人工股関節とともに

身体の中の異物という存在でありながら、末永く仲良くしたい人工股関節。前向きに生きよう。

武士の一分

2007-08-29 | 趣味生活
この映画を見たのは昨年の12月。
 原作は藤沢周平著「隠し剣秋風抄」の中の『盲目剣谺返し』。山田洋次監督。
 かねて読みたかった本を最近読むことが出来た。
 どうしても映画の場面が眼に浮かんでくるが、ほぼ原作どおり。

 藩主のお毒味役で、そのために視力を失うことになった主人公。仕事も出来なくなりこのままでは家族が路頭に迷うことになる。上司の島田が特別なはからいをしてあげるよと妻をかどわかし、その甘言を妻は信じてしまう。その後島田の裏切りが明るみになる。

 実は藩主の好意によって禄高が守られ、生活が維持されることになったことが明らかになる。藩主は「お毒見がなかったら自分もその周辺の人たちも同じ運命にあったかも知れない」と、むしろ主人公に対して終生生活の保障はすると。
 冷酷な縦割り武士社会に実際そんなことがあるのかな~といささか疑問を感じながらも、きっとこの藩主は人格者だったかもしれないと、私などはこのことに対しても目がウルウルであった。

主人公は武士の一分としても島田を許すわけには行かない。果し合いをするべく、盲目ながら剣をふるい修練をする。そしてついに蚊一匹を打ち落とすまでにかつての技を確実なものとする。その狂気とも思える木村拓也の迫真の演技もさることながら、主人公の脇を固めるベテラン俳優の存在感がこの映画の価値を高めたと言ってもいいのではないか。とくに使用人役の笹野高史・姉役の桃井かおりもおしゃべりなおせっかいぶりを面白く演じていた。
 
 山田洋次といえば寅さんで有名。この方の目線の温かさにひかれる。貧しい人・世の端におかれるような人に対しても台詞や情景を通して丁寧に描写している。
 妻を離縁した後、下男の徳平が生活の世話をすることになるが、当然のことながらご飯がまずい。そこで、下女を雇ったということにして離縁された妻が戻ってくる。その妻がそっと差しだす茶碗を、それと知らずに手に取る主人公。やはり妻だと察する場面など泣かせるな~。他細かい場面場面で人間としての細やかな情感を感じさせられた。

 映画のタイトルを「武士の一分」としたのは、原作にもそのような表現をしていたし、ストーリーの流れからも充分主題にかなっていたと思う。
 もちろん原作がすばらしい。
 短編とはいえ一編の小説としての物語性もあり、やはり藤沢周平の目線は温かい。 

 ところで、今日発足した新内閣「閣僚の一分」とは?