィックがどの程度使用されているかどうかというのは少なくともソフトバンク側は承知しているはずですから、このコストと自社設備使用時のコストとの差分から、回線費用としてそれぞれのISPに提供するシステムが始まれば、適正な社会インフラの維持に結びつくきっかけになります。
少なくとも最も手間がかかる部分となるアクセスインフラに対して国へ切り出すという事以外にも、この様な別の方法についても検討する余地があるべきでしょう。
孫氏がどの程度継続的を必要とする社会インフラとして自社を見ているのか、危うさを感じています。