寝転がって気ままに想う事

 世の中ってこんなもんです・・
面白可笑しくお喋りをしましょうか ^^

役員の憂慮(18)

2010年11月09日 09時46分41秒 | 日記
その日夜遅くに鬼塚専務は東京へ帰りました。 多忙な関西出張を終えて翌朝役員室には決済の書類が山積みしていました。
役員の仕事に書類決済があります。細かく読んで判断していると、軽く一日が終わってしまうくらいの量がありますが、コツとしては標題を見て提出者をチェックします。 大概の書類は事前に確認がありますから、 『あぁあれか…』なんて調子で判を押します。
鬼塚専務の場合まず山のような書類を二つに分けます。事前の打ち合わせのあった形式的な稟議書、もう一つは『こんなの知らねぇよ(笑)』です。
まぁ時間が過ぎて忘れてしまった(笑)ものがほとんどですが…
そしてOKの書類をまとめて判を押して行きます。 これで大体は済みます。 残った書類にはいちいち担当者を呼び付けて確認です。 この時不運なのは専務のご機嫌の斜めの時でした。 『なに!もっと分かりやすく書けよ!』
『今頃出してよ…忘れていたんじゃあないか!』
担当者にも弁解はありますが、専務の場合、弁解は無用です。返って火に油を差す!ことになります(笑)
担当者はひたすら平身低頭ごめんなさいで通すしかありません(笑)
下手に逆らうと忘れた頃(笑)とんでもないところへの転勤になりますからね… (笑)
話が横道に逸れましたが、兎に角、書類の山を片付けました。 鬼塚専務は愛煙家です。
一通り決裁を済ませるとタバコに火を付けました。
『ふう~』白煙を吹かすと内線で加賀美さんを呼び出しました。
あの美人秘書です。
『社長との会議何時だった?』
『はい!11時ですが…』『分かったよ』
昨日携帯に連絡がありました。
『明日相談したいことがあるから…』役員同士の連絡は普通は秘書を通じて行われます。 この辺は大袈裟と言いますか、勿体ぶる(笑)わけですね。
昨日も連絡は加賀美さんからありました。
直接聞いた訳ではないので社長の思いが分かりません。『何の用ですか?』と聞く訳にもいきません。
『まぁ出たとこ勝負だね』
鬼塚専務は腹をくくりました。
社長室は同じ15階にあります。
専務室から出るとホテルの廊下みたいな豪華な絨毯が敷き詰めています。中ほどまで歩くと吹き抜けになった空間が出てきました。壁一面に備えた窓には新宿の高層ビルが霞んで見えました。
『いい天気だね』
外の風が果たして吹いているのか分かりませんが、一つ深呼吸をすると 『俎板の鯉だよ…』鬼の専務と異名をとる鬼塚専務ですら所詮は宮仕えの身体です。
永いサラリーマンの経験と動物的な勘からして良いか悪いか二つに一つでした。
そして今回の呼び出しは悪い方だと確信していました。
廊下の先に社長室があります。
扉をノックして 中から『はい』秘書の声がありました。
『鬼塚ですが…』 社長室は秘書の控室と続になっていました。
『はい!鬼塚専務ですね。承っております』
丁重な秘書の案内で社長室に入りました。
『ああ専務ご苦労様です』
書き物をしていたらしく黒田新社長は机から顔を上げて笑顔を作りました。
『いやぁ仕事に追われて片付かないんですよ』
笑顔は変りません。
『どうぞお掛けください』秘書が手招きしてくれた応接セットに鬼塚専務はドッサリと腰を下ろしました。 社長室は白とベージュを基調とした気品溢れたしつらえになっています。
流石に一流企業の社長室と呼べるだけの雰囲気が漂っていました。
社員一万数千人の頂点を極めた男だけが座る事が出来る黒壇の机に若き新社長はごく当たり前に座っていました。『…』微かに資材の匂いが鼻をくすぐってきました。
『そうか!新しく新社長を迎えるにつき室内装飾を変えたんだよなぁ』
確かに以前、と言いましても二か月程ですが入って以来 良く似た感じでしたが壁紙は確かに新しくなっていました。
秘書がコーヒーを運んで来て恭しくお辞儀をして下がって行きます。
『鬼塚専務すみませんがもう少しで片付けますからタバコでも吸ってお待ち下さいよ』
黒田社長は急かされているのか今度は机に向いたまま声を掛けました。 (バーロ~忙しいのはあんただけじゃあないぜ)
『そうします…』 上着からタバコを取り出して火を付けました。
『ふぅ…』見れば見る程この部屋は豪華なだよなぁ! 『俺だって運が良ければこの部屋の主になれたんだよなぁ』
今までは遥か遠い存在だと思っていた社長席、前の社長は鬼塚専務より一回りも年上でしたから自然お仕えする、そんな感じでした。周りから見れば専務→社長となる訳ですが、いざ当事者となるとこの一段はでかいのでした。
この会社ではあくまでも階級主義でしたから一段違えば家来同然、二段違えば虫けら同然の世界です。
下から見れば遥か天上の世界でも専務から見るとやっぱり社長は恐い存在なのでした。
その社長僅か二か月で年下の青年社長に移行して複雑な心境にならざるを得ないのは鬼塚専務だけでは無いはずです。
しかし現実はここにありました。
自分より六才も年下でおまけにかつての部下だった男が今こうして社長の席の証しでもある黒塗りの黒壇の机に座っているのです。
…その姿がまた実に良く似合うから不思議なものでした。
社長就任から僅か二か月で既に大企業の社長の貫禄を備えていました。 言葉遣いは先輩に対する礼儀を弁(わきま)えているとしても威厳らしき雰囲気が漂っていました。 それは前の社長とは違った雰囲気でありましたが…。
どう違うのかは鬼塚専務でも分かりませんが、兎に角気圧(けおさ)されているには違いないのでした。
黒田新社長はその真摯(しんし)な態度から鬼塚専務に旧来の上下関係を強要して来るようにも思えません。 そんな態度に出られた方が鬼塚専務には好都合だったかも知れませんから…
(野郎舐めやがったら…)一暴れして辞めてやるんだ!
心の何処かにはそんな気持ちがあったかも…
現在鬼塚専務の束ねている事業本部は全社のなかでもリーマンショック以来低迷を続けている事業本部でした。
毎回の経営者会議では針の筵(むしろ)であります。
そこへ年下の社長から嫌味なんか言われた日には何もかもブチまければどれだけ清々するかと思う心境になったとしてもおかしくないでしょう。
反面今まで育った事業部だから何とか持ち直したい… そんな気持ちもありました。
揺れる鬼塚専務は黙々とタバコを吸いました。
側のほんの二メートルくらいの場所にはそんな鬼塚専務の気持ちを知ってか知らずか新社長は仕事をしついました…
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役員の憂慮(17)

