桜ゆれて

桜花（はな）ゆれて水面に映る影ゆれて
ボートのなかからすくう花びら

岸辺へとボートを寄せて花の下
あなたと過ごす春の一日

昔々、っていったいどのくらい昔？
この近くの大学に通っていた。
桜が咲くと、この付近の学生達はまじめに授業など受けていられなくなる。
代返を頼んでお花見したり、ボートでデートやナンパするヤツも現れたりして。

昔々、私もここのボートでデートをしたことがある。
何を話したか忘れたけれど、彼の笑顔をまだ覚えている。
それともう一つ、このとき持っていた文庫本をどこかに置き忘れた。
あと数ページで終わるというのに・・・。また買えばいいと思いつつ、まだ買っていない。それは壇一雄の「火宅の人」だった。

桜咲きて

病床の父に桜を見せたくて
つま先立ちして携帯で撮る

もう自分の足で桜を見に来ることも出来なくなった父に、せめて写真だけでもと思い、携帯で写真をとって見せてあげたときから、もう何年経ったのだろう。
それでも最後は車椅子で病院の庭にあった桜の木を見ることはできた。
毎年、桜の季節にここを通るたびに思い出す。
なるべくいいアングルで、なるべくきれいな花をと、必死で携帯をさし出して撮っていたときのことを。