『 花水川と富士山 』
河津 米子さん 撮影
夕方、買い物の帰り、いつものようにぼんやりと歩いていたら、
向こうから来た爺さんが立ち止まってやおら煙草に火を付けた。
そして空箱をポイっと足元に投げ捨てた。困った老人だなぁと
思った瞬間、傍らに駐車していた某宅配会社のトラックのクラクションが
一発大きく鳴った。何事が起きたかと驚いて立ち止まった。
そうか、運転士がポイ捨ての老人に注意を喚起したのかと納得し、
結構偉い若者がいるものだと感心していたら、後ろからどんと突き当たって
来た気の強そうな中年の大きな男に「立ち止まるなよ!ちゃんと速く歩けよ!」と
どやされた。この野郎と思い、昔とった杵柄で空手の技で張り倒したらさぞ気持ち
いいだろうなぁなんて夢想していたら、今度はその一瞬の間に向こうから来た自転車の
若い女性に舌打ちされて「チェ!邪魔よ!」と一括されてしまった。
これには空箱を捨てた爺さんも、生意気そうな中年男も、トボトボ歩きの私も、思わず
揃って呆然唖然としてその女性を見送った。
お陰で三人とも知らずに苦笑しており、そのまま笑顔で別れた。
トラックの運転手もフロント硝子越しに会釈して走り去っていった。