2010年11月08日 08時39分59秒 | 日記
新社長は各事業本部から提出された役員待遇のリストを検討しました。 営業畑を歩んだ経験から積極性を重点にしていました。
無論指導力や実績人間性も加味しましたが全てに於いて積極性を見たのです。
その結果円山本部長と臼井本部長は保留となりました。保留?つまり見送りでした。
早い話がもう一度考え直しなさい! と言う事でした。 推薦状を返却された鬼塚専務や高辻役員は唖然としました。
まさか噂では聞いていたのが自分の事業本部であるとは…
間接的に聞いた話に依ると新社長が副社長時代に次期事業本部の営業予算で円山本部長の出した計画書が堅実すぎ、つまり達成を意識し過ぎた数字で 積極性に欠けるとお叱りを受けたことがありました。 どうも今回はその件が新社長の脳裏から消えていなかったようでした。『うーん!』その内幕を耳に挟んだ高辻役員はうなりました。
自分や鬼塚専務の面子もありますが、繊細な円山本部長が立ち直った矢先の出来事でしたから…
『専務どうしたものでしょうか』高辻役員は密室の社用車で相談を持ち掛けました
『そんなもの仕方ないでしょう』鬼塚専務はおどけた様子で答えました。 『処置なしだよ!』そんな身振りでした(笑)
『しかし…』
『他でもだめだ、があるじゃあないですか』高辻役員の言葉を遮るように鬼塚専務は言います。
『黒田社長は何を考えているのか分からないよ…』
過去のいきさつを取り上げられてはお手上げ状態でした。
『円山がどう取りますかねぇ』
『円ちゃんのことよりこっちを心配した方がいいかもよ』タバコに火を付けた鬼塚専務はふうっと煙を吐き出して溜め息を。

確かに鬼塚専務が言う事も一理ありました。
鬼塚専務や高辻役員の提案を拒否したことは即ち鬼塚専務や高辻役員を拒否したことにもなります。
『私たちもNOでしょうか…』
『…』
『可能性はあるなぁ…』
『そんな…』
仮に今鬼塚専務と自分が抜けたらこの事業本部はがたがたになるじゃあないか…
憤怒やるせない顔つきで高辻役員はタバコに火を付けました。
『まあまあ高辻さん、そうと決まった訳じゃあないですよ』
珍しく鬼塚専務は冷静な態度でした。もっとも相棒の高辻役員の檄高に負けずに鬼塚専務も怒りはありました。
『まぁしばらくはお手並み拝見だね』窓から見える景色を眩しそうに眺めてつぶやきました。
鬼塚専務には以前黒田社長が部下だった頃を思い出していました、
『あの黒田が俺の部下だった頃高辻さんどこにいたっけ?』
『えっ!』
思わず高辻役員は鬼塚専務の顔を見ました。
『まさか…』
『違うよ(笑)俺はいじめてなんかいないぜ』
なるほど鬼塚専務には親分肌なところはありますが後輩をいじめるタイプではありませんでした(笑)

『それは専務から見てでしょ』
『何言ってるんですか~』
ムキになって鬼塚専務は言い張ります(笑)
『俺はあいつの事助けたりかばったことはあるけど…』
言葉に力がありません。
要らぬ事を聞いてしまった…高辻役員も黙り込みました。
車内には言い様のない沈黙が流れました。(笑)
しかし目的地までまだ三十分もありました(笑)
私はどうなるのだろう、と気が気じゃあありませんでした。
車は順調に走っています。
『ピピピッ』だいぶ経った時専務の携帯が鳴りました。
『はい鬼塚ですよ』
鬼塚専務はたいていこんなフレーズで電話にでます。
ちなみに高辻役員の場合『はい高村ですが…』
となります(笑)

『明日…』『ああいいよ、何時?』 『分かったよ』
『はいよ…』
鬼塚専務の言葉しか聞けませんが話し振りからして秘書の加賀美さんからのようでした。 高辻役員も察したようでなんですか?みたいな顔で鬼塚専務を見ました。
鬼塚専務は落ち着き払って
『これから呼び出しだよ』 親指を突き出して低い声ですがはっきりと言いました…
『…』『…』
再び車内に重苦しい空気が流れました…
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役員の憂慮(16)

2010年11月05日 09時49分56秒 | 日記
役員待遇、平たく言えば仮免許みたいなものです。
一定の期間過大なく過ごせば役員昇格となります。
本部長と役員、役職ではたった一段しか違いません。 しかしこの差はものすごく違うのであります。
たとえば部長と本部長は給料などは遜色ありません。社内の待遇も大差ありません。
評価S(最高)の部長が本部長より給料が上と言う事も珍しくありません(笑)
つまり本部長までは社員であるからです。
ですが役員となれば違います。 まず給料は桁違いに増えますね。
鬼塚専務によると 本部長から役員に上がったらまず年収が一本は増える、とおっしゃいます。
一本? 百万かな(笑)…いや一千万(笑)これは想像に任せるとしまして… 他に以前紹介しましたように役員室があてがわれますし、役員専用車がつきます。まだまだ特典はあります(笑)限度350万円までの交際費が認められます。そして出勤時間は自由です。また 会社からの支給で有名ゴルフ場の会員になれます。
…他にもまだまだありますよ(笑)
そんな大名みたいな暮らしが約束されるのです。
黒塗りのクラウンで新橋、祇園や銀座に出掛けてみたい…サラリーマンの夢であります。
この夢にもう一歩…それが役員待遇であります。
果たして鬼塚専務から推薦状を頂いた(提出するのは本社…つまり社長宛です)臼井、円山両本部長はスンナリといけるのでしょうか!
過去の実績では専務からの提出で拒まれた事はありませんでした。
ですから今回も認定されるものと誰もが思っていたのでした。
それが…
今回各事業本部から提出された次期役員としての役員待遇推薦は難航しました。
鬼塚専務の事業本部に限りませんが、その前に社長が替わったのが問題だったかも知れません。
新社長は既存の枠組みを取っ払わないと新たな改革にならない!と宣言して就任したのです。
既存の枠組み!
つまり馴れ合いを嫌う方でした。
『次期役員は白紙です!』
その宣言は型通りではなかったのでした。
大企業病を打破する!の言葉通り新社長は実践しました。
その一貫が役員待遇の見直しでした。
新社長は役員の下に付いていた本部長の中で推薦状のあった候補者を精査しました。
慣例ならこの人と決まっていた本部長を自分の眼鏡に照らし合わせたのです。
新社長は弱冠59才で従業員一万人年商一兆円の大企業の社長となりました。
任期は四年です。 巷では3期12年は続く長期政権と見られていました。
59才と言いますと現状の役員は皆年上です。
いくら社長と言えども各役員は先輩であります。鬼塚専務なんか部長時代にはこの社長が部下だったのでした。
『おい信雄!』
鬼塚専務のことですからこんな調子だったのでしょうか(笑)
鬼塚専務は首をすくめて話していましたから(笑)
鬼塚専務と社長… 年の差は六才です!
当時まさか追い越されるとは夢に思わなかったでしょうか!
さて年上の役員には経験はあるが、一言もあるつわもの揃い、早く一掃して自分色の役員にしてしまいたいのは人情でしょう。
役員待遇については充分に分析しょうとする新社長の気持ちはよく判ります。
既成の役員の推薦の人材が自分の好みかどうかです。
果たして新社長は各事業本部からの推薦された役員待遇候補者を見比べました。
実績、年令、人間性、指導力などが選考項目でした。 その結果…
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役員の憂慮(16)

2010年11月04日 08時53分43秒 | 日記
リフレッシュ休暇から戻った円山本部長は溌剌(はつらつ)としていました。顔つきは精気に溢れ自信を取り戻していました。
『これで一安心だな』リフレッシュ休暇がこれほどまでに効いた事例はありません(笑)
休暇中に何があったか分からないままに高辻役員は目を細めて円山本部長を見ていました。
役員に限らず自分の直近の部下は難しいところがあります。
優秀な人材であれば自分の成果に跳ね返ってきます。 つまり労せずに得る、訳です。
それが愚弄な部下なら自分の成績に反映して足を引っ張られ兼ねません。
だから…そうです(笑)部下は優秀な人材に限るのです。 それも十才くらい離れているのが理想でしょ(笑)
二三才違いだと追い越されてしまう危険がありますから…まぁ五才が安全の目安でしょうか(笑)
…高辻役員は円山本部長とは八才違いです。
追い越される心配は全くありません。だから可愛がるのも計算に入っているのでしょうか。
兎に角高辻役員の職務からして業績もさることながら後継者選びは外す事ができません。 これが出来ていないと上層部からの評価が落ちますから…
『俺はこいつを育てたのだ!』が社長以下役員のステータスでもありました!
温和で頭が良く行動力のある円山本部長は高辻役員が後継に選んだだけの人材でした。
ただどこか俗世間離れしたところがあり過激な競争等を避ける傾向がありました。
いわば良いとこのボン然としていたわけです。
これも…高辻役員は弱点を強みとしていけば良いのでは、と考えていました。
まぁこの分なら来月にも推薦状を提出、出来そうだ。 *推薦状…役員の一歩前本部長クラスで役員が推薦することで役員待遇になることができます。役員待遇は仮役員として二三年過ごし大過なく役職をこなせば晴れて役員となれます。

実は鬼塚専務と相談して円山本部長を役員待遇として推薦状を会社に出す事に決めていました。
これは形式的な部分があり実際は決定に近いものでした。
鬼塚専務は臼井本部長と円山本部長に推薦状を出したのでした。
ところが…
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役員の憂慮(15)

2010年11月02日 10時58分18秒 | 日記
信頼していた高辻役員から激しい罵倒を受け傷心のままリフレッシュ休暇を採った円山本部長は山深い民宿で最愛の山本深雪さんと密会中です(笑)
深い山間は全てを忘れさせてくれる桃源郷でした。
円山本部長にとってリフレッシュ休暇は正に新たな気分転換になりました。永らく不能に近かった男性機能も復活したのです。
深雪さんと会った一夜は心身共に新しい気持ちにした一時でした。
翌日爽やかな目覚めに円山本部長は 気力の充実感を覚えました。
窓から秋の澄んだ空が垣間見えていました。
タバコに火を付けると円山本部長はふとんに寝転びました。
立ち上ぼる紫煙を眺めていて
『あぁ静かな朝だなぁ…』
こんなにゆっくりと過ごした一週間は久々でした。
『そう言えばずーと寝不足だったなぁ』
今の営業本部長になって三年…夜は会議や接待で慢性的な睡眠不足でした…
『うーん』甘えたような声で深雪が寝返りを打ちました。
『この子はいつになく俺を心配してくれて…』
普段遠く離れ離れの状況ながら俺に気遣いをしていてくれる…超能力を持っていてピンチになると手を差し延べてくれました。幾度助けてもらったか数知れません。
故(ゆえ)あって修行の身にありますが、本当は俺に迎えに来てもらいたいのではないだろうか…
それくらい深雪は円山本部長に献身的に尽くしていたのです。
今の女房と別れて深雪と…そう何度も考えた円山本部長でした。普通ならそう決断していたでしょう。家族を棄てて深雪を選んだでしょう。…しかし役員にあと一歩、ここでスキャンダルは出せません。
それは円山本部長の身勝手な考えでした。いえ!深雪本人がそう望んだのです。
『私はいいの。貴方に迷惑をかけたくないから…』
深雪には円山本部長の出世が生きる糧となっていました。
『だから私は陰ながら貴方をお慕いしています』
そして『もしも貴方に何か危機が訪れた時は私が救いに来ます』
深雪には本来人より勝れた能力がありました。それが 修験者の修行によって磨かれ超能力を身に着けました。
深雪は健気にも自分を犠牲にしてまで円山本部長に尽くしていたのです。
『俺には何も深雪にしてやれる事がないよ』
円山本部長は詫びます…
『いいのよ。たまにこうして会えれば…私は…』
言いかけた深雪に円山本部長は深く頭を下げました。 『ありがとう…』 円山本部長は大粒の涙を零していました。
『俺はなんと言う幸せ者なんだ…』
二人で交わした約束を今円山本部長は回想していました。
そばの深雪は何も知らずに軽い寝息を立てて居ました。
その深雪は寝返りを打った時にふとんがまくれ胸元の浴衣が乱れて妙に色っぽさを感じました…童顔の寝顔と見比べて円山本部長は男の充実を覚えてきました。 そっとふとんをまくり円山本部長は添い寝するように身体を差し入れました。
深雪の柔らかい身体が浴衣の上からも分かりました。 『深雪…』耳元で囁(ささや)くと白い胸元にそっと口づけをしました。 『うぅ~ん』深雪はそのタッチに眠りから覚めて来たのか軽く喘ぎました。
薄い紅色のサクランボに唇を寄せて軽く愛哈します。『うーん』夢うつつの深雪は少しのけ反り円山本部長の首に腕を回します。深い溜め息を繰り返してゆっくりと深雪に重なりました。
もう深雪も目が覚めています。
座敷の静かな空気に艶っぽい雰囲気が醸し出されてきました。
…円山本部長はゆっくりと身体を動き出しました。
深雪の甘い吐息が少しずつ荒くなり始める頃二人は一体となりました。
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